文化祭準備中
いくらでも買いそう

氷河サンどういうもの売りたい? 参考に!

…。…! 華凜が喜ぶやつ!

わー、いい――。……!

あれ、これ氷河サン置いとけば一番いいのでは?
一緒にパズルしてる閃吏と交互に当てはめてくちょっとしたバトル中

せんりつよーい

あは、得意だからねー。……全部こんな感じで、簡単に当てはめられればいいのになぁ

…?
三組準備中

そういえば……今回冴楼君出さないの? 去年は出してたんでしょ?

当日は出すが。準備中声をかけても出たがらなくてな

さみしー…

体調悪いのー?

いや……、どうも俺と刹那二人でいると出たがらない。二人の世界を邪魔してはなんとかと言って

なんだかんだ冴楼さんも龍刹ガチ勢なんですね……
四組 定例会議前ルート決めのときの話

さてざっくりとは言われているけれど……二年目ですっかり慣れたが広いんだよな学園全体は

ぽ、ポイント多めにしちゃうと周りきれませんよね……

子供やお年寄りになるとまた変わっちゃうわよね時間。歩幅とか違うし

そのあたりも考慮して決めていかねばなりませんね

……。! お年寄りは今一旦抜きにして子供で考えてみよう

え

子供と言えば?

刹那ちゃんだわ!

せ、刹那ちゃんと言えば……

愛原だな

え

ってことで華凜、とりあえず刹那が楽しめそうなルート頼んだ

ちょっと嘘でしょう??
とりあえず考えてはみた結果

……龍がいればどこでも楽しめそうな気がしません?

確かに……

ひとまず全部を周るのは体力&時間的に厳しいということでルール変更をしてみましょうか

賛成
五組 サロンをやることになったウリオス&ユーアクラス

氷河たちもお呼びするですっ

けどよぉ坊ちゃん。嬢ちゃんは触られんの好きじゃねぇだろ? 楽しめなくないか

ユーアに提案があるですっ

? ――なるほどな!
五組はユーアの案を採用して「特別優待チケット」を作成して三組へ

氷河っ

ユーアっ♡

あげるですっ

? とくべつ、ゆーたい…?

サロンだっけユ―ア君

はいですっ。氷河!

はぁい

当日、とびきり楽しませるですっ。必ず来るです、待ってるです!

もふもふなびかせてかっこいい……

オイラは姐さんにな。待ってやすぜ姐さん

必ずお訪ねしますね♪
準備期間一週目の水曜日は定例会議!

全員で歩幅を変えつつ歩いていった結果、時間によっては周りきれないことが発覚しました。ということでルールを変更させてもらいまして、スタンプに関しては当初の”集めきったら景品”ではなく”個数に応じて景品が豪華になる”という仕様にさせていただければと思います。各ポジションには人数の関係上一人ずつ配置、またヒントはあらかじめスタンプ用紙に記載するという形で――
♦

全員合意とはさすがでしたねー! 愛原班、期待以上の成果でしたー! まず愛原さんの情報収集能力、そして発表能力はさすがですね~。そして道化さん、雫来さんの柔軟な発想によるヒント、それを冷静な目線で判断できる波風くんと祈童くん。まさかここまでのクオリティでまとめてくるとは予想外でした~

ぅ、嬉しいです……

ちょっと照れるけどね

さすが普段からあの陽真たちとも遊んでいるだけのことはありますね~。下手にメンバーを追加しないで正解でした~。というわけで~

!

引き続きこの五人で確定までよろしくお願いします~!

