ハロウィン会議

クリスティアとリアスが交渉に行った次の日の水曜日。学校終わり、時間に余裕のある夕方。 「……」 「……」 カップルのご自宅にお邪魔させていただき、ソファの前。あぐらをかいたリアスと、正座をして向かい合う。 じっと見つめ合い、数秒。 いつものごとく嬉しくないですがタイミングが合った私たちは、同時に口を開いて。 「うさ耳」 「猫耳です」 発せられた言葉に。 「どーーーっしてこういうときだけはあなたと意見が合わないんですかっ!!」 すぐさま地面に、拳をたたきつけた。 今月末の十月三十一日は一年に一度の大きなお祭り、ハロウィン。 元はイタズラ好きの悪魔に、これ以上イタズラをしないようにと大好きなお菓子をあげて約束をしたことから始まった風習。一種の他種族交流ともなるそれは時代が進む毎にその風習は広まり、悪魔と同じ格好ならばイタズラされないからと仮装というオプションも付き。 最終的には仮装して町を練り歩いたり、おしゃれなバーで飲み会をしたりという町や国規模で行われる異種族交流会に発展いたしまして。 まぁイベントに参加というのはうちには過保護なリアスがいますのでないんですけれども。 他種族を侮辱しない、仮装拒否している種族の仮装はしないという二点だけ守れば自由に仮装──いわゆるコスプレができるイベントを、洋服を作るのが大好きなお兄さまが見逃すはずもなく。毎年レグナの手作り衣装で四人で密やかにパーティーしておりました。 いつもならば来週とか再来週あたりにレグナが制作を始めるんですけれども。今年は武闘会もあって、観覧自由とは言えど普段とは違って少しばかり制作時間が短くなること、そして昨日上級生からお誘いのあったハロウィンパーティーのために、レグナがパーティーならせっかくだしもう少し懲りたいということで。 四人揃ったときは恒例で行われるクリスティアの衣装会議を開催しているんですけれども。 目の前の男とは何故かこの日だけ意見が合わない。 「良いじゃないですか猫耳っ」 「猫耳は前回あたりの人生でやったじゃないか」 「あなたが写真で送ってきたやつですね、いつか目の前で実現してもらおうと心に誓ったものです」 それに。 「それを言うならうさ耳だってやっていたでしょう?」 「三回前の人生でな。猫耳より空いている」 「期間がどうこうではなくてですね。そもそもあなたこの会議で毎回一発目でうさ耳しか言わないじゃないですか。どんだけ好きなんですかうさ耳」 「似合うだろう」 「そこは同意するんですけれども。たまには違うのにしてもいいじゃないですか」 そう言えば、リアスは少しだけ悩んで。思いついたのか、再び口を開く。 「ロップイヤー」 「うさぎから離れてください」 耳が垂れるか否かの違いじゃなくてですね。 「あるでしょうもっと。それこそ私の猫耳とか、犬耳とか、ときにはエルフ系のお耳とか猫耳とか」 「耳からは離れないの…」 「ていうか猫耳二回言ったね」 「ソファ組は今しばらくお口を閉じていてくださいな」 真剣なんですとソファに座るレグナとクリスティアに言うと、 「じゃあリアスの衣装続きね」 「はぁい」 お二人は元からやっていたリアス衣装決めへと戻っていき。 私は再び壁であるリアスに目を向けました。そのお方はとても納得行かないというお顔。私だって納得行きませんよ。 「猫耳にしましょうよ」 「猫耳も良いことは認めるがうさぎだってかわいいだろう」 「かわいいですよ、それはもちろん。でも私猫耳が見たいんです」 「自分でつければいいじゃないか」 「クリスティアのが見たいんですよ」 自分で猫耳つけてあらかわいいなんてどこのナルシストですか。 しかしこのままではらちがあきませんね。 こういうときは一回離れてみるのもひとつの案。 「リアス、一回耳から離れてみましょう」 「耳推しをしているのはお前の方な気がするんだが」 「否定はしません」 かわいいので。ただ今はそうでなく。 「もしかしたらほら、長年気づかなかった新しい魅力にも気づけるかもしれませんよ」 ね? とスマホをかざしながら聞けば。 「……まぁ、それなら」 恋人のかわいい姿が見たいリアスと意見が合致。 それに笑んで、自然とリアスと隣同士になり、意見の参考としてコスプレの画像を見ていくことに。 スマホのインターネットを起動して”コスプレ””ハロウィン”と検索ボックスに入力すると、ざっと画像が出てきます。 多いのはナース、メイドあたりですかね。 「こういうのは五月にやりましたよね」 「警官は文化祭に着ていたな」 けれどスクロールしていくも、なかなか見たことがある・着たことがあるものばかり。 「ハロウィンの風習にちなんで悪魔のコスプレでもいいんですけれどもね。あちらの種族はとても寛容なので衣装とか普段からも衣装いっぱい売っていますし。五月にやってないんでしたっけ?」 「やっていないが。きわどい衣装は今は困る」 「リアスがイタズラしたくなっちゃうもんね」 「さすがにパーティーでは困ってしまうのでやめましょう」 「そういった場ではしないがな?」 「わかんないじゃないですか、たまたま二人きりになっちゃったーみたいなことがあったら」 「そもそもお前のテリトリーに入りそうなところではやらない」 失礼ですね。 