未来へ続く物語の記憶 November-II

グリィナ夫妻とあそぼう! Part.3


【11/3 土曜日 ネイル組】 メンバー:グリィナ夫妻、陽真、武煉、フィノア、淋架、トリスト、美織

 

フィノア
フィノア

今日は授業が終わり次第主人公組と遊ぶということでぇ。一、二限が休みのメンバーと裏庭でお話なんだけどぉ

 

陽真
陽真

お話っつーかなんか好きなコトしましょうぜっつー感じの緩い会なんだケド

 

武煉
武煉

何かご希望はありますか夫婦方

 

エイリィ
エイリィ

私は学校での刹那の話が聞きたいなっ! かわいい? かわいい!?

 

セフィル
セフィル

淋架っ! 僕にその美しい髪を良く見せてくれ!

 

陽真
陽真

いつも通りだわ……

みんなマイペース

 

武煉
武煉

刹那のことはだいたい陽真がよく担当しているね

 

陽真
陽真

あとはビースト組とみおりんか

 

武煉
武煉

俺もこっちに混ざろうかな

 

フィノア
フィノア

じゃあセフィルさんは淋架先輩にくぎ付けだしぃ、あたしは精神安定要員でセフィルさん側行こうかしらぁ

 

陽真
陽真

んじゃそんな感じで

 

 

セフィル
セフィル

相変わらずすばらしい……瞬きで瞳も変わる……。!! 爪も変わるのか!!

 

淋架
淋架

そうだよ~肌寒くなってきたから寒色系でーす

 

フィノア
フィノア

寒くても暖色系になったりするぅ?

 

淋架
淋架

あ、するよ~。それこそこうやって息吹きかければ……

 

フィノア
フィノア

!!

セフィル
セフィル

!!

 

淋架
淋架

こうやってオレンジに。たぶんこれだと一瞬で戻っちゃうんだけどねー。体温の方が結構上がれば冬でも暖色系になるよ~。逆もしかり!

 

フィノア
フィノア

すごいわぁ……

セフィル
セフィル

まさに生きる芸術……!

 

フィノア
フィノア

ちょっと淋架先輩ほかのとこもなんか試していい?

 

淋架
淋架

へ?

セフィル
セフィル

目はどうやって変わるんだい淋架! 頬を温めたりしたら連鎖していって変わったりするのかい!?

 

淋架
淋架

ちょ、ちょっと二人とも近くないかな!?

 

フィノア
フィノア

マニキュアの手伝いと思って!!

セフィル
セフィル

次回の作品の参考に!!

 

淋架
淋架

近い近い近いっ! ちょっ、と、トリストーー!! ヘルプヘルプっ!

 

トリスト
トリスト

良き友人ができたようで何よりだ我が親友淋架よ

 

淋架
淋架

その親友今大変困ってるけども!?

 

武煉
武煉

フィノア先輩、精神安定にってそっちに行ったはずですけど

 

淋架
淋架

全然安定しないけども!? メンバー追加所望するよっ!!

エイリィ
エイリィ

きゃー! この刹那かわいいねぇっ! ねぇ送って陽真っ!

 

陽真
陽真

おー……

 

陽真
陽真

あの騒ぎの中で刹那に夢中……すげーなこのマイペースさは……

素敵な出逢いに、何度だって感謝を

 

セフィル
セフィル

そういえばフィノア

 

フィノア
フィノア

はぁい?

セフィル
セフィル

マニキュアの手伝いと言っていたけれど……

 

フィノア
フィノア

あぁ、今ねぇ。淋架先輩のこの色変わるのが素敵でぇ、本人も公認で色が変わるマニキュア作ってんのよぉ

セフィル
セフィル

なんだって!? 着眼点が素晴らしいな君は!!

 

フィノア
フィノア

おほめにあずかり光栄だわぁ。試作品がこんな感じでねぇ

セフィル
セフィル

なんと……! ここにも芸術がっ!!

 

フィノア
フィノア

色はまだうまく変わんないんだけどねぇ。同色系ならなんとかって感じぃ。あ、淋架先輩手ぇ貸してぇ

セフィル
セフィル

すごいな……これはどのくらいで変わるんだい? あ、リンカ、手を借りるよ

 

フィノア
フィノア

温度でも多少変化はあるけどぉ、一時間とか二時間とかでゆぅっくり変わって感じかなぁ。目標は淋架先輩みたいな感じねぇ

セフィル
セフィル

それができるようになると作品作りにも使えそうだ……!

 

フィノア
フィノア

あ、もう少し良い感じに出来たらデータ送るわよぉ

セフィル
セフィル

ぜひ!!

 

淋架
淋架

あのっ!! 楽しんでるとこ悪いけどヒトの爪で延々と実験しないでくれるかな!?

セフィル
セフィル

いやあ素晴らしい……とても素敵だ淋架!

 

フィノア
フィノア

なぁんか刹那に逢ってからすごい褒められてるわねぇ、よかったじゃなぁい

 

淋架
淋架

いや~まだぜんっぜん慣れないよ……

セフィル
セフィル

刹那に逢うまでは中々褒められなかったのかい? こんなに素敵なのに

 

淋架
淋架

さすがフランス人褒め慣れてる

 

淋架
淋架

……あー……まぁ、ヒトには馴染めなくて~……ついこないだまで人前に出るのも嫌いだったんですよね

セフィル
セフィル

それが刹那に逢って変わったと

 

淋架
淋架

みんなに逢ってね。とくに刹那ちゃんがすっごいきらきらした目で見てくれてー

 

フィノア
フィノア

下心もなくオッドアイを二度おいしいって目輝かせるしねぇ

 

淋架
淋架

そうそう。そうするとユーアくんたちもみんな集まって来てさー、大鑑賞会! なんかそういう目向けてくれるのが新鮮で

 

セフィル
セフィル

……

 

淋架
淋架

がんばっちゃおっかな~なんて、思っちゃうんだよねー

 

フィノア
フィノア

わかるわぁ。どうやったら喜んでくれるかってねぇ

 

淋架
淋架

そうそう!

