《優勝はめでたく青組と決まり──》
「いやぁ、ワリィコトしちまったな」
すべての演目が終わり、閉会式。
司会の方が成績発表を行っていく中、私の隣に座る陽真先輩が珍しく本当に申し訳なさそうに言いました。彼の隣にいる武煉先輩も、申し訳なさそうな声で続ける。
「あそこまで過保護とは思わなくてね。後日龍に謝りに行きます」
「誰しも不良そうな風貌の男が重度の過保護とは思いませんわ。お気になさらず」
「今頃刹那が家でなだめてるよ」
その兄の声に。
本来座るはずだったであろう、彼の左側を見た。そこには空席が二つ。
クリスティアとリアスが、座る予定だったもの。
順調に進んでいたかと思われたバトルリレー。あらいい勝負ですねなんて、走り終えたクリスティアの元まで行き、共に眺めていたんですけれども。
なんということでしょう、最後の最後でリアスの過保護が最大限に発揮されまして。
彼は今まで見たことないくらいのスピードを出してゴール。そしてそのまま係員など目もくれずテレポート。
あぁこれは来ると予感できたので、被害を受けないように数歩下がった直後。
まぁかわいいかわいい私の親友を抱きしめに来たじゃありませんか。
ものすっごい音でしたよ。あばらとか首の骨とか逝ったんじゃないかなってくらい。けれど不安いっぱいのリアスは気にすることもできず。
いつものごとく周りからの心配の声すら聞こえなくなってしまい、最終的に。
帰る、と小さく小さくこぼして。
クリスティアを連れてテレポートで帰って行きました。
あれほどの不安を抱えてそれでも走り抜いたのはさすがリアス様。
ただその分反動は大きいでしょうから、今頃は兄の言うとおり。玄関でクリスティアを抱きしめていることでしょう。
そこは我々の担当外なので、彼女にお任せするとして。
スタジアム中央へと、目を戻す。
「次から学校来れなくなるとかねぇよな?」
「そこまで柔ではありませんよ」
それに──。
未だ心配そうな雰囲気の先輩方へあっけらかんと、告げた。
「戦場で、情けはいりませんわ」
「何があっても、文句は言えないでしょ」
兄妹そろってそう言うと、声で苦笑いを頂いたことがわかる。
それには肩を竦めて答えておきました。
「さて先ほどのお話は切り上げましょう?」
「龍も文句は言わないよ。また学校来たらいつも通りだから」
「二人がそう言うのであればお言葉に甘えますが」
「ま、あとでなんか借りは返さねぇとな」
「あらあら、律儀ですのね」
《それではみなさまお待ちかねの優勝商品の発表です!》
と、司会者の声と共に周りから歓声が上がる。
それを合図のように、話を切り替えました。
「そういえば、毎年どんなものが優勝商品になるんです?」
先輩方も意図を汲み、そのまま話に乗ってくれます。
「ま、簡単に言やあ”自由チケット”じゃね」
「自由チケット?」
「はい。たとえば……カフェでの飲み物無料やテーマパークの入場チケットみたいなものですね。毎回ものは違うけれど」
「たまーに規制線の上に建てられる建物とかあんだろ? 交流遠足で行ったようなトコとかさ」
「あぁ──その上に建てられているならば全種族自由に出入りできるという、特殊な規定の建物ですよね」
将来的には規制線をなくした世界を、という実験で作られ始めたものだったはず。
「ソーソ。今日知り合ったヤツらとの交流も兼ねつつ、異種族でも仲良くできるってーのも世間様に広げるためにってなコトで」
「毎年その特殊な規定を適用しているチケットをくれるんですよ」
「まぁ」
それはなかなか面白い発想ですわね。
規制線を越える許可を申請しなくてもすむから生徒にとっても嬉しいでしょうし。
何が来るのかはわかりませんが、飲み物とかならリアスでも使えてクリスティアも楽しめる。
うん、とても良い案ですよね。ただわたしものすごく聞きたいことあるんですよ。
きっと兄も同じことを思ったんでしょう。わたしが聞こうとした言葉は、兄の口から出た。
「ねぇ先輩?」
「んー?」
「別にそのチケット、組が決まってから言わなくても良くない?」
そうなんですよ。ほんとにそうなんですよ。
「自由券というのはほぼ決まっているようなものなんでしょう?」
「まーそうだわな」
なら何故?
二人して首を傾げていると、軽快なドラムロールが鳴る。え、そんな重大発表みたいにします? チケットなんでしょう??
