未来へ続く物語の記憶 October-IV

武闘会コミック中編


【七日目】

あなたは可愛い人

 

エイリィ
エイリィ

身内でバトルする人はいないって聞いたんだけど……武闘会もっと観たくて!

 
捩亜
捩亜

ロボの件もあるし観戦に来たよ


というわけでメンバーも集まって観覧&土曜日の件をお話し

 

美織
美織

じゃあ結局お食事会もお見送りもしなかったのねー

 

リアス
リアス

あぁ

 

レグナ
レグナ

まぁ龍にとってはありがたいよね

 

リアス
リアス

多少申し訳なさはあるがな

 

雪巴
雪巴

で、でもよかったんですか? ぇ、炎上君だけそんなに直接逢ってない……ですよね?

 

エルアノ
エルアノ

それこそ積もるお話があったのではなくて?

 

リアス
リアス

多少は話した。訪問も受けたしな

 

カリナ
カリナ

なにより――なんだかんだ接触は一番多かったかと

 

結

ロボットが”また逢おう”と旗で……

 

珠唯
珠唯

お茶目な人なんだなぁ……

 

陽真
陽真

でもまぁ、刹那んとこに挨拶したならオマエのとこにも挨拶はしたかったわな

 

リアス
リアス

(ビクッ)それは……別に大丈夫だろ……

 

武煉
武煉

そこは礼儀を持ってね

 

フィノア
フィノア

次回はちゃぁんとご挨拶させてねぇ?

 

リアス
リアス

……考えておく……

 

淋架
淋架

……まだばれてないと思ってるんだよなぁ……イヤホンだロボットだとなんだかんだ特有のものなので割とバレてるんだけど……

 

シオン
シオン

あは、炎上君の天然は父親譲りかもね

 

リアス
リアス

一応言うが血は繋がっていないからな?

 

結

そういうとこだぞ炎上

【八日目 道化美織vs蛇璃亜ルク】


きっと他の場面なら素直に褒めれた

 

武煉
武煉

あの二人は協定したみたいですね。二人で敵を蹴散らしていってる

 

陽真
陽真

すげー、みおりんサポート役意外と適任じゃん

 

シオン
シオン

元から観察眼優れてるからね美織ちゃん

 

エルアノ
エルアノ

トレース戦法もその観察眼あってですわよね

 

カリナ
カリナ

マジックショーとかで相手に合わせる動きが多いって言ってましたものね。ときには一瞬で記憶して動きをまねなければいけないこともあるとか

 

リアス
リアス

プラスで一年のときは心理取ってたしな

 

エイリィ
エイリィ

わぁあ……すごい子なんだね美織!

 

レグナ
レグナ

……まぁ

 

美織
美織

行くわよー!

 

レグナ
レグナ

他のすごさに伴ってスタジアム上でマジックしだす度胸もすごいよね

 

ティノ
ティノ

ちょっと見習えないレベルですごいなって思う

 

セフィル
セフィル

それは褒めてるのかな?

 

結

褒めたい

 

 

武煉
武煉

スタジアム上では美織とルクのみか。ルクも中々ポテンシャルは高いよね

 

淋架
淋架

あの大鎌よく使いこなせるよね~。小柄っていうのもあってスピードもあるしー

 

ユーア
ユーア

敵だと少々厄介です!

 

フィノア
フィノア

まぁ厄介なのは美織も一緒よねぇ

 

ウリオス
ウリオス

時間かけりゃあかけるほど、嬢ちゃんに情報が回ってってトレースされちまうもんな

 

トリスト
トリスト

ただ互いに戦法を深く知らぬのは一緒だろう。なかなかおもしろい戦いになりそうだ

SIDEスタジアム

 

美織
美織

これは速攻の方がいいわね。じゃあ――

 

ルク
ルク

 

ルク
ルク

跳んだ……!

 

美織
美織

華凜ちゃんはこうやって……あとはとびかかれば……!

