また逢う日まで 先読み本編second May

 今年同じクラスになった人たちはよく喋る。妹は言わずもがな。

「おはよう波風! 合同演習に行くぞ!」

 そう明るく笑って演習場までの道中、昨日あったことはだとかどうだったなんて喋ったり。

「ねぇGWの予定どうかしら! あとはそっちの最強四人組さんたちの予定がわかれば遊べるのだけど!」

 楽しそうにほんのりと浮上してた予定を確定にして話したり。

 そして。

「こ、この前の新しいゲームが面白くてですね!」
「うん」
「ソシャゲで今スタートダッシュキャンペーンをやっていて」
「んー」
「あ、な、波風くんやりましたか?」
「……いや」

 演習中でもその人らは、よく喋る。

 話を聞きながら、二年になってから常に喋ってる声を聞いてるなと違うことを考えて思わず苦笑いがこぼれてしまった。

 二年ともなれば当たり前になったほぼ月一の合同演習。できれば去年組んでないペアで行きたいねということで、基本は途中から仲良くなったウリオスを中心に組んでないペアに。ただクリスティアだけは、無事幻覚症状とかは消えたのだけどしばらくは勝手がわかってる人が相手の方がいいかもねということで、しばらくは幼なじみが対戦相手になることに。本日はリアスとクリスティアで。

 俺は去年組んでなかった雫来なんですけども。

「あ、そ、そういえばGWはやっぱりお忙しいんですか? 美織ちゃんも言ってた通り、み、みんなで遊ぼうねって話していて……あとは、な、波風くんたちのご予定聞ければなって」
「うん——」
「そ、それでよければみんなでお泊まり会はどうかなと」
「しず——」
「前回は、み、美織ちゃんとは一緒になれなかったので。じょ、女子全員でも集まれたらなって」
「……」

 対戦中もその口がまぁ止まらない止まらない。
 口を挟む隙がないわ。

 っていうか。

 どうですか? なんて聞いてきたところを見計らって。

「……雫来さ」
「はい!」
「……」

 今日は話したいのかそれとも肉弾戦の能力向上なのか、武煉先輩よろしく武術で戦っている雫来に、一言。

「……戦闘中にそんな喋っててよく舌噛まないね」
「ぅ、うるさかったですか!?」
「いやそういうわけじゃないんだけども」

 一瞬脳裏に浮かびかけた人は記憶の奥に封じ込めて。昔知ってる人思い出すなんて言葉は一回喉を鳴らして飲み込んで。

「……なんかこう、すっげぇ口回るから舌噛まないか心配」
「そ、そうです、か?」
「うん」
「っわ」

 頷きながら、頭の中を振り払うように突きをかます。一瞬雫来は怯んだけどすぐに体勢を整え直して俺に回し蹴りしてきた。

「中見えるんじゃない」
「見えてもいいもの、履いてるのでっ!」

 いやそういう問題じゃないでしょ。
 照れて怯むのを狙ったけれど、何回かこの戦術を見てる雫来にはもう通用しないようで。蹴りは後ろに飛んで避けて、手には千本を出しておく。

「っ」

 体をひねりきったあと一回転してから俺に向かってくる雫来の足元に千本を投げて、進行を封じた。
 それに一瞬止まりかけたけれど、すぐに状況を判断した雫来はしなやかに側転して千本を超える。

「うわ体やわらけー」
「じ、自慢ですっ!」
「さいで」

 確かクリスの氷刃の嵐も結構軽々避けてたな。動体視力もいいんだろうから手数で攻めても意味ないか。

 じゃあ。

【風蛇(ヴェントセルペンテ)】
「!」

 指を鳴らして、雫来の足元に透明な風の蛇を出す。そいつらは雫来の足元に巻きついて——って。

「……なんでそんな顔赤くしてんの」
「は、ハレンチですっ!」
「はっ!?」
「お、女の子に蛇を巻きつけるなんてっ!」
「華凜も似たようなこと言ってたけどそういうんじゃないから!!」

 あぁもうペース乱される。誰になんていうのは明確にはせず、女性陣にと自分に言いつけて。
 心の中で舌打ちをして、もう一回指を鳴らして合図した。

「きゃっ!」

 それを聞いた蛇たちは雫来の足を引っ張って転ばせる。そのまま首に千本突き立てれば終わりだと走っていって、雫来の上に馬乗りになった。

「はいこれでおしまい」
「み、美織ちゃんと華凜ちゃんに、波風くんがハレンチだと言っておきます」
「最低なレッテルつけないでくんない」

 あとカリナは正直まじでやめてほしい。社会的に死にかねない。

「あ、そういえば」
「なに……」

 千本を突き立てているのに恐怖の「き」の字も見せず喋り出す雫来にそろそろ呆れの顔が出てきてしまった。

「GWの予定! まだ、き、聞けてないです!」
「それ今必要?」
「ひ、必要です!」
「そうは思わないけど。あとで喋ればいいじゃん」
「む、向こうではゲームの話とかももっとしたいので! 新しく出たソシャゲの話とか」
「さっき聞いたよ」
「それ以外にも、です!」