セフィル
セフィル

……つくづく僕らの弟妹分たちは、素敵なヒトに出逢ったようだね

 

フィノア
フィノア

セフィル
セフィル

なんでもないさ。未来の妹たちと仲良くしてくれてありがとう

むしろ守っちゃう


クリスティアの写真を見せる会

 

美織
美織

刹那ちゃんのだったらこんなのもあるわ! マジックに目を輝かせてる刹那ちゃん!

エイリィ
エイリィ

っきゃー!! かわいいよ美織っ! ていうか美織もすごいね!?

 

美織
美織

最近また新しいネタ仕入れたのよっ! 今度刹那ちゃんに見せるの!

エイリィ
エイリィ

えっ、えっ! そのときの写真また送ってくれる!?

 

美織
美織

もちろんよ!

 

武煉
武煉

なんならうちの撮影班が動画も撮りますよ

 

トリスト
トリスト

動画ならば冴楼も良い腕をしている。明日泊まりに行くのであれば逢えるだろう。見せてもらうといい

エイリィ
エイリィ

わぁっ楽しみ!! あっ、美織この写真も送って!

 

美織
美織

いいわよ! あとこんなのもあってー

エイリィ
エイリィ

うわぁああ、うわぁあかわいいねぇ!

 

陽真
陽真

ほんと刹那ちゃんのこと大好きな

エイリィ
エイリィ

世界で一番かわいい子だよっ! 天使!

 

武煉
武煉

弟よりも可愛がるというのはなかなかおもしろいね

エイリィ
エイリィ

あっ、龍ももちろん大好きだよ!? 華凜も蓮も! みーんな同じくらい大好きっ! でもねぇ、刹那が一番守りたくなる、かなぁ

 

トリスト
トリスト

守りたくなる?

エイリィ
エイリィ

そう! みんなも言ってたの、よくわかるよ! 刹那が嬉しいとねぇ、みんな嬉しそうな顔するの! 刹那は華凜が笑うのが一番好きで、華凜が笑ってくれるからって言うけど……きっと刹那がいるから華凜も笑えて、それでみんなももっと笑顔になるんだよ

 

陽真
陽真

……それはちょいわかる気がする

エイリィ
エイリィ

だからねぇ、刹那のことは何がなんでも守りたいって思うんだぁ。そうしたらきっと、きっと。みんなも喜んでくれるから。お姉ちゃんが守ってやるぞって!

 

美織
美織

エイリィさん……。たぶん刹那ちゃんの打撃力なら自分で自分を守れそうだわ!

 

陽真
陽真

みおりん次からもうちょい空気読むこと覚えような、台無しだわ

みんな授業に行きまして、グリィナ夫妻は学園内の見学へ

 

エイリィ
エイリィ

あ、クリスがパフォーマンスしてる

 

セフィル
セフィル

ふふっ、本当だ

 

エイリィ
エイリィ

……嬉しいねぇ

 

セフィル
セフィル

あれだけヒトとの交流を嫌がっていたあの子たちがね。嬉しさもありつつ、ちょっと寂しいな

 

エイリィ
エイリィ

確かに。……でも、やっぱり嬉しいよ

 

セフィル
セフィル

……あぁ

 

エイリィ
エイリィ

リアスたちからもみんなとの話いっぱい聞こうね

 

セフィル
セフィル

もちろんさ。たくさん聞いて、たくさん話して。笑顔でフランスへ帰って。お義父さんたちにも話そうか

 

エイリィ
エイリィ

うん! 忘れないようにしなきゃね!


笑顔で笑って笑守人学園組との交流会終了!


 目の前のお方と、まっすぐに見つめあう。

「いい? カリナ」

 なじみのあるフランス語に頷き。

「もちろんですわ」

 イヤホンのチェックもあるからと、私は日本語でそう返す。

 そうしてもう少しだけ、黙った後。

 ゆっくりと二人、利き手を持ち上げて。

「クリスティアとのお風呂を賭けてっ!」
「行きますわっ! じゃんけんっ!」

 ぽんと、闘志のこもった手を出し。

「またあいこだよっ!!」
「どうなってるんですか確率は!!」

 もう何度目かわからないあいこに、二人。

 限界と言うように床に膝をつきました。

 先月にエイリィさんたちご夫婦を始めとした親族方がいらっしゃってから早一か月。
 イヤホンのチェックや警備ロボの試運転、そしてそれの調査ということで、思った以上に彼らと共にいることはありませんでしたけれども。それでも一緒にいるときはたくさん楽しめたであろうこの日々。

 それも、もう少しで終わりになるわけでして。

 ハロウィンを見るためと残っていたエイリィさんたちご夫婦も、それが終わったということで、明日の夜にはこの日本を出ることになりました。
 また寂しくなりますね、なんて言うのはもっと寂しくなってしまうから口を閉ざし。代わりに、せっかくならばと向こうからのお誘いで土曜の授業終わりから明日の出発までの約一日。
 カップルにご夫婦、そして我々双子に冴楼くんも含めて、最後に思い出作りをしませんかというお言葉には二つ返事で頷きまして。

 授業を終え、おうちでお昼を食べたり身支度を整えたりして夕方、カップル宅にやってきたんですけれども。

「カリナっ!! そろそろお姉ちゃんに譲ってくれてもいいんじゃないの!?」
「勝負前にご自身で”全力で闘おうね”って言ったじゃないですか!! それがなければ譲りましたわ!」
「うわぁぁん三十分前の私のばかああっ!」

