金曜日。体育の着替えがあるからと女子組とは一旦別れて更衣室に向かう。
リアスにサンタの友人説について睨まれたけれど、おかげで夢を壊さずに済んだでしょと得意げに笑いながらドアを開ければ。
「あ」
「ん?」
「おー」
「こんにちは後輩さん」
何故か胴着を来た武煉先輩と陽真先輩が。
「先輩たちも次体育か何か?」
「んや? オレらは三時限目は元から休講」
「昨日、剣道の時間に祈童からおもしろい話を聞いてね。是非本人たちから聞こうと思ってきたんだ」
「刹那ちゃんの前じゃ話しちゃだめなんだろ?」
なんて言われたら、内容なんて決まってるわけで。
うなずきながらひとまず着替えるためリアスと一緒にロッカーへ。
「一応言っておくが刹那以外はサンタはいないと知っているからな」
「んだよザンネン。龍クンも信じてたらカワイーのによ」
サンタを信じてるリアスを想像して一瞬身震いしてしまった。それがわかったのかリアスが肘でわき腹をど突いてくる。痛いってリアス。でも俺の身震いする気持ちもわかるでしょ。恨めしげに睨んでからワイシャツのボタンを外すのを再開して。
「その様子なら先輩たちはサンタはもう信じてないの?」
「まぁだいたいは小・中学生あたりで親からばらされるものでしょうね。俺は元々サンタは来ませんでしたけど」
なんかさらっと闇を見た気がするんだけどこれ突っ込んじゃだめなやつだよね。そっかーなんて当たり障りなく返して、ひんやりする体育着をかぶる。
「んで? そのサンタをカワイく信じてる刹那ちゃんのために龍クンが頑張るって?」
「幼なじみ総出でな。あんたらも口裏は合わせてもらうぞ」
「とりあえずサンタはいると貫き通せばいいんだろう?」
「うん、あと龍とサンタは友達になってるから。そこんとこもよろしく」
おっと陽真先輩盛大に吹き出したぞ。
「たぶん日が近づくに連れて刹那から”サンタさんに何お願いしたの”って来ると思うから。適当に返しといて」
「ふはっ、はー、リョーカイ」
「たしか誕生日もイブだとか?」
このヒトらほんとに情報早いな。もうそれには驚くことも少なくなったので、うなずきながらジャージをかぶった。
「プレゼントはもう決めているのかい? クリスマスシーズンだと混むでしょう」
言われて、ズボンを履き替えて思い出す。
そうだよ。
「そうだよプレゼント、龍。刹那のサンタの」
身なりを整えてからリアスを見たら。
先に着替え終わってる親友は、ロッカーにもたれ掛かりながら微妙な顔。
え、なんで微妙な顔?
「……なにその顔、龍さん」
「トンデモねーものだとか?」
「彼女から迫って欲しい、だとかなら嬉しいね」
「俺もそれなら大変嬉しかった」
ということは違うと。どんまいリアス。心の中でねぎらって、親友の答えを待つ。
気まずそうに目をそらして数秒。
ゆっくりと開いた口から出たのは。
「……思い出が欲しいんだそうだ」
なんともまぁアバウトなものでした。
なんて?
「刹那が思い出って?」
「思い出だと」
「いつものぬいぐるみーとかそういうんじゃなく?」
「そういうんでなく。本人はもうたくさんもらっているから特に思い浮かぶ物がないんだそうだ」
「あーまぁそれは確かに納得する」
数千年毎年もらうとなるとレパートリーは減るわな。
「そして本人曰く、いきなりいらないと言うとサンタがびっくりするからとりあえず思い出がもらえるか聞いてほしいと」
「ごめん刹那のその考えはちょっと理解できない」
「聞いたオレらがびっくりするわ」
「俺も驚いたわ。可愛いだろう」
「突然の惚気どうもありがとうございます。それで、思い出と言われて頷いたのかい?」
「それで貫き通すと言っておいた」
「なんで龍は自分でどんどんハードルを上げてくの??」
「刹那のためなら頑張りたかった」
「うん、その頑張りは認めるけども」
そして俺もヒトのことは言えないけれども。
若干かわいさのある親友に苦笑いをして制服を緩く畳みつつ、言われた今年のお題をどうするか思考していく。
「思い出……思い出……? え、もしかしてお出かけ?」