うわぁ

仕事ができるとさらに仕事が来るという社会の闇を感じますわ……
本の邪魔にならないように気を付けて、腰の下くらいまでの台を、風魔術で少しずつずらしてく。
「ここらへん?」
「もう少し右の方がいいんじゃないか」
「おっけ」
遠目から見てもらってる祈童からアドバイスをもらいながら、その台はほんの少し右へ。
「どー?」
「すまん、若干左だ」
「ここらへん」
言われた通りにミリ単位で左へずらして、すとんと台を地面に下ろす。
そうして祈童を見れば。
頷いて。
「いいと思う」
ようやっと、了承をもらったってことで、祈童に笑った。
週も開けた水曜日。うちのクラスでは昨日から全員で文化祭の内装やら衣装やらの準備に入ってくって段階に切り替わりまして。
ばたばたながらもスタンプラリーの企画を無事に決定まで持って行けた俺たちも当然その準備に取り掛かっていて。
俺はとくにテレポート要員として、祈童と一緒に指定場所にスタンプ台を置きに回っている。
同じテレポート要員であるカリナは女子組として雫来、道化と別方向で行っていまして。
図書館やら屋上の付近やら、若干めんどくさい場所を任された俺は、最終地点であるこの図書館で一度溜息。
「……服作りてー」
「溜息と一緒に本音が出てるぞ波風」
「そりゃ出るわ……」
今年の文化祭でまだ一切布触ってないもん。
そろそろ禁断症状出そう。それをごまかすように、置いたスタンプ台にかかってる布を触った。
「これが終わったら衣装班だろ?」
「まぁそうだけども……」
「明日か明後日には触れるじゃないか」
それもう最終チェック段階じゃん。
「俺は一から作って華凜に着せたかった……」
「人が少ないからってどんどん危ない性癖を暴露しないでくれ波風」
困る、なんて困ってもないくせに言った祈童は、確認のために離れてた距離を詰めて俺の隣へ。そうして何食わぬ顔でスタンプ台の確認。
さっとチェックを終えた後は、祈童が持ってたスタンプ用紙を数えてく。
「若干他のところより枚数が少ないかもしれない」
「まじで。持ってこよっか」
「んー、いや……?」
首を傾げながら二の四のと数えていって、十枚束をスタンプ台に置いて。
また数えて置いてを繰り返す。それを待ちながら、俺はスタンプの方を確認。
この地点でもらえるのは華のスタンプ。若干カリナを思わせるような桜の柄がちゃんと入っているのを確認して、置いといたインクを乗せた。
あ、インク付けたはいいけど紙なんかないかな。
「祈童、紙」
「何かついてるか?」
「髪の毛じゃなくてスタンプ押す紙が欲しい」
「ポケット」
数えながらでも応じてくれる祈童のポケットに手を失礼させてもらう。そこには言った通り無地の紙。さすが祈童用意いいわ。
真剣に数えているのでお礼はあとにさせてもらって、ぽんっと確認のためにスタンプを押した。
薄暗いからほんの少し暗い色に見えるけど、ちゃんとピンク色が出てる。
それを確認して、スタンプは所定の位置へ。紙は俺の手で持たせてもらうとして。
二の四の、と予備の分を数えている祈童の声を聞きながら、薄暗い図書館の中をぼんやりと見回した。
去年同様、長い間借りられない本とかを譲りに出すからか、本棚には少しだけ空白みたいなのができてる。
去年雫来からもらったラノベ結構面白かったんだよな。またなんかあんのかな。雫来今年も図書委員だし、図書の方行くよね。いる時間帯聞いてなんかもらいに行こうかな。
そう、空白のできてる本棚をぼんやり見ていたら。
「波風」
「んー」
何食わぬ声で、祈童が俺を呼ぶ。終わったかなと、祈童の方を向けば。
「ここに来たのは木乃の子への牽制かい?」
なんて。
声と同じく何食わぬ顔をしているのに。
まるで神様みたいな雰囲気をまとって、言った。
それにきょとんとしたのは一瞬。
「……別に、そういうわけじゃないけど」
「進んでこっちに来たじゃないか」
そう笑う雰囲気も、どことなく主を思い出すような感じ。