 違うゲームの話だとか、この前道化とかエルアノと言った場所の話だとか、そこはクリスティアが好きそうだったのでどうですか、だとか。

 あれこれ自分のことを、この状況で話してく雫来。

 ——よくもまぁ。

「……よくもまぁそんな知らない男にそうペラペラと自分のこと話せるね」

 なんて。

 いつか誰かに似たようなことを言った気がすると、心の中で思う。その心の中で見えた人は、知らないふりをして。

 きょとんとした顔の雫来に。

 しまったと思わず空いてる片手で自分の口を塞いだ。

 そんな知らないってなんだ。
 確かに笑守人だと授業がみんな別だからしっかり話す回数とかって実際はあんまりなかったけども。

 それでもほぼ一年の付き合いで「そんな知らない」とはちょっといかがなものか。しかもなんかこう、言い方絶対よくなかったじゃん俺。いや正直本心なんだけども。

 よく喋るし聞いてもないことペラペラ喋るし。

 それでもこの言い方はないだろ。ましてやクリスティアが復活するまで気にかけてくれてた人に。

「あー、えっと」

 けれど弁解の言葉も浮かばなくて、千本を突き立てたまましどろもどろしてしまう。
 いやなんでこんな焦ってんの俺。戦闘中だからちょっとしたほら、心理戦みたいな感じでもいいのに。

 頭とは裏腹に、目はうろうろと雫来の目以外を見る。

「……」
「いやその、悪気があったわけじゃなくて」
「……」
「気、悪くしたらその、申し訳ない……」

 未だうろうろと千本だったり、雫来の首だったりを見ていると。

 ふっと、雫来が笑った。

 手は緩めないまま、見れば。

「そ、そんな焦らなくても大丈夫ですよ?」

 穏やかに笑う、雪。

「し、知らないのは確かですけど……これから知っていきたいので」
「……」
「美織ちゃんとかもみんなきっと、そ、そう思ってますから」
「……そう」
「はい! だからその、知るための機会が増えればなと」

 そこでGWの予定に繋がるのかと心の中で推測して。

「……これさ」
「は、はい!」
「……俺がGWの予定言わないと雫来降参しない感じ?」
「そ、そうです、ね!」

 さっき気を使わずに千本進めてもよかったんじゃないかなって思ってきた。雪が降る目はなんとなく確固たる意志を感じる気がするので言わないと終わらないんだろうけども。

 ため息を、吐いて。

「……俺も、華凜たちも。いつでも空いてるよ」
「ほ、本当ですか!」
「嘘言ってどうすんの」

 わぁっと嬉しそうな雫来に呆れ笑いを溢して。

 千本を、ほんの少し進める。

「じゃあ終わりにしよっか雫来?」
「はい!」

 にっこりと笑う雫来に、降参を促すように千本をさらに進めた、

 瞬間。

「——!」

 顔の笑みはそのままに。

 雫来の胸のあたりが少し膨らんだ気がした。息を、吸うような。

 そうしてその笑みを作ってた口が開かれ始めたのに、嫌な予感がして。

「っ」

 反射的に、耳を塞げば。

「み、美織ちゃん! 予定聞けましたー!!」
「わぁ本当っ!?」

 下の雫来と、今違う区画で閃吏と戦ってる道化からバカでかい声が。耳を塞いでもかなりでかく聞こえる声に、頭がくらっとする。

「おっまえティノのやつしっかり見てたなっ……!」
「も、もちろんです!」

 耳を塞いだことでできた俺の隙に、待ってましたと言わんばかりに雫来は起き上がる。そうして今度は俺を押し倒してっ——て待って待って揺れる気持ち悪い。

「っぐ」
「け、形勢逆転です!」

 してやったりというような顔の雫来が、俺の上に乗った。

 予定聞くことに執着してたのはこれのためか。今更気づいても遅いけど。

「こ、降参しなければもっとおっきい声、出します!」
「いやそれはまじ勘弁……」

 次こそまじで吐く。
 今その胃の上に乗られてんのも割とギリギリなんだけど。

「とりあえずまじでどいてくんない……」
「言うこと言ったら、です!」
「まじか……」

 ティノほどの声じゃないから前回よりかはまだ楽なのが救いだけども。二度目はないのは相変わらず。これは耳の調整もう少ししっかりした方がいいなというのはあとの反省として。

