刀を横へ薙げばひらりと翼を羽ばたかせてかわされる。前回ならばそのままくるくる相手の周囲を回り最終的に背後へと言うのが彼女の戦法でしたけれど。
オレンジ色のきれいな毛並みはそのまま私の頭上へと舞い上がり、魔術の火球を小出しに撃ってきました。
「一ヶ月でここまで変わるとはさすがですわ」
『お褒めに与り光栄です』
それを飛び退いてかわしながら魔術を練り、今度は私が花びらを飛ばす。それを縦横無尽に飛んで回避し、踏み込んで刃を振り下ろせばキンッと音を立てて見えない何かに弾かれた。シールド系ですか。前回まで使わなかったのに。本当に成長が恐ろしいこと。苦笑いをこぼしながら、その小さな体を振り払った。
二月ともなれば慣れた合同演習。本日はエルアノさんとの勝負。戦う前に彼女からは「ぜひ戦術や心理戦の指南を」と言われ、リアスめ自分の担当でしょうにと思いながらスタジアムに入り開始すること数分。
正直もう結構十分じゃありませんかと思ってしまうのは過大評価しすぎでしょうか。
彼女の戦術がらりと変わりすぎてるんですね。
一個の戦術しかできなかったのが相手の隙をつくことができるようになりなおかつ立ち回りがうまくなり、さらには火球をおとりに使うなど幅の広がりがものすごい。
たった一ヶ月ですよ? 確かに一ヶ月頑張れば生物は変われるでしょうけれども。
こんな増えます?? うちのチートみたいなリアスでもここまで大きく変わってものを増やすのは無理でしょうよ。しかも拙いとかそんなレベルじゃない。
「っ」
気を引き締めていても火球がときどき肌をかすめそうになるくらいうまい。
さすがは金糸雀の家系というべきでしょうか。成長速度がすさまじい。これ私何かご指南することあります?? むしろ指南して欲しいくらいなんですけれども。
大きな火球に隠れるように撃たれていた小さな火球をかわし、大きく踏み込んで彼女の羽の上にほどこされているシールド魔術に刃を合わせる。あ、力もお強い。
「戦術ご指南と言ってもなくないです?」
『そんなことありませんわ。まだまだ学ぶべきことがたくさんあります』
ご自身の数倍以上のヒト型を押し返す方に何を??
ちょっと最近周りの方がクリスティア化してきてません? そろそろ挨拶で肩叩かれたときに骨陥没とか出てきません? 大丈夫です?
なんてバカなことを思いながら彼女には「そうですか」と返している間にも体が押され──待っておかしいこれ絶対何かで押してるでしょう。
ぐっと足は踏ん張るけれど、顔は笑みを絶やさない。
ひとまずテレポートで下がるかこのままにするかを考えましょう。下がれば立て直しができる。けれどそうなると彼女にも新たな一手を与えることにもなる。今の段階では私にもやることの制限はありますがそれは向こうも同じ。彼女に引くようなそぶりがない以上まだ動かなくてもいいかもしれない。
となればこのまま。
押されている感覚的に力ではちょっと敵いませんねこれは。シールド魔術の方かもしれませんが魔力の感覚があるのでもしかしたら本当に何かの魔術で押している可能性もある。つまりこのまま押し返してもそれ以上の力で押し返される。刃と交わったときより押されているのでほぼ確定と言ってもいいでしょう。彼女の地の力とはちょっと信じたくない。
ではこのままの状態から勝ちに持って行くということで決まり。短い脳内会議はさっさと終えてばっと頭の中に広がった選択肢をうまく選んでいく。
「学ぶと言えば」
『はい』
「今日から武闘会本戦がありますね」
あくまで余裕は持ったまま彼女に笑いかけた。今回は比較的彼女も余裕があるのか、にこりと上品に笑って応じてくれます。
『そうですね。予選同様当日発表とのことですけれど、炎上さんや紫電先輩方の回はぜひ見たいですわ。愛原さん達もごらんになるのでしょう?』
「えぇもちろん」
ぐっと刃を押し返してみるけれどやはりすぐさまそれ以上の力で返される。地の力じゃないですよね本当に。ないですよね??