たったの数回だけかもしれないけれど、それには慣れているので。
なんの違和感もなく応じていく。
「前に華凜が帰ってこなかったじゃん。普段ならいいけど、ばたばたしてるときにまた帰ってこないとかあったら困るんだよ」
「普段の”君”ならわけも聞かずに問答無用で連れて帰ってくるのに」
「……」
黙ったのは、図星だったから。
けれどその黙った一瞬が、なにかのきっかけだったのか。
「……!」
ハッと、祈童の顔が我に返ったように変わる。
そうして俺を見て。
「……えぇと」
”やってしまった”というような苦笑い。それも慣れているので、肩をすくめておいた。
そうしてさっきの会話を続けるように、口を開く。
「若干向こうもわけありっぽいし?」
「……」
「ガチで寝てたみたいだから。今回も不問ってことで」
「……優しいね」
笑って言うその言葉は”どっち”のものか。
たぶん今回は両方かな、なんて思って、また肩をすくめて笑っておく。
それを見た祈童は、また一瞬だけ我に返ったような顔をして、気まずそうに目をそらして。
数え終えたらしいスタンプ用紙を、スタンプ台に置いた。
「……」
「……」
なんか話したげな祈童は目を少しだけうろうろとさせる。口も何度か開きかけては閉じて。
また開いては、閉じる。
「……どしたの」
それを緩く、緩く促してやるように聞いた。
その促しに、祈童は俺を一回見て、また目をそらす。
開いた口は、今度は閉じなかった。
「……その」
「……」
「前に、したいと言った……告白をしても?」
「この図書室はそういうハプニングばっかり起きんね」
「茶化さないでくれ」
真剣だ、なんていう雰囲気は。そんなんじゃないってわかってても正直”そういう”雰囲気を思わせる気がする。それは最近のあの女子組の影響か。
そう頭の中でそわそわしだす女子組は隅に追いやってから。
なんとも言えない顔をしている祈童にしっかり目を向けた。
若干予想はできてるけれど。
そして、答えも俺の中では決まっているけれど。
本人の口から言うまでは口を閉ざすと決めて、ただただ祈童を見つめる。
「……」
「……」
少しだけ奥まった図書館。薄暗い室内。
ほんの少し長く感じる、沈黙。
その、沈黙をじっくりと待っていれば。
祈童は、意を決したのか。
俺を見て、口を開いた。
「……き」
「……」
「気味、悪く、ないか」
と。
あ、ごめんねちょっとだけ予想外だったかもしれない。
「ごめん祈童もう一回」
なんて? と聞けば、祈童は吹っ切れたのかしっかり喋ってくれる。
「気味っ、悪くないのかと」
聞こえた言葉は間違いではなかったっぽい。
でも待ってね。
間違いじゃなかったのはいいんだけども。
予想外なのは変わらず。そして理解も若干できずに。
「……?」
首を、傾げてしまった。
「……何故首を傾げるんだ」
「いや、まぁその、若干予想外な言葉だったもんで……」
「まさか僕が本当にお前にそういう告白をするとでも??」
「それはなかったけども」
そこは信じてたけどもっ。
そうではなくて。
「……まさか一発目で”気味悪くないか”なんて聞かれると思わないんだけど」
「……聞きたくなるだろ」
気まずそうに目を逸らす祈童。
普段は、そこに踏み込むことはないけれど。
明々後日から文化祭。今、ここで俺が身を引けば。
もやもやした気持ちで、ほんとは楽しいはずの文化祭を過ごすことになるんじゃないかと思って。
「……なんで」
珍しく、踏み込んで。聞いてみた。
それに、祈童はまた目をうろうろとさせながら。
「……気味、悪くもなる」
ぽつり、ぽつり。この数か月、なんだかんだ後回しにさせてしまっていた”告白”を、こぼしていった。
祈童家というのは、大昔。
神に毎日毎日祈りを捧げていたことを神様に称えられて、俺たちの主でもあるセイレンから直々に「祈る童」という意味で「祈童」という名字を賜った家である。
その、祈童家に生まれた者は。
「……特異体質と言うんだろうな」
