また逢う日まで 先読み本編second May

 いっしょにがんばっていこうねって決めた、リアス様との行動療法。

 みんなにもいろんな案を出してもらって、リアス様の方の二人でのお出かけ練習は、お休みの日の日曜日、もしくは授業が早く終わる土曜日に。おでかけは最初、カリナとかレグナのおうちにテレポートなしで行くのを目標にしていって、何回か連続で無事に行けたら、西地区とかにもちょっとずつ行くことに。
 わたしの方の行動療法は、リアス様とのおでかけ練習がない平日に。やり方は前といっしょで、苦手なとこまでキスしてもらって、苦手なとこが大丈夫になって何回かやっても拒絶がなければまた次の苦手なとこに。

 二人でちゃんと話し合って決めて。

「……始めるか」
「ん…」

 こっちもちゃんと話し合った結果。
 週の始まりである月曜日から、二人の療法が始まります。

 この「いつから始める」がめっちゃ言い合いになったけど。

 リアス様は自分から始めたい、わたしも自分から始めたい。切りよく週の始めからはどうだってなってもお互いの週の始まりの感覚が違うからそこでも言い合い。わたしは月曜始まり、リアス様は日曜始まり。
 じゃあいっそ月初めなら文句ないんじゃないかってなったけどそこはカリナたちに「そういうことするから進まないんですよ」って言われたので断念。
 じゃんけんしても三回勝負の三回目が延々とあいこで勝負もつかないし。
 それならどうするかってなったときに、最近他の子とも話せるからか声かければ外に出てくるようになったごろーが。

 リアス様が始めたいと思ってる土日に雨が降ったらわたしの方で始めたらどうか、って。

 雨の日のおでかけはもっと気軽に外出れるようになってからって決めてたし、今後もリアス様のお出かけ練習は雨で中止になることも多いかもしれない。とくに梅雨。
 雨が降ってしまったら今はどうしても文句言えないし、運も実力のうちだねってことでそうすることに決めて。

 見事に土日に雨が降りまして、五月三回目の月曜日。勝者であるわたしの行動療法から始まるんですけども。

「…不服そう」

 いっしょになにかやるならまず自分から、のタイプのこのヒトはまだちょっと納得いってなさそう。

「……そこまで子供じゃない」
「まだほら、早かったんだよきっと…来週あるよ…」
「予報は金曜から雨だがな」

 このヒト雨に好かれてんのかな。

「俺始まりだといつになるかわからないから仕方ないのもわかるが」
「リードしたいタイプだもんねー…」
「愛しい恋人の前ではかっこよく見せたいんだ」
「十分かっこいいのに…」

 顔とか、ベッドに座るわたしに王子様みたいにひざまづいてくれてるとことか。

「十分王子様だよ…」
「いや別に王子になりたいわけではないが……」
「昔の王子衣装似合ってた…」

 あ、思い出したら見たくなってきた。

「今度レグナに作ってもらおう…」
「もらわんでいい」
「わたしもお姫様やるから…」
「……」

 悩んだな。
 これは絶対推せる。明日カリナにこっそり言っとこう。

「……馬鹿なこと言っていないで始めるぞ」
「悩んだくせに…」
「療法すっ飛ばしてその口塞いでやろうか」
「そしたら問答無用で外に引っ張り出すね…」

 なんて。
 前だったら絶対できなかった冗談に笑い合って。

 緊張もちょっとほぐれたってことで、リアス様がわたしの手に触れた。

 わたしの指先に目を落とすリアス様に、口を閉じて。そっと自分の口にわたしの指先を近づけていく光景に、ほぐれたはずの緊張が戻ってきて、こくってのどが鳴った気がした。

 スローモーションに見える光景にちょっとずつどきどきしながら、指先に力を入れる。
 それを「大丈夫」って言うみたいにやさしく握ってくれるリアス様に、ほっとして。

「っ」
「……」

 リアス様からのキスが、爪の先に落ちてきた。
 やわらかくてあったかいのが指先に当たって、そっと離れて。

 もう一回、今度はちょっと上にまた、キス。ちゅって小さな音立てながら、あったかいのが落ちて来る。

「っ…」
「……」

 いろんなことを思い出してから。初めてじゃないけど、きっと初めてになる、リアス様からのキス。
 あったかくて、やさしくて。前だったらそれで幸せで、ふわふわしたけれど。

「っ、ぅ」

 今はちょっとだけ、こわさもある。

 いろんな思いが駆け巡る。

 ゆっくり唇が上がって来る。たしかめるように、ほんの少しずつ。
 あったかいのが触れるたびに一瞬だけ、背中がぞわっとする。見上げて来る紅い目に、こわいのがちらつく。