 お泊りとなったら恒例となるクリスティアとのお風呂じゃんけんが思った以上に長引いていて息が上がっていますわ。
 こんなはずじゃなかったのに。

 最初はほんとに譲る気だったんですよ?? せっかくならば、ねぇ? 言ってしまえば私はいつだって共に入れるわけですし、エイリィさんは今日でしばらくお逢いできませんし。そうなれば当然、エイリィさんに譲るというのがセオリーというものでしょう。
 でもエイリィさん言ったんですよ。
 いつもみんなでじゃんけんとかしてるなら私もやると。そしてやるからには全力で闘って勝ってその権利をもぎとると。

 そうなったらもうこちらも全力を出すじゃないですか。

 そこまではまだよかったんですよ。

 問題はお時間ですわ。

「……お前ら三十分もよく飽きないな……」

 互いの執念なのか三十分あいこを出し続けているのがもう予想外すぎますわ。なんですか三十分って。

「別に飽きているわけではないんですよ……!」
「そうだよリアスっ! 全力で闘ってるんだよお姉ちゃんたちはっ!」
「それでも三十分はすごいよね」
「奇跡の三十分だな」

 そこの兄と幼なじみ他人事だと思ってっ。
 本日はエイリィさんがいるからと参加を自ら辞退した二人を睨むも、意に介さずお二人はクリスティアとセフィルさんのお絵かきタイムを見守っています。私もそこに早く入りたいっ。
 けれど譲れない。

「っ、次で最後にしましょうねエイリィお姉さま?」
「受けて立つよカリナっ……!」
「俺じゃんけんで息上がってんの初めて見た」
『これはしっかりと記録しなければ……』
「冴楼動画撮っているのかい? 僕にも送ってよ」
「あ、俺もちょうだい」
『もちろんでございまする……』
「ちょっとこちらは真剣なんですけれども!?」

 誰ですか今写真撮ったの。リアスでしょ。
 文句を言いたけれど普段自分もやっているのでそこだけは言えない悔しい。

 ギリッと歯を食いしばって。

「……参りましょうかお姉さま」
「うんっ……! 最初は、ぐー!」
「じゃんけんっ」

 ほい、っと出した手は。

 互いにパー。

 ねぇ何度目ですか??

「もうエイリィさん何回パー出すんですかっ!!」
「カリナだって同じじゃんかっ!! さっきからパー二回チョキ一回グー一回の繰り返しだよっ!?」
「どうしてそこまでわかってて勝とうとしてこないんですか逆にっ!!」
「真剣になっちゃうと咄嗟に出しちゃってその結果が毎回同じなんだよっ!!」

 わかる。

 ちょっとそこのローテーブルお絵かき組、肩めっちゃくちゃ震えてますよ見えてますからね。
 こっちは真剣なのに。
 一瞬頬をふくらませて睨んでから、再びエイリィさんを見据える。

「確か先ほどもパーでしたよね」
「えっ覚えてないよ」
「えっそんなこと言われてしまうとまたあいこの可能性しかなくなるじゃないですか」
「カリナがパー出せば私がチョキ出すからそれで勝負終わるね」
「先ほどご自身で言った全力でをもう放棄なさるおつもりですか??」

 いや三十分あいこを続けたならもう十分かなとも思うんですけれども。
 逆に三十分続けてしまったからこそあとが引けない感じあるんですよ。

「ここまで来たら全力で頑張りたいですわお姉さま」
「うぅ……あと何回続くのこれ……」

 せめて次で終わらせたいです、切実に。
 若干遠い目をして。

 互いに少しだけ魂の抜けたような目で見つめあってから、構えたとき。

「なぁ」

 幼なじみの声が聞こえて、同時にそちらを向きました。
 クリスティアを抱えているリアスは我々の疲れた目に一瞬引き笑いをして。

「普通に思ったんだが」

 戻ったいつも通りの声に、首を傾げる。

「なんでしょう」
「女三人なら――」
「何リアス、女三人寄ればかしましいって?」
「一人離脱しているしそもそもお前の妹一人で十分かしましいわ。そうでなく」

 いやちょっと聞き捨てならない。何さらっと人のこと侮辱してるんですか。

「噛みつきたいんですが」
「お断り願う。話を聞け」
「聞いてほしいならもう少し聞かせるような言い方をしていただきたいですわ」

 今現在さっきの言葉を問いただしたくて仕方ない。

 けれど絶対向こうも譲らないことはわかっているので、呆れた目で「で?」と促せば。
 なんとも思っていないリアスが。

「三人いるならば三人で入れば解決なのではないのか」

 そう、仰いました。

 どうしてそれを早く言わないの。

「どうしてそれを早く言わないんですかリアスっ!!」
「お姉ちゃんたちめちゃくちゃ全力で闘ってたじゃん!!」
「今思った。レグナは」
「え、最初から気づいてた」
「お兄様あとでかわいい妹とお話しましょう」
「あ、向こう一時間ほどはこのかわいい親友とお絵かきしてるんで」

 普段絵描くの好きじゃないからってなにも描かないくせにっ。

 再びギリッと歯を食いしばるけれど。
 その顔はすぐにいつもの穏やかな笑みに変えて。

 エイリィさんの方に、向く。
 彼女もお気持ちはわかったんでしょう。我々だけで争うことにもう意味はないと。

 あとは、彼女にお許しを得るだけ。
 そうと決まれば。

 二人頷き、目的の少女の元へと歩いていく。

「クーリースっ」
「なーぁーにー」

 しゃがんで名前を呼べば、お絵かきに集中していたクリスティアはぱっと嬉しそうにお顔を上げました。それにエイリィさんと共に癒されるのもほどほどに。恐らく集中してこの話を聞いていなかった彼女に本題へ。

「お風呂に入る権利をエイリィさんとお話していたんです」
「うん…じゃんけん決まった…?」
「カリナが中々手ごわくてね、全然決まんないの」
「お絵かき勝負する…?」
「それもいいんですけれども」
「?」

