クリスか私が狙われているのではないかという視線も気になる中。世の中は二月ということで街中はバレンタインムード一色。
商店街側ともなれば淡いピンクのポスターや旗で彩られています。
最近はその視線で気も張っていましたが、手がかりも何もない状態で闇雲に探すというのも得策ではなく。時には息抜きということで、土曜の授業が終わった午後。
「私はバレンタインのレシピがないか探しに来たんですけれども」
「奇遇ですね華凜」
「毎回奇遇というのはそろそろおかしいんじゃないんです?」
膨大な資料があるエシュトの図書館へと行けば、お休みの日に結構な確率でエンカウントしている気がする武煉先輩がまたいらっしゃるじゃないですか。
「あなた今日は授業がない日でしょう。そろそろストーカー疑惑がつきますわよ」
「ひどいな。言っておくけれど俺は図書委員の仕事があるからここにいるんですよ」
ほらと言われて先輩を見れば、武煉先輩は胸元に指をさしていて。
そこには「図書委員・木乃武煉」との文字。
「……それにしてもタイミング合いすぎじゃありません?」
「それは俺が華凜の授業があるというのを知っていてここにいると言いたいのかな」
正直ちょっと言いたい。すぐさま「違いますよ」と声が落ちてきたので飲み込みましたけれど。
「あと奇遇なのは俺だけじゃありませんよ」
「陽真先輩が?」
「今日陽真は他に用があってね。あとで来ることに。そうでなく」
再び指をさしたのが見えたのでそれを追うと、少し遠くに──。
「雪巴さん」
「今日当番が被ってね」
彼女はたくさんの本を抱えて歩いており、こちらに気づく様子はちょっとなさそう。ひとまずあとでお声を掛けさせていただくとして。
「雪巴さんに変なことはしていません?」
「今日は辛辣だな」
なんてはぐらかすように言って、武煉先輩は料理本が並ぶ棚に背中を預ける。
何故お預けに?
「お仕事はなさらないんです?」
「休憩だよ」
「前もそんなことをお聞きした気がしますわ」
「ふふっ、そうだね。華凜はどんな本を探しているんですか? 休憩中の図書委員が手伝いますよ」
「休憩中ならば結構です」
笑ってあしらい、目線は料理本の方へ。けれど先輩は立ち去ることもなく。
「この時期だとバレンタインですか」
変わらず話しかけてくるので諦めて応じることに。
「そうですね。せっかくエシュトという膨大な図書館があるので何か楽しいアイディアがないかと」
と言っても。
棚に目を走らせて、だいぶ空間の空いたそこにため息を吐く。
「だいぶ借りられてしまっていますけれども」
「早い子は二月頭から徐々に借り始めるからね。華凜はちょっと遅かったかな」
「何か素敵なアイディアが乗っていそうなものは残っていないんですの図書委員さん」
「さすがに中身まではちょっとわからないかな」
「手伝うって言ったのに」
むくれて、ほんの数冊残っているレシピ本を手当たり次第取ってめくっていく。載っているのはクッキー、カップケーキ、チョコケーキ。次の本も似たようなもの。その次も。
「言ってはなんですがありきたりなものばかりですわよね」
「定番と言ってあげたらどうだい?」
「最近日本語が難しく感じますわ」
本を閉じては違うのを開き、また閉じては開き。中身はやはりありきたりな、武煉先輩曰く定番なものばかり。
「もうちょっと凝ったものというか、わぁっと楽しめるようなものがいいんですけれど」
「お菓子としてはハードルが高すぎないかな」
「そうですか? うちでは蓮がよく手作りしてきますけれど、刹那はとっても大喜びしますよ」
「蓮が作るのかい?」
「えぇ、我が兄ながら女子力たっぷりのかわいらしいものを」
「君の兄は裁縫に料理に多才だね」
「それはもう」
自慢の兄ですわと武煉先輩を見て笑えば彼も微笑んだ。再びレシピ本へと目を落とし、ぱらぱらとページをめくる。
「お菓子は兄の担当と言っても過言ではないのでいつもなら買うのですけれどもね」
「図書室にいれば俺に逢えると思って来てくれたのかな」
「あらあらどこまで自意識過剰なんでしょう」
今度はから笑いをしてから、違いますよと訂正して。
「最近は少し視線などでみなさん参っていますから。刹那が楽しそうに作っていれば和むかしらと思いまして」