 

ルク
ルク

!?

 

ルク
ルク

中っ……!?

 

武煉
武煉

あれは見えたな

 

陽真
陽真

イリスクンまで真っ赤

 

ルク
ルク

うわっ……

 

美織
美織

! あら、顔真っ赤だわ!

 

ルク
ルク

……

 

美織
美織

――あぁ。見えちゃったかしら。ハレンチだわ♪

 

ルク
ルク

!!

 

カリナ
カリナ

まぁあのときの私のようにスカート揺らして……

 

ルク
ルク

こ、降参、です……


美織武闘会初勝利

SIDE観覧席視点

 

結

いたいけな後輩になんと非道な……

 

リアス
リアス

ハレンチはどっちだ……

【九日目 夢ヶ﨑フィノア】

 

レグナ
レグナ

……フィノア先輩がさぁ

 

武煉
武煉

うん?

 

レグナ
レグナ

内部の傷に効く薬とかってないのかーって、話に来てたんだよね

 

陽真
陽真

……おー

 

レグナ
レグナ

本人的には、今年第一回戦で当たった武煉先輩たちが内臓まで破壊しないかって心配でーって言ってたんだけど

 

フィノア
フィノア

はぁい、フィノア姐さんのお通りよぉ!! どきなぁ!

 

レグナ
レグナ

あんな対戦車逃げ回るくらい大暴れしてさ、俺的に本人が一番その薬使いそうだと思ったんだけども

 

武煉
武煉

悪いね蓮、うちの先輩が

 

陽真
陽真

とりあえず二、三個用意しといてくれや

 

レグナ
レグナ

だから無理だってば

 

クリスティア
クリスティア

セフィルとエイリィがあまりの気迫に抱き合って震えてる…

 

カリナ
カリナ

この光景見ましたわ……

【十日目 エルアノvs雫来雪巴】

 
ティノ
ティノ

元同クラペアだねー!

 
ユーア
ユーア

おしとやかペアですっ

 
クリスティア
クリスティア

がんばれー…

 
武煉
武煉

果たして雪巴は淑やかというのかな

 
フィノア
フィノア

口開けなけりゃあ淑やかでしょぉ


バトルスタート

 

エルアノ
エルアノ

フレアバースト

 

シオン
シオン

スタジアムの大半火炎地獄になったけど

 

結

淑やかとは

 

レグナ
レグナ

雫来以外は戦意喪失じゃん。自らリングアウトしてるわ

 

雪巴
雪巴

が、がんばりますっ!

 

陽真
陽真

うわ雪ちゃん踵落としで地面を抉ってるわ

 

ユーア
ユーア

エルアノも魔術でガンガン攻めていくですっ

 

ウリオス
ウリオス

ハイなバトルだな

 

武煉
武煉

けど、先に体力が尽きたのは雪巴だったようだね

 

雪巴
雪巴

こ、降参です……!

 

エルアノ
エルアノ

よいバトルが出来て光栄でしたわ

 

美織
美織

アツかったわ!

 

カリナ
カリナ

素敵でしたわね

 

レグナ
レグナ

女子の本気バトルこわ……

【十二日目 ウリオス】

 

クリスティア
クリスティア

なんだかんだウリオスの武闘会見るの初…

 

トリスト
トリスト

そうなのか

 

シオン
シオン

ウリオス君だけ武闘会の日に逢ってるんですよ

 

リアス
リアス

去年はウリオスは初戦で終わっていたしな

 

結

身内では結構闘っていたし戦法は知っているけれど、多対一を見るのは初かもね

 

ユーア
ユーア

楽しみですっ

バトルスタート

 

珠唯
珠唯

あっ、ウリオス先輩、大きな盾を出したよ

 

ルク
ルク

……端から対戦者、出していってますね……

 

ウリオス
ウリオス

おらおらおらぁぁあ!

