しまった。本当にやらかしましたこれはいけない。
自分の罰カードを見て、ちょっと時間を戻したい衝動に駆られてます。
リアスとクリスティアのためになるかなと思った罰カードを自分で引いてしまった。
朝からゲーム大会で盛り上がり、四回戦を終えた頃には午後になっていました。
休憩も含めた昼食中、そういえば罰やらご褒美やらカードが溜まってきましたねという話になりまして。あまり罰カードがあるとご褒美消化にあてる時間も短くなるのではとなり、午後は第一回罰ゲーム消化をすることになりました。
私が今回開封するのは本日の敗北で追加された二枚。初日にも一枚引いているんですが、お風呂掃除ととても簡単なものだったのでその日の内に終わらせましたわ。なのでそれは置いときまして、新たに引いた二枚をいざと開封。
追加分一枚目。
”苦手なものを食べる”。
あらこちらも簡単ではありませんかとほっとしたのもつかの間。
”異性の膝の上に乗るor乗せる”
続いて開いたカードに止まりましたわ。
このお題明らかに恋人向けじゃないですか。そうです恋人向けに作りましたよ、入れたの私ですから。ぱっと聞いたらご褒美っぽいですが、メンバーによっては罰ゲームになりうるなと思ったので一応ご褒美にもお仕置きにも入れましたよ。リアスとクリスがどっちか引いたらいいななんて思って入れたものをまさか自分で引くとは。私の場合明らかに”異性”って言ったらリアスになるじゃないですか。誰得ですか。誰も得しない。本当に罰ゲーム。
「…カリナ?」
「どうした」
「なんか変なの引いた?」
ただ今回巻き込むのはさすがにあれですよね、と罰カードを延々と難しい顔で眺めていれば、不思議に思ったのか三人が心配そうな声を掛けてきます。
……とりあえず、聞いてみましょうか。視線は変えずに、口を開く。
「ねぇリアス」
「ん?」
「兄は異性に入りますか」
「そんな”バナナはおやつに入りますか”みたいなノリでお兄ちゃんのこと聞かないで」
「レグナ、妹は真剣です」
「兄と妹って言ってる時点で異性になってるの気付いて」
「ではお兄さま、私の膝の上に乗ってくれますか」
「カード見せてごらんマイシスター」
意味がわからないと言いたげな彼らに見えるように問題のカードを出す。
うわぁと苦笑いの声をこぼしたのはお兄さま。何故こんなものを、と聞かれるのはわかっているのでお先に。
「クリスティアとリアスの恋人関係を楽しく発展させようかなと入れたんですよ。ただメンバーによっては罰ゲームになるので」
「両方に入れてみたら見事に罰ゲームの方で自分が引いたと?」
「ご名答」
「ばかなんじゃないのか」
今だけは否定できない。
いつもなら言い返すのをぐっと抑え、兄の方へ向く。
「それで、お手伝いを願うにあたって、お兄さまを異性にカウントしてもいいものかと」
「カウントするしないに関わらず、とりあえず俺に拒否権はないわけね?」
「さすがにチーム戦で全く関係のないリアスを巻き込むのは気が引けまして。初日は三位四位と理由ができましたけれども」
「お前そういうまともな考えはあったんだな」
「リアスがそんなに私の膝に乗りたいと言うなら構いませんが?」
「悪かったから勘弁してくれ」
自分で言ってなんですが私も勘弁願いたい。
「というわけなので、どうでしょうか」
主にレグナに向けて、尋ねる。
兄はすぐに仕方なさそうに、肩を竦めた。