毎朝と毎晩、必ず祈りを捧げる習慣が生まれながらに身についていること。
そして。
「セイレン様が、僕らの体を借りるようにして言葉を発するような現象を起こすらしい」
「……」
まるでさっきのように。
そして今まで何回かあったように。
ときおり、主がこっちに来たかのように話すことがあるらしいと。
祈童は誇らしさなんてなく、むしろ自嘲するように言った。
「ものは違うが、まぁなんだ。二重人格みたいな、そんな風な感覚でね」
「うん」
「言った言葉の記憶とかはある」
「……」
「……時々、頭でも声がすることがある」
口から言葉が勝手に出たり、頭でも会話するように言葉が聞こえたり。
「……気味悪いだろう?」
そう言う祈童は。
きっと前に言われてきたんだろう。
どことなく、寂しげだった。
その予想を肯定するかのように。祈童はスタンプ台に寄り掛かって、下を向いて。こぼしてく。
「……おかげで友達なんていなくてな」
「……」
「高校で初めて、道化が友達になってくれた」
「そう」
「他の奴らは近づきもしなかったのに」
そうして、
「次は波風と氷河だった」
「……うん」
「そこから驚くくらい自分に友達ができて」
嬉しくて。
「……ときおり、怖くもあった」
「……」
自分を知られたら。
今までみたいに、また気味悪がられるんじゃないかと。
そうこぼす祈童から、床へと目を移す。
「……一気にこう、絶望する前に」
「聞いとこうって?」
あわよくばそこで離れていこうと。
視界の端で、頷いたのが見えた。
「……」
「……」
祈童がこぼしていった言葉を、しっかりと頭で理解していって。
まず自分の答えを出す前に、ひとつだけ聞いてみた。
「祈童さ」
「……」
「なんで俺に言ってくれたの」
一番最初の友達なら、道化がいたはずで。
もっと理解のあるやつなら、リアスだっているし。
こういう話なら、きっと。クリスティアの方が優しく包んでくれたんだと思う。カリナだってそう。
それなのに、どうしてと。
床を見たまま聞けば、小さな声が返ってきた。
「……一番最初の、女子の友達の、道化には聞いたことがある」
「どうだった」
なんて聞かなくても答えはわかるけれど。
聞いてやれば、少しだけ笑いを含んだ声で。
「”自分の目で見たものが真実だ”と」
俺にも言ったような答えを言うから、思わず笑った。
きっと今思うと、それは道化自身がそうであってほしいという願いなのかなとも思うけれど。
それは今出す答えではないので、頭の片隅に置いておいて。
今答えを出すべき友人へ向けて、口を開く。
「一番最初の男子の友達にも聞きに来てくれたんだ」
「……」
その答えを聞くのは、きっと怖かっただろうに。
祈童の顔は見ないまま、目をまっすぐ前に向けた。
そうして、自分の答えを。自分の言葉で言おうと、口を開く。
俺は、道化のようにかっこいい言葉なんて言えないし、クリスティアのように、優しく抱きしめてあげられるわけでもなくて。
俺に行くように促したであろうリアスみたいに、頭使って気の利いた言葉は言えないから。
「気にしないけど」
ただ、それだけ。
たったそんな、あっさりとした答えだけを、祈童にこぼした。
「……」
「……」
走るのは、当然沈黙。
なんとなく祈童の視線も感じる気がする。ただそれには目を向けることなく、言いたいことはそれだけというように前を見続ける。
どのくらい沈黙が走ったかはわからないけれど。
俺が口を閉ざしているので思ったんだろう。祈童から声が聞こえた。
「……それだけか波風」
「それだけです祈童」
「なんかこう、言っといてなんだが僕はもう少し言葉があると思っていた」
「そんなお前も素敵だねみたいな?」
「そういうあの女子組たちが喜びそうな言葉でなくだな」
言いたいことはわかるけども。
でもこのくらいしか言うことなくない?
「そもそも気にしてたら俺はお前と一緒にいないけど」
「いやまぁそうかもしれないが……なんかこう、あるんじゃないか、こう」