 

レグナ
レグナ

知ってる盾の使い方じゃない

 

ルク
ルク

ショベルカーみたいです……

ウリオス
ウリオス

スタジアム全体ってなるとむずいな! 漏れもあったり、隙をつかれて初戦敗退だぜ。今年は行けると思ったんだけどよ! もうちょっと頑張りてぇな!

 

雪巴
雪巴

じゅ、十分みなさんの脅威だったと思いますよ……

後日「盾に迫られる夢を見た」とユーアやレグナが聞いたそうな

 


 真っ白なふんわりとしたワンピースを、目の前の小さい親友に着せる。

「クリスもうちょいばんざーい」
「ざーい…」

 よく動くその子が手を下ろしかけたのを制して、ひとまずしっかりとスカートを整える。
 丈はいつも通りの膝丈。走り回っても転ばないであろうその長さを確認して、手を腰にそえた。

「ウエストきつくない?」
「なーい」
「ほかどっかきついとこは」
「んー」

 動いてどうぞって言うみたいにクリスティアから手を離せば、お姫様を思わせる清楚だけど豪華めな衣装が気に入ってくれたのか、小さなお姫様はくるくる目の前で回った。
 何回か回転して、数歩歩いてみて。もうきついとこの確認よりふわふわ揺れるスカートに意識が行ったクリスティアに、衣装は大丈夫ということがわかったので。

「んじゃクリスのこれで完成ね」
「わーい」
「あと当日髪飾りつけてあげるから」
「紅いの?」
「紅いの」

 そう言ってあげれば最近だいぶ表情が出るようになったのか、わかりやすく口角をあげて嬉しそうなクリスティア。それに俺も笑って、クリスをソファ側に方向転換させて、背を押した。

「はいリアスのとこ行っといで」
「リアス様ー」
「また今年もかわいいなお前は」
「♪」

 リアスに突撃していったクリスの服はあとで回収するとして。
 すでに着替えたであろう、妹がいるカップル宅の書斎に向かい。

 そのままノックは無しで開けて、部屋に入っていく。

「終わった?」
「ノックをしてくださいましお兄様」
「見られても減るもんじゃないだろ」
「そうですけれども。妹とは言えレディがいる部屋に入るのならば常識です」

 お前そんな淑やかなレディだっけっていうのはなんとか飲み込んで。どうせわかってるんだろうけど。俺の言葉が予想できてむくれてるカリナには笑っておきまして。
 今年はクリスの要望であるおそろいのお姫様風なドレスを着てるカリナの腰あたりに手を失礼する。

「丈は大丈夫そう?」
「えぇ、さすがぴったりでしたわ」
「あっちの小さい姫みたいに転びそうにない?」
「ご心配なく。仮に転んでも受け身を取りますので」

 なんつーたくましい姫だよ。思わず噴き出したわ。

「ふはっ、ふっ、ウエストは?」
「そちらもぴったりに」
「んじゃバスト」
「レグナそれクリスのとき聞いてくれなかった!」
「クリスのは頻繁に測って服作ってるんで確認しないで大丈夫でーす」

 部屋の外から言ってきたクリスティアにはそう返しておいて。カリナには目で「どう?」と聞くように見上げる。そうすればにっこり笑って、妹は頷いた。
 んじゃこっちもおっけーってことで。

「カリナも当日髪飾りつけるからね」
「翠色かしら」
「さーね」

 自分の色を求めてくれるカリナには当日まで秘密と言うようにあっさりかわす。
 リアスの服も大丈夫だったし、今年は直しなしかな。クリスティアのだけアイロンかける感じで大丈夫だろ。

 すぐ着替えるであろう妹の服を最後にもう一度だけしっかり見て、ほつれとかないのも確認。うん、平気かな。
 今年はなかなか良い感じにできたな。我ながらの良い出来に微笑んでから、立ち上がる。