 手が引っ張られたりしたらどうしよう。抵抗できないまま、なんか、こわいこととか——

「クリスティア」
「っ!!」

 リアス様を見てるはずなのに、だんだん違う光景になりかけたとき。少し強めに名前を呼ばれて我に返った。いつの間にか浅く息してる。
 紅い目がじっと見つめてきてる。

「、っ、?」
「深呼吸」
「は、っ、はぁ」

 言われるまま吐いて、吸って。リアス様の手をぎゅっと握った。落ち着かせるみたいにトン、トンって手の甲を指で叩かれて、ほんの少しずつ落ち着いて来る。

「っ、…」
「落ち着いたか」

 そっと伸ばされた手はちょっとこわかったけど受け入れて、ほっぺをなでてくれるあったかい手にすりよった。

「どこまで行った…?」
「手の甲」
「ぜんぜん進めてない…」
「初回にしては上々だろう。俺は爪先で拒絶されるかと思ったが」
「んぅ…」

 前みたいにぜんぜん進めなかったのに、リアス様はやさしく笑ってほっぺをなでてくれた。申し訳なさがいっぱいで、ごめんねって言うみたいにうりうりほっぺをこすりつける。

「少しずつ進めばいい」
「ん…」
「一緒にな」
「…うん」

 そう言ってくれるリアス様にやっとわたしも笑って。
 リアス様にぎゅってしようと手を伸ばしたら。

「抱きついてくれるのは嬉しいんだが」
「?」

 いつもみたいに受け入れてくれるんじゃなくて、リアス様はちょっとだけ身を引く。自分でもわかるくらい悲しい顔をしたわたしに、リアス様は「嫌だからじゃない」って言ってから。

「先に、もう一回しても?」
「もう、一回?」
「キス」

 言葉にぱちぱちまばたきして、首をかしげた。リアス様はやさしい顔で笑ったまま。

「嫌な記憶が残ったままは気分が悪いだろう?」
「? うん…?」
「生物みな“次も”と思えるようなことがあれば頑張れるものだ」

 俺みたいに、って言うから、リアス様はそういうことあったのかな。それは教えてくれなかったけれど。

 あそんだとき楽しいと、またあそぼうねって思えるから。きっとそれと同じなんだろうなって思って。

「なにするの…」

 伸ばしてた両手の片方を、リアス様の前に差し出す。

「ものは同じだ。ただ苦手なところまでとか進もうとはしない」

 そっと手をとられて、リアス様はわたしの手を口に近づけてく。
 ちょっとだけさっきのでこわさもあったけど、ぎゅってリアス様の手を握ってこわさをなかったことにして。

 あったかい唇を、爪先に受け入れた。

 そのままの状態で、わたしにこわさがまた来る前にリアス様は口を開く。

「クリス」
「ん…」
「どういうのが心地いいと思う」
「ここち、いい?」
「どうされると気分がいい。さっきのであれば進むとこわいだとか、このままの方が落ち着くだとか」

 どういうのが、自分にとって心地いいのか。

 聞いてきた言葉を、頭の中でいっぱい考える。

 いっぱい進まれるのはこわい。ゆっくり上がってこられるのも、ちょっとこわいのが来る。手が引っ張られるんじゃないかとか、そのまま怖いことされるんじゃないのかなとか、そういうのがこわい。

 じゃあ、しあわせって思ったり、心地よく感じるのは、なんだろう。

「…ふれあえるのは、うれし」
「ん」
「ぎゅってするのが、ここちいー……」

 そう言ったら、リアス様はわたしの指から口を離して。
 床にひざまづいてたのから、ベッドの上に上がって来る。

「ん」

 広げられた手の中に入って、リアス様の膝に乗ってから肩にもたれる。

「手に触れても?」
「ん…」

 片方の手をとられて、またわたしの指先はリアス様の方に向かってった。心音を聞きながらそれを見る。

 伏し目がちにわたしの指先を見つめて、そっとリアス様はわたしの指先にキスをする。ちょっとだけ肩がびくってなったけど。

「さっきより、こわくない…」
「心地いいか」
「…たぶん…?」

 はじめてのことばっかりだからはっきり心地いいのはよくわからないけれど。
 リアス様の音を聞いて、“リアス様がいる”っていうのは、安心する。

 指先も、抱きしめられてる体も。リアス様に触れてるからか全部があったかい。

 なんか、こう。

「…ねむくなる…」
「寝ても構わないが」
「んぅ…」

 すぐに抱き着けるのも、ほっとする。

 きっとこれが、“心地いい”?

 体勢的にはこっちの方がすぐどうこうできたりするから、こわいはずなのに。

 やさしく頭なでられて、ときおり指先から唇を離したリアス様がわたしにすりよって。

 わたしのどこかが唇に触れること以外、いつも通りだからか。すごくすごく安心した。

「…ゆっくりでも」
「うん?」
「またゆっくりに、なっちゃうけど…こっちのが、できそう…」
「そうか」

 肩に体重を預けたら、また頭を撫でてくれて。
 さっきのこわいのが、安心とうれしいに変わってくれて。

 これなら、また明日もがんばりたいなって思えたから。

「…♪」

 ありがとうと大好きを伝えるように、リアス様にぎゅって抱きついて。
 心地よい眠気に目をそっと閉じた。

『新規 志貴零』/クリスティア