「お世話になっている方々が出る限りは見に行こうと思っていますわ」
『となりますと……紫電先輩方も上がるでしょうし今月末の決勝戦まで見ることになるのでは?』
「そうですねー。二月はとても忙しそうですわ」
困ったように笑って、ほんの少しずつ話の方に気が逸れてきたのを見計らって魔力を練っていく。
「今月いっぱいの武闘会に加えて毎年恒例のバレンタインもありますし」
『愛原さんはとても素敵なものを作りそうですね』
「エルアノさんも上品なものを渡しそうですわ。誰か渡す方はいらっしゃるのかしら」
『いいえ』
高位種族ともなれば魔力を練っている感覚に敏感。彼女に気づかれないように、話しながら徐々に徐々に魔力結晶に力を注ぐ。警戒を見せないように笑いつつ彼女を観察して見るも、とりあえず気づいた様子は見えませんね。
『お世話になっている方々にはもちろんお渡ししますが……特に気になる殿方というのはおりませんので』
リアルで「殿方」なんて言う方初めて見ましたわ。ちょっと動揺して魔力乱れてしまった。
『愛原さんは気になる方でも?』
「まさか。お兄さまと幼なじみと愛する親友にお渡しするくらいですわ」
『でしたら殿方と言うのは変でしたわね』
「そう──」
ん?
”殿方と言うのは変でしたわね?”?
なんでしょう何か引っかかる。ただ魔力の準備も怠らず考えてみるも、引っかかるだけで明確な答えは落ちてこない。未だ押し合いを続ける中で、エルアノさんににっこり。
「えぇと……殿方と言うのは変とは……どういう……?」
『あらそのままですけれども』
そのままがわからなかったんですけれども。
首を傾げれば、彼女は「失礼」と言ってから。
『気になる殿方ではなく”気になる奥方”と言うべきでした』
それ絶対クリスティアが私の恋愛対象になってません??
え? 夏のときといい私そんなにクリスティアに恋愛感情持ってるように見えます?? 大好きですよ愛しておりますよ。ただ友情ででして。思わず押す力強くなっちゃったじゃないですかすぐさま押し返されましたけれども。
いえまずは落ち着きましょう私。相手はエルアノさんです。とても勤勉で物わかりがよいエルアノさんです。きちんと説明すればすぐ誤解も解ける方ですわ。
さぁ息を吸って笑顔でさんはいっ。
「……誤解をなさっているようなんですけれども」
『はい?』
「私は刹那を友情で愛しておりましてですね。恋愛感情というのはないんです」
『まぁ……』
よしっ、よし行け──
『視線の合っていないお写真を撮ったりというのは恋愛感情からだと思っていましたわ』
あっだめです恋愛感情どころかストーカー疑惑まで突きつけられているっ。どうしましょう動揺させたり気を逸らせたりしようと思っていたのに私が盛大に動揺している。
「違うんですよ」
『あとはお着替えも楽しそうにしていらっしゃいますね』
「実際楽しいんですけれども」
違うそうじゃないんです。やめてエルアノさん「まさか……?」みたいなお顔なさらないで。
「刹那のお着替えを楽しむのは蓮でしてね?」
しまったこれも違った間違えました思わず兄の性癖暴露してしまった。
「もちろん龍も楽しんでおりましてっ」
『恋人ですものね』
「そうなんですよ」
『それで視線の合わないお写真は恋愛感情から?』
だめです話が逸らせない。なんだかまるで尋問を受けているようですわ。この状態でもきちんと魔力練っている私すごくないです?? ちょっと自分を褒めたいです。えぇとそうでなくて。
合わせている刃と魔術シールドがギリギリ言い出した中、なんとなくその尋問のような視線から逃れたさもあって目をそらす。
「別にほら、お写真を撮るというのは恋愛感情だけではありませんわ。たまたまほら、ね? 視線が合わなかっただけかもしれませんし」
『勉強会でアルバムを見せてもらったとき結構多かったと思うのですが』
「刹那単体のお写真があると龍も喜ぶんですよ」
『視線が合う方がお喜びになりそうですけれど』
すごい今法廷に立っている気分になってきましたわ。彼女確か法律系を今専攻していましたよね。え、私今罰せられる前的な感じです??
