リアス様はわたしが寝るまで寝ないし、わたしが起きる前に必ず起きる。なにが起きるのかわからないから、自分が先に眠っちゃうのが不安なんだって。だから必ず傍にいて、眠るのを見守って、起きるのを待つ。
いつからか、なんてもう曖昧なくらい昔から続いてるそんな生活。そしてそれは、やっぱり今日も同じ。
「んー…」
「起きたか」
「ん、おはよ…」
「はよ」
目を開ければ、枕元に腰掛けて本を読んでたリアス様が映る。わたしが起きればこっちを見て、あいさつを交わす。いつも通りの朝。
四月の末。もうちょっとで、学校に通い始めてから一ヶ月。ちょっとずつ慣れてきて、朝起きる時間も体に染みついてきた。ほんとならこのまま起きて、準備して学校に行く。だけど、今日は土曜日。エシュト学園はお休みの日。そんなゆっくりできる日に早く起きたことにちょっと損した気分になって、はだけた布団をたぐり寄せた。
「おい、寝るな」
落ちてくるまぶたに従ってもう一回寝ようと思ったら、リアス様の声に止められる。せっかくの休みの日に寝るなとはなにごとだ。どうせ朝ご飯作れとか言いたいんでしょ。自分で作れ。わたしは眠い。
「…せめても少しだけー…わっ」
布団に顔を埋めて寝ぼけた声で言えば、思い切り布団をはがされた。いつまでも寝てるときにされる、「起きろ」の合図。恨めしげにリアス様をにらみつけた。
「…へんたい」
「遅れるぞ」
…遅れる? わたしのにらみ攻撃なんて気にしないリアス様の言葉に、頭にははてなマークがいっぱい。今日は学校はない日だよね。ああ、リアス様寝ぼけてるんだ。そんな風に思ってるのがわかったみたいで、リアス様は小さな声で言った。
「……行くんだろう、交流遠足」
「え…」
「二度は言わん」
びっくりしてるわたしにそう言って、リアス様は部屋を出ていった。わたしを置いて部屋を出てくなんて珍しいななんて、全く関係ないことを思う。だって信じられない。
あのリアス様が、でかけるって言った。人がいっぱいいるところがだいっきらいなリアス様が。今まで、千回お願いしてやっと一回どこかに連れてってくれたらいい方だったのに。どうして、とかなんで、とか、疑問が頭をいっぱいにする。そしてぱっと、思い至った。
「…わかった、夢」
そう、きっとこれは夢。とっても都合のいい夢を見てるんだ。諦めてたけどやっぱり遊園地行きたいって思ってたのかな。できればこのまま夢を見続けて、みんなで遊園地を楽しみたい。ジェットコースター乗ったり観覧車乗ったりしたい。でも、そしたら現実のリアス様が起きないって心配しちゃう。だから一回目を覚まさなきゃ。今頃起きろって揺さぶってるかもしれない。夢ってどうやって覚めるんだっけ。夢の中でもっかい寝たら目が覚めるのかな。
「…とりあえず、目閉じてみようかな」
はがされた布団をかけ直して、もっかい寝ようと目を閉じる。さっきの衝撃発言でちょっと目が覚めちゃった感じがするけど、休みの日ってわかった体は寝転がったらすぐに心地いい眠気がきた。
よし、今の夢は心に刻んで、現実をしっかり見よう。
そう決意して、眠気に任せて二度寝を決めた。その間に、夢の中のリアス様がまた起こしにきた気がしたけど、寝たふりをして無視。現実のリアス様のところに帰らなきゃ行けないから、おやすみなさい──。
そのあとリアス様にキレ気味に起こされたのは、家を出る三十分前でした。
「なんで言ってくれなかったの!」
「言っただろう、交流遠足に行くんだろう、と」
バタバタリビングを駆け回って準備しながら、優雅にコーヒーを飲んでるリアス様に珍しく声を上げて抗議した。
また布団をはがされて強制的に起こされれば、日付は変わらない四月の二十九日。確かに交流遠足の日。なんだけど、行けないと思ってたから普通に休みだと思ってた。
「前日に言ってくれてもよかった!」
「俺が言わないの知っているだろう」
知ってますけども。どうしていつも一言欲しいっていうくせにこういうときはくれないの。大事なときに一言欲しい気持ちもわかるけどわたしは普段のときに一言欲しいよ??
