もふもふファミリー

夜。
吹き荒れる風の音で、目が覚めた。

「……二時半……」

スマホの時計を見れば、午前二時半を少し過ぎたところ。同じベッドで眠る妹や、その隣で金色に抱きしめられてる水色を見るもすよすよと夢の中。
そこからほんの少しだけ開いているカーテンの外を見れば、風は吹き荒れ雨がすごい。

よくもまぁこんな大嵐の中で眠れるもんだと、息を吐いた。

妹を守るためにといつからか強化された耳の良さを今だけは呪う。

こうもうるさいと耳栓しないと眠れないけれど。

「……忘れたんだよな確か……」

ここまで荒れるというのは正直想定外で。静かな場所と聞いていたので愛用している耳栓は家に置いてきていた。さすがに耳栓一つに家にテレポートというのも気が引けるので、頑張って寝ようかと決めてからひとまず喉を潤すためにベッドを降りた。

備え付けの冷蔵庫に入れた俺の飲み物を取って、静かに開けて二口ほど口にする。

「……」

少しだけさっぱりした気分にほっと息を吐いて、ベッドの方で布のこすれる音を聞きつつ飲み物は持っておこうかと手に持って。

さぁ睡眠との戦いだと、振り返ったら。

 

「うぉびびった」

先ほどまで夢の中だったはずの水色の少女が、ホラー映画よろしく髪をだらっとさせて起き上がっておりました。
さっきの布の音起き上がる音だったんかい。

思わず跳ねてしまった心音を落ち着かせながら歩いて行って。

その少女に声を掛けることはせず、ベッドに入る。

 

「どうした」

リアスが声を掛けると知っているから。
案の定、優しい声でクリスティアに声を掛ける。ちらっと横目で見たら、髪の毛で覆われてるクリスティアの頬にリアスが手を伸ばしてた。

こういうときのリアスの声って結構優しくて落ち着くので、クリスティアと一緒に寝かせてもらうことを決め。
とりあえずもう一口飲み物を飲もうと、閉めたばかりのペットボトルのキャップを開ける。

「んぅ…」

そうして傾けて、俺の口に入ってきた飲み物は、

「たろー…?」
「ごほっ」

見事に水色の少女によって外にはじき出された。あぶねなんとかベッドにこぼれるのは阻止。あっでもいってぇ気管入った。

待ってリアス何でそこで俺睨むの?? 俺悪くないじゃん絶対。吹き出したのクリスのせいじゃん。けれどそれは咳込んでしまって言えず。リアスは呆れたように息を吐いてから、クリスティアに向き直った。

まだぼうっとしてる少女は、目の前にいるリアスにすり寄って。

「たろー…」

なおもリアスをたろーとおっしゃる。

「俺はたろーではないが」
「じろー?」
「じろーでもない」
「さぶろー…」

だめだ腹筋痛くなってきたかも。

心なしか隣で夢の中にいたはずの妹も震えてる気がする。お前起きてんな??

「しろー…」

そんな震え始めてる双子に構わず、クリスティアは譫言のように名前をこぼす。
大丈夫クリス、ポーンの山でも見えてる??

「たろーもじろーもさぶろーもしろーも置いてきた」

墓場に??

「…」
「……」
「…ろくろー?」

おっとごろー飛ばしちゃったよ。

「ろくろーも迷子になるからと置いてきただろう」

 

やっべぇ腹筋超痛くなってきた。カリナさんふふって聞こえたからな俺。

「んぅ…」
「だいぶ夢見心地だなお前は……」

だいぶ夢見心地でもリアスって判別しないのはちょっと珍しいけど。若干にじみ出てきた涙を拭いながら、クリスティアを改めてみる。

ただ、髪の毛がだらっと顔を覆い被さっているので正直はっきりとは彼女の顔が伺えない。

ん?

だらっと? 顔を? 覆い被さっていて?