「えぇと……私は今ギルティか否かの審問中でしょうか」
『まさか。審問でしたらこんな可愛いことはいたしませんわ』
今現段階で怖いんですけれども。
視線を逸らし続けながら、彼女の声を聞く。
『まぁお写真は冗談として』
「本当に冗談です?」
『本気で審問しても構いませんよ』
「全力でお断りしますわ」
私の生きる糧がなくなってしまう。
魔力の準備ができたことは悟られないよう、肩を揺らして笑う。
『あまりにもまっすぐ、氷河さんに”大好きー!”と伝えているので、だいぶ前に出たお噂の通り、みなさまが氷河さんをお好きなのかと思いまして』
あれですよね、リアスがたぶらかしているというのの噂が解けたと同時に確率したものですよね。まさか少しクラスが離れているエルアノさんまで届いていたとは。噂って怖いですね。
というかそろそろ来てくれないかしら。そらし続ける視線の中、力は弱めずほんの少しずつ警戒が緩んできている声音のエルアノさんに応じます。
『いかがでしょう?』
「そうですわねー……」
悩むフリをしながら、一瞬。
顔を下に伏せ、完全にエルアノさんから意識をそらしたように見せた。
瞬間。
ぐっと押し合いに力が入る。
──来た。
心の中でそっと口角を上げて。
『、っ!?』
押してきた力は今度は返さず、ぱっと体を横へ移動させました。押さえるものが突然なくなって、彼女は押した勢いのまま直進。
さぁ参りましょう?
合図のように刃の切っ先でカツンと地面を鳴らして。
【ウツボカズラ】
壺のようにも見える植物を彼女を飲み込める形で出現させ。
「戦場でお話の方に気が逸れていくのは”危険”ですよ」
こうして飲み込まれてしまうから。
今回は中に何も入れてませんけれど。
笑って、勢いのままウツボカズラに飛び込んでいくエルアノさんを見届けた。
「大丈夫です?」
『えぇ、まだまだと痛感いたしました』
彼女自身が降参し審判からも勝利の合図をもらったので魔術を解いてエルアノさんを救出。何も入れていないとは言えどちょっと参ったようなお顔ですね。
入れ替わりがあるので生存確認もほどほどに、立ち上がって二人歩き出す。
『まさかあのお話の最中魔力を準備していたとは……』
「気づかれなくて何よりです」
『動揺なさっていたのも演技でしたの?』
それは普通に動揺したやつですね。
「そこまで演技はうまくありませんわ」
『まぁ……その状態でも魔力を練られるとは……尊敬です』
逆に尊敬されてしまった。曖昧に笑って、入れ替わりの兄に手を上げながら。
「そうですわ刹那の件ですが」
『はい』
「私は刹那にたくさん救われてきたのでヒトとしてとてもとても大好きなんです。ちょっと愛情が過ぎているかもしれませんが」
『恋愛というのはないと?』
「えぇ。とても大切にしたい女の子で、彼女が大好きな龍と幸せになってほしいんです。龍が笑うと刹那も笑うので」
『炎上さんが喜ぶこともしたいと』
「そうなりますわ」
隣のエルアノさんは少し悩んだ後。
『それと視線の合わないお写真が関係あるかは不問として』
「ありがとうございます」
『素敵なお考えですわね』
言われた言葉に、ちょっと照れくさくなってしまいました。それにもお礼は言って。
『わたくしもそんな素敵なお考えになるよう精進しますわ』
「まぁ……照れてしまいますね」
笑いながらレグナと閃吏くんのところまで歩いていけば。
ぽんっとレグナから肩を叩かれました。
いつものごとく「おつかれ」と言うのかと思い、微笑みながらレグナを見れば。
笑っているのに笑ってないじゃないですか。
「華凜」
「……はいな」
冷や汗が流れていくのを感じながらなんとか笑みだけは保つ。
「さっき言ったこと、後で覚えときなよ」
あっ保ちたいけどちょっと怖くて涙出てきた。ごめんなさい私も口走ると思わなかったんです。
あなた自分で祈童くんに暴露したようなものじゃないですかと言いたいけど圧が強くて言えない。そうですよね友人と公衆の面前じゃ違いますもんね。今だけ全力で過去に戻りたい。