「言ってないことまでも知っててどういうことよ!みたいな?」
「なんでそこだけ女子口調になったのかはわからないがまぁそういうことだな?」
あっただろ、って言われて思い返せば、まぁ確かにあるよ言ってないことで祈童がまるで知ってるように言ったやつ。
背中の傷とか。
背中の傷に対して「どうしたの」じゃなくて「消さないの」ってなったらそりゃまぁ、おぉ言ったことあったっけにはなるけども。
やっぱり答えはひとつ。
「……気にしないかな?」
「なかなか強靭な精神だよな波風……」
いや、だってねぇ?
親友のように、爪をいじって。
「どっちもお前であることは変わらないじゃんか」
時折セイレンが入ってようが、頭の中でおしゃべりしてようが、それが口に出てしまおうが。
「そういう現象も含めて祈童結なんでしょ」
それを俺は、気味悪いとなんて思わない。
むしろ。
「俺としてはそれで、その生物の人生救えたりしてんならいい力だと思うけど」
どんなに願っても抗っても救えない俺からしたら、うらやましいと思うほど。
いい力だと思う。
最後に心によぎった言葉たちは言わなかったけれど。
ぽつりぽつりと言いきって。
「っていう感じなんだけど――」
祈童を見れば。
「……」
え、祈童泣いてるじゃないですか。
え、待って待って、え?
「待ったなんで泣いてんの祈童」
「そりゃ泣くだろ……」
「いや泣く要素が俺には見当たらなかったんだけども!?」
やばいあまりにもあっさりしてたから逆に傷つけてしまったか。え、待って待って祈童顔覆ってかないでだんだんしゃがんで行かないで祈童困る焦る。
「待った待った俺困る泣かれると困る」
「僕も困る波風……お前本当に罪な奴だな……」
いや罪は背負ってますけれども。たぶん祈童が言いたい罪ってそういう奴じゃないよねたぶん。
ぐすぐす鼻すすりながらしゃがんでいった祈童を追うように俺もしゃがんで。
何千年と経った今でも、泣いてるやつの対処法なんてわからない俺は。
「……」
ただただ、その背をさするだけ。
「優しくされると好かれるぞ波風……」
「いやまぁ友人の好きなら大歓迎だけども……」
「女子には無暗にやってやるなよ……」
「お前泣いてんのにそこはしっかり呆れた声出さないでくんない?」
しかもやらないし。
こいつはもう大丈夫かと、心配して損したのでバシッと背中を叩いてやった。
「波風痛い」
「泣いてるとあとで向こうの女子組に勘違いされるんで泣き止んでくださーい」
「お前は本当に付き合ってくほどにあっさりだな……」
「そこがいいところなんで」
立ち上がって笑ってやれば、顔を上げた祈童は少しだけ目が紅いけれど笑った。
「やっぱり僕は波風のそういうところが好きだぞ」
「どーも。で? スタンプ用紙結局何枚だったの」
「九十八くらいだな」
「んじゃ十分だね」
祈童から定評をもらったあっさり具合で話をぱっと変えて。
手を立ち上がらせるように手を伸ばした。それに一瞬目をぱちぱちとさせたけれど、意図がわかった祈童は笑って俺の手を取る。
それを引っ張ってやって。
「そっちに倒れてやろうか?」
「あ、お断りします」
なんて冗談を交わしながら、祈童を立ち上がらせる。
無事にスタンプ台の方とかも大丈夫ということで、スタンプ用紙をそろえて、最後に。
「祈童」
「うん?」
互いに見合うことはないまま、口を開いた。
「文化祭、楽しめそう?」
心置きなく。
そう、聞けば。
また、隣で少しだけ泣きそうな音が聞こえて。目元を拭うようなしぐさも見えて。
「……あぁ」
声も、涙交じりだった。
けれどそれは気づかなかったふりをして。
「ならいいんじゃない」
そう言って、トンッと。
ひとつ何かを区切りをつけるように、スタンプ用紙を台にたたきつけて。
肩にかかる重みに、笑いをこぼしながら。
スタンプ用紙を、台の上へときれいにそろえて置いた。
『結とセイレンの繋がり』/レグナ
おまけ

