また逢う日まで先読み January

志貴零

 恋人はいつだって可愛いが、クリスマスと正月の寝起きは特に可愛い。

 いつものように彼女より先に起きてその蒼い瞳が開かれるのを見守る。ときおり頬を撫でてやればくすぐったそうに身をよじった。それに笑みをこぼしてから。

「クリスティア」
「んぅ…」
「起きろ」

 やさしくやさしく声を掛け、起床を促す。

「んん…」

 俺の呼びかけに、まるで反射のようにそのまぶたはそっと持ち上がっていく。

「クリス」
「ん…」
「おはよう」
「んぅ?」

 可愛いうめき声に笑いそうになりながら髪を撫でてやれば。

 普段寝起きが悪い彼女は数度ぱちぱちとゆったり瞬きをして、今日が何の日か気づけば瞬きと同じようにゆったり起きあがる。

 恋人がするであろう行動に俺も合わせるようにベッドに足を上げた。

「りあすさま」
「ん」

 眠たそうにしているクリスティアはきちんと正座をして、ちょこんと両手を膝に乗せる。

 そうして眠たそうな声で。

「あけまして、おめでとー、ございます」

 きちんと新年の挨拶を口にしながら俺にお辞儀をする。そのまま眠るんじゃないかと思うくらいこてんと頭を垂れる姿に顔の緩みは止まらない。
 毎年見れる可愛い姿を目に焼き付けながら、彼女に挨拶を返すことも忘れない。

「明けましておめでとう」
「ことしも、おねがいします」
「こちらこそ」

 頷いて手を広げてやれば。

 それを捉えた恋人は大層幸せそうに破顔して俺に抱きついてくる。寝起きでいつもよりほんの少しだけ上がっている体温が心地良い。今年最初のハグをして、彼女の匂いを肺いっぱいに吸い込み。

 腕の中でこくりこくりと船をこぎ始めている愛しい恋人の背を叩き、再度起床を促した。

「そろそろ起きろ」
「もうちょっと…」

 甘えた声に負けないように自分には心に鞭を打ち、手は優しく彼女の背を打つ。

「午後にはレグナ達も来る」
「んぅ…」

 けれど未だ起きそうにないクリスティア。恋人から時計に目を移せば午前九時。さすがに起こしてやらねばなるまい。もう一度恋人を見て。

 正月にだけ使える取っておき。

「星繋ぎをするんだろう」

 そう、言えば。

 船をこいでいたのが嘘のようにかっと目が開いた。
 相変わらず可愛い奴めと微笑みながら、何度目かわからないが背を叩いてやる。

「うちでも準備をするものがあるんじゃないのか」
「ある…!」
「出迎えの準備もしなければな?」
「うん…!」

 子供のように従順な恋人をうまくコントロールしてベッドから追い出し、先ほどと打って変わってうきうきとしているクリスティアに手を引かれながら部屋を後にして。

 これから来るであろう幼なじみ達を出迎える準備を始めた。

 そうしてクリスティアと共に星繋ぎの準備をして、午後になる前にやってきた双子を出迎えたわけだが。

「……年々豪華になっていないか?」

 主に幼なじみ双子の妹が持ってきたものに今年も顔が引きつっている。

 星繋ぎとは、願いを描いた紙に糸を通して空に掲げる日本特有の正月遊びである。星に願いをというようなコンセプトで、掲げた願いが叶うんだとかどうとか。

 昔カリナがやろうと言ってから、クリスティアも気に入り以降は日本以外でもやっていたのだが。

「今年はスパンコールまで持ってきちゃったか」

 星繋ぎに使う装飾品が年々豪華になっている。何故スパンコール。

「今年はちょっときらきらに挑戦をと」
「願いを書く場所あるのか?」
「普通に考えれば願いを書いたあとにスパンコールなどで飾るでしょうよ」

 普通に考えればスパンコールなどは飾らないと思うんだが。

 すでに願いを書き始めてるクリスティアはご満悦そうなのでいいけども。

「あまり重くすると上手く飛ばないんじゃないのか」
「お兄様がいらっしゃいます」
「ズルする気満々じゃん」
「星に願いを届けたい妹のこの気持ちはずるではないはずです」
「その気持ちは立派だが願いを届けたいならもっと軽くしろ」
「きらきらしていた方が星も気づくでしょう?」

 奴らには目でもあるのか??