とりあえず、もう癖で普段からその言葉を言うことがなくなった私が言うことは。
「ぉ、お手柔らかに、お願いします……」
お仕置きをきっちり受けますというお言葉だけでした。
『合同演習カリナvsエルアノ』/カリナ
カリナとエルアノがまだ戦ってる途中のとき。
「近接戦…?」
今日の対戦相手のゆきはに言われた言葉に、首をかしげた。
「はい、わ、私基本遠距離なんですけど……こ、これを機にお話兼心理戦の勉強もしたくて……」
「わたしは別にだいじょうぶ…」
ね? って隣のリアス様を見たら。
「なんで心配そうなの…」
「いや今回はお前ではなく雫来が」
「なんで…」
「雫来、本気で刹那に近接戦を挑むのか? 骨折するぞ?」
「そんな強くないんですけどっ…!」
「待てお前っ……!」
『炎上クンと氷河サンが繋いでる手の辺りからめきって音聞こえるんだけど……』
「わたしはか弱い女の子…そんな音発しない…」
「現に今お前が発しているだろうがっ」
「あたっ…」
いつもより強めにおでこぺしって叩かれて、思わず力強めようとしたけど。
「ど、どうでしょう……?」
もだえてるリアス様とか、今日のリアス様の対戦相手のティノが心配してるのとか構わずゆきはがのぞき込んできたので。ほんのちょっと悩んでから。
「わたしは別に、へいき…」
「よかったです! よろしくお願いしますっ」
「こちらこそ…」
「刹那そろそろまじで力弱めろ演習に支障が出る」
「だったらそろそろか弱い女の子って認めて…」
順番が回ってきたので最後にちょっとだけぎゅって手握って、リアス様の手から離れていった。
ということでゆきはと近接バトルし始めたんですけれども。
リアス様がゆきはのこと心配してたんですけれども。
「せいっ!」
「…っ!」
今わたしの方がやばいんですけど。
ゆきはの拳ものすごい早いし回し蹴りしてくるし。
基本遠距離とか言ってたくせにがっちがちの近距離型なんですけどっ…!
「はっ」
「ちょっ…と待った…!」
ビッて音が鳴りそうなくらいの拳をギリギリでかわしてゆきはから距離を取る。
追いかけてくるスピードはあんまり早くはないから逃げられるけど。
「簡単に近づけない…」
どうしよう、一回氷で動き封じちゃえば行けるかな。真っ正面じゃなくてどっか不意つくような感じ? あ、でも腕まで凍らせちゃえば動き止まるよね。まさかちょっと腕動かしただけでバキッて行くくらい力持ちじゃないよね。ないよね?? 先確認していい??
「ゆきは…」
「はい!」
「ゆきははか弱い女の子だよねっ…!?」
「な、何とも言えません!」
やばいちょっと「そんなことないよ」とも言えない。氷で動き封じるのも自信なくなってきた。
でも動き封じなきゃ近づけもしないので、よしって決めて。
スタジアムを走り回ってゆきはから逃げながら魔力を練ってく。ちらっと後ろ見て、ゆきはの位置を確認。今のペースだと二、三メートル離れたとこくらいかな。ゆきはは後追ってきてくれてるから、わたしの後ろに氷が出るように張り巡らせて…。
「よしっ…!」
準備ができたことを知られないように走ったまんま。後ろ見ながら、ゆきはがその場所につく直前に。
「、え……」
動きを止めるための氷魔術を発動すれば。
気づいたゆきはが──
「それっ……!」
凍る前にきれいに後ろにバク転したじゃないですか。氷どーんって出たけど誰も捕まえてないじゃないですか。ゆきはの顔が見えるくらいの氷の後ろでゆきはの両手がビッと出てるの見えるじゃないですか。
華麗にジャンプしすぎじゃない??
「十点…!」
「ぁ、ありがとうございます!」
じゃなくって。
我に返って追撃するために魔力を練る。今度は動けないようにじゃないくて体制くずさせるように。
【リオートリェーズヴィエ】
ゆきはの上にたくさんの氷刃を出現させて、
「れっつごー」
指をさして号令すれば氷刃がゆきはに向かってどんどん落ちてく…んだけども?