「なんも準備してないじゃん!」
「荷物ならまとめておいたが」
廊下をさす指を追えば、いつもよりちょっと大きいリュックと鞄がある。いつの間に準備してたの。リアス様の方が楽しみにしてるみたいになってるけど。もう怒りを通り越して呆れが出た。
「ほら髪の毛。寝癖」
「誰のせい…」
急いで朝ご飯を食べて着替えて、時計を見たらあと十分で家を出なくちゃいけない。なのに今日に限って寝癖はひどくて。リアス様に言われるままドレッサーの前に座れば、温めてくれてたアイロンでわたしの髪の毛を整え始めた。
「そこまで怒ることもないだろう」
「怒る…もっとわくわくとかして明日の話とかしたかった」
「それはレグナやカリナとしてくれ」
いやそもそも行くということを教えてください。髪が少しひっぱられるのを感じながらリアス様を鏡越しににらむ。当の本人はアイロンに目を落として気にしてない。
もういいやとあきらめたところで、
「終わったぞ」
鏡の中のリアス様から自分に目を移せば、いつも通りのストレート。
「…ありがと」
「どういたしまして」
小さくお礼を言って、いすを降りる。もう行かなきゃ、遅れちゃう。最後に全身をチェックして、部屋を出た。リアス様はアイロンを片づけて、わたしの分まで荷物を持って玄関に向かう。そのあとを追って、わたしも玄関に向かった。
靴を履いてるリアス様を見ながら、ふと思う。
約束をしなくなったリアス様。人混みも極力避けるリアス様。なのにどうして、今日は──。
「…どうして、今日は許してくれたの?」
行きと帰りのバス以外はほかのクラスの人とも行動していいらしい今日の交流遠足。でも、一緒にいれても人とかすごそうだから絶対だめって思ってたのに。靴を履いてる間に、開けたドアに寄りかかりながらわたしを待ってるリアス様の声が落ちてきた。
「……調べてみたら、笑守人で貸し切るそうだ」
「貸し切り…?」
「一般の人間はいないし、笑守人の人間が入りきったら結界を張ると聞いてな。それならまぁ、いいだろう、と」
だんだんと小さくなる声に相反するように、少しずつ口角があがっていった。
きっと今までだったら、いいだろうって思ってるだけだった。でも今日は、それを実行してくれた。リアス様にとっては大きな一歩。がんばったんだろうなぁ。
「…ありがとう」
だから朝のことはこれで良しとしようと、いろんな意味を含めてお礼を言った。普段の時に一言欲しいけど、それはゆっくりでいいかな。なんて思ってる間に靴を履き終わり、外へ出る。鍵を閉めたリアス様といつものように自然に手を繋いで、学校への道を歩きだそうとしたとき。
「クリスティア」
名前を呼ばれて、リアス様を見上げた。
「なぁに」
「八時半でバスが出るらしいからテレポート使うぞ」
「八時半…」
さて問題です。今何時でしょう。
リアス様の腕を引っこ抜く勢いで引っ張って、そこにある腕時計を見た。
八時二十五分。
「何時ってゆった?」
「八時半」
「間に合わないじゃんか」
「だからテレポートを使うと言っている」
あがってた口角が下がった気がする。ゆっくりでいいかななんて撤回。やっぱり一言って必要だと思う。
「あとで覚えてて…」
「物騒だな」
「ここでやられないだけありがたいと思って」
リアス様に悪態をつきながら魔力を練って、急いで二人で学園にテレポートした。
『これがお互い様というものですか』/クリスティア
もうすぐ八時半になる腕時計を見ながら、ああ、やっぱり来ないんだなぁなんて思う。
──だから、本当に驚いた。
「…おはよう」
聞き慣れた、声。思わず目を向ければ、水色の親友が立って──ってめっちゃ不機嫌そうなんですけど。
「お、おお、おはよう」
二重の意味で驚かされたから思わずどもる。え、どうしたのこの子。おかしいな、この話題が出るとすげぇ行きたそうな顔をしてたはずなんだけど。バスの席決めのときだって、行けないけれど、でももし行けたらレグナの隣がいいってわくわくしてるようなそんな表情してなかったっけ。
「……どした、クリスティア」
「なにが」
隣に座るクリスティアにしてはまぁ珍しい荒い声。あれ、この子遠足行きたくなかったんだっけ?
「……なんか、不機嫌じゃね?」
「聞いてくれる?」
「え、あ、はいもちろん」
クリスティアの気迫に思わず敬語になってそう答えると、ちょうど出発時間になったようで。乗っていたバスガイドの発車の合図と共にバスが動き出した。乗っていたクラスメイトたちのテンションが上がって、元々騒がしかったバス内が更に騒がしくなる。俺はちょっとだけクリスティアの方に体を寄せて彼女の声に耳を傾けた。
「朝、いつも通り起こされたの」
「うん」
「そこで交流遠足に行くって聞かされて」
「うん?」
「ああ、都合のいい夢なんだって思ったから二度寝したら」
「おお」
「出る三十分前にキレ気味に起こされて」
「うん」
「いざ行くって外出たらバスが出る五分前だって知らされてテレポートで来た」
「まじか」
どういうことなの。え、あいつ当日に言っちゃったの? 遠足行くぞって?