お菓子はそんなに危ないものを使うということもないし。リアスが甘いものが嫌いでも、一緒にデコレーションでもすれば楽しいだろうし。
「ちょっとでも気が休まるようなバレンタインにしたくでですね。月曜日の祝日、ちょっと早いんですがバレンタインパーティーでもしようかなと」
そのレシピを探しに。
けれど楽しめそうなものというのがなかなかない。基本的に焼いてはい終わりが多いんですよね。何かこうもう一歩ないかしら。
悩んでいたら。
「華凜」
「はいなー」
「いいかい?」
言葉と共に本が取られ、ぱっと武煉先輩を見る。その人はいつもどおり微笑んだまま。
「なんでしょう」
そう、聞くと。
「君のそれだと、答えは延々と見つからないんじゃないかな」
笑って言われたので、首を傾げる。そうして三度目、指をさした。その方向は、一歩お隣の本棚。
「? こっちです?」
「そう」
ずれたそこは変わらず料理本が並ぶ場所。けれど先ほどとは違ってお菓子ではなく、ふつうの料理。
「……私はふつうの料理がしたいのではないんですけれども」
「アイディアには繋がると思ってね」
言いながら私の目せんの少し上から本を取る武煉先輩。私の目の前に掲げられたので反射的に手で受け取る。
そのタイトルは。
「キャラ弁……、です? あのキャラクターを作るお弁当ですよね」
「うん。と言っても別にキャラクターを作るとかではなくて。海苔を切ったり桜でんぶを散らしたりというのは何かアイディアになるかなと。なんなら向こうにあるガイドブックとかも見てみるといいよ。いろんなデコレーションが載っているだろうから」
「盲点でしたわ……」
ぱらぱらとめくっていくと切り方や盛りつけ方がたくさん。そう、こういうものよこういうものっ。普段お料理系はレグナが担当だから抜け落ちていましたわ。ページをめくっていく度に自分の顔が明るくなっていくのがわかる。
「お気に召したかい?」
「とっても!」
しまったテンションが上がってしまって子供のように答えてしまった。ほら見なさい私、思わず上げた顔の先の武煉先輩がちょっとびっくりしていますわ。今度は体が少し暑くなっているのがわかる。
咳払いをしてなかったことにして。
「とても参考になりましたわ」
「言い直しても先ほどのはなかったことにはならないよ」
「乙女の恥じらいは華麗に受け流すのが紳士的ですわよ」
「生憎俺はそこまで紳士ではなくてね」
「まぁ」
少しむくれてから、再び本棚へと目を戻す。意地悪なお方は置いておいていくつか借りて行きましょう。えーと、びっくりキャラ弁、子供と一緒に作るキャラ弁……あ、来れいいクリスが楽しめそう。
そう何冊か手に取って、抱え直したとき。
くいっと、髪が引っ張られました。
そちらを見やらなくてもわかりますけれども見れば、やはり武煉先輩が私の髪の束をお持ちになっていらっしゃる。
「……何故髪を触るんでしょう?」
けれど問いには笑って返されるだけ。答える気はないと。ため息を吐いて、目は持った本へ。その間にも武煉先輩は私の髪をいじっているのか、時折緩く引っ張られる。別に髪の毛触られるのはお兄さまで慣れているのでいいんですけれども。そんなことより本これだけで大丈夫かしら。もう何冊か借りた方がいいかしら。別に重くなってもテレポートで帰ればいいですもんね。もうちょっと参考になるもの探しますか。
なんて髪の毛のことには目もくれず、本棚へと目を移動させようとすると。
そちらではないと言われるように、ほんの少し髪が強く引っ張られた。ただ別に痛いとかはなく。なんとなく制されたような気がして、武煉先輩の方を見る。
目が合った先輩の目は、ほんの少し暗い図書室の中ではいつもより読みづらい。いや普段から読みづらいんですけれども。
「なんでしょうか」
「……」
聞いても私をただじっと見つめるだけ。
「まただんまりです?」
呆れたように言えば、武煉先輩はもう少しだけ私を見つめた後。
「……いや、バレンタインとなれば俺ももらえるのかなと思ってね」
本当は何を言いたかったのかはわからないけれど、深くは聞かずに応じる。
「それはもちろん。お世話になっている方々には差し上げますわ」
武煉先輩だけでなく、陽真先輩、ティノくん祈童くんウリオスくん。閃吏くんにユーアくん。指折り数えて、最後に。
「美織さんたちにも」
「いわゆる友チョコというやつかな」