「まぁそれは別にいいよ。チーム戦ってことでリアス引っ張ってくるのが気が引けるのは納得できるし」
「! ありがとうございますお兄さまっ!」
了承が出たと同時に腕を広げたら身を引かれてしまった。
行き場のなくなった腕はそのまま隣のクリスティアへと持って行き、抱きしめる。
「なんでわたし…」
「せっかく広げたので……」
意味わかんない、と言いながらも享受してくれる彼女に甘えすり寄っていると、腕の中からまた小さな声が聞こえる。
「…これって、チーム戦で実行なら、レグナのは一枚なしにするの…?」
あらそれは考えていませんでしたわ。
どうしますかと顔を向けると、私が口を開く前にレグナが言葉を発しました。
「俺別に罰ゲームとは思わないし、いいよそのままで」
このお兄さまことごとくイケメン。
「あとそれおっけーにしちゃうと判別がめんどい」
「そこまで言わなければ最高でしたのに」
最後の残念感。仕切り直すように咳払いをして、
「ではお願いしますわ」
「あー、と」
立ち上がろうとクリスティアから離れたところで、レグナが一枚カードを出してきました。
そこに書いてあるのは、”お菓子づくり”。
意図がわからずにまたレグナを見る。
「メイド服で妹抱えるのはさすがにっていうのと、こっからお菓子作るから、明日のゲーム中とかにまわしても?」
曖昧に笑ってそう尋ねられ、すぐに頷きました。
「私のお願いを叶えてくださるので構いませんわ」
「兄に対しては優しいんだな」
「あなたに対しても優しいでしょうよ」
どこがと言いたげな目には気づかないフリをして。
「んじゃ台所借りるね」
「あぁ」
さっそくお菓子づくりをするために立ち上がり、キッチンへと向かっていく兄を見届けた。
その背を見ながら、思わず言葉がこぼれる。
「……メイド服で妹を抱えるというのも中々ですがメイド服でお菓子づくりも結構な罰ゲームじゃないのかしら……」
「わたしレグナがもうメイドにしか見えないんだけどどうすればいいの…」
「奇遇だな俺もだ」
全員の視線は楽しそうにお菓子を作り始めるお兄さま。あなたの恥じらいの基準が未だにわかりませんわ。けれどかわいいので写真に納めさせていただきました。
「カリナわたしにも送って…」
「えぇ、お泊まり会が終わったらまとめて送信しておきますわ」
「わぁい…」
体ごとリビングの方へ向き直りながら写真を保存する。あらまぁ本当にかわいい。
「こんなかわいいメイドが欲しいですね」
「ものすごいわけありな感じがするメイドだな」
「男の娘…?」
あっこれはだめだ泊まり会の前に読んだやつ思い出す。
いけない話題を変えましょう。
「まぁ女の子でも男の娘でもかわいいメイドがいいですねということで。レグナが作ってくれている間にこちらで消化できるものをやっていきましょうか」
それらしい理由をつけて言ってみれば二人は素直に頷いて。自分のカードを手に持ってくださいました。リアスは二枚、クリスは四枚。クリス少しでも減らせたらいいですねと話しかけていたら、リアスが声を掛けてきました。
「カリナ」
「はいな」
「消化したいのは山々なんだが、クリアできないものばかりのときはどうすればいい」
「えっそんな変なもの入れました?」
「ん」
引っかかるようなものは入れなかったはず、とクリスティアと共に、差し出されたカードを見る。えーと?
