カリナとエルアノがまだ戦ってる途中のとき。
「近接戦…?」
今日の対戦相手のゆきはに言われた言葉に、首をかしげた。
「はい、わ、私基本遠距離なんですけど……こ、これを機にお話兼心理戦の勉強もしたくて……」
「わたしは別にだいじょうぶ…」
ね? って隣のリアス様を見たら。
「なんで心配そうなの…」
「いや今回はお前ではなく雫来が」
「なんで…」
「雫来、本気で刹那に近接戦を挑むのか? 骨折するぞ?」
「そんな強くないんですけどっ…!」
「待てお前っ……!」
『炎上クンと氷河サンが繋いでる手の辺りからめきって音聞こえるんだけど……』
「わたしはか弱い女の子…そんな音発しない…」
「現に今お前が発しているだろうがっ」
「あたっ…」
いつもより強めにおでこぺしって叩かれて、思わず力強めようとしたけど。
「ど、どうでしょう……?」
もだえてるリアス様とか、今日のリアス様の対戦相手のティノが心配してるのとか構わずゆきはがのぞき込んできたので。ほんのちょっと悩んでから。
「わたしは別に、へいき…」
「よかったです! よろしくお願いしますっ」
「こちらこそ…」
「刹那そろそろまじで力弱めろ演習に支障が出る」
「だったらそろそろか弱い女の子って認めて…」
順番が回ってきたので最後にちょっとだけぎゅって手握って、リアス様の手から離れていった。
ということでゆきはと近接バトルし始めたんですけれども。
リアス様がゆきはのこと心配してたんですけれども。
「せいっ!」
「…っ!」
今わたしの方がやばいんですけど。
ゆきはの拳ものすごい早いし回し蹴りしてくるし。
基本遠距離とか言ってたくせにがっちがちの近距離型なんですけどっ…!
「はっ」
「ちょっ…と待った…!」
ビッて音が鳴りそうなくらいの拳をギリギリでかわしてゆきはから距離を取る。
追いかけてくるスピードはあんまり早くはないから逃げられるけど。
「簡単に近づけない…」
どうしよう、一回氷で動き封じちゃえば行けるかな。真っ正面じゃなくてどっか不意つくような感じ? あ、でも腕まで凍らせちゃえば動き止まるよね。まさかちょっと腕動かしただけでバキッて行くくらい力持ちじゃないよね。ないよね?? 先確認していい??
「ゆきは…」
「はい!」
「ゆきははか弱い女の子だよねっ…!?」
「な、何とも言えません!」
やばいちょっと「そんなことないよ」とも言えない。氷で動き封じるのも自信なくなってきた。
でも動き封じなきゃ近づけもしないので、よしって決めて。
スタジアムを走り回ってゆきはから逃げながら魔力を練ってく。ちらっと後ろ見て、ゆきはの位置を確認。今のペースだと二、三メートル離れたとこくらいかな。ゆきはは後追ってきてくれてるから、わたしの後ろに氷が出るように張り巡らせて…。
「よしっ…!」
準備ができたことを知られないように走ったまんま。後ろ見ながら、ゆきはがその場所につく直前に。
「、え……」
動きを止めるための氷魔術を発動すれば。
気づいたゆきはが──
「それっ……!」
凍る前にきれいに後ろにバク転したじゃないですか。氷どーんって出たけど誰も捕まえてないじゃないですか。ゆきはの顔が見えるくらいの氷の後ろでゆきはの両手がビッと出てるの見えるじゃないですか。
華麗にジャンプしすぎじゃない??
「十点…!」
「ぁ、ありがとうございます!」
じゃなくって。
我に返って追撃するために魔力を練る。今度は動けないようにじゃないくて体制くずさせるように。
【リオートリェーズヴィエ】
ゆきはの上にたくさんの氷刃を出現させて、
「れっつごー」
指をさして号令すれば氷刃がゆきはに向かってどんどん落ちてく…んだけども?
「っ」
「ちょっとうそじゃん…」
結構な量あるはずなのにゆきはめっちゃ軽々バク転とか側転しながらよけてくじゃん。新体操選手ですか??