 首を傾げたクリスティアへ、二人でにっこり笑って。

「リアスからの提案です。三人で入ればいかがですかと」
「リアスとクリスともう一人…?」
「どんな地獄絵図ですかそれは」

 どっちが行ってもやばいでしょうよ。ちょっと隣のお兄様と冴楼くん噴き出しましたよ。すぐ近くの兄の肩をバシッと叩いている間に、お話を聞いていたセフィルさんから助け船が。

「違うよクリスティア。リアスは、せっかく女子三人ならきみたち三人で入ってきたらどうかなって言っているのさ」
「エイリィと、カリナとクリス…?」
「そう。たまにはそのメンバーで入っても楽しいんじゃないかな?」
「お前ら二人ならまぁ安心だしな」
「過保護のリアスからもこうして承諾をいただいておりますし」
「どうかなクリス!」
「…」

 エイリィさんが問えば、クリスティアはしばしのシンキングタイム。これまでの言葉を理解しているのと同時に、我々二人をじっと、何かを見定めるような目で見つめてきます。
 それににこにことした顔で返すこと数秒。

 小さな口が、開かれました。

「…変なこと、しない?」

 どうして一番最初に出てくるのがその言葉なの。
 リアス珍しいですね噴き出すの。隣のお兄様なんてもう崩れてしまいましたよね。冴楼くん大丈夫ですか、あなたのいる方向に行きましたが潰されてません? ちょっとその安否は今はあとにしまして。

「セフィルさん大丈夫ですわ、これはきっと笑うところです」
「ふ、ふふっ、お言葉に甘えて」

 セフィルさんが大笑いし始めたところで、我々女性陣はクリスティアへ。

「変なことなんてしないよクリス!」
「そうですわ。お話して洗いっこして、またお話してという至って健全な楽しいお風呂ですよ!」
「写真…」
「「水に濡れたらデータが飛ぶから」」

 お姉さまとハモってしまいましたわ。びっくりしたけれどその通りなので顔を見合わせて「ねぇ?」と言い、またクリスティアの方へと向く。彼女は若干眉をひそめていらっしゃる。

「…」
「だから健全なお風呂ですよクリス」
「そうだよっ! お風呂でしか女の子特有のお話できないんだよっ!?」
「女の子特有…」

 あ、食いつきましたかこれは。行けますかね?

「そうですよ! 恋バナとかそういう女の子らしい話とか!」
「全身見れるからね! 細い体見あったりとか!」
「ここ痩せてるねとか、やわらかいねとかもできますね!」
「お胸大きいねとかそういう話だってよくあるでしょ!?」

 おっとクリスティアの目が我々のお胸に行きましたわ。

 じっと見てだんだんと虚無の目に――。

 何故虚無の目に??

 クリスティア、どうして自分のお胸におててを当てたのかしら。大丈夫ですよあなただってしっかりありますよ。さりげなく首横に振ってないで縦に振ってくださいよ。

 けれど口に出していない言葉は彼女に届くことなく。

 クリスティアはリアスにぎゅっと抱き着いて。

 首を再度横に振りまして。

「…クリスは今日もリアスと入る…身の危険を感じる…」
「だそうだ」
「どうしてですかクリスティア!!」
「よりによっていつも一緒に入ってるリアスなの!?」

 盛大に振られた我々に、男性陣の腹筋が限界を迎えましたわ。

 それからも少し粘ってみたものの、クリスティアの危険センサーが作動してしまったのか首を縦に振ることなく。
 クリスティアのお風呂はいつも通りリアスということになりまして。

「本当に私でよかったんですの?」

 残りの女子メンバーということで、私はエイリィさんと入ることに。
 一糸まとわぬ姿で湯船につかり問えば、長い髪を上げているエイリィさんは嬉しそうに頷きました。

「クリスとももちろん入りたかったけどねぇ。向こうじゃリアスが信頼してくれて以降は一緒に入らせてもらってたし、カリナとはほとんどなかったわけだし。どっちにしたってお姉ちゃん嬉しいよ」
「それは光栄ですけれどね」

 あそこまで戦いはしたけれど、やはり大好きな子と一緒にお風呂入りたかったでしょうに。申し訳なさも募りますわね。
 けれどご本人にとっては嬉しいというのは本心のようで。にこにことしながら、二人でも余裕のある湯船で膝を抱え、そこにあごを預けていらっしゃいます。

 ご本人がそう言ってくれるならいいですかね。お風呂でリラックスもしているからか、すぐにそう思えて。
 浴槽の淵に体を預けて、温かいお湯を楽しむ。

「……」
「……」

 お風呂には、沈黙と。動くことでときおり生まれる水の音。
 あんまりお二人になることってなかなかないんですよね。クリスティアのお話はよくしていましたけど。

 さてなに話しましょうかねぇ、なんて。だんだんと緩んでくる思考で考えていれば。

「この数日間ねぇ」

 ぽつり、少し響く浴室で声がしました。
 腕に頭を預けながら、そちらを向く。変わらず嬉しそうなエイリィさんは、ぽつりぽつり、またこぼしていきました。

「クリスの名前、いっぱい聞いたんだぁ」
「……」
「みんなと話してるとね、クリスの名前がいっぱい出てくるの」
「えぇ」
「ここはクリスが好きなところなんだよとか、ここに前に来てね、とか」

 こんなお菓子が好きなんだよ。
 あんなことをしてあげたいと思うんだ。
 このとき、こうしてくれてすごくうれしくてね。

「そんなエピソードの中に、絶対クリスティアがいるの」
「……」
「みんな、クリスティアのこと大好きだね」
「はいな」
「カリナたちのことも、大好きだって」
「あら、光栄ですわね」
「クリスが喜べば、カリナたちも喜ぶからって」
「ふふっ、そうですわねぇ」
「……嬉しかったよ」