だいぶ目元赤いけど大丈夫? 戻れる?

頑張りたい……ただもう少し肩を貸してほしい

それはいいけども……
ガラッ

祈童くんたち戻ってこないわねー

他の地点ではいなかったので、残るはここだけですけれど……

ぃ、入れ違いですかね

うわぁ、最悪のタイミング

腐女子が喜びそうな条件満たしちゃってるよ……
もふもふの毛に包まれたスマホをそっと手に取って、画面をつける。すぐに右にスライドさせたら、ぱっと画面は大好きなヒトが映った。
ベッドの上であごに手を添えて考えてるそのヒトの姿に、狙いを定めて。
画面を、タップ。
そうしたら、ぱしゃって音といっしょに、金髪のヒトが写真になった。
それをすぐにアルバムに見に行って。
まじまじその姿を目に焼き付ける。
チェスの駒をじっと見る紅い目。あごに添えられたきれいな指。
――あぁ。
「今日も恋人はいけめん…」
なんてうっとりしていたら。
「バカなことをしていないでさっさと駒動かせ」
目の前の動くイケメンからそんなお言葉をいただいて。
浸る間もなくて、思わずほっぺをぷくってふくらませた。
文化祭、前日。
カリナたちに素敵な思い出をって決めたら、準備期間はたのしくあっという間に過ぎていって。
スマホのカレンダーを見たら、もう文化祭は明日に迫ってた。
わたしたちがやるのはゲーム大会。
みんなの得意分野で、教室に来た人たちとゲームをする、聞くだけだと簡単なもの。
でも思ったより簡単じゃなくて。
どんなヒトにも対応できるようにって、えいがくんはいろんな課題をわたしたちにくださりまして。
最初のプレイヤー選びのときは、最高難易度五連勝。
そこからクラスの子と一対一で毎日のようにバトルしていって。
最終的には。
「…」
子供にも対応できるようにってことで。リアス様は準備が終わって家に帰ってきた夜、最後の最後までわたしとチェスでバトル中。
いやわたしそんな子供じゃないんですけども。
わりとチェスはできるんですけども。
えいがくんが「子供脳なら氷河か」って言うしリアス様もうなずいちゃったからもうそっからわたしを子供に見立ててゲーム大会始まったよね。めっちゃ納得いかないんだけども。
「…」
「クリスティア」
でもやってくとみんなに思ったより高評価だったので。結局断れないまま、こうしてリアス様とのラストバトルも付き合ってるんですけども。
写真に浸る間もなく戻されたことと子ども扱いされてるのを不服に思いながらも、リアス様に名前を呼ばれてベッドに広がる盤面を見た。
えーっと?
次の手はどうしようかなって、じっくり見ていけば。
あ、ちょっと待って?
「待って待って…」
「どうした」
「いやあの…」
めっちゃ何回も見ても変わんないよね、うん、絶対そうだよね?
確信して、リアス様を見て。
「え、チェックメイトされてませんか…」
「しているが?」
ちくしょう駒動かせって言ったくせに。
「動かせって言ったくせにチェックメイトしてるとはこれいかに…」
「あぁ、言葉が足りなかったな。動かせるものなら動かせと言いたかった」
このヒトほんとに性格悪いと思う。
でもいたずらっぽく笑う顔がかっこいいので許そう。うん、写真で許そう。
カリナよろしくカメラをぱっと構えて、すかさず一枚。
ぱしゃって音が鳴ったらリアス様はちょっと不満げ。
「……写真はいただけないな?」
「言葉足らずをこの写真一枚で許してあげるのだからいただけると思う…」
言いながらアルバムを見返して――あっ最高やばいイケメン待ち受けにしたい。
「……言いたいことはわかったが鼻を抑えるな鼻を」
「最高だよねイケメン…ありがとうイケメン…」
「許した覚えはないんだが」
興奮でなんか出そうになってる鼻を抑えて、リアス様にはあいまいに首を傾げつつその写真をじっくり観察。
観察って言ってももう「イケメン」しか言葉出てこないんだけども。
この写真最高じゃない?? あ、最高って言葉も出たや。うん、最高。やばいイケメン。
「このいたずらっぽい笑い最高…」
「さいで」
「待ち受けとロック画面どっちがいい…?」
「いやどちらもお断り願いたいが」
「あ、メサージュのアイコン…」
「それはお前に連絡するとき自分に送っているような錯覚起こすからやめてくれ」
こんなにイケメンなのに。
「こんなイケメンならわたし毎日連絡する…」
「生憎そのスマホに連絡を入れるのは俺だからな??」
あ、そうか。
じゃあ答えは簡単。
「リアス様のスマホにこれを送ってアイコンにすればいい…」
「とんだナルシストにされそうだからやめてくれ」
「あたっ」
じっくり見てたらいつの間にかリアス様がこっちに来ておでこ叩かれた。痛いんですけど。
ていうか。
「続きしないのチェス…」
「終わったろ」
「あれは絶対カウントなし…さっきの盤面に戻してもう一回やることを申請したい…」