「いや、本人はそういうのは望んでいないらしい。幼なじみ四人でいれたらそれでいいと」
「四人でというのが固定なら、恋人特有の思い出というのはできませんね」
「そもそも俺の選択肢にはなかったが?」
「こーゆーイベントのときが進む大チャンスだろ?」
「先輩たちあの、プレゼントがサンタからじゃなくて龍にすり替わってる」
サンタから恋人特有の思い出いきなり渡されたらトラウマなるわ。
脱線しかけたものを戻し、もう少し時間があるからと四人で揃って腕を組み悩む。
「とりあえず四人でパーティーするじゃん?」
「そうだな」
「刹那ちゃん的にはそういう出来事が欲しいっつーコトなんだろ?」
「そうなるね。けれどサンタからのというプレゼントにはならないな」
うーんと首と頭をひねるも、思い出というアバウトなものだとなかなか出てこない。
「今からどっか貸し切りっていうのも難しいよね」
「そもそもクリスマスシーズンですからね。基本的に貸し切りを受け付けない場所が多いんじゃないかな」
「外出るっつってもオマエがあんまりだろ?」
「刺されたら困る」
「発想が飛びすぎだろ」
実際刺されたこともあるんだけれども一旦そこは置いといて。
時計を見て、時間切れと腕をほどいた。
「とりあえずクリスマスまでまだ少し時間あるし、華凜と相談するよ。こういうのはたぶん華凜の方がいいかも」
「頼む」
「オレらもなんか探してみっか。蜜乃ちゃんあたりならなんか知ってんだろ」
「ちょうど次は休みだし、そうしようか」
なんか毎回手伝ってくれて申し訳ないんだけれども。たぶん言っても「同盟だから」の一点張りになりそうなので。
「ありがと先輩。連絡は俺か華凜の方にしてくれれば」
「オッケ」
笑った先輩たちにもう一回お礼を言って、そろそろ行こうかと歩き出す。
それにしても思い出ねぇ。
「また今年は全部ハードルが上がってんね」
指折り、数えていく。
「サンタの進入ルート、プレゼント調達……そもそものプレゼント内容……」
それと、
「テスト頑張ったらご褒美説」
そう、四つ目を折ったときに、リアスが「ん?」ってこっちを向いた。それに俺も「ん?」ってリアスを見る。
隣の親友はちょっときょとんとした顔。
あれ。
「刹那から聞いてない? 龍がーって杜縁先生言ったから覚えてるはずだけど」
「杜縁の件なら聞いているが。いい子にしていたらプレゼントが豪華になると」
おっとざっくりはしょられてるぞ。
「先生が言ったのは、”プリントを読んで自分なりに頑張って受けられたら、いい子だと褒めてプレゼントが豪華になる”、だけど」
「全然ちげーな刹那ちゃん」
「いい子の部分しか残っていなかったようだね」
だからか。
なんて腑に落ちたのは俺の方。
だからテストに危機感がなかったのかあの子は。そして目の前のリアスも。
あ、リアスだんだん引き笑いになってる。
「……ところで龍さん、しっかり伝達できたところでわかったと思うんだけど」
今年のハードル具合が。
「……そうだな、プレゼントよりもまず先にやらなければならないことがあるな」
更衣室を出る手前でどうしたってこっちを向いた先輩たち。俺は武煉先輩、リアスは陽真先輩の肩をがしっと掴んで。
「「刹那と身長・胸のサイズほぼ同じで体力がある人物は」」
口をそろえて言った言葉に。
「「……は!?」」
珍しく、二人の揃った驚いた顔を見た気がしました。
『胸のサイズは重要です』/レグナ
自習期間中に冬休みの遊ぶ日を決めようかと来たんだけれど……
…
読書中
読書中
読書中
……話を進めても?
へーき
不安だなぁ
ちなみに四人の今回のテストって……
体育球技ー
体育球技……
旦那は”短期間の体力アップ”だな
波風クンは”暗示で相手を意のままに!”だね
愛原さんは辞書を読んでますわ
えっと、テスト項目なに??
体力テスト
炎上君しかテストに関係あるの読んでない……
♦
ひとまず日程はこれで大丈夫そうか
うんっ
嬢ちゃんにはメモも渡しとくからな。そんで場所はどうすんでい。旦那は人混み苦手だろ?
みんなは入れてみんな楽しめるところって知ってる? 四人で遊ぶ時にどこ行くかな
…。あ
あった?