「それは……もうなんか、お疲れ」
親友のびっくり行動にもう今はそれしか言葉が出なかった。うん、約束ごとが苦手なのは知ってるよ。知ってるけどもう少しなんかなかったのかなあいつは。掛ける言葉を探していると、またもや彼女からびっくり発言が。
「あまりにもムカついたから鳩尾蹴飛ばしてきた」
「バイオレンスだな」
鳩尾を押さえながらバスに乗り込む親友が目に浮かぶ。だけど同情はしない。自業自得だわ。
「でもまあ来れてよかったじゃん」
「…ん」
若干まだいらついてるこっちの親友にそう言えば、その雰囲気は少し和らいで小さく頷く。
「それにしてもよく許してくれたね」
「…エシュトで、貸し切りなんだって…」
あー、それならまぁリアスも安心か。疑問が晴れてすっきりした。ついでにあいつは貸し切りなら来る可能性が上がると覚えておこう。
「……よかったね」
「…ん」
改めてそう言ってやれば、それはもう嬉しそうな、幸せそうな顔で微笑んだ。あ、写メ撮っとこう。
「…なに?」
「いや?」
ぱしゃりと音がなった瞬間、いつも通りの無表情。確認画面を見ればかわいらしい微笑み。おお、ギリセーフ。あとでリアスに送ってやろう。きっと色々考えてものすごい第一歩を踏み出した親友に、これくらいのご褒美はあげてもいいと思う。あのとき、リアスがキレてもクリスティアのことを伝えてよかったと思った。じゃなきゃこんな顔、見れなかっただろうし。
「それよりなんか乗りたいのとかあるの? 遊園地で」
「…いっぱいある」
とりあえずスマホの画面を閉じて、シャッター音に訝しげな表情をしてるクリスティアにこれからの話題を振ってやった。そうすれば、意外と単純な彼女はきらきらと目を輝かせてその話に乗ってくる。それを見て自然と頬が緩むのを感じながら、俺は地図を出して先に二人で予定を立て始めた。リアスたちと合流して始めに何に乗ってとか、昼ご飯はどうするだとか、周りの騒がしさなんて聞こえないくらい夢中に予定を立てるクリスティアを見れば、先ほどと同じような幸せそうな顔。
──ああ、リアスと同じクラスならきっとこの表情を見せてやれたのにな。そこが、今回残念だと思うところだった。
クリスティアのことが大好きなリアス。彼女が幸せに笑う世界が何よりも好きな親友。その世界を作るために、もがいて苦しんで、それでもなんとか自分なりに彼女が笑えるように頑張る不器用なやつ。正しくあろうとして、なんでもってわけじゃないけど彼女にたくさんのものを与えて。それなのにこれでいいのかといつも不安で。あいつは俺に「妹のこともっとちゃんと見ろよ」って言うけど、リアスだって時々そうだ。たまに、ごくごくまれに、クリスティアのことが見えてない。
リアスが導いた答えが、彼女にとってはなによりの幸せなのに。
今だって、リアスが踏み出した答えでこんなにも笑っているのに。
一度閉じたスマホの画面を開いて、今度は動画を撮ってみた。撮影の音は鳴るも、地図を見て夢中に計画を立てるクリスティアは気付かない。画面越しに見える幸せそうな微笑みに頬を緩ませつつ、楽しそうな声に耳を傾ける。
「あとここにも行きたい」
「いいじゃん、後で行こ」
「うんっ…」
興奮気味に話しかけてくるその声に相づちを打つ。さてこれを見た親友はどういう反応をするんだろうか。愛おしそうな、嬉しそうな。一言ではまとめきれない幸せな表情で眺めるんだろうか。なんて無表情の親友が破顔する姿を思い浮かべて、笑いがこみ上げるのを抑えた。まぁ夜に送るからそれを拝むことはできないけれど。
どうか今日の件で、少しでもリアスの不安が和らぎますように。
そう密かに願って、動画を撮る手は止めず、クリスティアの話に意識を向けた。
『君に幸あらんことを』/レグナ
「……お腹でも痛いんですか?」
やって来た幼なじみに、そう尋ねずにはいられませんでした。
八時半になろうとしているバスの中の時計を見て、やっぱり来ないんですねと思っていれば、頭上から聞き慣れた声。まさかと思って顔を上げる。
そこには何故か鳩尾辺りを押さえたリアスが。
一瞬「え?」と思いますよね。すごい痛そうに押さえてるんですもん。なんか、こう、心配や不安で胃とかお腹とか痛いのかなって思うじゃないですか。だからあいさつも忘れてそう問えば、まぁ予想のはるか斜め上の答えが。
「クリスティアに鳩尾蹴られた」
Why? 蹴られた? 鳩尾を? 朝から?