 優しく見つめてくれる紅い瞳を見つめる。リアスとは違う、爪のような独特な模様が入った彼女の目は、とても温かく感じました。

 それに心がじんわりとしている間に、彼女はまた言葉を紡いでいく。

「セフィルとも話してたんだけどね。向こうじゃ人付き合いなんてしたくなさそうだった四人が、ああやってたくさんの友達に恵まれて。大好きなんだってたくさん思われて……。お姉ちゃんほんとに嬉しかった」
「……」
「よかったねぇ」
「……」

 なんでしょうね。
 私は、姉はいなかったし。母親にも恵まれたことはなかったけれど。

 その目がまるで、まるでお母さんのようだなんて。

 お風呂にいてぼんやりもするからでしょうか。不思議とそんな風に錯覚を起こしました。

 よくわからない感覚に呆けていれば、彼女は私にそっと手を伸ばして来る。

 頭を優しく撫でてくれる彼女。

「よかったねカリナ」
「……」
「クリスティアもたくさん笑えるような場所に行けて。カリナもたくさん、同じ立ち場で遊べて笑えるような子たちと出逢えて」

 よかったね、なんて。

 そっと抱きしめられたら。湯船に使ってないはずの喉が熱くなった気がした。
 今しゃべったら変な声が出そうだわ。

 だから、「あなたのおかげ」と言うのは、また次に出逢えたときにしましょうかと、自分に甘くして。

 温かい湯船の中。
 頬が温かく感じるのは見ないフリをして。

 ほんの少しの間だけ。
 彼女の背に手を回して、あたたかい胸に顔をうずめた。

『クリスとお風呂に入るのは』/カリナ

 


 妹とエイリィさんが風呂に行ってから。

「♪、♪」

 リビングに響くのは、クリスティアのごきげんな鼻歌。
 あとはその小さい親友と、目の前に座る芸術家さんが紙にペンを滑らせる音。さすがの芸術系だからか、二人の紙は色鉛筆でキレイな風景が描かれてる。

「……」
「……」
『……』

 それをぼんやり見つめながら、その芸術家さんも含めて俺たち男性陣には沈黙。

「♪、♪」
「……」
「……」
「……」
『……』

 たまに冴楼がカップの中身を見て、お茶を足してくれて。それにはありがとうとだけ返してから、また。

「……」

 男性陣には、沈黙。

 いや別に話すことがないわけじゃないんだよ。
 ただ男性陣揃ってたぶんね。

 言葉を発する機会を伺ってる。

 なんかこうさ、女子が風呂に入ったらだいたい話題がそういう話になるじゃん? クリスティアいる時点でだいぶ話の幅絞られるんだけど。別にそういう話をしたいわけでもないんだけども。

 え、これなんかこう、別に温泉ってわけじゃないけど日本特有のそういう風呂ネタ話した方がいい感じ? みたいな感じで考えてると思う。とりあえず俺は考えてる。隣の親友も十中八九そう。顔ちらっと見ると「話題を振った方がいいのかこれは」って顔してるよ。絶対お前のその顔「クリスティアの絵今日もきれいだな」なんて顔じゃねぇもん。
 冴楼はもともとそこまで自分から話してく感じじゃないからたぶん誰かが話すの待ってる感じ。セフィルさんは――。

「……」

 なんか話したいんだろうなって顔なんだよねさっきから。ちらっちら風呂の方に視線行ったりもしてるからたぶんその話題を話したいんだと思うんだけども。

 これは俺たちから振るべきか。それとも待つべきか。

「♪、♪」

 そう考えながらとりあえず一回クリスティアの絵見るよね。今日もきれいだねクリスティアの絵。文化祭あたりのエイリィさんたちの絵かな。明日渡すのそれ。あ、この話今俺が口から出せばいいんじゃね? いいじゃん話題になるじゃん。

 そう、口を開きかけたとき。

 ちょうど、風呂の方できゃっきゃ聞こえてた声が遠のいたところだった。

「……こういうお風呂って」

 目の前のセフィルさんの方が先に口を開いたので俺の口を閉ざさざるを得なかったわ。ごめんクリスティア、あとで褒めるね。
 心の中で小さな親友に言っておきまして。

 その小さいのを抱えてるもう一人の親友と一緒に、「来たかこの話題」って顔をしながら顔を上げる。

 セフィルさんは興味津々な顔。

 あっ待って親友紅茶飲むな。

「日本の漫画とかだとよくのぞいたりとかそういうのするよね」
「だいぶ直球過ぎない??」

 もっとこう手前から行かないかなそういうの。どきどきするよねとかそういうのからいかない? ほらそんなこと言うから親友が紅茶詰まらせたよセフィルさん。

「いやお前もなんでこんないいタイミングで飲むの!」
「手持ち無沙汰で……」
『タオルお持ちいたしましょうか……』
「大丈夫だ、免れた」

 クリスティアがいた分口からこぼすことは回避した親友は改めて紅茶を飲みまして。
 それを置いてから、苦笑いでリアスは口を開く。

「……そういう話はもう少し手前の段階から行かないかセフィル」
「あ、クリスがだめだったかなこういう話」
「…?」
「話題も平気だが集中していて聞いていないから大丈夫だ」
「ちゃんと聞いてる…男の子はすぐ女の子のお風呂のぞく…」
「嬉々として加担するだろお前は」
「ロマンだと思うの…」
『皆様方、本当の性別は違うのではありませぬか……』
「俺らは合ってるんだけど女子が絶対違うよね」

