画面に映る人を見る。
その人は縛られながらも笑っていて。
《俺は約束を果たしに来ただけなんだよっ!! あいつが望んだんだそれをっ!! なのにあいつは忘れていやがったんだ!》
なんて、ボリュームをかなり小さくしても耳障りなくらいでかい声で叫ぶ。
半狂乱状態の、その男を見て。
「……これはさ」
「僕も思うぞ波風」
「わ、私もです……」
「あたしも反対だわ!」
ねぇ、と妹を同意を求めるように見れば。
「明らかに見せては行けないでしょう、刹那に」
苦笑いで、そう溢した。
クリスティアが無事に登校できるようになってから早数日。陽真先輩を筆頭に上級生・同級生たちが変わらずに接してくれたのもあってクリスティアの回復は順調だった。
幻覚症状が出ない日も出てきたし、触れる触れないも少しずつ震えやびくつきがなくなってきていて。これは今月で結構回復に迎えるかなと。二年になって、一年のときみたいに学園の説明がなくなり自習期間になっている授業選定期間、カルテを見返しながら、同じクラスになったカリナや祈童、道化と雫来と話していると。
今年担任になった江馬先生が俺たちのとこにやってきた。
クリスティアの犯人の件で確認して欲しいものがある、と。
なにも知らない俺たちは当然「刹那でも龍でもなく俺たちに?」と首を傾げたのだけど、江馬先生はちょっと困ったように頷くだけ。これはわけありかと察知して頷き、じゃあちょっと場所を変えようかと、江馬先生に連れられてやってきたのは会議室。
そこでなんの説明もなく差し出されたのは、学校用なのかカバーもなにもないスマホ。祈童たちと首を傾げていれば、江馬先生は画面をつけてパネルを操作。その指は画像フォルダの方をタップして、一個の動画らしいものを指さした。
まだ見る前の小さい画面になっているそこに映っているのは。
三月末、クリスティアの元にやってきたあの犯人。
椅子に縛られてる状態のその男を捉えて顔を上げれば、ようやっと江馬先生は言ってくれた。
かなりの尋問を経て、やっと動機を吐いたと。
証拠として残しておいたものをひとまず俺たちから先に見て欲しいと。
まだそこで、なんで俺たちからっていうのはちょっとわかんなかったけれど。
頷いてその動画を再生してもらえば。
「……江馬先生があたしたちに先に確認をっていうのがよくわかった気がするわ」
「こ、これはいけませんね……」
「そうですよね〜」
道化のいう通り、江馬先生の意図がようやっとわかったのである。
これを、クリスティアに見せるべきか、否かの判断をしてほしかったと。
「私としては〜、被害者には動機などを知る権利があると思うんですね〜」
「そこには同意しますわ」
「けどな波風」
「うん……」
祈童に苦い声で名前を呼ばれて、俺は苦笑いで頷く。
江馬先生の言い分はとてもよくわかる。被害者である側は「何故そうなったのか」っていうのを知る権利は当然ある。もちろん拒否する権利もある。そこは本人の意思なんだけども。
その動機はときおり、本人の意思を無視してでも見せる見せないをこっちで決めていいときはあるとも思う。それがまさに今。
動画の中の男はあひゃひゃというような高笑い、目はかっぴらいていてなんかこう、薬でもやった? みたいな半狂乱。
しかもそれが当時捕まったときのままの半女装状態ともなれば。
「もう視覚的暴力にもほどがあるよねこれ」
「氷河に違う意味でトラウマが焼きつくぞ」
「ゆ、夢に出てきそうです……」
「仮に見せようという輩がいるのであれば斬りますわ」
「メイスで記憶飛ばすのもありよ華凜ちゃん」
「今のところそういうお方はいないので安心してください〜」
刺激強いもの見せてすみませんね〜、と江馬先生の声に、動画から顔をあげて首を横に振った。
「それでですね〜。動画に関しては私も見せるのは反対なんですね〜。トラウマを抉るか新たなトラウマになるかは予想ができたので〜」