「すぐ着替えるでしょ」
「はいな。私の方で畳んでしまってよろしいです?」
「よろしいです。お願いね」

 妹の肯定の笑みをしっかり見てから、着替えということで書斎をあとに。
 ドアを閉めながらソファに目を向ければ、しわにならないようにしながらリアスがクリスティアを抱っこして座ってた。

「クリスー、着替えよっか」
「はぁい」
「当日はもっと可愛くなるからね」
「わーい」

 手招きして、クリスティアを呼んで。俺の目の前に来て嬉しそうにして万歳したクリスティアから服を丁寧に脱がしていく。
 すぽっと頭が抜けたら彼女は自由なので服から自分で抜け出して、俺が整えて畳んでる間にいつもの黄色いワンピースへともぐっていった。服を袋に入れて仕舞えば、瞬間移動したかのようにクリスティアはリアスの膝の上。その早業には慣れているので、バッグに服を入れて。

 交換、と言わんばかりに、そのバッグの中から冊子を取り出す。

 それを持って、リアスたちの方に歩いていきまして。
 ぽすんと、リアスと、その膝の上に乗ってるクリスティアの隣に座った。

 今月末にやるハロウィンパーティーの件はこれで終わったので。

 今日の本題へ。

「んじゃリアス。やってこっか」

 そう、笑えば。

「……よろしく頼む」

 本日、食事の行動療法を申し出た親友は少し苦笑いで頷いた。
 それに安心させるように笑ってから、「リアス用」と書かれたカルテを開いていく。ペラペラめくっていきながら、ひとまず体調確認から。

「今日は体調は?」
「ぜっこーちょー…」

 確認するように本人のリアスを見れば、頷く。そこに嘘はないとわかったのですぐに目はカルテへ。
 空白のページを探しつつ。

「義両親が来てる間とか……あと帰ってからの今週。変な症状は」
「ないな」
「嫌な夢とか」
「それもない」
「おっけ」

 いつもならクリスティアを抜いた状態でこの確認はしているのだけど。今回はクリスティアありきの療法なので気にせず聞いていく。お、空白ページ見っけ。口開く前に今聞いたことをざっくりと書いて。
 着替え終わってカリナがキッチンの方に向かって行くのを横目で確認しながら、次。

「今緊張は」
「……多少」
「吐き気」
「なし」
「他に今の時点で変な感じとかは?」
「……」

 聞いたあとに見れば、俺の最後の質問に自分の内側の確認をしてる親友が目に入る。クリスティアに見つめられながら、考えているように目を時折移動させて、首を傾げて。

「……ないな?」

 こぼした言葉も嘘じゃないとわかったので、頷いた。

「とりあえずやってくのは大丈夫そうかな」
「あぁ。悪いな」
「んや? むしろ衣装の準備とかで予定より少し遅くなった俺のが逆に悪いよ」
「その衣装含め何から何まで頼んでるだろ。頼りすぎている自覚はある」
「いーんじゃない」

 申し訳なさをにじませてる紅い目に笑って。

「親友が前に進もうとしてるのを助けられるのは俺としては嬉しいことだし」

 なんて言ってしまえば、向こうは返せる言葉もなく。若干照れたように目を逸らしてしまった。
 それに楽しさはあるんだけれども。

「…りゅうれん」
「クリス、あとでご一緒に写真見ましょうね」
「わーい…」

 そこの腐女子二人の聞き捨てならない会話は楽しめないな?? つーかシャッター音聞こえなかったし。

「カリナさんついにシャッター音切ることできるようになったの?」
「今のスマホってすごいですよね」
「お前本当に捕まるぞ」
「大丈夫です、身内のみですから。誰かれ構わずお写真なんて撮りませんわ」

