下着が合いません!!

ベッドの上に座らされて、手よりもあったかいのが、わたしの指先に触れる。 いとおしそうに、「愛してる」って言わなくても、それだけで伝えてくるように。 王子様みたいにひざまずいたリアス様の唇が、爪に触れて、ほんの少し上がって、指に触れて。 「ん…」 ときおり吐かれる息に、ちょっとだけ体が反応してしまう。 ぴくって動いたら、心配そうで、不安げな紅い目がこっちを見た。 「平気か」 「…へーき」 こわいわけじゃ、ないから。 小さく呟いたら、安心したような目になって。その人の唇が、また指に触れた。 リアス様がやろうって言った行動療法。苦手なことを克服してくもの。ちょっとずつ、ちょっとずつ、苦手なことをやっていって、最終的にできるようになるんだって。 なんとなく、リアス様がおでかけとか許してくれてるあれもそうなのかなっていうのと、やっぱりそういうこともしたいって思ったから、うなずいたのが夏休み。 それから、なるべく毎日。 お風呂に入る前にこうして、ちょっとずつ。 リアス様にキスをしてもらってる。 爪から始まって、中指の関節ひとつひとつに唇が落ちてくる。 こわかったことをしてるはずなのに、いつもと違って見下ろしてるその人は全然こわくなくて。 逆に、もっと、なんて思ってしまう。 「…」 指の付け根に触れたあったかい唇。ゆっくりゆっくり、ほんの少しずつ上がってくるそれが、なんだかもどかしい。 できないからこうしてゆっくりっていうのはわかっていても、いっそ──なんて思ってしまうのは、わがまま。 「はっ……」 「ん…」 唇を離したときに吐かれる息に、くらくらする。 もっと触れてほしい、もっとあなたに。 「……」 でも、いつも。 そう思ったときに、あなたと目があって。 「……今日はここまでにするか」 唇が、離れていってしまう。 「…終わり?」 「あぁ」 「まだ、へーき…」 「……」 立ち上がるリアス様にそう言うけれど、リアス様はこっちを見て、気まずそうに目をそらした。 「いきなり急ぐのも良くないだろう。こっちの抑えが聞かなくなるのも困る」 言われた言葉に、ちょっとだけ体が熱くなった。怖いのに、少し期待しちゃうのは、まだ言わないでおいて。 「風呂、行くぞ」 「はぁい…」 ほんの少し緊張したような雰囲気の中で、リアス様とお風呂に向かった。 「♪」 緊張した空気も、お風呂でゆったりすればすぐなくなるのがわたしたち。 リアス様にもたれながら、入浴剤でまっしろになったお湯をすくう。 「来週から文化祭準備…」 「あぁ」 「放課後、何時くらいにお迎え…?」 「だいたいが六時くらいに終了が多いんだったか」 髪をいじられながら、うなずく。 「一応そのくらいに迎えに行く予定ではあるが」 「ん…レグナと、待ってる…」 「あぁ」 すくったお湯を戻してはまたすくって、また戻して。心地いいあったかさのなかで、何度目かわからないけれどお湯をすくう。 「準備ね」 「うん?」 「なるべく、レグナと一緒にいるようにしてもらってるの…」 「あぁ」 優しい声がお風呂に響いて、心地いい。 「レグナ衣装やるからね、ちょっとだけ、お手伝いしていい…?」 「けがするなよ」 「ん…」 「あぁ、それと」 お湯よりあったかい手におなかを引き寄せられて、背中がもっとあったかくなる。もう片方の手がさっきまでキスされてた手に触れて、ちょっとだけ心臓がうるさくなった気がした。とくとく音を感じながら、リアス様の声に耳をかたむける。 「文化祭期間中はお前にリヒテルタをつける」 「ごろー…?」 「あぁ。準備期間、俺とカリナはもちろん、どうしたってレグナも共にいれないこともあるだろう。そこはもうどうしようもない」 「うん…」 「リヒテルタなら居場所もわかる。魔力結晶にしている分あいつの意志で攻撃とかの対処はできないが……何かあれば俺を呼ぶことはできるから」 「ん…」 だんだん声が小さくなっていってるけれど、わたしの口角は上がってく。リアス様なりに、わたしに楽しんでってこと。 「…リアス様も、行動療法ちゅー…?」 「なんだいきなり」 「昔はだめって言ってたこと、少しずつ平気って言うようになった気がしてるから…」 「……気がするだけだろう。根本は変わっていない。