「ちなみにこれってあたしたち以外は見たのかしら?」
「あなた方の同級生はまだですね〜。ユーアくんやウリオスくんは氷河さんとクラスが違うのでいつでも行けますが〜、彼女と同じクラスの子となると呼び出しのタイミングがちょっと難しくてですね〜」
「まぁ“どうした”となるよな」
「ぇ、炎上くんが呼ばれたらなおさらですね……!」
「同級生はということは上級生方は見たんです?」
「はい〜」
江馬先生はにっこり笑って。
「それはもうあまりの顔に陽真たちは大爆笑でした〜」
あぁそれは予想できる。
「そして一通り笑ったあと真顔で“これは見せてはいけない”と〜」
「そこの判断は正常なんだ」
「彼らは優秀ですから〜」
それでですね〜と少し真剣な声になった江馬先生を見上げる。
「動画はこういった刺激的すぎる内容という理由で氷河さんには伏せる旨と、その男は無事、刑務所行きという形になりましたので、そのことを炎上くんにうまく言っていただければとお願いしたくてですね〜」
「刑務所に行ったってなれば刹那ちゃん安心するかしら」
「そこは話してもいいかもしれないな。来ることがないとなれば回復したあと不安になることはないだろう」
「そ、そうですね……!」
「でしたら蓮から龍にお伝えをお願いしても? 諸々のお話し込みで」
「おっけ」
「では波風くん、お願いしますね〜」
「わかりました」
俺の返事に頷いて。
「ということで確認やお願い事項は以上になります〜。ご協力ありがとうございました〜! 教室に戻ってもらって大丈夫ですよ〜」
「わかったわ!」
「刺激的なものを見せてしまってすみません〜。ご協力の補填のようなものはさせていただきますので〜」
「そ、そんな、大丈夫です……!」
「氷河が無事に過ごせるのがなによりだからな」
笑って言いながら会議室から出始める祈童たちを追うように俺も会議室を出る。
「失礼しましたわ」
「はい〜」
最後にカリナが出たのを確認してから、広い廊下を歩き出し。
「刑務所入りはありがたいわねー」
「まぁ脱走を図られたら困るんだがな」
「物騒なこと言わないでよ祈童くん!」
とりあえずひと段落ということで、ほっとしながら話す。
「こ、これで引っかかりとかも大丈夫でしょうか……」
「そうですわね……。犯人の今後もわかりましたし、あとは刹那の回復を待つばかりでしょうか」
カリナに見られて、頷いた。
「様子見ながら刹那の負荷にかかりそうなもの排除してけば大丈夫じゃない?」
「波風の排除はこの世からの排除ではあるまいな」
「それはよほどのときだけね」
「そう聞くと毎回がよほどのことっぽい気がするのだけど」
「そんなことなくね?」
「わ、私に聞かれても……」
思わず雫来を見たけれど去年行動をあんまり一緒にしてない雫来にわかるはずもなく。ごめんと謝って祈童や道化を見た。
けれど二人は首を横に振るばかり。
「お兄様はちょっと過剰なんですよ」
そして元凶である妹からもこの仕打ち。再び雫来を見て。
「雫来、この一年間で俺がそういう人間じゃないって証明してね」
真剣な眼差しで言えば、雫来からはそっと視線を逸らされた。
それに諦めの笑みをこぼして。
ひっかかりがなくなって少し軽くなった足で、教室に向かって五人で歩いて行った。
『犯人のその後』/レグナ
授業が確定する授業選定期間最終日の金曜日。
自習期間でもあるということで、同じ三組のクリスティアや閃吏、エルアノやティノと話しながら各々本だの資料だのを読んでいると、担任である獅粋に揃って呼び出された。
授業の確定通知かとも思ったがこのメンバーで? と首を傾げながら、五人で案内されたのは生徒指導室。場所が場所ということで何かやらかしたかと全員で考えてみるも何も浮かびはせず。
通されるまま中に入り、並べられた椅子にそれぞれが座り。