「……なにをどうすればそんなことになるんですか」
痛そうにしながらリアスが隣に座ったと同時にバスが動き始めました。クラスメイトのテンションが上がって、バスの中が騒がしくなる。声が聞こえるように彼にほんの少しだけ身を寄せて、呆れ気味に聞いてみた。リアスは癖の爪いじりをしながら、答える。
「朝起こすだろう」
「はい」
「そこで交流遠足に行くと伝え」
「はい?」
「夢だと思ったらしく二度寝したからまた起こして」
「はぁ」
「家を出るときがもうバスが出る五分前だと伝えたら乗る間際に蹴られた」
思わずため息を吐かずにはいられない。この男はどうしてこうもバカなんでしょうか。残念な男ってこういうことを言うんでしょうね。
「よく鳩尾蹴られるだけで済みましたね」
「お前だったらどうする?」
「家で鳩尾蹴ってから気絶させて手錠かけて置いていきます」
「今心底俺の恋人がクリスティアで良かったと思っている」
「私もあなたが恋人じゃなくてよかったと常々思ってます」
この男が恋人だったら私の精神が崩壊する。
「というかなんで当日に言うんですか」
「約束が嫌いだと知っているだろう」
うわぁほんとに自分勝手な人。クリスティアはよくこの男とずっと恋人でいられますね。尊敬しますわ。
「でもですね、女性には準備というものがありまして」
「あいつの荷物なら全てまとめておいたが」
いやそうでなく。ていうかその光景、端から見たらあなたの方がすごい楽しみにしているように見えるんですが。これ絶対クリスティアも同じこと思ったはず。
「クリスティアだって今日の予定とか楽しく話したかったでしょうに」
「お前ら三人は結構同じことを言うんだな」
「世間では一般論と言うんですよ」
この男に一般論なんて通じないことは知ってますけど。
「どこを回るだとかの予定はお前らとすればいいだろう。俺はそういうのは苦手だ」
「そもそも行くなんて伝えられてないんですからそんな話をするわけないでしょう」
「……」
あ、黙りました。一応わかってはいるんでしょうかね。ちょっとばつが悪そうな顔をしています。リアスが黙ったら自分の意見を言って畳みかけるチャンス。いつの日かレグナが言った言葉を思い出して、努めて優しく伝える。
「あなたが約束を嫌うのはもちろん知っていますが、もう少し伝えるとかあるでしょう。あなたがいざというときにあの子に一言欲しいというように、日常ではあの子はあなたの一言を欲しがってますよ」
「……」
あら、そっぽ向いちゃいましたわ。このときのリアスの雰囲気はちょっとぴりぴりしているので、周りから見てると怒ってるように見えます。実際若干怒ってはいますけど。ただそれは相手にではなくどうしようもない自分に。長いつきあいだから、この仕草が”わかっているけれどどうしようもできない”という思いの表れだとすぐわかります。だから、言葉を続けた。
「”約束が叶わなかったら”とか”なにかあったら”というのはそのときなったら考えればいいのではなくて? 約束は誰だって必ずしも叶えられるわけではありませんし、なにかあっても、今のあなたはそれに対応できる力を持っているでしょう」
それができないから、この方はずっともがき苦しんでいることも知っているけれど。
なによりも、大事にしていたクリスティア。あの日守れなかったクリスティア。そして、守れなかった大事な彼女との大切な約束。もう守れないことのないように、縛り、伝えず。なるべく傍に置く。
──それは最後には無意味になると、わかっていながら。
「……自分のなにかをやりたい、どこかに行きたいって願望を叶えてくれるのって、とても嬉しいものですよ」
未だにそっぽを向いている彼に言いながら、愛する兄を思い出す。
繰り返す運命で、兄は私の願いをたくさん叶えてくれた。叶わなかったことなんてなかったんじゃないかと思うくらい。時代が進むに連れて、私を突き放そうとする兄。でもあらゆる手を尽くして隣を歩けば、”傍にいたい”という願いさえも叶えてくれる。それが、どんなに幸せなことか。
「レグナは、どんなところにも連れてってくれて、どんなものでも買ってくれるんです」
「……知っている」
「私は、それがとても幸せですよ」
「……」
与えられることが嬉しいんじゃない。
傍にいてくれて、私を思ってしてくれるということが、なによりも嬉しくて、幸せ。
「ねぇ、リアス」
それはあの子も一緒よ。あなたが導き出した答えが、あの子を思って踏み出した一歩が、クリスティアには、とてもとても幸せなの。
「大切な人の願いごとを叶えてあげるのに、神様はバチなんて与えませんよ」
きっと怖いと思うけれど。不安だろうけれど。頑張った人に、神様はバチなんて与えない。
「叶えるための手助けくらいはしてあげますわ」
だから少しずつ、あなたの後悔を減らせるように、踏み出していきましょう?