「”人生最大のチャレンジ”、”自分にとって最も怖いことを克服する”……ですか」
めっちゃチャレンジ精神旺盛な引きしてますねこの人。
「今回はチャレンジする人生なんですか?」
「そういうわけじゃないんだがな?」
「一つくらいできるのないの?」
キッチンで話を聞いていたレグナがリアスに聞くと、彼は腕を組んでしばし考えます。そうして数分後、口を開く。
「クリスティアに関わらないことでは何もない気がしないか?」
「いや我々に聞かれても」
確かになさそうですけども。
「まぁないのであれば、クリスティア関連で苦手なことを克服してみてはいかがです?」
「ありすぎて何から手を付けていいのかがわからない」
「極端すぎません?」
幼なじみが残念すぎる。
「なんかこう、軽いリハビリ的な感じで挑戦してみましょうよ」
「例えば?」
「たとえば……」
聞かれて、今度は私がしばし考えます。軽い、リハビリ……。軽めのもの……。
「ちょっと軽めに一ヶ月くらい別行動してみては?」
「お前”ちょっと軽く”って言えば物事が軽くなるわけじゃないからな?」
言葉って難しい。
当然のごとくその案は却下され、再びリアスと二人、頭を悩ませていると。
「お風呂、別とかは…?」
今まで黙っていたクリスティアが案を出してくれました。しかもナイスアイディア。
「いいじゃないですか、外で待ってることもできますし」
「溺れたらどうするんだ」
あなたの中のクリスティアはおいくつですか。
「子供じゃないんだから平気でしょう……」
「人生何があるかわからないだろう。やるなら誰かと一緒に入るなら許可する」
「えぇ…レグナ…?」
「ちょっと待ってください私が先に挙がらないのがおかしい」
「普段の行いじゃないのか」
「私そんなにおかしなことしてませんけれど?」
親友じゃなければやばいだけで。
「私と一緒に入りましょうよクリス」
「カリナすぐ写真撮るんだもん…」
「大丈夫ですわ、さすがに布が無い状態は撮りません、セクハラになりますから」
「カリナさん俺だいぶぎりぎりだと思うんだけど」
そんなレグナの言葉は共に聞こえる生地を焼く音で聞かなかったことにしましょう。
「それにスマホを落としたらお泊まり会の写真も送れませんわ。だから大丈夫です」
「どうせクラウド保存してるだろ」
「お黙りなさい」
してますけれど。
リアスをひとにらみで黙らせてから笑みを携えクリスへと尋ねる。
「どうですかクリス」
「…」
頷いてください傷つく。
「お兄さま助けてください!」
「クリスー、さすがに俺この歳で一緒にお風呂はきついわー」
「えぇ…」
救済の言葉に、とくに残念そうでもなくこぼしてからクリスは私を見る。
「じゃあ一緒、入ろ…」
「ぜひ!」
経緯がとても納得が行かないけれどお泊まり会一番のご褒美を頂いた気がするのでよしとしましょうか。感謝を伝えるように抱きしめた。
「では決まりですね。今日やってみましょうか」
「ん…」
「リアス、”外に出る”と言ったら脱衣所から出て下さいね?」
「は? 何故」
いやこちらが何故と聞きたい。
「当たり前でしょう。女性がお風呂から出るんですよ?」
「別に長い付き合いなんだ。幼なじみに体見られようが減るものもないだろう」
「あなた相手に減るものはないですが、一般的な人間には”恥じらい”というものがあるんですよ」
「恥じらいなんてあったのか……」
「人生最大のチャレンジ、クリスティアと別離でもいいんですよ?」
「冗談だ」
この男が言うことは冗談に聞こえない。
とりあえずリアスの罰ゲームの一つが決まったところで。
「できたよー」
レグナが両手にお皿を持ってこちらにやってきました。運んでくる姿もメイドのようです。
「わぁ…」
ローテーブルに置いた片方のお皿の上にあるのは、まだ少し湯気がたっているホットケーキの山。もう片方は取り皿とフォーク。甘い物が苦手なリアスの分を抜いて三セットですね。クリスティアから身を離し代わりにそれを渡してあげると、彼女はすぐにフォークでホットケーキを突き刺した。中々ワイルドですね。
「いただきます…」
「どうぞー」
頷いたのを確認してから、クリスはホットケーキを口へと含む。噛んでいく間にみるみる幸せそうになる彼女に、こちらも自然と頬がゆるんだ。とてもかわいいですわ。