あっクリスティアさんもしかして髪の毛のカーテンでリアスのこと見えてねぇな?? そりゃ名前間違えるわ。笑いはこらえながら。

「リアスカーテン開けてあげなよ」
「ん?」

なんて言ったら当然のごとく窓のカーテンをシャッと開けるわけで。

違うごめんミスった。

「ごめん違う」
「何だ。外は大嵐だが?」
「外じゃなくて。クリスの髪」
「髪?」
「恐らくクリスティアの髪が目にかかっていてあなたが見えないんですよ」
「──あぁ」

カリナの補足にようやっとリアスは納得して、そっと水色のカーテンを開けた。

こっちからも見えるようになった蒼い瞳は、突然はっきり見えるようになった視界にちょっとだけうろうろして。

そっと目をあげて、リアスを確認。

「りあすさま…」

瞬間、ふわりとした雰囲気でその顔がほころび。

同時にぱしゃってシャッター音が鳴りました。言わずもがな目の前の妹ですね。
夢見心地でそんな音に気づかないクリスティアは、発見した大好きな人に甘えるようにすり寄る。それをリアスも愛おしそうに受け入れて。

「もう寝ろ」
「んぅ…」
「お休み」
「すみー…」

優しく言いながらトントンと子供をあやすように背を叩き、秒でクリスティアが寝落ちました。

「今だけはその寝落ちの早さうらやましいわ……」
「寝かしつけてやろうか?」
「あ、お断りします」

地獄絵図にしかならない。

「レグナ」
「んー?」

けれど親友は、何故か俺を手招き。

えっまじでやんの??

「何……?」
「眠れないんだろう?」
「いや俺お断りしたいんだけど」
「私は是非お願いしたいですわ」
「カリナさん良い子は寝る時間だよ」

言いながら、リアスがこっちに来いと言う圧を抑えてくれないのでおそるおそる歩いていく。

「ほら」

一瞬布団まくる気かと身構えたけれど、リアスは俺に向かってグーを差し出すだけ。え、待って何まじで怖い。

「やる」
「何を……?」

そっと、その手の下に器を作ると。

ころんと落ちてきたのは、

「……耳栓」
「忘れたんだろう。それ使え」

え、さりげなく聞いてたのあれ。イケメンかよこいつ。

「やばいちょっと初めてお前にときめいたかもしんない……」
「……この一万年でもう少しくらいあっただろう……」
「待ってね探してみる」
「いらん。それつけてさっさと寝ろ」

そうして用は済んだとばかりにクリスティアを抱えて布団に入っていくリアス。やばいこれはほんとにときめくわ。

ただね。

さりげなく布団の中からそれを構えてる妹へ。

「写真はいただけないなマイシスター」
「ご安心ください、動画です」
「なんでお前動画は安心だと思うの」

もっとだめだよ。

耳栓をつけながらベッドへ戻り、カリナに背を向けて横たわる。音がだいぶ遮られた中で、カリナの声が遠くに聞こえた。

「あらもう寝てしまうんです?」
「言ったでしょ、良い子は寝る時間」
「ごろーさんの行方気になりません?」

そんなこと言うと気になり始めるだろ。

「やめてカリナ明日にお願い」
「夜はこれからですのに」

そう言いながらも緩く布団が引っ張られる感覚があったので寝るのがわかった。
それに、俺も目を閉じる。
静かな空間、ぬくい布団の中。

あぁ、今度はゆったり眠れそう──。

「……」

けれどなんとなく脳裏に浮かぶのは、さっきのカリナとクリスティアの言葉。

結局ごろーは何者でどこに行ったのか。

あっだめだこれ考え始めたらもんもんとするやつ。
俺は寝たい。

というわけで。

そっとベッドを出て、リアスの目の前へ。俺の気配に気づいた親友はすぐに紅い目をのぞかせた。

「リアス」
「何だ」
「さっきポーンのごろーだけいなかったんだけどどこ行ったの」

一瞬俺が何言ってるのかわかんなかったのか、眉間にしわを寄せて。数秒後、納得したように「あぁ」と声を出す。

「あれはポーンじゃない」
「同姓同名の方がいらっしゃるんです?」
「性別は知らないが」

えっ名前的に全員男なんじゃないの。

「あれはもふもふファミリーにつけた名前だ」
「もふもふファミリー……」

あれかクリスティアがかわいがってるでかいぬいぐるみ集団。たまに衣装直すやつだ。

「ごろーは?」
「ごろーはもふもふ仲間として契約ビーストの冴楼が入っている」
「あー……」

確かに腹の部分すっげぇもふもふしてたかもあいつ。クリスにとっては最高なんだろう。
ごろーが判明したことでようやっと納得して、立ち上がる。

「納得した。ありがと」
「あぁ」

ベッドに潜り、今度こそ目を閉じて。

そういえば、と。

「……」

クリスティアのもふもふファミリーにいるやつらの名前ってしばらく前は違ってなかったっけという新たな疑問がやってきたので。

結局そのまましばらく眠れませんでした。

『0810』/レグナ