「一応組が決まってから発表する必要はあるそうですよ」
少しだけ声を張った武煉先輩の言葉に、双子そろって先輩方を見る。
「青組ならプールとか水とか、色に関係するようなものになるんですか?」
「でもそうだった場合赤とかだと難しくない? 食べ物ならすげぇ限定されんじゃん」
頭にハテナマークを浮かべている私たちに、武煉先輩がこちらを向いて微笑みました。
そして狙ってなのか、偶然なのか。
ドラムロールが鳴り終わった後、その口は開かれました。
「建物の色が組の色だそうだよ」
わぁすごい微妙なこだわり。
いや必要ないでしょうそのこだわり。
武煉先輩の言葉に驚きすぎて司会者の声聞こえませんでしたよ。
「蓮クンの言うとおり、黄色とか赤は難しいからってんで、建物の色だけこだわってるらしいぜ」
ほら、と、手前側に座っている陽真先輩が指さした先を追うと。
まぁきれいな青い娯楽施設がモニターに映っているじゃないですか。
意外とこだわりが強い。
青は澄み渡ったような空に近い色、そして窓ガラスも透明よりは水色寄り。
ぱっと画面が変わって見えた内装も寒色系で統一されています。
「……俺エシュトのこだわりわかんない」
「奇遇ですわお兄さま」
司会者が嬉々として施設の中も紹介してくれてますが全然頭に入ってこない。この学園本当にいろいろと予測ができませんわ。
「まぁそんな感じで、ああやって拘った場所のチケットだそうですよ」
「はぁ……」
そのこだわりは果たして本当に必要なのかしら。
そうやってこだわるから。
「どうしましょうかお兄さま」
「どうしようかねぇ」
うちみたいに行けない人も出てきちゃうじゃないですか。
遠い目をした我々の視線の先には、建物の名前。
”アミューズメントパーク”。
お子さま連れとかで行く場所ですよね。
めちゃくちゃ人がいるところじゃないですか。クリスティア連れて行けないじゃないですか。
一枚のチケットで誘える人数とか聞いても全然嬉しくない。
「……私のクラスは除外としましょうか」
「ただ四人までオッケーな時点で選択肢狭まるよね」
「そうですわねぇ」
そしてやはり双子。全容を話さずとも会話が成立。
「何? 誘うコの話? オトモダチできたのかよ後輩クンたち」
「あ、いえ」
お友達はともかく。
「誘うのではなくチケットを譲る方を探してますわ」
そう言って、今度は先輩方がこちらを向いた気配がしたので、私もまた目を向ける。
「あげるんですか? 龍と華凜の分を合わせたらあと四人誘えるじゃないですか」
「そーそー、オトモダチ誘って楽しんでこいよ」
きょとんとした顔でそう言う二人のお気持ちはありがたいのですが。
うちには最大の難関がいらっしゃる。
「俺と華凜だけでなら全然行けるけど」
「龍はおそらく無理でしょうねぇ」
その名前を出せば、すぐに納得した顔に変わりました。
「あ”ー、人混みか」
「えぇ」
使用可能時期などの説明をさりげなく聞きながら、四人そろってスタジアムへ目を向けた。
「仮にエシュトばっかりってなっても、不特定多数の人が出入りすんなら無理じゃないかなぁ」
「気軽にデートもできねぇのかよ」
「あら、いつもしてますわよ、おうちデート」
「そういうことではないですよ華凜」
苦笑いの声をこぼして。
「──なぁ」
数秒の後、ふと思い至ったかのように先輩方が聞いてきた。
「龍は、外出自体は問題ないのかい?」
「んーー、そうですわね。渋りはしますけれど」
「んじゃ、不特定多数が出入りしなきゃとりあえずオッケ、ってコトだよな」
「そうだね」
「そうですか……」
しばし、司会者の声を聞きながらお二人が沈黙。
一応あとで、この施設を入念に調べておきましょうか。
もしかしたらなんとかできるかもしれませんしね。
そう決めたところで、
《それでは本日はお疲れさまでした! 青組の方はチケットを忘れずにもらって帰ること。退場時、混雑するので最後までけがのないように!》
明るいその言葉を締めとして、閉会式が終わりました。
ほとんど内容聞いてませんでしたがいいでしょう。なんとなくは先輩方が教えてくれましたし、とりあえず帰り際にチケットが配布されるとだけ聞いたので、リアスの分ももらって詳細を家に帰って調べましょう。
さて少し人が捌けたら帰りましょうかと、レグナに目配せをしたら。
「後輩さん方」
武煉先輩から、またお声が掛かりました。
そちらを向くと、先ほどとは打って変わって楽しげに微笑むお二人。
「あとで龍クンにも伝言頼むぜ」
「? はい?」
武煉先輩が陽真先輩の肩へ体重を預け、二人して、にっこりと笑った。
「詳細は後日お話しします。とりあえず、七月八月に演習がほとんどできない代わりとして」
「オニーサンたちと、アミューズメントパークで遊ぼうぜ?」
その、言葉に。
「「……はい?」」
兄妹揃って、素っ頓狂な声しか出せませんでした。
『来たる夏休みも、幼なじみの男は休まらない予感』/カリナ