少々身構えながらいれば、獅粋が口を開いた。
「テスト期間中と春休み。氷河の件に関わったものはうちのクラスではこのメンバーだな?」
言われた言葉に一度全員で目を合わせる。けれど何故それを聞かれているかなど当然わからず首を傾げてまた獅粋を見て。
「そ、うだが」
「そうか」
答えれば頷いて。近くにある机に置いてあった紙を取り、俺から順に一枚ずつ配っていく。隣でクリスティアが礼を言っているのを聞きながら、目を落とせば。
「……救済補填?」
紙の一番上に書かれている言葉が理解できず、思わず声を出してしまう。
『エーート、ペナルティ、免除?』
「そうだ」
ティノの声に答えた獅粋を見れば、配り終わって再び俺達の前に立つ獅粋が一枚紙を持ちながら俺達を見る。
「結論から言うと、きみたちにはテスト期間と春休み中の件で救済補填が出る」
もちろん俺達だけでなく、これに関わったもの——レグナやカリナを始め、同級生や上級生にも同じように出ると。
安心しろと言われるが正直理解ができていないので安心しようがない。俺達全員がわけのわからない顔をしているのがわかったのか、順を追って説明すると紙に目を落とした。
それにならって俺も紙に目を落とし、獅粋の声で文字を追っていく。
「まず救済補填についてだ。これは主に学園で起きた不祥事などに貢献した者に与えられる。内容は基本的にはテストなど行事を休んだときに課せられるペナルティの免除。もちろん基本的にというだけで、学内でできるようなことがあれば言ってもらって構わない。たとえばそうだな……一定期間、好きな講義を受けられるだとか、融通をきかせるだとか」
『つまりは貢献した分のご褒美が与えられるようなもの、でしょうか?』
「そう捉えてもらって構わない。期間は人それぞれ違う。だいたいの基準はその場にいたかいなかったかだ」
言われて紙の中心に目を移動させれば、「補填期間」と書かれた下には二十日間との記載。クリスティアの方を見ると、その場にいた分多くなって現在一ヶ月分。
「……今のところ二回はテストを休めると」
「休むことに使おうとするのが炎上君らしいね」
クリスティアを挟んだ隣にいる閃吏には苦笑いをこぼし。
「救済補填の概要に関しては以上だ」
獅粋の声に顔を上げて。
「質問はあるか」
その言葉に、手を挙げた。
「炎上」
名を呼ばれて手を下ろし。
「……補填を受ける理由がわからない」
未だ理解できないそれを、こぼす。それは閃吏達も同じだったのか、質問に獅粋を見た。けれど獅粋は変わらず無表情で口を開く。
「先も言ったはずだ。学内での不祥事に貢献した者に与えられると」
「えっと、俺たち別に貢献したわけじゃないんですけど……」
「何を言う。その場にいた氷河やティノ、そしてユーアや陽真はもちろんのこと。きみたちは氷河の復活に貢献しただろう。与えられて当然だ」
「その復活に関して、閃吏達がそれを与えられるのは理解できる」
礼をしきれないほどのものだと思う。
けれど、
「……そもそもの話」
あまり恋人を悪く言いたくはないが、事実。
「……刹那があのとき飛び出さなければ、起きるものではなかった」
自分がきちんと見ていれば。
クリスティアが駆け出した直後、試合を抜けていれば起こらなかった。
「……学内で起きたとは言え、そもそもの責任は俺達だろう」
「炎上君……」
「補填をされるような行いはしていない」
己の不甲斐なさに、地面を見る。悪く言ってしまった恋人の方も見れはしない。
「……」
「……」
『……』
俺の言葉に教室内に沈黙が走る。けれど自分にとっては事実なので否定する気もなく。
この補填の紙は返して去ろうかと、足に力を入れたときだった。
「……きみは、」
俺のことかと顔をあげれば。
「氷河の行いを悪いと思っているのか?」