「っ」
「ちょっとうそじゃん…」
結構な量あるはずなのにゆきはめっちゃ軽々バク転とか側転しながらよけてくじゃん。新体操選手ですか??
「バランスぜんぜんくずれてくれないっ…!」
「そう簡単にやられはっ、し、しませんっ!」
しかもときどき足で蹴って弾いてるじゃん。うそでしょ。第二のぶれんじゃないのもう。
とりあえず簡単に体制くずれてはくれなさそうなので、もう一個くらいなにか。今よけるので頭いっぱいになりかけてると思うから、不意つけるような──。
魔力練りながら周りもきょろきょろ見回して。
「…あれだ」
目に入ったのは目の前。自分で出した氷の山。あそこから行こう。
【リオートランケア】
練ってた魔力で、武闘会で使った刺さった場所が氷原になる氷の槍を二本くらい出して、氷刃に混ざってゆきはに追撃。
「わ、っきゃ!」
さすがに氷原は予想してなかったみたいで、ちょっとだけ体制が崩れた。あとはラスト。
思いっきり氷の山に走って行って、飛び上がる。
「!!」
その先にいたゆきはにめがけてジャンプ。
「そいっ…!」
「ま、負けませんっ……!」
崩れた体制をすぐに立て直したゆきは。でもちょっとよゆうなかったのか、構えが変。武道の感じじゃなくて、なんかこう…
レシーブするような手をしてらっしゃる…?
それ見たらなんか体が勝手に反応して。
「ぃ、行きますっ!」
「よし来いっ…!」
なんでかゆきはもそのまま行こうとして。
ゆきはの組んだ手の上に片足乗せるじゃないですか。
ゆきはが思いっきり上に腕を上げてわたしを持ち上げてくれるじゃないですか。
わたしの体が飛びますね?
ちょっとゆきはのうしろっかわに行くので一回転しながら後ろに飛びまして。
「ほっ…!」
手を広げてきれいに着地できました。
周りからちょっと拍手も聞こえてきたよ。
そうじゃないじゃん??
「違うじゃんっそうじゃないじゃんっ…! 新体操がしたいんじゃないじゃんっ…!」
「か、体が勝手に……!」
「わたしも勝手に動いたけどもっ…!」
戦ってるんだって。
思わず地団駄も踏みたくなるよ。
「き、気を取り直して行きましょう!」
「もう百点満点で二人とも勝ちでよくない…?」
「これはあの、ぶ、武力勝負なので……」
点数ないよね。知ってる。
「つ、続き、行きますか……?」
「行きます…」
「できればその、心理戦とかの勉強もしたいので、に、肉弾戦で行けると嬉しいんですけど」
「ゆきは別にもう心理戦とかいらなくない…?」
肉弾戦で十分勝てるよだめなの?
でも本人はよろしくないみたいで。
「ゆ、緩めるので……! あといろんな武器との戦闘を想定して刹那ちゃんは武器いつも通り使っていいので!」
こういうのなんて言うんだっけ。そうだこーじょー心。
「こーじょー心が立派…」
「ぁ、ありがとうございます……? じゃあ行きますね……!」
「わたしオッケー出してなくないっ…わっ」
ゆきはが一気につめてきて思いっきり回し蹴り。すれっすれでかわしたけどもっ。
「ぜんぜんゆるまって、ないっ…!」
「も、もうちょっとですか?」
「しゃべるのぎりっぎりなんですけどっ…!」
「じゃあ、えっと、このくらいでっ!」
今度は踏み込んで突き。でもさっきよりゆるやか。
「これならへいき…」
「ではこれで!」
「はぁい…」
最初と違ってモーションによゆうがあるから、わたしも踏み込んで右手を振り上げる。それを後ろに引いてさけたゆきはがその場所から構えて突き。左側によけて、今度は左手で切り込めばその手はゆきはの腕に止められた。
考えるよゆうもできたので。
「…要はおしゃべりしながらってこと…?」
「そんな感じ、ですかね。ょ、よくあるでしょ? 話してるのも全部駆け引きで隙をねらって、みたいな……」
華凜とかがよくやるやつ。え、わたし専門外じゃない??