 もう正月のこいつには話は通じまいと心の中で納得し、視線は愛しい恋人へ。
 こんな馬鹿な会話の中でもクリスティアは一心に星型の画用紙に願いを書いている。気にしない力は今年も顕在かとこちらも馬鹿なことを思いながら、その頭を撫でてやった。

「なーにー」
「願い事は何を書いたのかと思ってな」

 適当に言葉を返してやれば、クリスティアはぱっとこちらを向いた。

 そして、なかなか気づかれにくいがその口角を上げて。

「ないしょ」

 なんとも可愛らしい言葉を返してきやがった。毎年恒例だとわかってはいつつ、これを聞きたくて毎回何を書いてるのかと聞いてしまう。愛しい恋人のことは強く抱きしめ、そのまま膝の上へと移動させた。

「クリスティア天使……」

 目の前で鼻を抑えている馬鹿な幼なじみも毎年恒例なので放っておくとして。
 俺達に願いが見えないように必死に隠しながら書く恋人に頬を緩ませながら後ろに手をつく。いつもなら抱きしめて肩に顎を乗せるが、今日は無粋だろうとやめておいた。

 彼女が書き終わるまで、幼なじみ達で正月の話題へ。

「そういや年賀状来た?」
「ほとんど知り合いもいないここに来るとでも? お前らは家の関係上来るだろうが」
「向こうではあなたも結構なお家柄でしょうよ。それこそクリスティアのご家族とか」
「年賀状を送り合うということも知らないだろうな」
「教えてやんなよ」
「どうせ明日以降から年賀状代わりのガレット祭りだ。必要ない」
「あぁー」
「それは我々もおつきあいするものですよね?」
「当然だろう?」

 頼むぞと笑ってやれば何度かそれを経験している双子は苦笑いをするも頷いたので言質は取ったということで、話は双子の家の方へ。

「お前らは正月、家の方どうなるんだ」
「三が日は特に何もって言われたかな。そこは日本ならではなちょっとゆったり家族でどうぞみたいな」
「ただ四日目からが地獄ですね、新年会祭りです」

 正月に帰国する身内のもてなしだとか、親しい家との新年会だとか、夏休みにもあったであろう多少でかい規模での新年会パーティーだとか。聞いただけで同情の念が湧く。

「……連絡をくれれば家は開ける」
「ガレット祭りの際は無理にでもお伺いしますわ」

 これは今年は四人そろいつつも比較的静かな正月になりそうだと確信した。その静けさは仕方ないとはいえどつまらないなと思ったのは内に秘め。

「できたー…」

 ちょうどクリスティアの願掛けが終わり、とりあえずは先のことより今を楽しもうかということで。
 願い事をさりげなく紙で隠しているクリスティアへと全員意識を向けた。

「ではここからは私の出番ですわ!」
「ほんとにスパンコールとかそのフリルとかつけんの?」
「もちろんです。完成をお楽しみにしてください」
「飛ばなかったら覚えてろよ」
「ちょっと物騒なこと言わないでくださいよ。大丈夫ですって」

