文化祭HR 1組編

 

「……諸君」

いつもよりも低い声に、背筋が自然と伸びる。

「文化祭は、”ヒトの笑顔を守る”というコンセプトで行うものだ」

俺たちに背中を向けて黒板を見ている先生が、どんな顔をしてるかはわからない。

「もちろん、お前たちが提案するこれらも笑顔を呼ぶだろう」

ただ、きっと何とも言えない顔をしてるのは確かだと思う。

「……ただな、諸君」
「『……』」

「特定の層しか喜ばないものはどうしても同意しかねる」

黒板に書かれたマニアックな提案見たらきっと誰だってそうなると思います。

九月十三日、水曜日。本日は今月末、二日間にわたって行われる文化祭の出し物決め。うちではアンケートを取ってまして、今日その集計と決定が行われるんだけれども。

実行委員が黒板に書いてった文字がなんともまぁ、ある意味学生らしいというものでして。

「…メイド喫茶」
「王子・姫喫茶に」
「執事喫茶ね」
「票が多いのはすべてマニアックなものばかりだな」

後ろの方で四人、向かい合うように座って黒板の文字に苦笑いをこぼしてしまった。

さてここからどうしようかということなんだけれども。前を向いて、おそらく腕を組んでいるであろう杜縁先生が同意しかねてからこっちを向かないのが地味に怖い。
きっと本人は普通にしてるつもりなんだけど、杜縁先生結構圧があるタイプだからすげぇ緊張する。

「……」
「『……』」
「……ふむ」

短い時間なのに結構長く感じた数分。納得したような声を出して、ようやっと杜縁先生がこっちを向いた。思った通り腕を組んでいた杜縁先生は、頷く。

「とりあえず、カフェがやりたいことはわかった」

うまく抜き出しくれてありがとうございます。

「先ほども言ったとおり、特定の層のみが喜ぶものは同意しかねる。だが、ヒトを楽しませるにはまず自分からという。なので頭ごなしに却下するつもりはない」

珍しくほほえんで、杜縁先生は続けた。

「さぁ諸君、ここがエシュト学園生徒の腕の見せ所だ」

若干不適な笑みで。

「これもある意味勉強になるだろう。この票が多いカフェの中から、特定の者のみでなく来たヒト全員が楽しめるようなもの、なおかつお前たち自身も楽しめるものにできるよう、本日はその話し合いをしようと思う。まずはこのカフェから共通点を見つけよう」

 

放たれた言葉に、クラス全員が止まる。

この中から?

メイドカフェと執事喫茶と王子・姫喫茶から? 共通点?

共通点って言ったらコスプレしかなくね??

いやいいよコスプレ。俺超楽しめるよ。姫でもメイドでも着せる側ならなんでも俺楽しめるけれども。服作りたいよむしろ。

「考えてみたけど蓮しか楽しめない…」
「それはちょっと心外だわ」

お前の声普段小さくて今ほんとによかったわ。公衆の面前で変態扱いになる発言やめて。

今は視線の端に見える後ろの席に座る親友にしーっと指を立てておく。クリスさん、「手遅れ」みたいな顔しないでくんない。俺確かに服着せるの大好きだけど誰でも彼でもってわけじゃないんだわ。伝わってるよねこの思い。「えぇ?」って顔してるから絶対伝わってるよね。信じてよ。

「ないか?」

クリスティアに視線と念を送っている間に、杜縁先生が言う。待ってクリスティア口は開くなお前今このタイミングだと絶対さっきの大きな声で言うだろ。それはいけない。

ちょっとばかしパンっと音が鳴る勢いでクリスティアの口を手で塞いだとき。

「あるわ!!」

その音を消すくらい大きな声といすのガタンって音を立てて立ち上がったのはクリスの隣の道化。祈童大丈夫? すっげぇ肩びくついたけど。

一瞬視線がそっちに行ったけど、目の前の祈童も道化に視線をやったのでつられるように俺も道化を見る。立ち上がってご丁寧に手も挙げている彼女はきらきらと顔を輝かせていた。

「では聞こう、道化美織。今回のカフェで共通点はなんだ」

杜縁先生の問いに、自信満々で道化は告げる。

「その人とのお話よ!!」

その言葉に、おぉって声を上げたのがたぶん純粋な子、俺含むえぇどういうこと?って感じの雰囲気出したのがきっとコスプレ目当てな不純な子だと思う。お前もだよクリスティア。
そんないろいろな視線の中で堂々と道化は続けた。

「王子や姫喫茶は詳しいのはわからないけれど、少なくともメイド喫茶とかには目当てのヒトに逢いに行くでしょう? どうしてって言われたら、もちろんいろんな理由はあるけれど、お話したいからというのも挙がるはずよ! たとえそれがささいなやりとりであっても推しのヒトとお話しできたら嬉しいもの!」
「けれど道化、この学園にはそもそもの目的である”推しのヒト”というのは存在しないのではあるまいか?」

祈童の問いに、待ってましたと言わんばかりの道化。

「そうよ、だから共通点は”推しのヒト”じゃなく”お話”なんじゃない! メイドカフェとかだと先生が言う特定の層しか来づらくなっちゃうけど、”異種族とのお話喫茶”ならこの学園の理念にもきっちり合うわ!」

そして、

「メイドや執事にこだわらず、各自で決めたいろんな服でお出迎えするの! 王子様もいいと思うし、シンデレラとか童話のモチーフを入れてもいいと思うわ!」

そんな言葉に反応するのはもちろん俺です。自分でも目が輝いた気がした。

「もちろんメイドを着たい子はメイド! 執事もいて……いろんなキャラクターがお出迎えしてくれて、その中の誰かとお話もできる喫茶! 楽しそうじゃないっ?」

めっちゃ楽しそう。
あ、クリスさん俺の「楽しそう」の意味違うよねって目寄越さないで。

そんな視線から逃げるように、道化が「どうかしら」と言った先にいる杜縁先生を見る。

その人は顎に手を添えていた。けれど俺が見たときには一瞬で、ぱっとその手を離して頷いた。

「道化の意見は我が学園の理念にも合うだろう。俺としては賛成だ。他の者はどうだろうか」

杜縁先生があたりを見回すのと一緒に、俺も緩く見回すと。みんなそろって頷いていた。同じく見ていたらしい道化が嬉しそうな声を上げる。

「じゃあそれで決まりね!」
「異議はないようだしな。それでは道化美織の意見から、我がクラスでは異種族との交流目的とした喫茶店を出すことにする」

決定を示す拍手が鳴り始めたので、ようやっとクリスティアの口から手を離して俺とクリスも拍手。俺のコスプレしたい欲云々は置いといて、これならクリスティアに目一杯可愛い服着せてリアスにも楽しい文化祭を送ってもらえそうだし。

「楽しそうだね」
「ん…」

後ろの席の親友も楽しそうだし。微笑んだクリスティアに微笑んで。

「それではこれから実行委員と共に配役等を決めてもらう。メニューについては安全面を考えてこちらで決めることになるが、その分衣装や装飾を自由にしてもらって構わない。たくさんの種族が楽しめる形にするように」

そう言った杜縁先生に頷いた。そんな俺達に頷き返して、杜縁先生はうちの実行委員に声を掛ける。
アライグマの女子委員とハーフの男子委員が前に出て、先生の代わりに教壇に立って。

『じゃあ当日のキャスト・配膳係を始め、準備期間中の担当などを決めようと思います』
「順に声を掛けていくので、希望のところで手を挙げてね。多くなったりしたらじゃんけんです」

HR残り数十分。実行員による配役決めが始まった。

『もちろん衣装係に手を挙げました』/レグナ