「おいし…」
「そうか」
口元についた欠片をリアスが指で拭ってあげる。なんてすてきなカップル。すかさず写真に納めてから、私もホットケーキを食すためお皿に取った。
「で、リアスの罰ゲームは風呂で決まったの?」
ケーキを小さく切り口へ運ぶ。広がった甘さを堪能してから、頷いた。
「あと一つ残ってますけれど」
「俺としてはもう十分なんだが」
「お気持ちは察しますが、簡易的なものでも良いですから罰ゲームはしてくださいね。私もするんですから」
「このカードを入れたお前を恨むわ」
「恨むなら自分の引きを恨みなさい」
私だって自分の引き恨んでますよ。いろんな意味で。思いをぶつけるかのように、勢いよくフォークを突き立てた。
「リアスもう一つどうすんの?」
ケーキを頬張りながら聞くレグナに、リアスはクリスティアの髪をいじりつつ考えます。
「風呂を怖いことにカウントするとして……人生最大のチャレンジか」
「仮にクリス関連以外でと考えて、チャレンジあります?」
「最大だろう? 中々ないよな」
「長年生きてるからなおさらない…山でも登る…?」
確かにチャレンジにはぴったりですけれども。
「行くのか? 今から??」
「さすがにこのゴールデンウイーク中は難しいでしょう」
「そっかぁ…」
再び、悩む。
そもそも自分で入れといてあれですが人生最大のチャレンジというのが難しい。クリスティア関連なら自他共に認めるくらいいくらでも出てくるんでしょうけども、立て続けにやらせるのは気が引ける。さてどうしましょうかと、全員でしばし考えていると。
レグナが口を開きました。
「チャレンジってさ、自分の限界を越えろ! 的なのでもいいの?」
「あら、いいんじゃないですか?」
「おい嫌な予感しかしないんだが」
顔がひきつったリアスに構わず、兄は取り皿に乗せた最後のホットケーキの欠片を口に放り込んで、楽しそうに言い放つ。
「リアスの人生最大のチャレンジ!」
「さぁその項目は…?」
「おい勝手に番組っぽくするな」
「筋トレ千回ずつ行きましょう!」
「待て待て待ってくれ」
ノってみたら止められてしまった。
「どうしました? 家でできる一番簡単な人生チャレンジですよ?」
「それでも千はないだろ。俺はアスリートか何かか」
だって百なら簡単にこなしそうなんですもん。
「まあ冗談はさておきまして」
「本当に冗談なのか……?」
「リアスって筋トレの中だとプランクが苦手ですよね、あの体幹を鍛えるやつ」
「冗談じゃねぇじゃねぇか。というか何故知っている」
「そりゃ長いつきあいですから」
「その長い付き合いの中で俺は一度でも筋トレについてお前に語ったことはないからな?」
「まぁまぁ、細かいことは気にしないでですね」
すごい、にらんできたリアスの目に本当の殺意がこもっている。ただそれには慣れているので、肩を竦め。指を折りながら、告げる。
「ぱっと家でできて、クリスティアに関わらず、やってしまえばあなたの罰はひとまず終わり。これ以上最高な条件はないと思いますが」
「今お前が女神に見えるかもしれない」
「これからも女神でいてもらえるように崇めその殺意のこもった目をやめなさい」
「崇められるかどうかはお前次第だと思うが」
「クリスティア、リアスはあなたと離れることを人生最大のチャレンジとするそうですよ」
「カリナ様すばらしいです」
「よろしい」
隣でお腹を抱えている兄と親友は置いといて。
「決まったところで今から行きましょうか」
「プランクだから耐久だよな?」
「そうだね。なんなら片方ずつ足上げてみる?」
「断る」
吐き捨てるように言って、彼はローテーブルとソファの間にうつ伏せになりました。脇を閉め、手が肩に着くよう曲げる。ほんの少し力を入れたのが見えたところで、合図した。
「では、スタートです」
それと同時に、リアスは体を持ち上げる。足先と腕しか着いていない状態ですね。これ結構きついんですよ。
「……」
「…がんばれー」
「……地味すぎて精神がきつい」
比較的まだ余裕があるのか、とても呆れた声をしていらっしゃる。
「ほんとに罰ゲームって感じだね」
「一人で筋トレをさせられるって結構きついですよね」