 さりげなく盗撮したこと認めてるのはこれツッコんでいいやつ? あ、だめ? リアスだめ? 首振ってるよねやめとくわ。
 そこは飲み込んでおきまして。

「あとで写真は消しといてくださーい」
「これもリアスを和ませるための投資だと思ってくださいな」
「和んだ? リアス」
「お前の妹に戦慄した」

 わかる。

 とりあえず和んではいないけれども若干の緊張は解けたことだけは感謝して。

「どうぞ」
「さんきゅ」

 カリナが持ってきてくれたクッキーのお礼のついでに緊張の方の感謝もしておきまして。

 ローテーブルへと置いてくれたクッキーから、リアスへと向きなおる。

「んじゃ始めよっか」
「あぁ」
「とりあえずどうしよっかなぁ……ひとまずクリスティアオンリーで行ってみよっか」
「……」
「お前がどの程度行けるのかの確認も兼ねてね」
「……わかった」

 カリナが俺とは反対側のリアスたちの隣に座ったのを確認して、ソファにカルテを広げつつ。
 置いてくれたクッキーを一枚手に取る。

「クリスー」
「はぁい…」
「食べていいよ」
「…」

 その一枚を小さな親友の手に置いて。
 常に動き出せるよう準備はしながら、クリスティアに笑いかけた。

 少女のような親友はそのクッキーを見てから、一度リアスを見る。そうしてまたクッキーを見て。

 そっと、そのお菓子を。
 口へと持って行った。

 小さな口が開かれて行って。

 それが、彼女の口に触れる、瞬間。

「っ!!」

 パンッ、と。
 カップル宅に音が響く。

 そのあとに床に何かが転がってく音。

 そうして。

「はっ、は……っ」

 リアスの荒い息遣い。
 親友は器用にクッキーを跳ねのけて、その逆の手ではクリスティアの口を抑えて。恐怖に支配されてるかのように息を浅くしていた。

 まぁものが口に近づいただけでも良い方か。

 正直もっと手前で行くと思ったからいい意味で予想外だったな。

 ――うん。

「思ったよりは元から改善してるんじゃない?」
「っ、はっ……」
「たぶんリアスが思う以上に、回復は早いと思うよ」

 小さな恋人に抱きしめられながら息を整えているリアスにそう笑ってやって。
 カリナが拾ってきてくれたクッキーは自分の口へと持って行く。

 親友の方はクリスティアに任せて大丈夫なので、息を整えている間にカルテへペンを走らせた。
 リアスの症状、自分の思ったことを記入欄に書いていって。

 さて、と。

 どう改善に持って行くかを頭の中で考える。

 本人が思う以上に回復は早いと思う。それは本当。
 ただそれはやり方がうまくハマればの問題。そのやり方をどうするか。

 今みたいにクリスティアオンリーで行かせるとほぼ回復しないと思う。リアスの根本はたぶん「確認ができていないこと」の不安と「クリスティアのみに何かが起きるかもしれない」という恐怖。それが本当に大丈夫だったのか、害はないのか。もしかしたらクリスティアに何か起きるんじゃないかとか、そういうの。
 クリスティアオンリーで行かせた場合、根本であろう不安の確認は彼女が口に含んだあとにすることになる。その確認までの恐怖感は今のリアスにはまだ強すぎるはず。
 リアスの確認時間を減らしながらにしていくか。あーでも食べるものによって咀嚼時間が変わるからなんとも言えないな。飲み込む前にクリスが食べる――はクリスが食べようとした瞬間に固形でも飲みこむ未来が見えたからアウト。
 リアスとクリスティアの関係に合わせるなら――

「……」
「解決策、ありそうです?」
「うーん……」

 カリナの問いかけに、頭の中で組み立てていって。

 パチンとハマったのと同時に、頷く。

「同時に食べる、が一番リアスだと打倒になるかなぁ」
「いっしょ…?」
「そう一緒。せーので食べる感じ」
「結構な不安が来そうじゃないです?」
「んー……いや」

 むしろ、

「そっちの方が回復は早そう、かな」

 首を傾げた妹と小さな親友に、本人への説明も踏まえて口を開いていく。

「普通ならたぶん、リアスの確認時間を減らすことから始めるんだけど。お前の場合固形状態でも飲み込みかねないじゃん?」
「自信があるな」
「そこは否定してほしいんだけども」

 いやわかってるけどね?