心底不思議そうな顔で聞いてきたので、思わず呆けてしまう。
「……は」
「氷河の行いは悪いものだったか」
「……」
「おれはそうは思わない」
ゆっくりと近づいてきて、獅粋はクリスティアの前に膝を着き。
「彼女の行いは誇るべきものだ」
至極優しい声で、言った。
「ほこる…?」
「そうだ。きみは笑守人の生徒として誇らしいことをした」
クリスティアに言って、今度は俺を見る。
「炎上」
「……」
「そもそもは彼女が近づいたから起きたと言ったな」
「……あぁ」
「突き詰めていくならば、決してそうではない。その犯人が彼女にたどり着くまで、いくつもの道があった。その道を開けてしまったのは我々笑守人だ。“そもそも”と言うのであれば、やはり原因は笑守人にある」
「……」
「もちろん、彼女には見極めが足りなかっただろう。しっかり観察していれば飛び出すこともなく、怖いことも起きずに解決できていたかもしれない」
けれど。
「たとえそれが悪人であったとしても。倒れたその者を心配し、我が身をかえりみず手を差し伸べた彼女の行為は。笑守人の理念そのものであり、生物として誇らしい行いであるとおれは思う」
「……!」
「その誇らしい行いに、我々は救済補填を出す。何も間違えではなく、おかしいことでもない」
「……」
「そしてきみたちも。勇敢に戦った小さなこの少女は、その身を犠牲にし少しばかり傷を負ってしまった。それを献身的に支え、彼女は無事学園にまた通えるようになった。その行いも誇りに思っていい」
立ち上がり、俺達全体を見回す。
「こう言うとみな“友人だから当然だ”と言うだろう。けれどその“当然”だと思っていることは、誰にでもできることではない。波風のカルテを見たところ、初期は想像以上に見ていても辛かったはずだ。それに屈しず、変わらずに支え続けたことは尊敬に値する」
だからこそ救済補填を出すのだと。
静かに獅粋は言った。
「炎上」
「……」
「きみ自身も、そして恋人の行いも。誇っていい。決して悪いことではない」
そう、言われて。
クリスティアの件はすっと心が軽くなったが、自分のことは逆に心が重くなった気がした。
支え続けたのも、復活の手助けをしたのも、俺ではないのに。
結局は何もできず、ただ見ていただけ。ただただ恋人だから最終的に俺のところに来るけれど、それがなかったら。
「……」
「……救済補填についてはすでに与えられたものだ。きみたちが使えると思えたときに使えばいい」
その思いを見透かしてか、獅粋はそう締めて。
「話は以上だ。質問はあるか」
切り替えるように言って、俺達を見回した。無言を肯定と取った獅粋は頷き、チャイムが鳴ったのを合図に机に置いてある紙を持って歩き出す。
「このあとは授業選定の通知に入る。遅れないように」
「は、はいっ」
『ありがとうございました』
それを見送って。
「……」
少しの沈黙の後。
「……!」
くいっと、裾が引っ張られた。方向を見やれば、クリスティアが俺を覗き込んでいる。
「…おやすみ時間」
「……」
「あそぼ?」
悪く言ってしまったのに変わらず微笑んでそう言う恋人に、胸が痛くなった。
「わっ…」
申し訳なさが募って、人前にも関わらずクリスティアを抱きしめる。一瞬強張ったことにも申し訳なく思いつつ。冷たい体温で頭を冷やしながら、深呼吸をした。
「……すまない」
「なにがー」
あくまでもしらを切ろうとする恋人には、敵わないなと苦笑いをこぼし。
「あのね」
「うん?」
だんだんと落ち着いてきた心で、恋人に返答をする。
クリスティアは言おうか迷うっているのか、少し黙った。きょろきょろとしているんだろう、閃吏やティノが「どうしたの」と聞いている。
それでも言わないクリスティアに、体を離して彼女を見た。
「どうした」
「…」
最近ではもう癖になった、いろんなところを見ては俺を見てを繰り返す。