リアスを眺め残りのホットケーキを優雅に食べながら、彼が限界を迎えるのを待つ。
「……、っ」
二、三十秒経ったでしょうか。ほんの少しリアスがきつそうな顔をし始めました。体も小刻みに震えだし、息も上がってきた様子。
さて終わったときのために飲み物でもと、テーブルのお茶に手を伸ばした瞬間。
「ここでリアス様にミッションがあります…」
隣の親友がとても不穏なことを言い出しましたわ。
「……とりあえず聞いてもよろしいです?」
「五秒間恋人の体重に耐えたらごほうびプラス」
あー、乗りますかー。
言葉を返す間もなく、彼女は立ち上がる。
「え、クリスまじで乗るの?」
「はっ?」
本気にしていなかったレグナが声を上げたことで、それまで真剣で聞こえていなかったらしいリアスも素っ頓狂な声を上げました。その間にもクリスティアはリアスの元へ歩いていく。
うん、本気ですね。
リアスの傍にしゃがんだ彼女の横顔はとても楽しそう。
「おいクリス」
「わたしは思いました…人生最大のチャレンジなら、やったことないことをした方がよいのではと…」
「納得はできるがちょっとまてっ」
「人が乗ってプランクはなかなかない…」
おそらくほっとんどありませんよ。
「ちゃんと対価はある…」
息絶え絶えのリアスをのぞき込んで、
「普段しないの、ちゃんとしてあげる…」
「は……」
なんて意味ありげに言うと、リアスは欲にかまけて一瞬反応が遅れた。
その隙をついて、彼女は立ち上がり、声を掛けました。
「いくよー…」
「おいまじでか」
止めるか悩みましたが、頑張れば普段しないことをしてくれるそうなのでここは双子揃って見守ることに。
律儀に背を叩き合図をし、
「せーの…」
そのままリアスに覆い被さるように、って──
「っおまっ乗るってそういうっ!」
あ、座るんじゃないんですね。上に被さるように乗るんですね?? 全力で全体重かけにいってるじゃないですか。
「カウント…」
「あ、はい行きますよー。5、4」
「死にそう早くしてくれカリナ早く」
そんなこと言われても。
「ギブアップでもいいよ…?」
「耳元でしゃべんな力抜けるわっ!!」
目の前に悪魔が見える。
「3、2、1……終了です」
「っ」
「わっ…」
気持ち早めにカウントして、終了の合図をかける。瞬間、リアスはその場にどしゃっと倒れ込みました。汗すっごい。
「うわぁリアスお疲れ」
「本当になっはぁ…」
「だいじょうぶ…?」
「お前あとで覚えてろよ…」
「ちゃんと対価は払う…よくやりたがる、リアス様の指で持ったものあーんってするやつ…」
「言わんでいいっ!」
体を使ったからなのか恥ずかしさからなのか、瞳よろしく頬を紅くしているリアスが段々私でもリアスがかわいそうになってきましたわ。
「ではリアスが復活したところでラストはクリスティアですか」
それから三十分ほど。ダウンしたリアスが復活し、罰ゲーム消化に戻ります。
「わたしのカードはこれ…」
クリスティアは”一日下僕”、”苦手な物を食べる”、”お昼ご飯作り”、”告白”と四枚のカードを並べていく。
「一日下僕っていうのが大変そうだね」
「あなた下僕とか性に合わなさそうですしねぇ」
「そうでもなくない…?」
「楽ではないだろう」
一番始めに出されたカードを見て言うと。不思議そうに、クリスティアは首を傾げた。
「これって一日誰かを下僕にするんでしょ?」
違うそうじゃない。
「一日誰かの下僕になるんですよ」
「えぇ…? わたし、踏まれるより踏みたいんだけど…」
「リアス、ご所望ですよ」
「俺も踏まれるより踏みたいタイプなんだが」
どうしようこのメンツSしかいない。
「そもそもクリスティアは人を踏めるほど身長ないじゃないか」
「リアス様はピンヒールで足踏まれたいんだね、わかった」
「待ったお前それやって俺の足にヒール貫通させたろ」
「地雷踏むあなたもどうかと思いますがクリスティアどういうことですか」
貫通させたってなに。
「歩いているだろう」
「はい」
「なんだったか忘れたが怒らせて」
「いつも通りだね」
「いらっとしたから足踏んでやろうって思って勢いよく踏んだら貫通したよね…」
それどんな勢い。え? 魔力込めてませんよね??