その思いは伏せて。
「ね?」
首を、傾げたら。
「……そうだな」
小さな声でそう言った気がしました。そして突然、リアスは前を向く。あら、機嫌は直ったんでしょうか。
「お前達双子は本当に同じことを言うんだな」
いつもの調子でため息を吐かれながらそう言われたので、私もいつものように微笑んで返す。
「まぁ双子ですから。あなたが同じことを言わせるくらいズレているというのもありますが」
「俺は世間一般だろう」
「寝言は寝て言うものですよリアス」
一組を追いながら走り続けるバスの中で、普段と変わらない会話が始まる。そこで、ピコンという音と共にスマホが震えた。
「?」
画面を見れば、レグナからラインが入っています。ポップには”写真が送信されました”との表示。なんでしょうと見てみると、そこにはとても幸せそうに笑うクリスティア。まぁなんてかわいらしい。
「リアス」
「なんだ」
あとでリアスにも送るんでしょうけど、せっかくだからお裾分けしますか。リアスに呼びかけ、画面を見せる。すると、一瞬驚いてから、彼もほんの少し幸せそうな表情に。その表情を見て、私も頬が緩みます。久しぶりにこんな顔を見た気がしますね。しかし浸ってはいられない。見せていたスマホの液晶画面をさっと自分側に裏返し、すかさずカメラモードに切り替えました。
「今日はとても楽しめそうですね」
「……そうだな」
微笑みながら頷くリアス。そこを逃さずぱしゃりと撮影。瞬間、いつもの無表情に戻り、こちらをにらみつけてきました。
「おい」
「なんでしょう」
「何故今写真を撮った」
「え、気のせいですよ。自分が撮られたなんて自意識過剰ですねリアス」
なんてごまかしながらぱぱっとレグナに写真を送信。
「はぁ……」
なにを言っても無駄だと思ったのか、リアスは再びため息を吐く。画面をいじりながら見える視界の中で、腕を組むのが見えた。顔を上げれば、目を閉じています。え、寝るつもりですか。まだ四十分くらいある道中暇なんですけど。
「ちょっと寝ないでくださいよ」
「……」
クリスティアが寝ないと自分だって寝ないんだから絶対聞こえているはずなのに、彼は沈黙。つついて起こしてやろうかなと指を頬に近づけたところで、手を止めた。
きっと今日の彼は苦手なことをたくさんする日になりますよね。それならば先に体力を温存させておいてあげた方がいいのでは。まぁ私ったらなんて優しいのかしら。ただし道中暇にさせる代償として、目を閉じていれば美しいと私から評判の横顔を写真に収めさせていただきますが。一瞬眉間にしわが寄った気がしますが気にしないで行きましょう。前に向き直り、この一枚もレグナに送信してから、先ほど送られた写真と自分が送った写真を見る。思わずこちらも幸せな気分にさせてくれるような微笑み。昔の二人が重なりますね。
悲しい出来事が起きる直前までの、あの楽しかった日々。今日もそんな、幸せな日になれるでしょうか。
あ、違いますね。きっと兄ならば──。
彼が言うであろう言葉を音声付きで脳内で再生して、笑みがこぼれる。写真に既読が付いてスタンプが送られたのを見てからスマホを閉じ、よく晴れた空へ目を向けました。
さて、今日はどんな楽しい日になるのかしら。
『あの日を越えた幸せを、みんなで』/カリナ
「リアス、俺今すごく虚しい」
目の前にいる親友にそうこぼせば、
「そうだな、俺も虚しい」
スマホを見ながらそう返ってきた。ていうか酔わないのお前。そう思いながら手元の丸いハンドルを回し続ける。それに伴って回り続ける視界。さてここで問題です。
遊園地に来てまでなんで俺たちは男二人でコーヒーカップに乗っているんでしょうか。
時は遡ること三十分程前。遊園地について、クラス毎に集合して説明を聞き、さぁみんなで楽しみましょうと解散した。いつものごとく俺たちは四人で集まり、バスの中でクリスティアはなるべくたくさんの乗り物に乗りたいと言っていたので、近いところから片っ端から行こうかと歩き出す。周りを見渡しながら歩みを進めていると、しばらくして「あ」と声を出した我が妹カリナ。そのまま彼女は「まずはあれに乗りませんか」と指さす。その先には、今俺たちが乗ってるコーヒーカップ。全員異議なく頷いて、乗り場へと向かって行った。
ここまでは何も問題はなかったんだよ。
コーヒーカップって大体が四人乗りじゃん? ここもそうなんだけど。それ見たら普通全員で乗ると思うじゃん。だから並んでる間にカリナが言った言葉の意味が分からなかった。
「せっかくなので男女別で分けて乗りませんか?」
せっかくだからって何?? そんでその分け方はどういうことなの?? 仮に「せっかくだからクリスティアとリアスのカップル二人で楽しんだらいかがですか」みたいな感じならわかるよ。なんでそこ離しちゃうかな?? お兄ちゃん全くもって意味がわからない。