待っていると、エルアノが飛んできてクリスティアの肩に止まった。
『言いたいことがあるのではなくて?』
「…」
『なにかをお決めになさったのかしら』
やさしい口調でエルアノが聞いていけば。
クリスティアは頷き、俺を見た。
「ん?」
首を傾げてやれば、小さく口を開く。
「…びょーいん」
「? びょう……?」
あまりにも突発的な言葉に首を傾げると、閃吏が気づいたのかクリスティアの前にしゃがんだ。
「病院?」
「ん」
「俺との賭けかな」
『氷河サン、学校怖かった?』
ティノが聞けば、クリスティアは首を横に振った。
「たのしかった」
『けれど病院に行く、と?』
「ん…」
エルアノに頷いたクリスティアは、俺や賭けをもちかけた閃吏を交互に見て。
「…いろんなヒトが、助けてくれた…。華凜たちも、せんりたちもいっぱい…」
それに、と。
もらった紙に目を落とし。
「学校も、たくさん助けてくれてる…」
だからね。
「たくさん助けてくれたみんなが、安心できるようにしたい、から…」
「……病院、行く? 氷河さん」
「うん…」
「そっか」
クリスティアが頷いたのを見て、閃吏達は安心したように微笑んだ。
『万が一に備えるのは良いことですわ』
『もっと良くなって早くたくさん遊ぼうねー!』
「うんっ」
最後に俺を見てくるクリスティアに。
再び心が重くなったのを感じながら。
「病院、いっしょ…来てくれる…?」
「……当たり前だろう」
なんとか笑みを作って、頷く。
それに安心したクリスティアは、この状態になってからは珍しく自ら俺に抱きついて。感謝を伝えるように少し頬を擦り付けてきた。
けれど抱きしめ返す間はないまま恋人はするりと抜けていき、行き場のなくなった手を握って立ち上がり。
『チャイムが鳴りますわ』
『いこー!』
先を歩くクリスティアとエルアノ、ティノの後を追うように閃吏と生徒指導室を出た。
「炎上君」
「ん?」
閃吏の声に、そちらを向くことはなく答える。
「氷河さん、学園自体は楽しんでたし……賭けのデートは叶えてあげたいなって思うんだけど。どうかな?」
「あぁ……」
あったなその条件。
苦笑いをこぼすと、閃吏は大丈夫だと声で笑った。
「前も言ったとおり、ほぼ貸し切りっていうか……空いてる時間なら貸し切りもできたりするんだって。誕生日とか気合入れたいデートに人気なんだよ」
「……調べたのか」
「昔ちょっとそういうのに詳しい子がいて覚えてたんだ」
デート関連ならば恋人か。深く聞きはしないけども。
「病院、平日に行くでしょ?」
「決定か」
「人混み嫌いならそうかなって。土曜とか混むじゃない」
「……」
「朝早くに病院行って、終わる目処つけて貸し切り予約にしちゃえばいいかなーって思ってね。ゆっくりデートできて氷河さんも喜ぶんじゃないのかなーって思うんだけど」
どうかな? と聞かれ、考える。
普段まったくと言ってしない外の出掛け。きっと喜ぶだろう。嬉しそうに菓子を頬張る姿が目に浮かぶ。想像して少し笑みをこぼしながら。
心の奥底では、複雑な思いが巡る。
自分自身で喜ばせることなどできず。いつも他人任せ。今では同級生達の方がクリスティアをわかっているんじゃないかと思うくらい、こうして彼女の喜ぶ言葉を的確に出してくる。俺はと言えば、恋人を悪者のような言い方までして。それのフォローも自分ではなく数日前に担任になった者に任せて。
情けないでは済まされないくらい、自分が嫌でしょうがない。
「……」
「炎上君?」
だからこそいろんな焦りも出てくるのではないかと、ここ最近クリスティアと急激に仲良くなり始めている兄のような上級生を頭に浮かべながら。
「……考えておく」
そろそろ甘えてばかりではいられないなと、ため息を吐いて。閃吏にはいつもの約束とは言えない言葉をこぼしておいた。
『クリスは悪くないよ』/リアス