あなたのぬくもり

そっと、触れてみる。
 輪郭をなぞって、髪に触れて。頬を撫でて、少し骨ばった手を、そっと、そっと。指先でなぞっていった。

 あなたはいつだって、笑ってくれる。
 あぁ、たまには、むくれることもあるかもしれない。

 けれどほとんどは、ずっとずっと笑って、わたしのそれを、受け止めてくれる。
 優しい微笑みに、わたしも、自然と頬がゆるんでしまう。

 ゆるんで、しまうのに。

 目が、少し熱いな。
 あなたのその微笑みを見る度に、胸が苦しくて、笑っているのに、涙がこぼれるの。

「──ねぇ」

 このままだとわたし、あなたのぬくもり、忘れちゃうよ。
 写真立てのガラス越しに触れたあなたは、どんなに思い返しても、あたたかさを感じなかった。

 ──あなたがいなくなって、もう十年目の春が来る。

『あなたのぬくもり』