カリナやレグナが財閥の養子じゃなければ今までと同じだっただろう」 「…でも、おかげでちょっとずつ、進歩…行動療法…」 「……俺の場合は荒療治な気もするが……」 体を動かして、リアス様と向かい合わせになる。首に手を緩く回して、首元にすりよった。 「…でも、ありがと…」 「……どういたしまして」 「そんなリアス様に、ごほーび…」 「頼むから思わせぶりなことだけはやめてくれよこの状況で」 「男のヒトだったらおいしい状況なんでしょ…?」 「誰だお前にそんなことを教えたのは……確かにおいしくはあるがそれはお前がいろいろできるようになってからの話だからな」 「それもそっか…」 でもとりあえず。 体をちょっと離して、腰に回ってない方のリアス様の手を取る。 「……?」 「クリスも、もうちょっと、がんばる…」 それだけ小さく呟いて。 リアス様がしてくれたみたいに。 ちゅって、あったかい指に唇を当てた。 「…ね?」 「……思わせぶりではないがだいぶ期待するなそれは」 「男のヒトって難しい…」 「難しいのではなく単純なんだ」 「?」 それには首をかしげて。 あったかくてふわふわもしてきたから、リアス様の胸元にもたれた。 「そろそろ上がるぞ、のぼせる」 「ん…」 ゆすられて、もたれてるのはそのままにちょっと顔を上げる。 「ねーぇ」 「うん?」 やさしい紅い目のヒトは、首をかしげた。 ちょっとだけ、恥ずかしいけれど。ふわふわしてるからか、言葉がするって出て行った。 「あとで、もっかい…」 「は──」 「今日は、もうちょっとだけ、きす、してほし…」 こぼしてった言葉に、リアス様の顔が赤くなってく。きっとそれはのぼせたとかじゃなくて。それを見たら、わたしの口角が上がってった。 「だめ…?」 「……だめではないが。一回だけなら」 「うん…♪」 うれしくて、早くっていうようにリアス様を引っ張る。リアス様に支えられながらお風呂から上がって。 今日はちょっとだけ、いつもより甘い夜の予感。 なんて期待したんですけれども。   「…」 現実は、いつだって甘くない。 「…」 脱衣所でリアス様と一緒に着替えてる中。 着けた「それ」に、どうしても違和感があって。さっきのお風呂の中での甘い雰囲気も、期待も。少し置いとく羽目になっている。 気になる、「それ」。 わたしのひかえめながらもちゃんとある女の子特有のやわらかさがあるというその部分。そう、お胸。 そこに、いつも通り下着をつけたわけですよ。ホックを留めればきゅって、このひかえめな胸をささえてくれるわけですよ。 うん、正直そこまではよかったの。もーまんたい。 問題はね、そのね、わたしの目に広がる光景でしてね?? あぁ違和感があるなぁなんて、やっぱり生物みんなそこ見るじゃないですか。見てみたらあらまぁ不思議。   手が一つでも二つでも入りそうなくらい隙間が空いちゃってるじゃないですか。 試しに上からおさえてみればカッポカッポ効果音が鳴るじゃないですか。 何事?? って思うよね。 え、どうしたのこの隙間みたいな。 うん、いやね、お胸に当てる下着は、ちょっと大きめにすると成長する、っていうのを聞いたことはあるよ。期待してちょっとおっきいの買ったよ。当時からちょっと緩くはあったよ。でもそのときは指軽くはいるくらいかなだったんだよ。 ストラップちゃんと締めてれば全然問題なかったから気にしてなかったの。 そして今現在。 ストラップ全部締めてるんですよ。これ以上いかねぇよってくらい締めてるんですよ。 それでものすごくカポカポしてるんですよ。 何事???? え? もしかして? 信じたくない事実。けれどたしかめねばなるまい。意を決して、ペットボトルを口にかたむけてるリアス様へ。 「リアス様…」 「どうした」 「胸が小さくなったかもしれない」 なんて言えばお茶を吹き出すわけで。 「ごほっ……なんだって?」 「胸が小さくなったかもしれない…」 「何故お前は俺が飲み物を飲んだ瞬間にとんでもない事を言い出すんだ」 「タイミングがかぶった…」 「意図的としか思えないんだが。あの体育祭の説明書のときといい」 「わざとじゃない…」 ほんとか?って顔しないでよ。ほんとだもん。 って今はそうじゃなくて。 