「バランスぜんぜんくずれてくれないっ…!」
「そう簡単にやられはっ、し、しませんっ!」
しかもときどき足で蹴って弾いてるじゃん。うそでしょ。第二のぶれんじゃないのもう。
とりあえず簡単に体制くずれてはくれなさそうなので、もう一個くらいなにか。今よけるので頭いっぱいになりかけてると思うから、不意つけるような──。
魔力練りながら周りもきょろきょろ見回して。
「…あれだ」
目に入ったのは目の前。自分で出した氷の山。あそこから行こう。
【リオートランケア】
練ってた魔力で、武闘会で使った刺さった場所が氷原になる氷の槍を二本くらい出して、氷刃に混ざってゆきはに追撃。
「わ、っきゃ!」
さすがに氷原は予想してなかったみたいで、ちょっとだけ体制が崩れた。あとはラスト。
思いっきり氷の山に走って行って、飛び上がる。
「!!」
その先にいたゆきはにめがけてジャンプ。
「そいっ…!」
「ま、負けませんっ……!」
崩れた体制をすぐに立て直したゆきは。でもちょっとよゆうなかったのか、構えが変。武道の感じじゃなくて、なんかこう…
レシーブするような手をしてらっしゃる…?
それ見たらなんか体が勝手に反応して。
「ぃ、行きますっ!」
「よし来いっ…!」
なんでかゆきはもそのまま行こうとして。
ゆきはの組んだ手の上に片足乗せるじゃないですか。
ゆきはが思いっきり上に腕を上げてわたしを持ち上げてくれるじゃないですか。
わたしの体が飛びますね?
ちょっとゆきはのうしろっかわに行くので一回転しながら後ろに飛びまして。
「ほっ…!」
手を広げてきれいに着地できました。
周りからちょっと拍手も聞こえてきたよ。
そうじゃないじゃん??
「違うじゃんっそうじゃないじゃんっ…! 新体操がしたいんじゃないじゃんっ…!」
「か、体が勝手に……!」
「わたしも勝手に動いたけどもっ…!」
戦ってるんだって。
思わず地団駄も踏みたくなるよ。
「き、気を取り直して行きましょう!」
「もう百点満点で二人とも勝ちでよくない…?」
「これはあの、ぶ、武力勝負なので……」
点数ないよね。知ってる。
「つ、続き、行きますか……?」
「行きます…」
「できればその、心理戦とかの勉強もしたいので、に、肉弾戦で行けると嬉しいんですけど」
「ゆきは別にもう心理戦とかいらなくない…?」
肉弾戦で十分勝てるよだめなの?
でも本人はよろしくないみたいで。
「ゆ、緩めるので……! あといろんな武器との戦闘を想定して刹那ちゃんは武器いつも通り使っていいので!」
こういうのなんて言うんだっけ。そうだこーじょー心。
「こーじょー心が立派…」
「ぁ、ありがとうございます……? じゃあ行きますね……!」
「わたしオッケー出してなくないっ…わっ」
ゆきはが一気につめてきて思いっきり回し蹴り。すれっすれでかわしたけどもっ。
「ぜんぜんゆるまって、ないっ…!」
「も、もうちょっとですか?」
「しゃべるのぎりっぎりなんですけどっ…!」
「じゃあ、えっと、このくらいでっ!」
今度は踏み込んで突き。でもさっきよりゆるやか。
「これならへいき…」
「ではこれで!」
「はぁい…」
最初と違ってモーションによゆうがあるから、わたしも踏み込んで右手を振り上げる。それを後ろに引いてさけたゆきはがその場所から構えて突き。左側によけて、今度は左手で切り込めばその手はゆきはの腕に止められた。
考えるよゆうもできたので。
「…要はおしゃべりしながらってこと…?」
「そんな感じ、ですかね。ょ、よくあるでしょ? 話してるのも全部駆け引きで隙をねらって、みたいな……」
華凜とかがよくやるやつ。え、わたし専門外じゃない??
「わたしでいいの…? 龍とか華凜とかの方がよくない…?」
「ぃ、いろんなヒトのパターンとやってみたいので……!」
「えぇ…」
何回か切り込んで止められて、拳をよけてっていうのを繰り返しながら考える。
心理戦。
カリナが前に相手を動揺させることって言ってたよね。動揺させること…?