 絶対みんな男。それ言うと道化あたりが「れっきとした女の子よ!」とか言いそうだけど。すげぇ脳内で声も再生できたわ。とりあえず今はそうじゃなくって。

「え、そういう話するってことはのぞきたいのセフィルさん」
『ハレンチでございまする……』
「さすがに人様の家ではしないさ!」

 おっと「しないさ」の前に大変な言葉入ったぞ大丈夫か。

「なに? 俺が今変な聞こえ方しただけ?」
「たぶん合ってるぞ」
『ご自宅ではなさるのですかセフィル殿……』
「デッサンの一環でそういう場面も描いたりするからね」

 シチュエーション大丈夫??
 タイトルが「人妻の」とかそういうイケナイタイトルみたいになりそうだけど大丈夫? リアス口元抑えてるけど笑いこらえてるだろ。

「まぁ結局のところは一緒に入ってしまうから、日本の漫画やアニメであるようなドキドキはないんだけれどね」
「怒られてみたい…?」
「経験として風呂桶は投げられてみたいな!」
「やってみる…?」
「やめろクリスティア、セフィルの頭が吹っ飛ぶ」
「そんなことない…」
「木抉る力あったら人体の首は吹っ飛ぶよクリス」
「あれは木が古かっただけ…」

 記憶の中のあの木はすっげぇ元気だった覚えあるんだけどな。
 たぶん言ってもなにかしらの主張をして言い合いになるので今回は口を閉ざしまして、隣の冴楼が口を開いたのが見えたのでそっちに目を向けた。

『お風呂でしたら想像するのもひとつの楽しみでは……』
「冴楼って意外とこういう話入ってくれるよね」
『自分も男ゆえ……』

 ザ・武士って感じだからもっと恥ずかしがると思ってたわ。
 まぁでも確かに。

「よくある一枚壁隔てた声聞いてーっていうのはいいんじゃない」
「せっけんかしてー…」
「間違えてもお前からは借りない」

 わかる。

「壁貫いてきそう」
「失礼…テレポートして手渡しする…」
「もっとだめだよ」

 なに男子風呂入って来てんのこの子は。小さな親友をリアスと一緒に小突いてやって。

「たしかリアスとレグナは耳がよかったね」

 セフィルさんの声が聞こえて、前を向く。
 耳。

 うん。

「かなりいいよね?」
「お前の方がいいがな」
「本来なら壁一枚でどきどきというものだけれど……君たちほど耳がいいならいつも聞こえてしまうのではないのか?」

 そう、聞かれて。

 ぱっと笑って、そんなまさかと手を振った。

「リアスじゃあるまいし」
「人が常日頃からそんなことをしているような言い方しないでくれないか」

 あながち間違ってなくね?

「俺と違って耳のコントロールほとんどしないじゃん」
「そうだな」
「今だって会話聞こえない?」
「俺はこの愛しい恋人の心音しか聞こえていないが?」

 むしろそこどうやって聞こえてんの??

 俺でもそんなとこ聞こえないけども。

「……とりあえず、セフィルさんの義弟は仮に聞こえてたとしてもどきどきはしないっぽい」
「そうかぁ。難しいね」
『お二人は女性陣とのお風呂には慣れております故……』
「レグナも結構カリナとお風呂入ったりするのかい?」
「小さい頃とかはとくにねー。クリスともまだ入るもんね」
「ねー」
「きみらには年頃というのがなくておもしろいね」

 年頃はだいぶ昔に過ぎたな。

 若干遠い目をしていると。

「……!」

 風呂場の方から、扉の開くような音。

「そろそろ風呂出たんじゃない」
「だな。次セフィル入ったらどうだ」
「わぁ、いいのかい?」
「客人だろう、当然だ」
「お言葉に甘えさせていただくよ」

 そう笑って自分の色鉛筆を片付け出すセフィルさんに、ふと。

「あ」
『どうなされました……』
「風呂って流れ的に俺とセフィルさんが入る感じになるの?」
「お前セフィルと風呂入るのか?」

 ごめん親友どういう意味だ?? なにその「大丈夫か」って顔。

「いや、だいたいみんな二人一組で入ってるし……? 冴楼風呂入んないじゃん」
『本体は魔力結晶ゆえ必要ありませぬので……』
「ってなるととりあえず六人じゃん? カップルは確定、そんでカリナとエイリィさんが入ったし。流れ的に俺とセフィルさんで入った方がいいのかなー、なんて……」

 ねぇなんでクリスティアまで「入るの?」って顔してんの?
 あれか、女子ならわかるけど成人男性って小さい子じゃない限り風呂って一緒に入らないもんだった? それだったらこの提案は悪かったな。というわけでセフィルさんの方に向きまして。

「もちろんセフィルさんがいいならだけども……?」
「喜んで!!」

 周りの顔と相反して本人めっちゃ嬉しそうなんだけど。
 え、なんでそこのカップル憐れんだ顔してんの? そんななんかだめなやつ?

「親友なんでそんな顔してんの」
「頑張れよ」
「えぇ……?」

 親友を揺さぶっても答えはくれない。クリスティアに「揺らさないでー」って言われたので手を離して。

「んじゃ用意だけしてくわ……」
「楽しみだねレグナ!」
「うん……?」

 あいまいに頷きながら、ひとまず自分の入浴準備。リュックの上の方に入れて置いたセットを出して。
 浴室からこっちに歩いてくるような音が聞こえたので、セフィルさんと一緒に立ち上がる。

「いってらっしゃいレグナ…」
「帰って来いよ」
「ねぇまじでなんなの」

 言わないくせにすげぇ不安煽ってくるそこのカップル。なにこれすげぇ怖い。
 苦笑いを浮かべながらも、とりあえず自分で言ったことなので引くことはせず歩き出す。

 浴室へと向かうために廊下へ出れば、ちょうどカリナとエイリィさんが来た。

「お」
「あら、お次はあなた方ですか?」
「そうさ! レグナと風呂に行ってくるよ!」
「わぁそうなんだ!」

 いつもの笑顔でエイリィさんが笑って。

 彼女は俺に向く。

 そうして近づいて来て。

「え、セフィルとお風呂大丈夫?」

 ねぇ奥さんまですげぇ不安煽ってくるじゃん。なんなのこの親族。

「なに!? なんでそんなみんなセフィルさんとの風呂に謎の不安煽ってくるの!?」
「あ、いいんだ大丈夫なら!」
「何もわかんないのに大丈夫もなにもなくない!?」
「生きて帰って来てね!」
「待って俺死ぬの!?」
「行こうレグナ!!」
「待って待ってちゃんと話聞きたい! セフィルさんなんかすげぇ風呂入るの危険視されてるよ!? エイリィさんと向こうで風呂一緒に入ってたんじゃないの!?」
「遠い昔の話さ!」
「結婚してまだ四か月も経ってなくない!?」