「そうなりますわ。今年はちょっと多くなりそうで」
困ってしまいますね、なんて。困ってもないくせにそう言って。さてめぼしいものはもうなさそうですしこれを借りて帰りましょうかねと。
足を一歩、踏み出そうとしたら。
「……この手はなんでしょう?」
目の前にそっと、手を置かれた。
いわゆる壁ドンですね??
武煉先輩を見れば、今度ははぐらかすような気はないようで。
「もう少し話をしたいなと」
笑いながらほんの少し近づいてくる。
「そこまで近づかなくてもお話は聞こえていましてよ」
「つれないな」
「今までつれたことがありまして?」
「ないけれどね」
片方では未だ髪をいじって、もう片方ではご自身の体を支えて。どことなく少し甘い声の先輩。
これはもしやなんか、そういう気配というような?
雪巴さんや美織さんがゲームでよくあると言っていた図書館シチュエーションなるものですか?? なんてことなのリアスとクリスティアで見たかった。
いやそうでなく。
「お待ちになってくださる?」
「うん?」
本を片方で支え、また少し近くなろうとしている武煉先輩をもう片方の手で制し。
これが本当に図書館シチュエーションだったなら、私が当然思うこと。
「お相手が違うと思うのですが」
なんて言えば、武煉先輩はきょとんとしたお顔に。それに私もきょとんとしてしまう。
あっもしかしてこれ図書館シチュエーションではなかった? 確認しときます??
「えーーと、なんとなく甘いシチュエーションのような感じがして」
「そうだね」
図書館シチュエーションでしたわ。
じゃあやっぱり。
「お相手が、違うのでは……?」
そう言うとまた武煉先輩は不思議そうなお顔。えっだって違いますよね? お互い止まったまま、少しして答えを見つけにきたのは武煉先輩。
「他の女性にということかな。生憎バレンタインはホワイトデーが面倒で関係は切っているけれど」
「いらない情報ありがとうございます、そうでなく」
首を横に振れば武煉先輩はよくわからないと言ったお顔。私も今の状況わからないんですけれども。
あ、待って?
これはもしや武煉先輩なりの予行練習では??
自分の中で答えを見つけだし、先ほどと違って明るい顔へ。
「予行練習ですわね!」
待って何故迷宮入りしたようなお顔をなさる。
「……何の予行練習なのかな?」
「それはもう本番のためのでしょう?」
「となるとこれは本番なんだけれどな」
その言葉に私が「え?」という顔をしてしまう。そしてその顔を見て武煉先輩も「ん?」という顔をなさりました。
これが本番?
いやいやいやそんなことないでしょう。
「えぇと、よろしいです?」
「よろしいです」
オッケーをいただいたので。
「武煉先輩は兄を狙っているのかと思っていたんですけれども……?」
本を抱きしめ直しながら、言えば。
恐らく出逢って初めて、本当に「わけわからん」というお顔をされました。
待って待ってお待ちになって?
「言っていたじゃないですか」
「俺は恐らくこの交流関係で一度も君の兄を狙っていると言った覚えはないんだけれどな?」
「夏に」
「夏」
「あなたの修羅場にあったじゃないですか」
「逢いましたね」
「そこで言ったじゃないですか」
「んん?」
走って逃げた後に。
「女性遊びのことは兄に黙っていてほしいと。タイミングが来たら自分から話すからと」
兄にばれたくないというのはそういうことではなくて? と。首を傾げたら。
「……」
おっとさらにわけのわからないと言ったお顔をされていらっしゃる。
「腐女子とは恐ろしいですね……」
挙げ句の果てになんてことを。
「正常ですけれども??」
「いやいやいや」
「雪巴さん呼んできましょう、絶対同じことを言ってくださいます」
「雫来も君たちの仲間だからね」
「誰が聞いてもなりますわ」
「ここにまともな男性を呼びたいよ」
武煉先輩は深く深くため息を吐いて。
「誤解をはっきりさせましょう華凜」
「誤解から恋が始まってもいいんですよ」
「お断りします」
心の中で舌打ちをしてしまったのは申し訳ない。
「ひとまずですね」
「はいな」
苦笑いで私を見て。
「俺は君の兄に気は持っていません」
「でしたら陽真先輩です?」
「一旦男から離れようか。俺はノーマルでして」