「わたしはとてもびっくりしました…」
「俺はその後普通にヒール引っこ抜くお前にびっくりしたわ」
「うわぁ痛そう」
「どのみち引っこ抜かなきゃいけないし…。迷ってる暇あるなら引っこ抜こうかなって」
「あなたの彼女男らしすぎません?」
「惚れるだろう」
いや正直男らしさのベクトルが違いすぎて私でも引くレベル。
「クリス本当に下僕になれます?」
「だいじょうぶ…任せて」
親指を突き立てた彼女に不安しかない。
「まぁとりあえず、今日はいろいろやるから下僕は後日にして…先こっち」
そんな不安はよそに、クリスティアは最後に出した一枚を前に出す。
「”告白”ですか」
「クリスだったらネタ系?」
「甘いのは難しいけど決めつけないで…」
「あら」
これはもしかしてちょっと甘い告白頑張っちゃうとか──。
「たしかにわたしとカリナの下着入れ替えたっていうネタしかないけど」
期待した私がばかでしたわ。そしてお待ちなさいクリスティア。
「すごいデジャヴ」
「あったなつい昨日」
「あなたも同じことしてたんですか」
「昨日の夜に…私とカリナ、お揃いの下着一つあるでしょう?」
「ありますね」
「告白引いたからわたしもやってみようってそれを入れ替えといた…」
なんてことを。
「つけられないと思ったらそれが原因ですか」
「入らなかったのか」
「ちょっとお胸の事情で。太ったかと思ってびっくりしましたよ」
「たまにはいいかなって…」
私も男性陣に同じことをしたので「だめですよ」なんて言えない。
「なぁ」
まぁこれはこれで告白には該当しますしいいでしょうと息を吐くと、リアスが不思議そうに聞いてきました。
「なぁに?」
「素朴な疑問なんだが、入れ替えたということはお前今カリナの下着つけているのか?」
この男恋人じゃなかったらセクハラになる質問をさらっと。
「気になるんですかそこ」
「カリナが入らなかったということはそれだけお前らの胸に差があるということだろう? クリスティアはつけられたのか気になった」
確かにその通りなんですがなんでこんなに冷静に胸の話できるんですかこの男は。レグナちょっと気まずい顔してるじゃないですか。
「試みたよ」
「どうしてあなたもさらっと答えちゃうんですかね?」
「別にこの四人ならいいかなって…」
「いいですが、確かにいいですがもう少し恥じらいを持ちなさい」
「持ってる持ってる…」
たぶんそれは違う恥じらい。しかし言う暇はなく、彼女はリアスに向けて言う。
「結論から言えばぶかぶかで生活できそうになかったから自分のに戻した…」
「そこまで差があるのか……」
「どうしてここまでこの子たちは一般から離れているのかしら……」
「一般という言葉を使うならお前も大概だと思うんだけど」
「こういう話に関しては一緒にしないで欲しいです」
レグナに頬を膨らませましたが首を傾げられましたわ。心外です。
そのあと、続きそうになった胸の談義をなんとか制し。
その場でできる罰消化が一通り終わったということで。
「なんかしんせーん…」
「もうちょっと新鮮そうな顔してくださいな……」
夕方になった現在、本日最後の罰ゲーム、私にとってはご褒美の、クリスティアとのお風呂を実行中。
普段リアスとばっかり入っているので、他の人とのお風呂は新鮮なようです。
まぁ、
「俺も一人で入るのは中々新鮮だったな」
「ゆっくりできた…?」
「いや交代のとき死にそうな顔してたよ」
「言ってんじゃねぇよ」
お風呂場に二人というだけで、先に入浴を終えた男性陣は洗面所にいるんですけれども。ナチュラルに会話にも入ってきているんですけれども。
隔たりがあるとは言えど、これなら結局いつもと変わらないなぁ、と。もう見慣れてしまった、目の前の親友の体に刻まれている呪術の模様を指で辿りながら、同じように自分の指で辿る彼女へ、こぼす。
