勝利という花を咲かせるまでは、きっとあと少し

「疲れちゃわない?」

 その声に、自分でもわかるくらい驚いた顔をしてそちらを向いた。
 けれど視線の先の友人は、ゲームに目を落としまま、どこか興味なさげに僕に続ける。

「頑張りすぎてないかなって」
「……僕の話か?」
「そう、祈童の話」

 そう言われて、そのまま首をかしげる。
 それが視界の先に見えたであろう波風は、ボタンをカチカチ操作しながら肩を竦めた。

「自覚ないのか、ほんとに楽しんでるのかだね」
「僕自身は後者だと思うぞ」
「俺から見るとすごい疲れそうだなとは思うけど」

 そうか? と反対方向に首を傾げたら、「そうだよ」と返ってきて。

 ひとまず一日を振り返ってみた。

 いつも通り朝に起きて、祈りを捧げ。
 家の仕事をこなしていき、夜は家事をやっていく。

 今日は波風が泊りに来ていたので、より食事は豪勢にしてみた。途中手伝ってくれて、思っていた以上に豪勢になったのが少し嬉しかったのがついさっき。

 そうして夜、日課である祈りを捧げ。

 ようやっと落ち着いたから、最近波風の勧めで始めたゲームの行動力なるものを消化して、他にも趣味をいくつかやっていって……。

「充実していると思うぞ」
「それならいいけど」

 無理して趣味を続けようとしてんのかと思った、と。

 ゲームをしながら言われ、一瞬考える。
 そうして、やろうと思っていたことがすべて終わったから、波風と同じゲーム機を手に取りつつ。

「最初は、きっと無理もするかもしれないな」
「……」

 ゲームを起動すれば、波風がやっているゲームと同じBGMが鳴り始める。
 音同士がけんかしないよう、片耳にイヤホンを付けて。

「けれど、続けることがいいものは、なるべく続けたいと思うんだ」

 積み重ねが大事だと、知っているから。

 何事もそう。小さな積み重ねが芽を出し、花を咲かせ、彩っていく。

「もちろん無理はしない程度にな」

 無理をすると、その花は瞬時に枯れてしまう。それを、嫌というほど知っているから。

「……ならいいんじゃない」

 笑えば、穏やかな声で波風からも返ってくる。
 時折詰め込みすぎる癖があるのは自覚がある。それを、友人は心配してくれていたらしい。きっと今「ありがとう」と言えば、「何が」なんて返ってくるのは、長くなってきた付き合いで知っているから。

「というわけで、だ」
「ん?」
「日々積み重ねて強くなった僕に負かされないよう気を付けるんだな、波風?」
「ハッ、言うね」

 今度は挑戦的に互いに笑って。

 最近、だいぶ良い勝負まで持っていけている格闘ゲームで今日こそ勝つべく、画面に視線を落とした。

『勝利という花を咲かせるまでは、きっとあと少し』/結