「わたしでいいの…? 龍とか華凜とかの方がよくない…?」
「ぃ、いろんなヒトのパターンとやってみたいので……!」
「えぇ…」
何回か切り込んで止められて、拳をよけてっていうのを繰り返しながら考える。
心理戦。
カリナが前に相手を動揺させることって言ってたよね。動揺させること…?
「んー…」
悩んでたら、先にゆきはから。
「ぁ、あの」
「はぁい…」
「じ、実は心理戦の方ももちろんなんですけど」
「うん…?」
なぁにってゆきはを見たら、ちょっとてれくさそうに。
「ぇ、炎上くんとの日々もちょっとお聞き、したいなって!」
こんなとこで??
びっくりして言葉が出なくなったすきにゆきはがしゃべる。
「ゃ、やっぱりその、高校生で同棲なんてすごいじゃないですか! ゲームとかだって大学生とか卒業してから親密度を上げてようやっと、ど、同棲にとたどり着くのに……もちろん、あの、卒業後の大人な同棲も素敵なんだけど、こ、高校生ならではなハプニングとかいっぱいあるんじゃないかって……!」
どうしようマシンガントークで「とくにないかも」とか言うタイミングなくなったかもしれない。
まだ続くよ口開いたもん。
「そんなハプニングとかなくても、その、おはようから、ぉ、おやすみまで一緒なわけでっ。おうちにお邪魔させてもらったときやハロウィンで見たようないちゃいちゃもたくさんしているのではとっ」
「ゆきは落ち着いて…」
「ぉ、お料理をしていたらたまたま手が触れ合ったりとかもあったりするんですかっ?」
「ゆきは興奮しすぎてめっちゃ力はいってきてるから…」
めっちゃわたし下がってきてるから落ち着いて。
ただ興奮状態だとあんまり効果ないみたいで。「あっ」って気がついたように言って少し下がったけどぶっちゃけとくに変わってないよゆきは。いいけども。
なんだっけ、料理中に手が触れる?
料理中に…。
「手が触れるっていうのはあんまり…?」
あ、でも。
「わたしそで長い服着るからよく腕まくりしてくれる…」
「袖クルですねっ!?」
なにそんな名称あったの。
「か、壁ドンとかはっ」
「そういうのはあんまり…向かい合わせになるときって基本的にひざの上に乗るし…」
「膝の上で何をっ……!?」
ふつうにおしゃべりですけど??
「え、なにゲームだと特別なことでもするの…?」
「あ、そ、そういうわけじゃないんですけど……!」
ゆきははちょっと焦ったようにえーっとって悩んでから。
「ほ、ほら! あの、高校生設定だとヒロインが刹那ちゃんみたいに、こ、小柄な子ってなかなかいないから! 思わず!」
なんとなく理由になってない気がするけどまぁいっか。あとでリアス様に聞いてみよう。
「他には何か、ぁ、ありますか?」
「ほかに…?」
リアス様としてること?
「お休みの日はソファで読書してる…」
「そ、それは炎上くんをお膝に寝かせてっ!?」
うちでは逆かな??
「わたしが基本寝転がってる…」
「なんて素敵な……!」
どうしようゆきはのストライクゾーンわかんなくなってきたな。
「女の子がお膝を貸すのも最高ですけど、せ、刹那ちゃんたちみたいに逆もいいですよね……! 見上げたら好きな人の顔が見えたりなんてっ!」
「ゆきは待ってまた力入ってきてる興奮しないで」
持ちこたえるの大変だから。
力がゆるまったのにほっとして、話の続き。
「ねぇ…?」
「は、はい!」
「男の子はひざで寝るのがいいの…?」
「それはもうっ!」
あっゆきはスイッチ入ったかも。
「も、もちろん私は男の子じゃないので正確な答えじゃないかもですがっ、やっぱり恋愛ゲームにはたくさん出てくるシチュエーション! あれは男のヒトの夢が詰まっていると言ってもいいかもしれませんっ! さっきも言ったように見上げれば好きな人の顔が見えたり、あとは女の子特有の膨らみが見えて照れくさかったり!」
「わたしそんなにふくらみないけど…」
「男の子的には育て甲斐があるので最高かと!」
ゆきはってすごいポジティブだな。なんでも行けるのこの子。
「ちらちら見える恋人の顔やいろんな部分……、だ、だんだん本に集中できなくなっていく中で……!」
「そっとのびていく手…」
「その手は彼女の頬に添えられて……!」
「振り向いた彼女は…?」
「照れくさそうに笑って引き寄せられていく……!」
なにその展開最高では??
