悲しみと後悔の扉

守ると誓った。

- 愛してるって、言うはずだった。

その約束は、

- その想いは、

 

儚く崩れ去った。

平和な村は、突然戦場に変わった。

- 飛び交う声、逃げ回るヒューマン。

異種族間のいざこざは知っていた。

- でも、戦争になるなんて思わなかった。

わけもわからず、必死に走る。

どうして、今日なんだろう。

- 今日だけは、生きたかった。

だって、

- 今日は。

夫婦めおとの契りを交わす日だったのに。

ただただ生きたくて、必死に走った。

- 行き先なんて、わからないまま。

走って、

- 走って。

転がってる武器を、護身用に拾う。

- 手を引かれるまま、走る。

今日逢うはずだった双子はどうなっただろう。

- 無事なら、いい。

安否は気になるけれど、生きていると願って。

- 村から出るように、走った。

もう少しで、村から出れる。

- そう思ったとき。

ビーストに回り込まれた。
後ろは、火や武器が飛び交う戦場。

- 逃げ場が、なくなった。

クリスティアを守るように立って構えたことなんてない刀を構える。
情けないことに、手が震えた。

- その震えた手を、強く握る。

襲ってくるビースト。
クリスティアを後ろに下がらせて、拙い攻撃で闘った。

- リアスが斬ったビーストが倒れた。
その倒れたビーストがなんとなく、光を放ってる気がした。

血が、服に付くけれど。構わず闘う。

- それが攻撃魔法だってわかったのは、その光が、矢に変わったから。
狙いは、闘ってるリアス。

怖かった。死の淵に立つことが。

- こんなに怖いものなんだって、初めて知った。

 

でもー。
自分はどうなったっていい。
愛しい人が生きていてくれるなら、何もいらないから。

震える手で、刀を一閃させる。

- 震える足で、走り出す。

 

君のために。

「リアスッ・・・」

声が、聞こえた。

- 名前を呼んで、勢いよく、押す。

突然の衝撃に、よろめく体。
反射的に、手を伸ばした。

- その手を、いつものように握り返したくて、手を伸ばす。

 

 でも、届かなくて。

目の前が、真っ白になった気がした。

- 体が、貫かれた感じがした。

守りたかった愛しい人が、今、目の前にいる。
その胸には、矢が刺さっていて。

- ああ、胸に矢が刺さったんだ。
不思議。あんまり、痛くない。
でも、目がかすむ。
あなたの元に行こうと出した足は、力が抜けて、崩れていく。

彼女が倒れていくのを、ただ呆然と見ることしかできなかった。

「クリスティア…?」

名前を、呼ぶ。

- 愛しい人の声が、聞こえた気がした。

反応が、ない。

- いつものように「なぁに」って返そうとした口は、動かない。

ただただ受け入れられなくて、呆然としていた。

- ただただぼんやりと見える、綺麗な金色の髪を眺めてた。

その瞬間に、体を貫かれる感触。
近くなっていく地面。

- でも段々と、その姿が見えなくなってく。

 

自分が刺されて倒れたんだと、知る。

- 私の命はここで終わるんだと知った。

でも、そんなことはどうでも良かった。

- ほんの少しだけ、悔しい。

クリスティアが生きれないなら、何もかも意味がないから。

- あなたが生きてくれるなら、それだけで良かったけれど。

一生、守ると誓った。

- 愛してるって、言いたかった。

傍にいると、約束した。

- 今までいえなかった分を、今日、伝えるはずだった。

 

なのに。

守れなかった。

- 言えなかった。

一番守りたい愛しい人との約束を。

- この短い人生の中で、ただの一度も。

力が、なかったから。

- 勇気が、なかったから。

力があれば、こんな受け入れられない程の悲しみなんてなかったのに。

- 勇気があれば、こんな後悔、しなかったのに。

かろうじて動く体を引きずって、彼女に近づいて、手を伸ばした。

- もう見えないけれど、そこにいると信じて手を伸ばした。

死後の世界では、今度こそ守れるように。

- せめて触れた手で、「愛してる」って伝えられるように。

目が、かすんでいく。

- 体が、動かなくなってく。

音が、遠い。

- もう、何も感じない。

手は、届くことはなく。

- 意識は、消えていく。

遠のく意識の中で、

- 強く願う。

 

もしも、叶うのなら。

次こそは、守ってみせるから。

- 次こそは大事なこと、伝えるから。

 

だから、どうか。

神様。

どうかもう一度、生きるチャンスをください。

『悲しみと後悔の扉』/リアス・クリスティア