華凜のおうちなら、いろいろ用意してくれるからだいじょうぶ
……勝手に決めていいんですか氷河さん
あとで伝えとくね…
今あの集中状態に声をかける気はないんだな……
運命はいつもいじわるすぎると思う。
「それではこれより体育球技のテストを行う」
どうして、がんばろうって思うことに対して。
「項目は体力テストだ」
こんな風に壁を作ってくるの。
みんなで受ける体育球技のテストの日。朝一番にみんなで体育館に集まって説明を受けて、このテストにしたことをとっても後悔した。
体力テスト。ふつうの学校なら一年の始めにやるやつ。
そしてわたしはあんまり好きじゃないやつ。
握力とか砲丸投げとか短距離走とかもあって、そこは問題ないんだけれど。
好きじゃないのは、シャトルランとか腹筋とか。体力使うもの。スピードなら自信はあるけれど、体力はなくてすぐバテちゃう。
これがいつもどおり学校生活が始まるーってときだったならよかったのに。
「どうして今日なのー…」
一通り説明受けて順番待ちで体育館のすみに四人で座って。
思わず、ひざを抱えてしまった。
「バスケやサッカー……どの球技の道に進むにしても、笑顔にするためには基礎体力からって理念はわかるんだけどね」
「うー…」
カリナかな。やさしく背中をさすってくれるけど、十二月に入ってからわくわく上がっていたテンションは今とても落ちてしまっている。
だって。
いい子でいられなかったら、サンタさんはプレゼント豪華にしてくれないから。
いい子にしてるってことは、テストもしっかり受けること。ちゃんとがんばること。あとは説明のとき先生が言ってた、最低限のラインはクリアすること。
それができなかったら、みんなで楽しむ思い出が、もらえなくなっちゃう。
せっかくみんながいろんな悲しいこと忘れて、楽しめる日になるはずなのに。
わたしのがんばりが足りなかったら、全部なくなっちゃう。
「…」
それはやだ。でも体力自信ない。シャトルランなんて平均のちょっと上ってことで最低七十回。
「シャトラン七十なんてしんじゃう…」
「死なないでくれ頼むから」
「だって今まで四十も行ったことない…」
むしろほぼ毎回「劣ってる」のところかぎりぎり「やや劣っている」のラインだったもん。この学園じゃ成績とかはないから別にクリアできなくても学校生活に影響なんてないけれど。
クリスマスのみんなの楽しい思い出はわたしにかかってるのに。クリアできないかもって、もう涙が出そうになってくる。
ぎゅうってひざを抱きしめたら。
頭に、ぽふって手が置かれた。でもいつものあったかいのじゃない。
そっと、目を上げた先にいたのは。
「蓮…」
オッドアイのそのヒトは、やさしく笑ってる。いろんなヒトの名前が呼ばれる中で、レグナが口を開いた。
「サンタさんってさ、最低ラインクリアしなきゃ頑張ってるって認めてくれないヒト?」
「…?」
「杜縁先生が言ってたじゃん。”自分なりに頑張って受けられたら”って」
「いい子にってゆってた…」
「うん、自分なりに頑張れる子はいい子でしょ? 刹那が手を抜かずに全力で頑張れば、たとえ最低ラインに行かなくたってサンタさんは認めてくれるよ」
ね、って。
やさしく頭をなでられながら、言われた言葉を頭でちゃんと考えて。
うなずく。
「…刹那ががんばったら、ちゃんとサンタさんプレゼント豪華にしてくれる?」
「大丈夫だよ」
「みんなに楽しい思い出、くれる?」
「もちろんですわ刹那。だから頑張りましょう?」
大好きな笑顔で笑ってくれるカリナを見て、最後に。
リアス様を見たら。
大丈夫って言うようにやさしく笑ってくれたから、ちょっとだけ心が軽くなった。そうしてもっかい、うなずく。
「がんばる」
「ちなみに無理することと頑張ることは違うからな」
「うんっ」
しっかり返事をしたら、リアス様もよしってまた笑ってくれて。
「氷河、炎上、波風、愛原」
出番が来たみたいで、四人で立ち上がって先生のところに向かった。
♦
シャトルランは一番体力使うってことで、他のに影響が出ないように最後らしく。
四人でまずは握力のとこに案内された。ちょっと重い測りを、リアス様に渡されて。
「間違っても壊すなよ」
余計な一言はスルーしまして。
右手で持って、姿勢を正して落とさないようにしっかり握る。
「私が見てますね」
「はぁい」
カリナが測りの隣にしゃがんだところで、
「ふっ…」
ぎゅって、力を込めてカリナを見て──
「……」
ちょっとなんでそんな笑顔で固まってるの??
そしてなんでリアス様とレグナも寄ってきて二人とも「うわぁ」って顔してるの?