「お前が自分で写真を見ていて見逃していたんだから自業自得だ」
それと、と。
画面のリアス様を見てたら視界の端で指さした感じが見えたので。
「…?」
その方向を、見たら。
「片づけたが」
なんともうベッドにチェスがないじゃないですか。そうだよねリアス様が近づいてきたってことはその間にあったチェスがないってことだよね。
いや仕事早すぎない??
「いぎを申し立てたい…」
「その異議の申請自体を却下する」
「ひどい…」
「おかげでいい練習になった」
それはどういう練習なのかなリアス様。気のそれやすい子供の相手の練習ですか。納得いかなくてまたぷくってほっぺを膨らませる。でもリアス様は全然気にしなくて。
「また随分と撮ったなこの準備期間」
わたしを抱っこしてひざに乗せて。話題は変わってスマホの中の写真をのぞきこんできた。
ごきげん取るようにやさしくたたかれるおなかに自分の子供扱いをさらに実感。
「…恋人さまはわたしを子供あつかいする…」
「実際子供だろ」
「わたしは童心を忘れてないだけ…立派な大人…」
「さいで」
「真剣に話してくれない…」
「いや童心を忘れていないのも認めるが」
そこで区切るから、なぁにってリアス様を見上げた。
紅い目はわたしをまっすぐ見て。
「素で児童書を楽しむお前は立派な子供だと思う」
そんなけがれのない目でなんて悲しいこと言うのリアス様。
「恋人は傷ついた…」
「俺はそういうお前も愛しているが?」
「今その言葉はとりつくろってるようにしか聞こえない…」
悲しげに首を振りつつ、わたしの目は画面の中へ。
リアス様の指のスライドで切り替わる画面は、せんりとかエルアノ、ティノとかも映ってる写真。リアス様が映って、またエルアノたちに変わって。
こっちを流し目で見てるリアス様になって。
「…画面の中のリアス様はそんな子供だなんて言わない…」
「そんなにショックだったかお前は……」
「子供って言われたらもう恋人として見られてる自信ない…」
あ、悲しくなってきた。
自分でもわかるくらい下がった眉のまま、画面をスライドさせていく。
だんだんとせんりたちからリアス様ばっかりの写真になっていって。文化祭の準備期間の前の写真に変わっていった。
こっちを見て苦笑いのリアス様、カリナが送ってくれたちょっと照れ笑いしてるリアス様。ほかにもたくさん。
あぁ――。
「なんていけめん…」
「絶好調じゃないか……」
「恋人はショックを受けた傷をいけめんでいやしてる…」
「悪かったって」
あやすように頭なでられても知らないっ。
またぷくってほっぺふくらませて、目はずっと写真を見てく。
「……」
「…」
「……」
「…」
スライドさせて、いけめん拝んで。またスライドを繰り返していけば。
「……クリスティア」
リアス様の、声。
それには目を向けないまま、写真をスライド。
「……」
それに何を思ったのか、わからないけど。
「んむ?」
ふくらませてたほっぺが挟まれて、空気が抜けてく。ちょっとだけむっとした口のまま、リアス様の方を見ると。
「クリスティア」
歪んだ紅色が、わたしを見てた。
その目から離せないでいたら、紅色は歪んで笑って。
「そろそろ本物を見てくれないと俺も悲しいんだが?」
なんて言うからときめいちゃったじゃないですか。なにその少女漫画にありそうなセリフ。そんなイケメンなお顔で言われてしまったら。
「イケメン最高…」
「お許しをいただけたようでなによりだ」
自分の顔がほころんでしまって、思わず許してしまう。でもしょうがない。
「イケメンってなんでも許しちゃうよね…」
「かわいいならなんでも許せるんだがな」
「うそつき…クリスのあついハグは許してくれない…」
「クリスのハグは思い切り骨を粉砕するようなハグだからだろ」
ちょっと聞き捨てならない。
「か弱い女の子…」
「そろそろそうじゃないことを認めてもいいと思う」
「じゃあリアス様は自分がすごいイケメンってこと認めてくれる…?」
「……」
黙ったのでわたしの勝ちってことで。
満足して、リアス様にもたれてアルバム巡りを再開。
今度は戻ってくんじゃなくて、文化祭準備の方にまた進んでくように写真をスライドさせてく。
「♪」
ごきげんでスライドさせていってたら、リアス様はわたしを後ろから抱きしめて、肩にあごを乗せていっしょに写真を見る。リアス様にも見せるようにしてもう一枚スライド。
せんりとティノ、エルアノがこっちを向いて笑ってくれてる写真。
その次は、準備期間中一回だけ出てきてくれたごろーの写真。
次は、学校でリアス様がチェスしてる姿。
また次は、パズル勝負してるリアス様とせんりのツーショット。
「準備期間でも随分撮っているな」
「もちのろーん…」
だってたくさん撮らなきゃだもの。
さっきの悲しさとかは全部なくなって、たのしさで顔をほころばせる。