 あ、恋人時代でも入るのか。

 ってそうじゃなくて。

 待って待ってセフィルさん引っ張って行かないで俺みんなからちゃんと話聞きたい。

「セフィルさんストップ!!」
「男にふたことはないよレグナ!」
「男に二言(にごん)な!! いやないけども!! ちゃんとあなたの危険性知ってから行かせて!!」
「大丈夫さ! 大げさなだけだよ!」
「絶対違う!!」

 芸術家って全員力強いの!? 物理ぜんっぜん敵わないんだけどっ!!

「楽しもうレグナ!」
「待って待って、カリナヘルプ!!」
「いってらっしゃいなお兄様」

 くっそヘルプ頼む奴間違えた。カリナににこやかに笑われてしまったら行くしかねぇわもう。

 散々入れていた足の力はカリナのかわいい笑顔で抜けてしまって。

「語り合おうねレグナ!」
「……はいはい……」

 まぁ人生諦めも肝心だろうということで、引っ張られるままに浴室へと向かって行った。

 で、その浴室で。

「レグナのあのイラストは本当に素敵だったよ!」
「……どーも……」
「苦手と言っておきながら素晴らしい出来だった……! あれはもらって帰ってもいいものかな!?」
「いやそれは……」
「あのフォルム……! そして色合い……! 君は服のセンスももちろん、ああいう表現に関して全般がすばらしいんだね!」
「……」
「それにこの肉体も素晴らしいよ!」
「あの……」
「ぜひデッサンモデルに……! そうだレグナ、あとで――」

 入浴中、一時間延々と自分のことを褒められるという一種の拷問に。

「もう勘弁してよセフィルさんっ!!」

 俺はもう二度とセフィルさんとは一緒に風呂に入らないことを心に固く誓っておいた。

『セフィルとお風呂に入るのは……』/レグナ


 大変緊張している。

「…」
「……」

 目の前には、布団の上にちょこんと正座をする愛しい恋人。

「……」

 対面するようにあぐらをかいて、ほんの少し緊張が見える恋人の目を見た。

 合っては一度離れ、また合って。

 見つめ合い。

 また離れ。

 その度に。

「頑張れリアスっ! お姉ちゃん見てるよっ!」
「義兄さんも見ているよっ!」
「もう少しですわよリアス」
「頑張れリアスー」

 ちらっちらと視界に入る身内に。

「さすがにやりづらいわっ!」

 ほんの少しほてっている気がする体には気づかないふりをしながら、そうリビングで叫んだ。

 今日、眠ってしまえば。
 正確には夜で時間はまだあるとは言えど、明日には帰ってしまう義姉たち。

 恋人も名残惜しいんだろう。いつもならばすぐに就寝するのに、俺達の誕生日を祝う時のように頑張って夜更かしをしていて。
 他愛のない話をしたり、眠気覚ましにゲームをしたり。エイリィとカリナはクリスティアの横で寝るか頭側で寝るかとまた勝負を始め、それを見届けて。

 日付が変わる頃。

 夜、帰るまで遊べるだろうとなんとか恋人に言い聞かせ、カリナとエイリィの勝負も決まり、リビングでようやっと全員就寝することになり。
 あぁ寝るならば、と。

 ここ最近でだいぶ慣れてきているおやすみのキスをせねばと、クリスティアを対面に座らせた。

 そこまではよかった。

 対面させればクリスティアはほんの少しだけ緊張と照れを含ませた瞳になる。いつも通り。

 慣れてきているとは言えど、緊張とその慣れはまた別問題で、俺もほんの少し照れる。そこもいつも通り。

 最近は、見つめあってそらしてを何度か繰り返してから事に至るというのが定着して、いつも通りそれをしていたんだが。

 視界に入る奴らがいつも通りではない。

 ちらっちらと視界に入るのは期待の目。そこまではいいだろうとまだ許せた。世話になっていたエイリィ達にも、そして幼なじみ達にも。今まで話ではしてきたがクリスティアの行動療法については実際に見せたことなどない。ここまでできるようになったと見せたかったしちょうどよかった。

 いただけないのは。

「……カリナ、スマホはしまえ」

 過去、一番見せたかったと願った女の手にある機械である。

「お許しくださいなリアス様、あなたの可愛らしい妹分はこの日を楽しみにしてスマホの容量を確保してきたんです」
「俺はそんな盗撮癖のある妹分を持った覚えはないこの盗撮魔め」
「え? リアス何? 俺の可愛い妹がなんだって?」
「普段盗撮を咎めるくせにこういうときだけ殺気放ってんじゃねぇよ」