 顔はわざと苦笑いを浮かべながら目をそらして、さりげなく魔術を練っていった。

 甘い自分にイラついたしいけるだろ。

「時間も、も、もうちょっとですよ!」
「そーね……」
「一緒に言いますか?」
「いやそれだと雫来が先に降参扱いになるでしょ……」

 それ狙っても面白かったけども。道化あたりの方が反応楽しそうなのでとっておこう。

 少しだけ気持ち悪い頭で決めて、魔力も練り終わって。

 雫来を見上げた。

 言う気になったのかと顔を明るくする雫来に。

 苦笑いはぱっと消して、妹よろしく微笑んだ。

「雫来」
「は、はい!」
「“これ”の方だったら、あとで華凜にでもハレンチだなんだって報告していいよ」
「……はい?」

 大きな帽子が落ちそうになるほど、こてんと首を傾げた雫来の後ろに。

【闇蛇(ソンブル)】

 闇だからか、割と悪戯気質なそいつを少し大きめに出してやる。

「……?」

 急に自分の視界が陰ったことを不思議に思った雫来は当然後ろを見上げた。

 その、先には。

 獲物を喰らいたいと今か今かと待ちわびている大蛇。

「俺のは別にハレンチなことなんてしないけど」
「、……」
「代わりに喰われるくらいじゃない?」
「も、もっとダメな、気がします……」

 引きつった声の雫来に笑って。

 上に乗られたままだけどなんとか起き上がって、雫来を逃さないよう、後ろからその肩とあごに手を回した。

「じゃあ雫来?」
「……!」

「言うこと、言ってみよっか」

 耳元で囁けば。

 震えた口から小さく、「降参です」と聞こえた。

 そのあと腰を抜かしてしまった雫来を引っ張って観覧席に戻って。

「悔しい……」
「まだ甘い証拠でしょ」
「波風くんだって一回隙を見せたくせに……」
「持ち直したから不問」
「有罪かと……」
「罪まで行く?」

 カリナとウリオス、ティノとユーアが戦っているのを見ながら、恨めしげに言ってくる雫来に呆れ笑いを溢した。

「これは、ぉ、オンラインゲームに付き合ってもらう刑です」
「雫来がやりたいだけじゃん……」
「波風くんの今の装備すっごいいいんですもん! ぼ、ボス討伐と収集に!」
「いいけども」

 GWの夜はゲーム三昧かなと頭の中で予定を立てつつ。

 あぁでもと、この前来てたメールを思い出す。

「新作ゲームののチェック頼まれてるからしばらくは長くいれないかも」
「し、新作ですかっ!!」

 そして言う相手をミスったかもしれないと今思った。

 けれどもう遅い。

「な、波風くんが携わっている……!?」
「なんだ波風、ゲームを作っているのか」
「わぁやりたいわ!」
「いや今回は俺ではなく……」

 クリスティアの義父が作ったのをチェックするだけなんだけど。聞いてないよねもうそのお喋り三人で盛り上がってるもんね。

「いつ出るのかしら!」
「えぇ……いつだっけ。刹那ー」
「らいねーん」
「だそうだけど」
「それを波風が今チェックするのか?」
「チェックというよりは仮段階で遊んでみてねみたいな」
「ぉ、お金持ちならではですね……!」

 いやたぶんそんなことない。俺がゲーム好きでたまたまクリスの親がゲーム会社という繋がりってだけだと思う。

「じゃあ来年買わなきゃだわ!」
「まじか買うの?」
「友達が携わっているものだもの!」
「見てみたいな!」

 携わるってほどでもないと思うんだけどな。言わないのはおそらく聞かないだろうなというのがわかっているから。
 まぁいいやと、雫来に目を戻し。

「……」
「開発段階……!」

 きらきらと目を輝かせている彼女に、何を思ったのか。

「……聞いてみてオッケーだったらさ」
「は、はい!」
「一緒にチェック、する?」

 雫来ゲーム詳しいし。

 そう、聞けば。

「も、もちろんです!!」

 目の前の雪の少女は笑い。

 その奥にいる親友は意味ありげに笑い。

 ひとまずその親友にはあとでなにかしら一発入れるということで、自分も大概お喋りだなと、自分に呆れ笑いを溢した。

『新規 志貴零』/レグナ