「そして俺はお前が”別にいい”って言った意味もわからない」
結局俺以外の全員が異議なしということで俺とリアス、カリナとクリスティアでコーヒーカップに乗ることになり、今に至る。クリスティアは楽しめればいいから誰と乗ろうがなんでもいいんだろうけど、あの過保護なリアスがOKを出すとは思わなかった。リアスが「絶対クリスティアとではないと嫌だ」とか言ってくれれば男二人でコーヒーカップに乗るなんていう虚しいことにはならなかったのに。若干恨みも込めて言ってやったけど、目の前の親友は動じることなく言い放つ。
「カリナがクリスティアの可愛らしい写真を送ってくれるそうだ」
まさかの買収。写真もらえるってだけで了承したの。過保護設定どうした。傍にいたいんじゃねぇのかよ。
「傍にはいなくていいの?」
「目に見える範囲だし、カリナもいる」
「そか」
「それに念のために結界三重にしておいた」
「三重」
もはや病的な行動に呆れつつも、いつも通りのリアスだと若干安心してしまう時点で俺もこいつに毒されてるなと思う。
「っていうかそれなら四人で乗ってたって一緒じゃない? 楽しそうな顔だって見れるしもっと安心なんじゃないの」
「女同士でしか見れない顔だってあるだろう」
女同士でしか見れない顔ってどんな顔だよ。それは果たして清純な顔なのだろうか。R指定つくものとかじゃないよな。なんて思ってたら何かを察したのか、リアスの顔が引き気味に変わった。
「……お前今変なこと考えているだろう」
「……リアスが悪い」
「いやお前の思考の問題だろ」
「そういう風に思わせるような言い方するそっちの問題じゃない?」
「さすがにいかがわしい発想するなんて思わねぇよ」
俺も思わなかったよ。でもしょうがないじゃん、現代に進むにつれて色んな知識が身についちゃったんだから。女の子同士の恋の発展とか読んでいったらちょっとでもネタがあるとそういう思考に至っちゃうじゃん。断じて俺のせいじゃない。時代が悪い。そう頭の中で言い訳をしながら、いつもだったらこのまま違う話題にするところを、自分でも何を思ったのか広げてみた。
「なぁ仮にさ」
「ん?」
「カリナとクリスがちょっといい感じにーとかってなったらどうすんの」
「恋愛的にか」
「そう」
「恋愛的にか……」
ハンドルを回す手を少し緩めて聞いてみたら、リアスは一瞬驚いた顔をして、でもすぐにいつも通りの無表情に戻って考え出した。たっぷり考えたあと、口を開く。
「とりあえず話し合いなんじゃないか」
こいつに話し合いをするという発想があったことに驚いてしまった。
「え、話し合いとかすんのお前」
「失礼だな。そりゃ必要ならするだろう」
「必要なときすら問答無用で叩きのめすイメージしかないんだけど?」
「拳で語り合うって言うだろ」
「できれば言葉でお願いしたい」
お前が拳で語り合ったらそりゃ勝つわ。
「まぁカリナに手を上げたらお前から暗殺されそうだからさすがにちゃんと話し合いはする」
「そんな暗殺なんてしねぇよ……やるなら正々堂々と殺る」
「なお悪いわ」
逆の立場ならお前だってそうするだろ、と言うのは返答がわかりきってるからやめた。
「話戻すけど、いい感じになったのを目撃してー、実はカリナがそう意味でクリスティアを好きだった、って言われたら?」
「クリスティアの気持ちによる」
「カリナのことが好きでお前のことは恋愛的にじゃない」
「そうしたらまぁ譲る」
ですよね。
「気持ちはわかるけど他人から見たらここまで執着しといて? ってなるよね」
「俺があいつに執着しているのは失うのではないかという不安からであって愛しているからじゃないからな」
「その言い方語弊生んじゃうから」
「安心しろちゃんと愛している」
「知ってるけどそうじゃないんだわ」
愛してるのは嫌と言うほど知ってるよ。
「失わないのならここまで執着はしないよね、お互い」
「まぁここまで執拗に縛ったりはしないだろうな」
「わかる」
「それに俺は元々恋愛に関しては追いかけさせたいしな。目に見えて執着するタイプじゃなかった」
「今お前が追いかけてクリスが追いかけられてるけどな」
「そうなんだよ」
そうなんだよじゃねぇよ。つーかこいつと話してるとツッコミどころ多すぎて話めっちゃ逸れる。
「話戻していい?」
「どうぞ」
「もう話逸らすなよ」
「お前がツッコまなきゃいい話だろう?」
ツッコませる発言をするのはお前だよ。そう言いたいのをぐっと抑えて進めた。
「なんだっけ……。そうだ、クリスティアが、お前とカリナから求愛されてます」
「はい」
「でもクリスは両方選べませんでした。どうする?」
「そんなもの三人で付き合えば解決するだろう」
いや大問題勃発だろ。主にリアスの社会的に。すげぇ最低男だけどいいの?