「んー…」
悩んでたら、先にゆきはから。
「ぁ、あの」
「はぁい…」
「じ、実は心理戦の方ももちろんなんですけど」
「うん…?」
なぁにってゆきはを見たら、ちょっとてれくさそうに。
「ぇ、炎上くんとの日々もちょっとお聞き、したいなって!」
こんなとこで??
びっくりして言葉が出なくなったすきにゆきはがしゃべる。
「ゃ、やっぱりその、高校生で同棲なんてすごいじゃないですか! ゲームとかだって大学生とか卒業してから親密度を上げてようやっと、ど、同棲にとたどり着くのに……もちろん、あの、卒業後の大人な同棲も素敵なんだけど、こ、高校生ならではなハプニングとかいっぱいあるんじゃないかって……!」
どうしようマシンガントークで「とくにないかも」とか言うタイミングなくなったかもしれない。
まだ続くよ口開いたもん。
「そんなハプニングとかなくても、その、おはようから、ぉ、おやすみまで一緒なわけでっ。おうちにお邪魔させてもらったときやハロウィンで見たようないちゃいちゃもたくさんしているのではとっ」
「ゆきは落ち着いて…」
「ぉ、お料理をしていたらたまたま手が触れ合ったりとかもあったりするんですかっ?」
「ゆきは興奮しすぎてめっちゃ力はいってきてるから…」
めっちゃわたし下がってきてるから落ち着いて。
ただ興奮状態だとあんまり効果ないみたいで。「あっ」って気がついたように言って少し下がったけどぶっちゃけとくに変わってないよゆきは。いいけども。
なんだっけ、料理中に手が触れる?
料理中に…。
「手が触れるっていうのはあんまり…?」
あ、でも。
「わたしそで長い服着るからよく腕まくりしてくれる…」
「袖クルですねっ!?」
なにそんな名称あったの。
「か、壁ドンとかはっ」
「そういうのはあんまり…向かい合わせになるときって基本的にひざの上に乗るし…」
「膝の上で何をっ……!?」
ふつうにおしゃべりですけど??
「え、なにゲームだと特別なことでもするの…?」
「あ、そ、そういうわけじゃないんですけど……!」
ゆきははちょっと焦ったようにえーっとって悩んでから。
「ほ、ほら! あの、高校生設定だとヒロインが刹那ちゃんみたいに、こ、小柄な子ってなかなかいないから! 思わず!」
なんとなく理由になってない気がするけどまぁいっか。あとでリアス様に聞いてみよう。
「他には何か、ぁ、ありますか?」
「ほかに…?」
リアス様としてること?
「お休みの日はソファで読書してる…」
「そ、それは炎上くんをお膝に寝かせてっ!?」
うちでは逆かな??
「わたしが基本寝転がってる…」
「なんて素敵な……!」
どうしようゆきはのストライクゾーンわかんなくなってきたな。
「女の子がお膝を貸すのも最高ですけど、せ、刹那ちゃんたちみたいに逆もいいですよね……! 見上げたら好きな人の顔が見えたりなんてっ!」
「ゆきは待ってまた力入ってきてる興奮しないで」
持ちこたえるの大変だから。
力がゆるまったのにほっとして、話の続き。
「ねぇ…?」
「は、はい!」
「男の子はひざで寝るのがいいの…?」
「それはもうっ!」
あっゆきはスイッチ入ったかも。
「も、もちろん私は男の子じゃないので正確な答えじゃないかもですがっ、やっぱり恋愛ゲームにはたくさん出てくるシチュエーション! あれは男のヒトの夢が詰まっていると言ってもいいかもしれませんっ! さっきも言ったように見上げれば好きな人の顔が見えたり、あとは女の子特有の膨らみが見えて照れくさかったり!」
「わたしそんなにふくらみないけど…」
「男の子的には育て甲斐があるので最高かと!」
ゆきはってすごいポジティブだな。なんでも行けるのこの子。
「ちらちら見える恋人の顔やいろんな部分……、だ、だんだん本に集中できなくなっていく中で……!」
「そっとのびていく手…」
「その手は彼女の頬に添えられて……!」
「振り向いた彼女は…?」
「照れくさそうに笑って引き寄せられていく……!」
なにその展開最高では??