「ただクリスティアオンリーで行かせると、カリナの言う以上の不安が出るだろうから回復は難しい」
「いっしょなら…?」
「一番回復が早いんじゃない? リアスはクリスティアだけ何かあるのが嫌なのであって死なば諸共は大歓迎でしょ」

 そう言えば、リアスとクリスティアは一度顔を合わせて。
 互いに肯定と言うように顔をほころばせる。そこのいちゃつきはいつも通りなので。

「んじゃリアス、呼吸落ち着いたとこでもっかい頑張れそう?」
「あぁ」

 頷いたリアスに笑ってやって、新しいクッキーを親友に渡す。
 それを半分に割って、クリスティアの手に乗せて。

 さぁじゃあ行こうかと、いうところで。

「あ」
「ん?」

 俺の隣にいたカリナが声をあげたので、全員でそっちに向く。その顔は閃いたって顔。
 いつもなら嫌な予感だけど、このタイミングなら最高の案だっていうのはわかっていたので。

「どうぞカリナさん」

 リアスたちの前にカリナの答えを促してやれば、妹は最高の笑顔で言った。

「せーのでやるなら、あーんしながら行くのはどうでしょう!」

 と。
 言われた言葉を理解している間に妹は嬉々として続きを紡ぐ。

「リアスの方が進めばやり方によってはクリスティアの恋人のスキンシップにも繋がると思いますわ!」
「ごめんさっきの前半は最高だと思ったけど今の後半の理解ができなかった妹よ」
「よくあるでしょう!」

 なにがでしょう。
 きらきら顔を輝かせているカリナは俺の目に応えるかのように口を開く。

「ひとつのお菓子を口で持って食べ進めていくゲームが! 互いに食べ進めていけばリアスの食事の療法にもなりますし、唇に近づいていくということで恋人のスキンシップにもなりますわ!」
「あー……」
「それまではあーんという、恋人のいちゃいちゃもできる感じでいけばどうでしょう!」
「……」

 ――あぁ、なるほど。
 普段クリスティアがリアスに食べさせて、そのあとリアスがクリスティアに食べさせるあれを同時にってことか。確かにスキンシップの一環として行うようにすれば「やろう」ってなるときの緊張も減る。記憶回復後に再開したクリスティアの療法のとき、「いつも通りのスキンシップに織り交ぜたら回復が早かった」って言ってたし。効果は期待できそうかな。
 妹の最高の案にうなずいて。

「って言ってるけど。話を聞いた感じ俺の出した案からかけ離れてるものでもないし、同時進行できるなら願ったりかなったりだろうし。俺は大丈夫だと思うけど」

 妹よろしくどうでしょう、と二人を見れば。

「……」
「…!」

 理解した二人は珍しくわかるくらい目を輝かせてた。

 期待とか、良い方向に進むことの安心とか。そういうので、恐怖とかが見えない気がする。
 その表情に、もっと思った以上に回復に向かいそうな予感がして。

 自然と、顔が緩んだ。

 その笑みのまま、ペンを執る。

「んじゃそういう方向で行こっか」

 声の返事は返ってこなかったけれど。きっと二人して頷いてるんだろうっていうのは、嬉しそうにカルテをのぞき込んでくる妹の表情で分かったので。

 クリスティアが記憶を取り戻してから。

 少しずつだけど、確実に。良い方向に進んで行っている大好きな親友たちに。

 自分でもわかるくらい口角を上げながら。

 カルテに、「最高の食事療法開始」と書いておいて。

「……頑張れ」

 誰にも聞こえないように呟いてから、そっと紙の束を閉じた。

『リアスの食事の行動療法』/レグナ

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