「そこで普通譲ったり譲らなかったりのバトルすんじゃないの」
「俺達がバトルしようが、クリスティアが決められないんだったらあいつの想いを汲んで、両方と付き合った方が幸せだろう」
「あとはバトルしないで譲るとか。レディーファースト的な」
「恋愛にファーストも何もねぇだろ……相手が女だったら譲るのか?」
「すげぇかわいい子で幸せにしてくれるならいいんじゃないの。かわいい子二人って見てるだけで目の保養になるし」
「……まぁ、それはわからなくもない」
「あ、お前もそういうのいける感じ?」
予想外の同意にちょっと楽しくなる。正直”悩んでいるなら女相手でも身を引くな”って言うと思った。
「別に可愛い女が仲良くしていて気分を害する男はいないだろう」
「お前そういうまともな感覚あったんだな」
「喧嘩売っているのか? 俺だって男だ」
「じゃあカリナとクリスがいちゃいちゃしたら?」
言いながら、カリナたちを指す。リアスが見たのを確認してから、俺もそっちに目を向ける。二人で笑いながら(クリスはちょっとわかりづらいけど)、楽しそうにしていた。うん、いやされる。あそこくっついたら運命変わんねぇかな。なんて思いながら視線を戻せば、リアスも同時にこっちを向いた。目で”感想は?”と尋ねると。
「……これ以上新しい道は開きたくない」
予想以上によかったようだ。
新しく楽しみができたところで、ちょうど終わりのブザーが鳴った。ゆっくりと、回っていたコーヒーカップが動きを止めていく。
「結構楽しかった」
「男二人のコーヒーカップは別に楽しくも何ともないだろう」
「お前の新しい道が開けて?」
「おいまだ開いていない」
話ながらカップを降りて、出口へと向かう。このペア初めは嫌だったけどカリナのおかげでリアスの新しい道開けそうだしむしろ正解だったな。ちょこちょここのネタ出してやろう。なんだかんだ律儀なやつだから話に乗ってくれるし、たぶんマンガとか小説読ませればどんどんハマるはず。楽しみに口角を上げれば、リアスには変な目で見られたけど、思惑に気付かれないように笑ってごまかしといた。
ちなみになんでコーヒーカップの組み合わせがこうなったのかを知ったのはもっと先の話である。
『結局僕らは似たもの同士』/レグナ
無表情。
片方の男は元からですが、愛する兄も無。
おかしい。もっと表情豊かな人なのに。
近くのカップに乗る男性陣を横目で確認しながら、小さく息を吐いた。
事の発端は、一週間ほど前。
入学してまもなく、私たち幼なじみがクラス分けにされたペアで付き合っているという誤解が起きました。私は準備で先に授業に行ってしまったのでその場にはいませんでしたが、その誤解をなんとなくレグナが解いてくれたとのこと。後に話を聞いて「ああ、これでまた少し平和が戻るんですね」とレグナとほっとしていたのもつかの間。
次の日学校に行っていつものように四人で廊下を歩いていれば、なにか不思議な言葉が聞こえてくるではないですか。
「ねぇ、リュウレン歩いてるよ」
「あ、リュウレンだ!」
……はて、リュウ=レンなんてうちの学校にいたでしょうかと聞こえてくる単語に耳を傾けてみます。
「今日も隣同士で歩いてるね」
「仲良いよねー」
聞いていけば、それは人の名前ではあるようですが一人の人物を指すわけではなさそうです。もう少し詳しく聞こうと、クリスティアの話に相槌を打ちながら女子たちに意識を傾けていけば衝撃発言が。
「あそこって炎上君がほかの幼なじみの子全員と付き合ってるんでしょ?」
そんなバカな。あれ、レグナがそれとなく誤解を解いたのでは? というかさりげなくリアスとレグナも恋人みたいになってるんですがどういうことなの。リュウレンって龍蓮のことですか。うちのリアスとレグナのことでしたか。そこまで考えて、一つの答えを導き出す。
……これっていわゆるBLですよね?
太古の昔から同姓同士で愛し合い生涯を終えた方々も見たことがありますし、ご相談をされたこともあったのでもちろん存在は知っています。最近ではBLやGLというんですよね。そして現代ではそう言った愛を想像(創造)するフジョシなるものも存在するというのも存じています。転生者たるもの現代のことを勉強するのは当然ですから。さすがに自分の身内がその対象になるとは思いもしませんでしたが。まぁ妄想は自由ですしそこはいいでしょう。
さて、転生者たるもの現代のことを勉強するのは当然のこと。人生を無難に過ごすためには、どんな話を振られても答えられることが大事。知識はあって損はない。というわけでその日から龍蓮、つまりBLなるものはどういったものなのかをもう少し深く勉強すべく観察することにしてみました。
その第一段がこのコーヒーカップ。本来ならば日常の中で見れれば一番いいのですが、まず第一にクラスは離れている。加えてリアスはクリスティアと常に一緒にいるし、四人で歩くときは基本的に男性陣は後ろを歩いているし、彼らが二人きりになるのなんて私が見ることのできない男子更衣室か私たちのお手洗い待ちのとき。
これではいけないと思っていたところにリアスが遊園地に来ることを許可してくれたのでこれは天からのGOサインだと思い、リアスを買収して男女別でコーヒーカップに乗ることに成功しました。もちろんリアスを買収するためのクリスティアの写真ももう撮影済み。私も欲しいので。
そしてきちんとクリスティアを見つつ、リアスたちを観察している現在に至ります。
なのに二人とも無表情とはどういうことなの。
百歩譲ってそういう方向に行かないのは良しとしましょう。彼らはノンケであり想い合っているわけではない。
だがしかし友情的な面では一番信頼し合っているのだから楽しく会話してもよいのでは??