「そのタイミングより大問題なの…」 「俺としては毎度とんでもない自分をさらす方が大問題だが」 「そこはかわいいからいい…」 うん、意味わからんって顔で訴えてていいから。聞いて。 「下着が合わないの…」 「……そこで当然浮かぶのは代えのものをつければいいという発想ではないのか?」 「代え…?」 あ、そっか。 「あまりに衝撃的すぎてそれはすっぽ抜けてた…」 「取り替えてこい」 「はぁい」   敬礼して、お風呂場から部屋に小走りで向かう。 「…えっと」 タンスを開けて、並べてある下着の一番前を取り出して。 今着けてるのは外してから、取り出した方を着けてみた。 「おぉ…」 うん、着け心地はいい感じ。さすがリアス様。 これで、と。 そのまましたに目線を向けてみたら。 あらまぁさっきと同じ状況じゃないですか。 手が一枚でも二枚でも入るくらい隙間が開いてるじゃないですか。   試しにもっかいやってみますか? 胸を押さえるようにしてみたらカポカポ鳴りますよ。 どういうことなの。 思わずさっき着けてた下着を床にたたきつけた。その音を聞いたのか、後ろからずっと見てたのか、リアス様の声が聞こえた。 「……聞くまでもないようだな?」 「痩せた…? わたし痩せた…?」 「まぁ胸は落ちたように思うが?」 「先に言ってよ」 なんでわざわざブラを着けて絶望させたの。 ってもしかして、あれ? 「…ねぇ、これ一個合わないってことは…」 「……他も全く同じサイズで買っているから、恐らく合わないだろうな」 なんてこと。 え、どうしよう。 下着が合いませんでした。ほかのものも同じです。そんな状況になったら、もちろん思い浮かぶのはたった一つ。 買いに行く。 それしかないもんね。しかも割と緊急でしょう? 今日は金曜日。しかも明日から三連休。三日間休みってなったらそりゃ、ねぇ? 仮に最終手段のオンラインを使うとしても来週になるだろうし、買いに行こうかってなるようね。}}} でもわたしにはちょっとそれはできない。いやたぶんここまで緊急性があるならさすがのリアス様も「いい」って言ってくれそうなんだけれども。 お休みの日はヒトも混む。それだけでも行きたくないのに。 来たる文化祭、それまでの準備期間。あの心配性なリアス様が死にそうな思いでがんばろうとしてる中で追い打ちをかけろと??? だってもうこんなのお亡くなりになってくださいって言ってるようなものじゃん。しかももし仮に、借りにだよ? 昔みたいなことまでとは行かなくても、なんかあったら──。 わたしたちが司る後悔と悲しみがお互いにより深くなってしまう。 わたしはなんとかよくてもリアス様にそんな思いさせたくない無理。え、どうしよう。 パッド? でも元のあれは入ってる状態なんですよこれ。今入ってるやつ多いよねおっきく見せるためのってやつ。見栄張ってそればっかり買ったよ。 え、どうしよう。 今だけカリナの頭がほしい。こういうときの打開策、打開策──。 ない頭で考えてたところで、ふわってなにかが落ちてきた。 「…」 見上げたら、リアス様。 視界の端に見えたのは、リアス様の冬用のセーター。 「とりあえず着ろ。風邪引く」 「ん…」 ちょっとだけもこもこしたそれを、リアス様に着せられて。そのまま抱っこされて、ベッドの上へ。 「……」 「…」 リアス様のひざの上で考えるのは、やっぱり下着どうしようってこと。オンラインでもいいの。合わないとかもあるけれども。でもとりあえずそれが届くまでの応急処置がほしい。 「…」 「クリスティア」 「はぁい…」 呼ばれて、紅い目を見上げたら。 「買いに行くか、明日」 まさかの、リアス様からそんな言葉。あまりにびっくりして言葉がでなくなっちゃう。 「緊急だろう」 「そ、だけ、ど…」 なんとか出たのは、変な声。どうしようっていっぱいいっぱいになってて、リアス様も心配で、でもどうしようもできなくて。 「さすがに緊急をだめだとは言わん」 「…人混み…」 「確かにきついが」 無意識に、リアス様の服をつかむ手が強くなる。 なにかない? 今、こう、リアス様がつらくならない方法で。 なんか、なんか──。がんばれわたしの記憶力。思い出して。 必死に頭の中を探してるとき。リアス様が、「あぁ」って声をこぼした。 「夏は却下になったが、サイズがわかるなら俺だけで買いに行ってもいいのか。