いやあなたの行動結構疑わしいんですけれども。口を開いたのが見えたので黙りますけれども。
「君の兄にばれたくないのは、」
最後の言葉を言い掛けた瞬間。
「おっ蓮クンじゃん」
「!!」
声に思わず肩がびくついた。声にもそうなんですけれども。
陽真先輩ですよねこの声。
なんて仰いました?
「何してんだよ雪ちゃんと」
「ぁ、ちょ、ちょっとあの」
「げ、ゲームの本を」
すごい結構近い後ろから聞こえるんですけど。
「……後ろの棚って」
「ガイドブックですね」
お兄さま雪巴さん盗み聞きしていらっしゃいました?? それに気づいたっぽい武煉先輩からそれとなく汗が出ている気がしますが大丈夫です?
とりあえずですね。
「お兄さまいつからいらっしゃいました?」
「あーーーーついさっき……」
その「あーーーーー」って絶対嘘。
こればれたくない武煉先輩のもばれた感じじゃないです? 大丈夫です? 武煉先輩の冷や汗っぽいの増してるんですけど平気です?
あれでも待って?
別にレグナに気がないのであればそんなに焦ることないのに。
「武煉先輩なんでそんなに焦るんです?」
「いや、ちょっと……」
「兄に気がないというのならもう焦る必要ありませんわ、大丈夫ですよ」
ね? と。
未だ冷や汗のようなものを流している武煉先輩の肩を優しく叩いたら。
「か、華凜ちゃんは罪なお方ですね……」
後ろでお話を聞いていたらしい雪巴さんからそんな言葉をいただきました。
その場でわけがわからないと言ったような顔になったのが私だけだと知ったのは、もっと先のお話のはず。
『三連休バレンタイン前話』/カリナ
妹は俺のことを鈍感だというけれど、あいつも結構たいがいだと思う。
図書館に行くというカリナと別れてからうちの伝言があることを忘れてて。メサージュでもよかったんだけどまぁ本借りるなら帰りに荷物持ちもすればいいかとカリナのところへ戻りまして。
バレンタインのって言ってたから料理本のところだろうなと、めっちゃ本抱えてる雫来を手伝ったついでに案内してもらい。
たどり着きそうになる直前で妹が誰かと話してんの聞こえるじゃないですか。
ちょっと耳よくして聞いてみれば武煉先輩じゃん? 雫来が隣で「何かの予感ですか」とか言い出したけどそんなのあってたまるかと思いながら近づいてくじゃん。
なんか「この手はなんでしょう」とか聞こえて足踏み出したんだけど雫来に止められて、彼女の熱いジェスチャーによる「どうか様子見を!!!」という訴えに冷静さを取り戻し、まぁこの機会にそろそろ踏み込みかとも思えたので様子を見させてもらうことになったんですよ。一個後ろの本棚で雫来と二人で気配消したんだよね。
つれないなとかよくある甘いシチュエーションになり始めてるのになんとか千本出すのをこらえてたんだけども。
「お相手が違うのでは?」
ってカリナの言葉に隣の雫来と一緒に「んん??」ってなったよね。思わず目を見合わせたよね。
そっちの状況見れないけどなんとなく武煉先輩の声甘かったからいわゆるそういうシチュエーションじゃん? 付き合ってないーとかならここからちょっと踏み込んでのドキッみたいな状況でしょたぶん。
それを「お相手が違うのでは」というのはこれいかに??
雫来と首を傾げながらとりあえずもうしばらく様子を見てみようかと決め、さっきまでの踏み込みスイッチも切って向こう側に集中。
「なんとなく甘いシチュエーションな気がするのですが」
「そうだね」
ほら、ほらそうじゃん。
甘いシチュエーションじゃん。どうなってるかはわかんないけどもっ。
「でしたらやはり、お相手が違うのでは……?」
どうして??
なんでそこに行くのかがお兄ちゃんわかんないんだけど。お前だよお前。
やべぇいつもは阻止してんのに逆になんかもどかしくて武煉先輩に申し訳なくなってきた。うちの妹がごめん。
「!」
内心で謝ってると袖が引っ張られる感覚。そっちを見ればスマホに文字を打ち込んだ雫来が俺にメッセージ。
”華凜ちゃんもしかして照れてはぐらかしているのでは?”
あ、そっち?
そういうのもあるのか。さすが雫来。
でもごめんね俺からするとまじのトーンに聞こえるんだこれ。ちょっとその線うちの妹にはないかもしんない。彼女にはそれとなく首を傾げておいて。
後ろで「関係は切っていて」だとか地味に聞き捨てならないワード聞こえたけれど一旦あとにしてもらって。
