誕生日は、一年に一度、矛盾してしまう日だ。
逢いたいのに逢えない兄への怒りと寂しさ、けれど愛されていることを知り、満たされるそんな矛盾の一日。
それは、今年も。
「お嬢様」
「はいな」
執事に呼ばれ、振り返る。少し年老いた執事は、一度礼をして。カサ、と音を立てて私に何かを差し出した。
「あら」
真っ白な封筒に、緑色のシール。誰かなんてすぐわかるけれど、受け取って。
「誰かしらね」
なんて言って、裏を見る。
送り先なんて書いていない、一見不審なお手紙。けれど私はその犯人を知っているから、微笑んで。
「ねぇ」
「はい」
「紅茶を淹れてくださる?」
「かしこまりました」
こちらも誰かを知っている老執事は、困ったように微笑んでうなずいた。
――カリナへ。
誕生日おめでとう。今年も幸せでありますように。
そうして、願わくば。
「願わくば……」
そこまで読んで、ふっと笑う。そして心に湧き上がるのは、そんなことを言うのならというちょっとした怒り。
「お嬢様」
「はいな」
相変わらずだこと、と肩をすくめたところでノックが鳴りました。声で執事とわかったので招き入れ、運んでくれた温かい紅茶にはお礼を言う。
「あら」
その時見えたのは、執事の後ろにメイドたち。そして彼女たちの手には、たくさんのプレゼントや手紙が。
「交流先の方々よりいただいております」
「ありがとうございます」
これはまたお礼が大変ですねと、いつからか慣れた社交辞令にから笑いをしていれば。
「……よろしいのですか?」
「何がでしょう」
紅茶を一口飲んで、執事からの問いに質問を返す。言いたいことはわかっていますわ。少しだけ長い付き合いだし、毎年聞かれることだから。けれどおどけて、紅茶を飲んで返事を待つ。
「兄君とご一緒でなくて」
こちらも長い付き合いなので、問いは遠慮せず。毎年聞いてくることを聞いてきました。
ただ、今年は一つだけ違うこと。
きっと私は、来年にはまた体を壊して、ここから離れるから。
いつもはぐらかしていた答えを、あなたに贈ろうと決めた。
「……私ね」
「はい」
「今日という日は、とても寂しいわ」
窓から外を見上げ、こぼす。
二羽で仲良く飛ぶ鳥を見上げて、うらやましく思いながら。
「一緒にいられたら幸せなのにって」
三月三日。
兄とともに生まれた大切な日。けれど基本的に、兄とともに誕生日を過ごすことは少ない。
私の幸せを願って、遠ざかるから。そんな身勝手な行動のお詫びなのか、いつの日からか毎年手紙をくれるようになった。
お祝いと、愛と、願いを綴る、これまた身勝手な手紙が。
こんな手紙じゃなくて、傍にいてほしい。
いつか運命を超えられたらじゃなくて、今。
寂しい。
傍にいてほしい。どうしていてくれないの?
そんな悲しさや怒りが募る。
「でもね」
でも、同じくらい。
「何故か、私は幸せなんです」
どうしてでしょうね。
悲しいのに、寂しいのに。
たった四行の、いつも変わらない手紙を読むたびに。
あなたの文字で綴られる「愛してる」を読むたびに。
心は満たされていく。
この手紙にイラつきを覚えるのに、大切で、毎年保存して、抱きしめてしまう。
「どうしてかしらね」
なんて、答えなんてわかっているのに、そう笑って。手紙へと目を落とす。
あなたが綴る、丁寧で、残酷で、愛のあふれた文字を指でたどって。
「今年の誕生日も、不幸で幸せだわ」
そう言えば。
答えを知った執事は、「それは何よりです」と笑った。
『残酷の奥に見えるあなたの想いに、私はこれからもずっと、幸せを感じるのでしょう』/カリナ