「ちょっと今度龍にお願いしてみる…」
「ご報告っ、ご報告はっ」
「もち…たぶんそのまま寝転がって二人で寝ると思うけど…」
「良いのです、良いのです刹那ちゃん……! そんなピュアなカップル大好物です!」
「お気に召してなにより…」
じゃあゆきはの気がそれたということで、そろそろ──
「ではっ」
「えっ…」
しゃがんで足ひっかけてやろうと思ったら、ゆきはがぱっと下がる。ちょっとバランス崩した瞬間に。
回し蹴り。
やっば。
「それ!」
「ちょっとずるっ…!」
足引っかけようとしてたわたしが言えることじゃないかもだけどっ…!
ひとまず回し蹴りはのけぞってなんとか回避、って待った待った。
そのまま第二回目の回し蹴りはやばいって。
「わ、わっ」
当たんないようにしゃがんだら、ぴたっと止まって…。
これかかと落としのモーションですよね殺す気ですか。
ただ気づいたときにはもう落ちかけててよけられそうにない。なので魔術をがーっと練って。
【リオート・シルト!】
落ちてくる頭の上に氷の盾を展開。ちょっと今バキッて言ったけど?? 反射的にぎゅって縮こまってから上を見上げたら。
あっこれはいけない。
盾も割れてるのもそうだけどその先。
「ゆきはやばい…」
「え」
まっすぐ見た先のそこ。これ使えるかな。
「今日は白ですか…」
「ぇ、な、っ!?」
笑って言えばゆきははぶわって顔赤くしてすぐにスカートを押さえる。ラッキーすき出来た。
ってことで。
「それー…」
「っきゃぁ!?」
今回は下からゆきはに飛び込む。どたんってすごい音立てたけど気にせず右手の氷刃を首元に突きつけて。
「おーわーり?」
こてんと首をかしげれば。
びっくりしてた顔のゆきはは今の状態がわかって、ちょっと悔しげに。
「ま、参りました……」
「勝者、氷河!」
「わぁい…」
今回も勝ちってことで、ゆきはの首に刃は突きつけたままだけどテンションが上がった。あとはちょっとだけゆきはにがまんしてもらう時間。
「こ、このままでいればいいんですよね?」
「そー…」
「炎上くんのかけ声がないとだめと、き、聞きました」
「うん…」
「ちょっとした主従系ですね……! 素敵……!」
「ゆきはってほんとにストライクゾーン広いよね…」
「け、結構なんでもおいしくいただけるかと」
「BLもへいきだったよね…」
「年下攻めが好きです」
「わたし友達以上恋人未満萌え…」
「あぁぁ最高……」
この子だめなものって逆になんなのってくらいなんでもおっけーなんだけど。
「とくに紫電先輩たちとかっ」
「あれ最高…もっと増えればいい…」
「わかります」
「あと龍蓮とかも増えればいいと思うよ…」
「えっまさかの刹那ちゃん恋人がそういうの大丈夫な……あ」
「?」
ゆきはが気づいた顔したのと同時に、おなかに手が回る。
「まだでーす…」
「終わりです」
わかってたけど反射的に言ったら、大好きなヒトの声が聞こえて力が抜けてくる。
「おわり?」
「終わり」
首を上に向ければ大好きな紅い瞳がいつもと逆になって見えた。それに口角をあげて。
「わかったー…」
「いい子だ」
笑ってくれたことにうれしくなって、口角をあげたままゆきはを見る。これで入れ替えだから、一緒に向こうかえろって言おうとした言葉は。
「龍刹最高です……」
とってもうっとりした顔といつの間にかできてたカップリング名にびっくりして出ませんでした。
『クリスvs雪巴』/クリスティア