レグナ達を家に呼んでおいて」 それなら多少合う合わないはあるけれど。応急処置にもなるだろうって。 そう言われたときに、それだってなった。 リアス様の案じゃなくて。 夏のときのやつ。 「リアス様っ」 「なんだ」 「それ! 電話っ…!」 「は?」 驚いてるリアス様に「早く」って言って、スマホを借りる。 メサージュを開いて、目的のヒトをタップして、電話をかけた。 ぷるるって音が少し鳴った後。 《はい?》 「レグナっ!」 《お、クリスじゃん。どしたの》 目的のヒト、レグナはすぐ出てくれた。 「あのね」 《んー?》 「夏、水着はまだ作れないってゆってた」 《うん? 言ったね》 「でもあの、ちょっと、調整できる?」 《え、クリスこの時期に水着着んの?》 さすがにそんな季節外れなことはしませんけれども。 リアス様がわたしの行動を理解して、あぁって声をこぼしたのを聞きながら、レグナに話してく。 「水着じゃなくてね、下着…」 《下着?》 「合わなくて…あの、アンダーはね、平気なんだけど…カップ、かぽかぽしてて…今外してるけど着けて音鳴らす?」 《あ、そこは大丈夫》 「そ…」 なんとなくリアス様が震えてる気がするけどちょっと置いといて。 「カップ直せば、使えるから…レグナ、直せるかなって…」 《あー、うんそれくらいならたぶん平気》 「ほんとっ?」 《たぶんね。とりあえず明日少し詰めてあげるよ。今はほんとに応急処置程度になるけど》 「へーき…」 んじゃ明日ねって言葉を最後に、電話を切る。 そうして、お礼を言いつつ。 「……おなか平気?」 「ふ、とりあえず、っ」 口元を抑えながら肩震わせてるリアス様に、スマホを渡すべきか否かとても考える。 「わたしは真剣だった…」 「真剣に”音鳴らす?”と聞くからそりゃあ笑うだろうよ」 「ちゃんとどのくらいかなってわかった方がいいと思って…」 「明日来てくれるんだからそのときでいいだろう」 「ん…」 とりあえず一段落して、ほっと息をつく。よかった。リアス様が辛くならなさそうで。あれだったら今回はオンラインでもいいや。それかカリナにちょっと調査してもらってヒトが少ないときに買いにいこ。 そう心の中で決めて、リアス様のひざから降りてベッドに寝転がる。 そうして、いろいろあったけれども。 「リアスさま…」 「ん?」 「あの、雰囲気すごいなくなったけど…」 「何だ」 「お風呂で言ってたもう一回、する…?」 「今なら楽しくできそうだな」 なんて笑うから、わたしも笑って。 緩く、両手を伸ばした。 寝転がったままあなたを見上げて、どうぞって言うようにほほえむ。 壊れてた雰囲気は、それだけで一気に戻ってきて。リアス様も、わたしに手をのばして、指先に触れた── ところで止まった。 「クリス」 「はぁい」 引っ張られて、せっかく寝っ転がったのにまた起こされる。少し見上げるリアス様の紅い目を見上げたら。 ちょっと、気まずそうに目をそらされた。 「どーしたの…」 「雰囲気的には楽しいんだが」 「ん…」 「今のお前の格好的に、なかなかこちらがきつい」 「かっこう…?」 言われて下を見る。 見えるのは、リアス様のセーター。長くて、下は今ズボン履いてなくて… …下? セーターの、下。 あの、ズボン履く方の下着はつけているんですけれども。 セーターで覆われた胸。 なにも、つけていませんでして。 「……俺の服を着て、中がほとんど何も着ていないというのは、その……さすがに療法を越えそうだ」 「…っ!!」 言葉を聞いてるのと同時に理解していって、ぶわって体温が高くなった。 それは、さすがに、それは。 「い、いけない…」 「そうだろう。だから誘いは嬉しいが」 「わっ」 引っ張られて、また布団に戻される。 でも、上にリアス様がいるとか、そんなんじゃなくて。いつも寝るみたいに、抱きしめられてる。そっと、目を上げたら。 「……今日はこれで勘弁願いたい」 ほんの少しだけ、ほっぺが紅い気がするリアス様が、目をそらしながらこぼした。 つられるように、わたしも顔が赤くなった気がして。 「…はい…」 返事をして、そのままぎゅっと目を、つぶった。 二人してしばらく眠れなかったのは、きっと仕方ないことだと思う。 『修正版』/クリスティア