「……なんかこうして四人で集まるなら、一緒に入るでもよかったかもしれませんね」
「恥じらいは、いいの…?」
洗い終わった髪を上げて、ほんの少し頬を上気させ首を傾げた彼女に笑う。
「さすがに素っ裸はあれですが。今思えば、このご時世お風呂で水着を着るなんていうのもありますからね」
「あれって楽しいの?」
またナチュラルに会話に入ってきたレグナには、見えないとわかっていつつも、親友同様首を傾げた。
「どうなんでしょうねぇ」
「プールと変わらない気もするがな」
「でもリアスのような人で大浴場に行きたいっていう人なら嬉しいんじゃないですか?」
「そもそもリアス様みたいな人は大浴場に行こうとは思わない…」
「それもそうだな」
まず選択肢にも入りませんか。言っておいてなんですが確かにそうかもしれない。苦笑いしたところで、リアスが「まぁ」と声を上げる。
「大浴場でも共にいれる、という点だけで考えるなら、水着で入れるのは安心ではあるんじゃないか」
「更衣室出ればずっと一緒に入れるもんね」
「あぁ。人がごった返していなければなおいいがな」
それがネックですよねぇとため息を吐く。水の中ではなおさらなにがあるかわかりませんし。
話題に上がったし温泉やプールもいいなと思いましたがやはり無理そうですか。
なんて、模様から指を離し、パシャリと音を立てながらお湯を体にかけたら。隔たるドアによってくぐもった兄の声が聞こえた。
「人混みが嫌なら貸し切りにすればいいじゃん」
その一瞬は、聞き逃さない。
「おいそれ言ったらこいつほんとに──」
「それです!!」
「遅かったね…」
今度はバシャンと音を立て、妙案に思わず立ち上がる。
そうですわ、貸し切りという手があった。しかもうちはとても都合がいいことにここいらではちょっと有名なお金持ちの家。頼み込めばいける。
よしっ。
「今年はプールに行きましょう!」
「わぁい…」
「まじかよ……」
「頑張れリアス」
「お前ほんとに余計なこと言いやがって……」
とても呆れた声をしているけれど、ほんの少しだけ、楽しそうな音色が入っているのを知っている。即座に却下が出なかったということはもう了承したも同然。
「そうと決まったら計画立てましょうクリス!」
「うん…あとでね…」
「出ますよ!」
「えぇ、話聞いてた…?」
聞いてましたが行けるとわかったらわくわくが止まらず。もうちょっとと言うクリスティアに逆上せるからとそれなりの理由をつけ、手を引いた。
「本当にお前ら双子が一緒だと落ち着かないな」
「主な原因はカリナだから」
「それを連れてきてるのはお前だ」
「話してないで一旦外出てってもらえます?」
出ると言ったのに未だ動く様子のない男性陣を脱衣所から追い出し、クリスティアと共にお風呂場を出る。
少しひんやりした空気を心地よく感じながら、タオルを体に巻いてまずはクリスティアの髪を拭き始めた。
「楽しみですね」
丁寧に水滴を拭き取りながらそう聞けば。
「うん…」
クリスティアは天使のような笑顔で、頷いた。まぁかわいい。これはリアスも喜ぶ笑顔。
しかし私はスマホを今持っていない。
すぐに撮るからとお咎めを食らっているのでリビングに置いてきてしまいましたわ。
今リアスに見せられないことは悔しいけれど、さすがに呼ぶわけにもいかないので。
「夏、めいっぱい楽しみましょう?」
「うんっ…!」
夏にこの天使の笑顔をたくさん見れるようにと決意だけしておきました。
『第一回罰ゲーム消化』/カリナ
三日目時点残りカード | ご褒美 | お仕置き |
クリスティア | 2 | 3 |
リアス | 2 |
0 |
レグナ | 3 | 0 |
カリナ | 3 | 1 |