 お前は千本をしまえ物騒だわ。

 けれどどちらも仕舞う気はないらしい。とりあえずレグナだけはしまってほしいんだが。

「……レグナ、悪かったから千本はしまってくれ、やりづらい」
「頑張れっていう後押しにも使えるかなと思って」

 物理で押す気かお前は。しかも千本使うなら明らかにお前首狙うだろ。地味に痛い奴じゃないか。

「レグナ」
「冗談だって」
「相変わらずレグナのは冗談に聞こえないねっ!」
「えぇ? エイリィさんまでそういうこと言うの? こんなに冗談っぽく言ってんのに」

 口は閉ざすがお前の妹も俺達幼なじみ二人も「その顔も言い方も尋問用」って思っているからな。
 ひとまず千本はしまってくれた、相変わらずの親友に溜息を吐いて。

 なんだかんだ気持ちも落ち着いたということで、クリスティアを見る。

「落ち着いたかいリアス?」
「複雑な落ち着き方をしている」
「わかる…」
「俺のおかげじゃん、よかったね」

 お前のせいだととても主張したい。ただ目の前の恋人の声がさきほどよりも眠そうなので、主張はあとにするとして。

「……するか」
「んぅ…」

 横のさらなる期待の目とカメラに居心地悪く感じながら、クリスティアへと手を伸ばす。
 眠たそうにしている彼女の冷えた目元を撫でてやり、くすぐったいと言うように目を細めるクリスティアに頬を緩めた。彼女が甘えるように手を伸ばしたので、それを受け入れて。

「……」
「♪」

 触れ合うことに抵抗がもう全くなくなってきたことを未だに幸せを噛み締めつつ、恋人を強く抱きしめる。
 首元に一度すり寄って、体を離して。

「……」
「…」

 額を合わせて、見つめあう。

 先ほどの眠たい目が嘘のように、無意識にじっと、何かを見定める目をしている恋人の目を見据えた。

 自分には害はないと。
 彼女が嫌ういやらしい何かを今は持ち合わせていないと、伝えるように。

 そうして見つめあって、少し。彼女の目がほっと緩んだところを見計らって、額を一度すり合わせた。

 何度かうりうりと優しくすり寄って、気持ちよさそうに目を細めているクリスティアに笑って。

 警戒心が完全に抜けたところで、軽く身を離す。

「!」

 恋人が身構える前に、頭を引き寄せて。

「おやすみ」

 甘く、あまく。

 額に口づけを落として、ささやく。

 それに、抱きしめている彼女の体温が上がるのを感じて、頬が緩んだ。
 ちらりと下を見ればクリスティアはいつも通り恥ずかしげに眉を下げて、耐えきれず俺にぎゅっと抱き着く。可愛らしい恋人に頬のゆるみがとまらなくなりそうだが。

「……早く止めろよカリナ」
「あなたのお顔が緩むまでがワンセットだと思っています」

 そこの女がしっかり動画を撮っているのはわかっているので表情筋をなんとか引き締める。しかしいつもの撮影終了の音はまだ鳴らない。

「別にいいだろう緩む顔はいれなくても」
「こういうのって客観的に見るの大事って言うじゃないですか。そのためですよ」
「行動療法については同意するが緩む顔までは絶対いらない」

 おい親友、笑っていないで止めろ。どうせ言っても無駄だとは知っているが。たまにはこちらの味方もしてほしい。そう、叶うことのない希望を抱きつつ。

「カリナ」
「もう少しですわ。エイリィさんお写真は」
「セフィルが撮ってくれてる!」
「良い出来になったよカリナ!」

 本来なら、そっぽを向いてしまえばこの攻防は済むのだろうけれど。

「……感謝しますわ」

 過去一番見せたかった女の声が若干涙交じりに聞こえてしまってはこちらが折れるしかないと思うのは甘い証拠か。わかってはいるけれど。

 どうしてもときおりかわいく見える妹分には甘くなってしまうわけで。
 そっぽを向きたい気持ちは抑え、クリスティアの頭に自分の顔を乗せ、さりげなくカリナ達の方へと向く。さきほど引き締めていた表情筋はご希望通りまでとはいかないだろうが若干緩め、クリスティアにすり寄った。

 瞬間シャッター音が響くが、気にせずそのままクリスティアにすり寄る。照れを見せないようにしていれば、腕の中の恋人がくすくすと揺れた。

「やっさしー…」
「……たまにはな」
「いつもやさしーの知ってる」
「もう一回してやろうかおやすみのキス」
「わーおやすみなさーい…」

 シャッター音や動画の終了音と一緒に若干鼻をすするような音も聞こえる中、クリスティアには咎めるように頭をうりうりと撫でまわしてやって。
 恐らく泣きそうな顔をスマホで必死に隠しているらしい妹分と盛大に涙を流し始めている義姉を見ながら。

「……いい思い出になれそうか」

 小さく、小さくこぼせば。

「最高なんじゃない」

 それが唯一聞こえていた親友の、穏やかな声が聞こえたから。

 やりづらさはあったものの、今日この日、やってよかったんだろうと。

 だんだんと鼻声の方が大きく聞こえるリビングの中で、ようやっとそっぽを向いて。
 誰にも見えないように、笑みをこぼした。

『エイリィ達の前でおやすみのキス!』/リアス

おまけ


カリナさん、思わずクリスティアさんをハグしてる

 

カリナ
カリナ

よかったですねクリスー

 

クリスティア
クリスティア

んぅー、…カリナ

 

カリナ
カリナ

はぁい

 

クリスティア
クリスティア

写真撮ったなら、もう一個だけ

 

カリナ
カリナ

! お任せくださいな


笑って本日はおやすみなさい!

しばらく素敵なリアクリにはしゃいでいたけれど明日も遊ぶために寝ましょう(クリスティアはすでに就寝済み)

 

セフィル
セフィル

おやすみエイリィ

 

エイリィ
エイリィ

うん、おやすみ!

 

セフィル
セフィル

もう少し

 

エイリィ
エイリィ

えぇ、もうだめだよセフィル

カリナ
カリナ

耳塞いでおきますね、いってらっしゃい

 

レグナ
レグナ

こんばんはご夫婦方

 

リアス
リアス

これ以上やるなら追い出してやろうか

エイリィ
エイリィ

ご、ごめんなさい……

 

セフィル
セフィル

つい……


イケナイコト、だめ絶対

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