「なにその顔…」
「刹那また握力上がったね」
「うそ」
「嘘じゃないが」
ほらって指さされて測りを見たら。
おっと68なんて数字が目に入るじゃないですか。えっ違うよ。違う違う。
「わたしの記録は58…」
「中学より10も上がったのか」
「違うの、ほら、最初から10プラスになってた…」
「私がしっかりゼロであることを確認しましたが」
「一、ついてなかった…??」
「ついてませんでしたね」
「えぇ…」
「刹那、間違ってもいらついたときにヒトの首は持っちゃだめだよ。絞め殺しちゃうから」
「そんなことしないもんっ」
むってほっぺをふくらませた空気はリアス様に抜かれて、反対もって言われたから仕方なく測りを持つ。
「ゼロ…?」
「ゼロですね」
測りの前にしゃがんだカリナに確認をとって、
「ふっ…」
もっかい、ぎゅって握ってカリナを見たら。
今度は笑顔でわたしを見上げてた。
「おめでとうございます、同じく68です」
うわ全然うれしくない。
「かよわい女の子がこんな数値出すはずないのに…」
「数値が見えたんだからそろそろ受け入れろ、かよわくないと」
「今ならその首めがけて腕伸ばせそうな気がする…」
「やめろ死ぬ」
のばした腕はひょいってかわされて、そのままリアス様はわたしの測りを持って行く。
「むくれるのは構わないが数値見ていろよ」
「はぁい…」
言われるがまま、カリナみたいにしゃがんで。リアス様が力を入れて動くメモリを見たら。
あら不思議、68じゃないですか。
「龍握力おそろいだね…」
「複雑なおそろいだな……」
「お揃い喜ぶよりもそろそろ握力追いついたことに恐怖感じない?」
「せっかくっ、気分をっ、上げようとしてるのにっ…!」
彼氏様と握力一緒とか複雑すぎるのにっ。
「華凜…二人がいじめる…」
「あらあら、私でしたら数値のおそろい嬉しいんですけれどね」
「華凜も握力68になる…?」
「ちょっとトレーニングに加えておきますね」
なんて嘘かほんとかわからないことで笑って、余りの測りでカリナとレグナも計測終わったみたいで、次のところへ歩き出した。
すぐ隣にあるのは、腹筋のところ。マットが敷かれてて、空いてる二つのとこに四人で座る。
「片方が押さえるんですよね。基本は男女の同性同士がペアですわ」
「お前が同性同士にしたいのではなく?」
「あなた今までの体力テストの記憶なくしたんです??」
「お前から同性同士と聞くともう狙っているようにしか思えなくなった」
「わたしも狙いたい…」
「お前は本恋人を狙ってくれ頼むから」
そこも狙いたいんですけれども。
話しながら同性同士で別れて、マットに座り直す。
今上体起こしやってるヒトたち側に座ったから、流れでわたしが寝ころんで、カリナが足を押さえてくれた。
「タイマー行きますよ」
「はぁい」
「よーい」
スタートの合図で、体を起こす。
ひじを足にちゃんとつけて、また寝っ転がって。もっかい上がってを繰り返してく中。
「…っ」
目が行くのは、ちょうどカリナの首の下。
いわゆるお胸部分。
「んっ…」
「がんばってくださーい」
「ふっ」
体を起こす度にその、なんだろうね。谷間じゃないけどちょうどきわどい部分がちらっちら見えて。
「華凜胸で気が散るっ…!」
「失礼なっ!」
言った瞬間隣の男性陣吹き出しました。
「ちらちら、見えるっ…!」
「そんな見えるような作りじゃないでしょうよ! ほらあと十秒ですよ!」
「十秒もそんなの見れない…!」
「集中! 隣も!」
カリナが隣を見て言うから思わず見たら。
なんと同じく腹筋してるリアス様も、それを押さえてるレグナもうずくまって笑ってるじゃないですか。
「ふ、ふふっ、記録つけらんなっ……」
「っ、上体起こしでなく腹筋が痛いっ……ふはっ」
どうやらわたしよりも大ダメージのようで。珍しくリアス様の記録は最低ラインぎりぎりでした。
ちなみに逆のときはカリナの揺れるお胸が魅惑すぎて、それを言ったらレグナも最低ラインぎりぎりになりました。
♦
そうして得意の短距離走とか長座対前屈もみんなで笑いながらやっていって。
少し休憩を挟んで、体育球技を取ったヒトが全員揃った状態でやる最後の種目。
シャトルラン。
なんですけれども。
「…龍へいき?」
「死にそうだ」
シャトルランでペアを組むリアス様が始める前から死にそうです。
「無理しないってゆった…」