「予行練習ですわね!」
お前の発言だけはちょっとあとにはできないな妹よ。なんの予行練習だよ。武煉先輩もわけわからんって声になってきたじゃん。そろそろ気付よお前。
自分が武煉先輩に狙われてるって。
一番最初から知ってたよ俺? リアスも知ってるでしょ、たぶんクリスティアだって知ってるよお前だけだよ自分が狙われてること知らねぇの。今まで確信的な言葉なかったけどあっきらかにお前にばっかりいってたじゃん。あきらかに目が違うじゃんお前のこと狙ってんじゃん。
直接的に手出す雰囲気がなかったのとたぶんその時点で追求してもうまく逃げられると思ってたから泳がせてたよ。泳がせてたら逆に申し訳なくなってきたんだけど。そろそろ気づこうよカリナ。
「武煉先輩は兄を狙っているのかと思っていたんですけれども……?」
予想の斜め上に行き過ぎじゃね???
とりあえず「雫来さんにも聞いてみましょう」とか言い出したから隣の雫来を見たら。
妹よ、お前が仲間と思っている雫来もちょっと困ったように首傾げたぞ。お前だけだよ自分の兄に矛先が行ってるかと思ってたのは。
武煉先輩すっげぇ深いため息初めて聞いた。まじでごめん妹が。
「はっきりさせましょう華凜」
「はいな」
「俺は君の兄に気はなくてですね」
「でしたら陽真先輩です?」
その気持ちはわからんでもないけど一旦男から離れてカリナ。だめだあいつ一回BL取り上げた方がいいかもしんない。もれなく全員くっつけられそう。
「俺が君の兄にばれたくないのは、」
珍しくカリナ狙いの男に「頑張れ」とエールを送った瞬間。
「蓮クンじゃん」
後ろの方の相棒が来てしまった。今だけは空気呼んでほしかったよ陽真先輩っ。何してんだよというのには適当に返すけれどもちょっとごまかしきれなかった。
「お兄さまいつからいらっしゃいました?」
しかも妹にもばれるし。ごめん先輩ほんとにごめん。内心で謝りながらこちらも適当なところを返しといて。たぶんばれてるけども。
「兄に気がないというならもう焦る必要ありませんわ、大丈夫ですよ」
うちの妹の言葉に先輩に対する罪悪感だけがすげぇ募ってく。雫来の「罪なお方ですね」とかそんなかわいい言葉じゃ収まりきれない。
「罪というかある意味大罪人だろ華凜……鈍感すぎる」
「あなたにだけは言われたくありませんわ」
俺もお前にだけは言われたくねぇわ。
ひとまず本を抱えて「借りてきますっ!」と去っていったカリナと、貸し出しの手続きをしに妹のあとを追った雫来を見送って。
視線は陽真先輩とそろって武煉先輩へ。
当の本人は大変気まずいお顔をしていらっしゃる。正直俺の方が気まずい。
「……あの」
口を開いた武煉先輩がなんとなく何を言うかわかったので。
「俺さ」
ぱっと先に言葉を出した。二人はびっくりして俺を見るけれど、気にせず繋げる。
「ほんとに今来て。華凜の”誤解から恋が始まってもいいんですよ”あたりくらいからしか聞いてないんだよね」
「そりゃまた大変な部分から聞いたな蓮クン」
いや他にも大変すぎるところあったんだけども。
そしていろいろ問いつめたいところも正直あるし、もっと警戒心は高めなきゃいけないというのも思ったんだけども。
ひとまず今回は。
「だからその、武煉先輩が話せるなーって感じのとこで、俺にばれたくないこと話してくんない?」
あまりの哀れみと、あとは。
女遊びなんて、ふざけたやつだったなら自分から言って「君の妹も標的なんです」なんてこといつでも言えたし、なんなら同級生にも誰彼構わず手を出そうとしただろうし。一年早くいる二人ならもっと噂が俺に聞こえててもよかった。
それがいっさいなかったっていうのが気になってしまったからというのは、ほんの少し甘くなった証拠だろうか。けれどどうしても、昔の王子で女遊びがどうこうというのを嫌というほど知っている俺は気になってしまって。
今回はちょっと不問に。
まぁでも。
「もちろんなんかやらかしたらその首は飛ばすからそこはお忘れなく」
そこの釘だけは刺して置いて。
「……助かるよ」
「蓮クンやっさしー」
ちゃかしてきた陽真先輩に笑って、荷物が多くなったであろう妹の手助けとちょっとしたおとがめをするため、その場を後にした。
『レグナ側の話』/レグナ
バレンタイン前日

