狂気発作シリーズ

紅を見る。
 じっと見つめたら、こっちを向いて。

「どうした」

 やさしく声をかけてくれる。
 それに、手を伸ばして。

「あか見てた」

 そう、言えば。

「そうか」

 笑って、ほっぺに伸ばした手をゆるしてくれる。

 ――あたたかい。

 この中にも、紅がある。
 あなただけの紅。
 めったに見れない紅。

 ――あぁ。

「…」

 欲しいな。

 ぜんぶ、ぜんぶ。

 ちょーだい、って言ったらくれるんだろう。
 きっと、わたしの中にあるあなたの紅を足してくれる。

 けど、違うの。

「…」

 ”これ”が欲しい。

 思わず、あなたを抱きしめる。
 リアスは何も言わず、抱きしめ返してくれた。

 それに口角をあげて、そっと目を閉じて。あなたを感じる。

 紅に包まれて。心を満たしていく。

 とく、とく。あなたの紅を巡る音をきいてたら。

「やろうか、紅」

 大好きな声が、みりょく的な提案をしてくれた。けど、すぐ首は横に振る。

 欲しくないわけじゃない。

 すごく欲しいよ。

 でも。

「いい」

 やっぱり、答えはNO。

 だって、

「あなたの中にあるのが一番キレイだから」

 すりよりながら言えば、リアスは「そうか」とだけ言って。
 また強く強く、抱きしめてくれた。

『世界で一番きれいなもの』/クリスティア


「リアス」

 甘く、呼ばれる。

「うん?」

 その声に応じるように、俺も甘く声が出た。
 目を向ければ、俺を見る恋人。ふっとほころんで、思わず手を伸ばせば。

「♪」

 クリスティアも心底愛おしそうに瞳をゆがめて、俺へとすり寄ってくる。
 首元にやってきた少し冷えた体温が心地よい。

 愛おしい体温を抱きしめて、思う。

 ――あぁ。

 早く堕ちてくればいいのに。

 心だけじゃなく、体もすべて。

 早く、はやく。

 せかすように、首裏を撫でて。身じろぐ恋人に笑いながら、強く抱きしめる。

「なぁに」
「いいや?」

 恋人には軽くとぼけて、また抱きしめて。

「今日も愛おしいなと思っただけだ」

 甘く、あまく。耳元で囁く。
 きっと今、恋人曰く「歪んだ紅」をしているんだろう。
 あとで見せてやろうと微笑みながら。

 小さく、ちいさく聞こえる心臓の音を堪能するように、恋人の左胸へと耳を当てて。

「……」

 早く堕ちてくればいい。

 この心臓も、すべて。

 そう思いながら。

 生きていることを主張する音に、そっと目を閉じた。

『生きる証すらも、愛おしいから』/リアス


 朝、起きて。
 何かが足りない気がして。

 まだ目を開けない妹に覆いかぶさるようにして顔の横に手をついた。

「……」

 真上から、眠る妹を見つめる。
 規則正しい呼吸を聞きながらじっと見つめた。

 そうしていること数分。

「……」
「……」

 やがて、視線に耐えられないというようにカリナは目を開く。

「起きてた?」
「寝てましたけども」

 あなたの視線で起きましたと言うあきれ顔の妹のことは、組み敷いたまんま。

「どいてくれはしないんですね」
「うん」

 じっと、見つめあって。

「今日はどうしたんですか」
「んー?」

 そっくりな妹を、見つめながら。

 ぽつり。

「俺のものになれば、痛みがわかんのかなって思っただけ」

 こぼせば。

「……そう」

 笑って。

「私も、あなたの心がわかりたい時があるわ」

 そう言う妹に俺も笑って。
 いい加減にどいてと胸を押す妹の手を取って、起こしてあげた。

『君とひとつになれたなら』/レグナ


 ”鏡”を見る。

 じっと見つめて、見つめて。
 でも鏡なのに、今日は目が合っていない。

 あぁでもそれもいつも通りねなんて納得して。そっぽを向いている鏡を見つめた。

 そうして、しばらく。

「なに」

 少し冷たい、声。それに笑って。

「なにも。見つめてるだけよ」
「視線が気になるんだよ」

 ようやっとこっちを向いた鏡に、自然とさっきより笑みがこぼれた。

 そうして、見つめあって。

「――ねぇ」

 鏡よ、鏡。

「最近の話を聞かせて」

 外のお話を。
 なんて言えば、仕方ないなと言うように笑う鏡。

 そうして、穏やかな声で紡ぐ。

「キレイな花があったよ」
「そう」
「空も」

 ほかのいろんな景色も、キレイだった。

 頷いていったら、「ねぇ」と今度は鏡から声をかけてくる。

「なぁに」
「今度一緒に行こっか」

 なんて言うから、少しきょとんとして。

「一緒に?」
「一緒に」
「一緒に……」

 反復して、飲み込む。
 あなたと、いっしょに行けたなら。

「……それはきっと、幸せなことなのかもね」

 どちらかしか世界を見れない、報告をしあうんじゃなくて。

 共に。

 そう考えたら、自然と笑えて。

「……いつかね」

 鏡に、一つだけ約束を増えして。
 ありがとうと、鏡のはずなのにあたたかい頬を撫でた。

『あなたが見る世界を、いつか私も見たいから』/カリナ

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