「俺が今死にそうなのはこれからのことでなくお前がこのテスト内でやってきたことだな」
「えぇ…? わたしなにそんなした…?」
「上体起こしで笑わせてきたじゃん」
「あれは事故…カリナのお胸が魅力的なのが悪い…」
「とんだ風評被害ですわ」
通常サイズなのにって言うカリナにはうそって心の中で返しておいて。
「ほかに…」
「短距離や砲丸投げはまだ良しとしよう。問題はさっきの長座対前屈だな」
「軽く押しただけ…」
「嫌な音が鳴る程度のどこが”軽く”だ」
「龍の体がもっと行きそうだから手伝っただけのに…」
「手伝った記録はカウントなしになるとして、お前俺の体の可動域ぐらい知っているだろう」
「手が足の先に着くくらい…」
「そうだな」
「人類はもっとやわらかい…」
「一般的には俺の可動域も柔らかい部類にはいるんだが」
「龍から一般的って言葉聞くと思わなかった…」
あっ、待ってほっぺそんながしって掴まないで──いたたたたたた。
「がんばれなくなっちゃう」
「ヒトを笑わせる方で頑張ったんだからサンタは十分豪華にしてくれるだろうよ」
「どうする、この子は笑わせたいんだって言ってサンタさんがコメディ系のプレゼントにしてきたら」
「それはそれでいいけども…」
みんなで笑えるなら。
たださすがにそっち方面でがんばった覚えがないので複雑なので。
「第一走者準備ー」
こっちをがんばりたい。
先生に声を掛けられて、四人で目を合わせてからうなずく。リアス様に手を離してもらって、私とレグナが立ち上がった。
「がんばってくる…」
「あぁ」
「応援してますわ」
「ん…」
「行こっか刹那」
「はぁい」
白い線に立って、少し遠くにある目印の線を見据える。
目標は、最低ライン。
足がもつれても、息が苦しくても。
みんなで笑える思い出を作るために。
合図に、一歩足を引いて。
「始めっ!」
合図の声に、足を踏み出した。
♦
無我夢中で走って、走って。
気づいたときには、全部の景色が変わってた。
「…?」
目を開けたら、真っ白な天井。部屋からは、運命の最後の方になるとレグナの部屋からよく香るようになる薬品っぽいにおい。
でも、レグナの家じゃない。
ここ、どこ。
確認しようと思って、首をちょっと横に倒す寸前。
ふわって、頭が撫でられた。とってもあったかい手。
リアス様だ。
そっと、目を上にあげたら。
いつも起きたときと同じ。やさしい顔の、リアス様。
それを見て、思わずほっぺがゆるむ。
「りあ──」
紡ごうとした名前は、そっと人差し指で止められた。なんでってリアス様を見ると、手はほっぺに、やさしく添えられる。
「保健室」
「ほけん、しつ…」
「そう。気分は」
「…?」
「息苦しさはもうないか」
「…」
言われてることがよくわかんなくて、寝っ転がりながら首をかしげたら。やさしい声で、ほっぺをなでながら教えてくれる。
「酸欠で倒れたんだ」
「たおれ…?」
「夢中すぎて覚えてないか?」
言われて思い返してみる。途中からは、言うとおりあんまり覚えてないけど、でも。
最後は、覚えてる。
息も苦しくて、涙が出そうで、気持ち悪くて。でも、全然記録、ラインに届いてなくて、走り出そうとしたとき。
「がんばったな」ってあったかい体温が抱きしめてくれたこと。
「…りゅーが、抱きしめてくれた」
「ん」
「がんばった…?」
「頑張った」
記録、行ってないけれど。でも、
がんばったなら、
「…サンタさん、思い出くれる…?」
みんなが「楽しい」って思う、思い出。
運命のことなんて忘れて、大好きな人たちと心おきなく過ごせる、そんな日に、できる?
あったかい手を握りながら、リアス様に聞いたら。
いつもならこんな風になったら心配そうで、いいつけ破って無理もしちゃったから怒ったりもするはずなのに。
紅い瞳は、やさしいまま。
ほほえんで、うなずいてくれる。
「刹那がこれだけ頑張ったんだ」
こつんって、額を合わせて。やさしい声が落ちてくる。
「ちゃんと叶えてくれる」
約束みたいな、そんな言葉。
普段は絶対、未来のことをこんな風に言わないのに。
がんばれたからかな。
でも、もうこれだけで、すてきなプレゼントだよって言うのは、内緒にして。
「うん…」
当日、もっとすてきな四人の思い出がサンタさんから来ますように。
願いを込めながら、リアス様にうなずいた。
『体力テスト!』/クリスティア