無事作れたね

いかがでしたか? クリスティア

たのしかった!

ふふっ、調べた甲斐がありましたわ♡

んじゃクリス、明日ちゃんと持ってきてね

うんっ

……なぁ

なーにー

ラッピングの結果はこれでいいんだな??

合ってる

合ってますよ

レグナ

俺止める気ないけど

知ってた
バレンタイン当日
その目は、本気

木乃先輩の武闘会の日! 全員集まれるわね!

終わり次第交換会しましょぉねぇ。ってわけで武煉

今日は頑張ってくださいな

何故だろうね、早く終わらせて来いという圧を感じるよ

気のせいじゃねぇと思うぜ相棒

なら手っ取り早く終わらせようかな
その本気とは、またいつか

すげぇな、背負い投げ一発

有言実行だね!

ポジティブに捉えれば、嬉しい応援もあったしね

へぇ?

波風が千本を出したぞ

ここで第二回戦やっとくか?

遠慮しておくよ
その視線は。

とりあえず移動しようか

楽しみだわ! 自信作なの!

わ、私もラッピング頑張りました……!

みなさんの楽しみですわね

――!

? はるまー?

んー? んや、ちょっとな

すげぇ気持ち悪い視線感じたな今

いこー、はるまのもあるよ

……おー
ハッピーバレンタイン!
屋上の前までやってきました

ハッピーバレンタイーン! 日本は女の子からっていうことで、主に女子からプレゼントよ! あたしからはおもちゃクッキー!

不思議なクッキーですっ

パパのところで作ってるクッキーなの! 男の子に人気なのよ!

わたくしのは買ったものですが……

おいしそー

パッケージも豪華ですね

ありがたくいただくぜっ

……

? 閃吏さん?

あ、ううん。ありがとう、いただきます

これ、たしか一粒数百円単位する価格的にすごいチョコじゃなかったっけ……。なんか簡単に食べれない……
その色に、何を隠してる?

フィノアちゃんからはカップケーキよぉ

わ、カ、カラフルでかわいいです!

先輩らしい、ゆめかわいい系だな

でしょぉ。はい。武煉たちも食べなさぁい

……

……

どうしたですかっ

変な顔してるー

いや……

今年は、普通の……ですよね?

去年何があったんだこいつら……

……今年は悪いが気持ちだけもらっておく

えぇ、ざんねぇん。おいしいのにぃ

どこか怖い
ちょっとだけ詳しい年齢を知るのが怖かった

わ、私はお料理苦手なので、買ったものです……!

お、ありがとー

? なんか丸いな

これは――

懐かしいものだな

すげぇ、まだ売ってんだ。お菓子の中にフィギュア入ってるやつ

? 昔売ってたものなの?

結構前だよな

えっと――

いい、詳しい年は大丈夫だ刹那ちゃん

ありがたくもらっておくよ雪巴

はい!
一部にだけ人気がある

私と刹那からは一緒に。と言ってもほとんど刹那作ですが

わぁっ! すごい、似顔絵クッキー!?

ユーアの顔ですっ

こりゃまた器用だな!

ヒト型もよくここまできれいに……

器用だね氷河さん。愛原さんもありがとう

これあたしたちもあるけど、もらっていいのぉ?

もちろんですわ

か、飾りたい……!

永久保存はできないのかしら!?

惜しいですが、感謝していただきましょう

これははるまとぶれん…

おー、さんきゅ――

……刹那

はぁい

俺と陽真の似顔絵のクッキーが、その、一つの袋に入って、ハート付きなんだけれど

良いバレンタインになればいいと思って……

オマエらにはいいバレンタインだわな……ありがたくいただくケド
♦
あなたにも、素敵なバレンタインを

♪、♪

楽しかったか

うんっ

よかったな

おかしもいっぱいもらえた

俺からもある

! 有名なおいしいのっ

好きに食べろ。もう検閲してる

♪ ありがとー

あぁ

……

日本は、女の子から……。……

? どうした

おてて

うん?

……、――

!

手に、キス――

はっぴー、ばれんたいーん……なんて。、飲み物、持ってくる

待て――、やられた……