 小さい声で「検証済みです」とか聞こえたぞ今。お前どんだけ用意周到なんだよ。準備万端にしたくなるのもわかるけども。

 星に装飾を始めた女からクリスティアへ目を向けると。

「♪」

 恋人はうきうきとした様子で星がめかしこまれていくのを見ている。これを見てしまったらもう頑張るしかあるまいと思ってしまうのは甘すぎか。

「かわいくしてねカリナ…」
「お任せ下さいな! 少々お時間は掛かりますけども」
「んじゃクリス、その間にマシュマロのお雑煮食べる? 作るよ」
「食べる…!」

 そんな恋人の意識はすぐさまレグナの方へ。親友を追って俺の膝から立ち上がりキッチンへと追う彼女を見届けてから。

「……メイクアップは見せなくてよかったのか?」
「そんなところも愛しております」

 若干歯ぎしりが聞こえるがこの幼なじみも大層恋人には甘いと知っているので、「そうか」とだけ返しておいた。

 代わりと言ってはなんだが俺がそのメイクアップを見届けていたんだけれども。

「……星じゃなくて星人だったのか?」

 できましたと俺に突き出してきたのを見て第一声がそれである。

 黄色の星型の画用紙。
 クリスティアが願いを書いた中央は大きなリボンが貼られ、その下には服かというようなフリルやら布がドレスのように広がっている。律儀に腕と思われる部分から星のトゲまで出して。そのドレスにはこいつが持ってきたスパンコールが散りばめられ、頭をイメージしたらしい上のトゲにはひらひらとビニールテープ。おそらく髪の毛。

 星もびっくりすぎるだろ。

 しかもだな。

「……お前この願い確認するとき服脱がせないとダメじゃないか」
「ハレンチですわリアス」
「構造的にどう考えてもその考えに至るわ」

 見ろレグナの顔。「やったなこいつ」という顔してるぞ。
 これは恋人的にも大丈夫かと、俺の膝上に戻りマシュマロ雑煮にがっついていた恋人へ目を向けた。口に含んだマシュマロをもしゅもしゅと食べながら彼女はその星人を見ている。

 そうして、こくんと飲み込んでから。

「かわいー」
「さすがクリスティア!」

 お気に召してしまった。

 いいのか? 星もびっくりするようなこれでいいのか?

「クリスのかわいいは相変わらずわかんないわ」
「同感だな」
「かわいーじゃん…」

 どこが? という顔がわかったらしくクリスティアは頬を膨らませ、星を手に取った。

「洋服着てるのがかわいい…」
「自信作です」
「すてき…」

 うちの女共の感覚が心配になる。

 けれども彼女らはうっとりとその星人を眺めていた。こはもう手遅れだなと親友と頷き、クリスティアの腹に回した手で恋人を促す。

「そろそろ揚げないか」
「今の風ちょうどいいかもよ」

 お前そんな風読む力ないだろうということは秘めておいて。
 男で揃って言ってやれば、クリスティアの気はすぐにこっちへ向く。ぱっとこちらを振り返った少女はこくんと可愛く頷き立ち上がってベランダへ。俺達も立ち上がってそれを追った。

「♪」
「今年は餅つきはしないの?」
「クリスティアがやろうとするから困る」

 正確にはやろうとして結果的に臼を壊すから大変困る。木くずだらけの餅はもう勘弁願いたい。さすがに正月早々骨は折られたくないので言わないけども。察してくれた親友は「あー」とから笑いしてそれ以上口を閉ざした。

「さぁクリスティア、高く高く舞いあげましょうね」
「うんっ」

 肌寒く感じる外へ出れば、一足先に準備を整えたクリスティア達が星を揚げようとしている。
 風はレグナの言う通りちょうどいい。

「よく揚がるかもな」
「揚がんなかったら風で押してあげるから任せて」
「ああ言っておきながら自分もずるする気満々じゃないか」
「俺は別にダメだなんて言ってませんー」

 都合のいい親友に笑って。

「行きますよー!」

 カリナの掛け声でそっと放たれた星を見る。

 洋服を着たようなそいつは風に乗って少しずつ空へと向かっていった。

 願い事は毎回教えてはくれないが、何を書いたかなんてわかっていて。

「今年も届くといいね」

 同じくわかっている親友の言葉に。

「……そうだな」

 どうか少しでも長く、その願いが叶い続けるようにと願いを込めて。

 空へと消えていく星を見送った。

『0101』/リアス