いわゆる”幼馴染”と呼べるような女の子は昔、たったひとつの目標のためにがむしゃらに生きていた子だった。父親が遺した言葉を糧に、ただただ目の前のことをこなしていた。
それが、”アイツ”に出逢って、少しずつその”生きる意味”を増やしていって。
「えへへへへへへ」
成長した隣の幼馴染は、”推し”を見て今日も顔を緩めている。その視線の先には――
「今日もかっこいいねぇ、時雨……♡」
当時、彼女がライバル視していたアイツ――時雨が戦闘訓練をしている。俺はそれに苦笑い。当然、時雨のほれぼれするような訓練姿にじゃなく。
「……その顔どうにかなんねぇ?」
隣の幼馴染、百合愛にである。
「その顔って?」
そう聞いてくる百合愛はこちを向くことなく聞いてきた。それに、俺も改めて彼女に向くことはなく。
「そのだらしない顔」
「失礼なっ!」
いやすげぇ顔だぞ今。
きっといつもの片頬を膨らませているであろう百合愛に苦笑いのまま手すりに頬杖をついた。
「時雨が見たら――」
あ、いやアイツは「いつも通りだね」って言うわ。それに思い至って一回咳払いをして。
「他の連中が見たら引くんじゃねぇの」
「いいの、時雨がなんにも言わないなら」
「さいで……」
この幼馴染はどこで道を間違えたんだろうか。あれだけ昔はライバル視してたのに。今ではそのライバル心は跡形もなくなっている。まぁでも、
「……昔よりはいいか」
「何がー?」
「時雨への態度」
飲み物を口に含みながら言うと、百合愛は「あぁ」と思い至り。
「若気の至りだったねあれは……」
なんて言うから吹きかけたわ。
「ごほっ、あぶね」
「もーっ、こぼさないでよ!?」
「お前のせいだろ!!」
「時雨にかけないでよね!」
「この距離でかかったらむしろほめてほしいくらいの肺活量なんだが!?」
「何話してんのさ」
「お」
「時雨!」
百合愛に抗議をしていたら、いつの間にか訓練を終えた時雨がこっちに来ていた。百合愛はすぐに時雨に駆け寄り――待て待て待て。
「ストップだ百合愛」
「えぇっ!? 今から時雨を労おうとしてるんだけど!! 止めないでよ!!」
「お前どさくさにまぎれてにおいとか嗅ぐだろ!? 却下!!」
「そ、そんなことしないもんっ!! ほんとだよっ!!」
「目泳いでるよ百合愛」
「うぅっ」
三人で広間の方に戻りながら、さりげなく百合愛を時雨から離してやる。
「あっ、冬歌間に入んないでよ!」
「いったん時雨禁止令」
「ひどいっ!!」
「時雨を守るためだ」
「別に何でもいいよ」
「ほら、お許しが出てるよ!?」
「これは許しじゃなくて諦めだろ!! あっ」
少し前を行く時雨に追いついてしまった百合愛はすぐさま時雨の腕に抱き着く。あれでよく”ビジネスライク”とのたまうものだ。
そのままにおいを嗅ぐ方向にはいかないでほしいと願いながら、俺が諦めて二人の後ろを歩き始めた。
「時雨、早めに対処しないといつか大変なことになるんじゃないか……」
「どの方向で?」
そう聞いてくるのが時雨らしい。
一度悩んで、まずは一つのルートから。
「恋人になった後のスキンシップ具合?」
「今と変わんないね」
確かに。じゃあ次。
「友情ルートで百合愛がストーカーになりそう」
「友情があるならセーフでしょ!?」
「じゃあ友情がなかったら」
「残るのは愛情でしょう?」
「百合愛は一旦黙ってような。時雨に聞いてるから」
不服そうに片頬を膨らませた百合愛はスルーさせてもらって。
いつもの無表情で悩んでいるであろう親友の答えを待つ。
そうして数秒。
「……友情がなかったら」
「ん」
「やっぱ愛情が残るから別に今のまんまでいいんじゃない」
いつも通りの声で言われて。
「……さいで」
「時雨~っ♡」
喜ぶ百合愛を見つつ、こっちもだいぶ末期だなと、今日もため息をついた。
『お似合いな二人は、今日も無自覚にいちゃついている』/冬歌