「ちょっと今度龍にお願いしてみる…」
「ご報告っ、ご報告はっ」
「もち…たぶんそのまま寝転がって二人で寝ると思うけど…」
「良いのです、良いのです刹那ちゃん……! そんなピュアなカップル大好物です!」
「お気に召してなにより…」
じゃあゆきはの気がそれたということで、そろそろ──
「ではっ」
「えっ…」
しゃがんで足ひっかけてやろうと思ったら、ゆきはがぱっと下がる。ちょっとバランス崩した瞬間に。
回し蹴り。
やっば。
「それ!」
「ちょっとずるっ…!」
足引っかけようとしてたわたしが言えることじゃないかもだけどっ…!
ひとまず回し蹴りはのけぞってなんとか回避、って待った待った。
そのまま第二回目の回し蹴りはやばいって。
「わ、わっ」
当たんないようにしゃがんだら、ぴたっと止まって…。
これかかと落としのモーションですよね殺す気ですか。
ただ気づいたときにはもう落ちかけててよけられそうにない。なので魔術をがーっと練って。
【リオート・シルト!】
落ちてくる頭の上に氷の盾を展開。ちょっと今バキッて言ったけど?? 反射的にぎゅって縮こまってから上を見上げたら。
あっこれはいけない。
盾も割れてるのもそうだけどその先。
「ゆきはやばい…」
「え」
まっすぐ見た先のそこ。これ使えるかな。
「今日は白ですか…」
「ぇ、な、っ!?」
笑って言えばゆきははぶわって顔赤くしてすぐにスカートを押さえる。ラッキーすき出来た。
ってことで。
「それー…」
「っきゃぁ!?」
今回は下からゆきはに飛び込む。どたんってすごい音立てたけど気にせず右手の氷刃を首元に突きつけて。
「おーわーり?」
こてんと首をかしげれば。
びっくりしてた顔のゆきはは今の状態がわかって、ちょっと悔しげに。
「ま、参りました……」
「勝者、氷河!」
「わぁい…」
今回も勝ちってことで、ゆきはの首に刃は突きつけたままだけどテンションが上がった。あとはちょっとだけゆきはにがまんしてもらう時間。
「こ、このままでいればいいんですよね?」
「そー…」
「炎上くんのかけ声がないとだめと、き、聞きました」
「うん…」
「ちょっとした主従系ですね……! 素敵……!」
「ゆきはってほんとにストライクゾーン広いよね…」
「け、結構なんでもおいしくいただけるかと」
「BLもへいきだったよね…」
「年下攻めが好きです」
「わたし友達以上恋人未満萌え…」
「あぁぁ最高……」
この子だめなものって逆になんなのってくらいなんでもおっけーなんだけど。
「とくに紫電先輩たちとかっ」
「あれ最高…もっと増えればいい…」
「わかります」
「あと龍蓮とかも増えればいいと思うよ…」
「えっまさかの刹那ちゃん恋人がそういうの大丈夫な……あ」
「?」
ゆきはが気づいた顔したのと同時に、おなかに手が回る。
「まだでーす…」
「終わりです」
わかってたけど反射的に言ったら、大好きなヒトの声が聞こえて力が抜けてくる。
「おわり?」
「終わり」
首を上に向ければ大好きな紅い瞳がいつもと逆になって見えた。それに口角をあげて。
「わかったー…」
「いい子だ」
笑ってくれたことにうれしくなって、口角をあげたままゆきはを見る。これで入れ替えだから、一緒に向こうかえろって言おうとした言葉は。
「龍刹最高です……」
とってもうっとりした顔といつの間にかできてたカップリング名にびっくりして出ませんでした。
『クリスvs雪巴(志貴零)』/クリスティア
おまけ//カット予定
そのあとスイッチ入りかけたゆきはをなんとか引っ張って観覧席に戻って。
「ま、毎日一緒に寝てるんですよね!」
「うん…」
「腕枕とかしてもらうのかしら!」
「うぅん…?」
『お風呂もご一緒とお聞きしましたけれど』
「そうね…」
龍が帰ってくるまで、人生初の恋バナなるものを経験して、ちょっと楽しかった。