「クリス」
「なーにー」
「楽しいです?」
確かめるために彼女に聞いてみる。
すると目の前の子はふわっと頬をほころばせた。
「とっても」
これですよこれ。これ。かわいい最高。
こういうふわっと笑う感じが彼らにはない。
その顔をスマホに収めることは忘れず、今一度男性陣に目を向ける。
「……」
やはり無。
多少会話はしているようですがとても楽しそうとは言い難い。
え、そんなにつまらなかった?
新鮮で中々楽しいねみたいなのを期待したんですけど全然なかった?
クリスティアはこんなにかわいいのにと、先ほど撮った写真を見る。
そこで、思い出した。
そもそも今日ってリアスが頑張ってる日じゃありませんでしたっけ。
それの手助けをするって言いませんでしたっけ。つい一時間ほど前に。
しまったミスってしまった。
初っ端からくじいてどうするの私。
えぇぇごめんなさいリアス欲望が勝ってしまいましたわ。
私だけかわいいクリスティアを拝んでしまってごめんなさいめちゃくちゃかわいいです。
回る視界の中でふわふわと楽しそうに微笑んでいるクリスティアを見る。
どうしよう罪悪感やばい。
実験するのなんてもっと違うときにすればよかった。
顔色が悪いのか、前でカリナ大丈夫と心配してくれる天使には大丈夫と返しておいた。
いや全然大丈夫じゃないんですけども。
やらかしてしまった感がすごすぎるんですけども。
リアスとレグナがくっついたら運命変わりそうだなとか考えていたんですよ時期が早かった。
どうしましょう。
ねぇねぇとのぞき込んでくる水色の頭を撫でてあげながら主にリアスへの懺悔を考えた。
クリスティアのかわいい写真をあげたら許してくれるかしら。
幸いストックならたくさんある。何故なら学校生活では私の方が彼女と一緒にいることが多いから。更衣室とか化粧室とか。
確か体育の着替え中のものがありましたよね。かわいい下着で思わず激写したものが。
あれでいいかしら。いいですよね? 最高じゃないですか。
あなたが選んだ下着をこんなにかわいく着てますよってことで許してくれますよね?
「…カリナ?」
「はいっ!?」
なんて考えていれば、クリスティアに袖を引っ張られ名前を呼ばれました。びっくりして素っ頓狂な声が出ちゃいましたわ。
「終わったよ?」
彼女は小首を傾げてそう教えてくれます。あぁ天使がいると思いながら景色を見れば言われたとおり止まっていました。え、いつの間に。
「失礼しましたわ。行きましょうか」
「へーき…?」
「えぇ」
手を差し伸べてくれる彼女に頷き手を取って、共に歩き出す。
出口では、すでに降りていた男性陣が待っていました。あぁごめんなさい。
「おかえりー」
「ただいま戻りましたわ」
「楽しかった…」
「そうか」
合流して、彼らの後ろを歩く。
今罪悪感がやばい。
「カリナ」
なのにどーーーしてこの男は隣に下がってくるのかしら。目は見ずに聞く。
「なんです」
「体調でも悪いのか?」
そんなに私顔色悪いです??
「大丈夫ですわ」
「無理はするなよ」
やめて優しさが心にしみる。
ぎゅっと胸元を握りしめた。
「あの」
「ん?」
紅い目が、こちらを向く。
どうする謝るか。
謝ることは大切ですわ。けれど謝ってしまったら彼は優しいから絶対に気にするなと言う。
なんだかんだ楽しかったと。
それが予想できて、ぐっと黙ってしまった。
「カリナ?」
「えぇと」
気遣いの言葉が欲しいわけじゃない。だから言葉で謝るという選択肢はなしにした。けれど声を掛けたからにはなにか言わなければいけない。
なんとか話題を見つけようと、前の二人を見た。
楽しそうに笑う兄と親友。
その幸せな姿を見てどうしてあれを思い出したのか。
息を吸って、紡ぐ。
「…………ク」
「ク?」
「クリスティアの、着替え写真、いりますかっ」
勢いで戻した視線の先に映ったのは、「こいつ本気で大丈夫か」と言わんばかりの顔をしたリアスでした。
『どうか彼女にはご内密に』/カリナ