そうして、リアス様の方をちらっと向いて。
「カリナとレグナにも…エイリィたちにもいっぱい見せなきゃだから…」
この思い出を。
ね、って言えば、リアス様もうなずいてくれる。
「エイリィなんかとくに毎日のように楽しみだとか一緒に準備したいだとか送ってくるしな」
「カリナも授業中毎日、たのしいですかとかいっしょに準備したかったですねかなしいですって言ってくる…」
「あそこの二人本当に似てるな……」
「実はあそこがほんとは姉妹だったんじゃないの…」
「頷きかけたがクリスティア教のやつはだいたいそうだろ」
変な名前つけないでって言う前に納得してしまった。
みおりもゆきはもフィノアもだいたいそんな感じでくやしそうにしてたなこの準備期間中。
「その写真撮ってくれてるかな…」
「四組の奴らはレグナか祈童あたりが撮っているんじゃないか」
「フィノアはワンチャン、りんかとかあとはるま…」
「文化祭が終わったら集めるんだろう写真。探してみろ」
「うん…」
絶対たのしい。
「このときこんな風だったんだよ」とか、「ここはこうでね」って。そんな話をしながらみんなで写真見るんだ。
そうして、明日と明後日の文化祭も写真撮って、いっぱい現像して、またアルバムにして。
四人で見返したり。
「エイリィに、いっぱい見せるんだ…」
「……」
「セフィルも」
「あぁ」
今、いっぱいがまんしてくれてるし。これまでも全然、思い出を送ってあげられなかったから。
カリナとレグナも、エイリィもセフィルもいっしょに。
「いっぱい思い出見る…」
エイリィとカリナはあれかな、わたしの写真でいっぱいテンション上がるのかな。
「絶対”これ欲しい”とか言いそう…」
「お前の写真は複数枚現像しておかないとな」
「金額言ったら絶対払うよね…」
とくにカリナあたりが。いくらでもぱっと払いそう。
「レグナはそれ見て絶対呆れてる…」
「セフィルはそんなエイリィをまたうっとりと見てるだろうな」
「あ、でもここ食いつきそうじゃない…?」
言って、今年もわたしが担当させてもらった看板を見せた。そうしたらリアス様は笑ってうなずく。
「芸術が美しいってな」
「そこから始まるセフィルの芸術大会…」
画用紙とかちゃんと用意しとかなきゃ。
ペンってインクちゃんと全部あったよね。
なんて。
まだ終わってもないのに、文化祭のあとのこともいっぱい頭によぎってきて。顔が自然とほころんでく。
笑ってくれるかな。
カリナも、エイリィも。この、ちょっとだけ逢えなかった分、たくさんたくさん。
それを想像して、また顔をほころばせて。
でも、って。
きっと思ったタイミングはいっしょ。リアス様の紅い目と合った。わたしの顔を見てたリアス様は笑って、スマホを手から取ってく。
「”先”が楽しみなのはわかるが」
「うん…」
「まずは、な」
ほっぺをくすぐられて、それに目を細めてから、またうなずいた。
ゆっくりベッドの中に沈んでいって。
まずは、って。リアス様にすりよる。
「あしたから…」
「あぁ」
やさしくなでられるのを心地よく感じながら、落ちてくるまぶたのまま目を閉じていった。
とくとく音が聞こえる中で、安心と、心地よさと。あとは、たのしみで。ほっぺはあがったまま。
「文化祭、がんばろうね…」
「そうだな」
ちいさくこぼして、また笑う。
少しだけおでこがくすぐられる感じがして、ちょっとだけ目を開けた。
ぼんやり見えるのは、リアス様の口元。口角が上がってるのが見えて、自然とまたほっぺが緩んだ。
少しずつ遠くなってく音の中で、聞こえたのは布のこすれる音。
あとはやさしい笑い声と。
「クリスティア」
「んぅ…」
大好きな、声。
その声は、ちょっとだけ近づいた気がした。前髪がちょっとだけ引っ張られてる気がする。
あ、そうだ。
おやすみのキス、まだだ。
そう思ったけど、目は閉じちゃってもう開かなくて。
リアス様の服だけ、ぎゅっと握った。それにまた笑い声が聞こえて。
ちゅって、リップ音とおでこにあったかい温度。
それと。
「おやすみ」
やさしい声が、また聞こえて。
なんとなく、自分でうなずいたのがわかった。
だんだんとおぼろげになってく意識の中で、ほんのちょっとだけうれしさ。
あんまりこわくなかったかもしれない。
幸せで、ふわふわ。
これは、エイリィとカリナに報告しなきゃいけないこと、増えたかも。
しあわせなの、また、できたよって。
言ったら喜んでくれるかな。
――喜んでくれるよね。
明日でも、明日じゃなくても。報告したら、きっと抱きしめて喜んでくれると思う。
その、二人の顔を想像して。またわたしの顔はゆるんで。
「…♪」
いろんな思いでいっぱいで、しあわせな気持ちの中。
ゆっくりゆっくり。
「また明日な」
「んぅ…」
リアス様の声を最後に、わたしはふわふわな中に足を踏み入れていった。
『文化祭楽しみだね』/クリスティア