「愛原家がこの町にある限り永遠とこの町は私のテリトリーですよ」 「お前そろそろ本気で通報するぞ」 「そのときは共に行きましょう、許してあげます」 「結構だ」 後ろから笑い声が聞こえますが置いておきまして。 話は本題へ。 「で? どうするんです衣装。せっかくなら普段着ないものの方がいいですもんね」 「だからうさ耳」 「付けるものも重要ですがまずは着るものを考えましょうリアス。モチーフを決めましょう」 言いながら、二人して悩む。 他種族のモチーフ。かわいいもの。クリスティアに似合うもの。 「……彼女に似合うものと言えば?」 「……フリル」 あ、わかる。 「あとはもふもふしたものもかわいいですよね」 「もこもこに埋もれているのは大層可愛い」 「ふわっとした洋服だとなおいいですよね」 待ってこれだとただのクリスティアかわいい談義になってしまう。 「今したいのはクリスのかわいい談義ではなくてですね」 「似合う服装の話だろう?」 「このままだとまた脱線です。フリルが似合うんですよね。ではそこにあなたの好みの要素を付け足してみましょう」 「好み……」 癖の爪いじりをしながら数秒、出た答えは。 「お揃い」 「するんですか?? フリルとうさ耳を??」 ちょっと後ろの二人が吹き出したじゃないですか。私は驚きで吹き出せもしない。 「リアス本気ですか?」 「俺はフリルとうさ耳がお揃いとは一言も言っていないが」 「言っていませんが今の流れではそうなるでしょうよ」 「俺の服の一部から持って行くという発想に何故ならない」 うさ耳とフリルがいいと言って最終的にお揃いがいいと言われたらこの男まさかと思いますよ。私絶対間違ってない。 「とりあえず要素としてお揃いがいいということで」 「とりあえずも何もそう言っている」 「あなたもう少し言うタイミング考えた方がいいと思いますよ」 意味がわからんって顔してますね、私だってあなたのそのとんでもないタイミングが意味わからない。 それを言っても意味がないということは長年のつきあいで知っていますので、咳払いして切り替えましょう。 「えぇと、フリルがあって、もこもこで?」 「うさ耳」 「一回ほんとにうさぎから離れてください」 どんだけ推してくるんですか。 「ひとまずもこもこふわふわな種族を探しましょう。うさぎ以上にあなたの心にヒットする種族もいるかもしれません」 そう言いながら、検索ボックスには新たに”もこもこ”、”種族”と入力して、検索。 ぱっと一番上に出てきたのは、もこもこのうさぎ。 だめですリアスが言うから引き寄せている。 一回うさぎさんは保留にさせていただきまして、画像一覧をスクロール。えぇと、もこもこの種族は…… 「狼、パンダ、狐……」 「カピバラに、尻尾がもこもこでリスとかもいるな」 「パンダさんかわいいじゃないですか」 「リスも可愛くないか」 異なった意見に、二人して画面から互いに目を向けて。 「……白黒のパンダさん。かわいいでしょう?」 「リスの尻尾がクリスティアに合いそうなんだが?」 「何故この会議になると私たちの意見は合わないのかしら」 「普段は嫌と言うほど合うのにな」 えぇ本当に。 しかしにらみ合っていても話は終わらない。どうしましょうかと思案しかけたところで、ソファの上にいたお二人が声をかけてきました。 「まだ決まんないの?」 「残念ながら」 「そっちは決まったのか」 「リアス様はおおかみー…♪」 ご機嫌そうにクリスティアはリアスへ体重を預ける。私にはレグナが体重をかけてきました。 「とりあえず決まんないならリアスに合わせるような格好で考えてみれば?」 「リアスに合うような、ですか……」 狼。狼……。可愛い感じで狼に合うもので、先ほどお互いに出た案の中から。 うーーん……なんでも合いそうですが、これは一回クリスティアに聞かねばなりませんね。ということで、リアスにご機嫌にすり寄っているクリスティアへ。 「クリス」 「なーにー…」 「あなたの衣装なんですが」 「うん…」 「リアスに物理的に勝てそうなものと精神的に勝てそうなものどちらがいいです?」 「聞き方何だそれは」 「クリスの意見も尊重しようかと思いまして」 「ちなみに物理と精神でどう違うの?」 レグナの問いに、んーと少し考えてから。 「精神は、いつも通りと言えばそうなんですが、かわいさでリアスに参ってもらうような感じで」 「物理は…?」 「力で勝てそうな感じの衣装に」 「物騒すぎない?」 「そもそも物理ならクリスティアは俺に勝てるじゃないか──いってっ」 スパァンといい音で叩かれた学習しないリアスには憐れみの念を送り。 クリスティアに、「どうします?」と尋ねると。 「わたしはか弱い女の子…精神一択…」 物理で恋人を黙らせたくせになにを。 しかしそれを言うと彼女の機嫌を損ねてしまうので頷いて。 「では小柄な種族で参りましょう。狼さんと一番合いそうな種族ですよね」 言えば、四人でんーと悩む。そう言われるとなかなか難しいですよね。 「女の子らしいって言えばリスあたり?」 「可愛らしさで考えると猫とうさぎで分かれそうですよね」 「猫はおとなっぽいイメージ…」 「うさぎはか弱くて寂しがり屋で、どちらかというと守られるような──」 そう、守られるような。 ……守られるような? リアスが言った瞬間に。 私も、リアスとレグナも。一斉にそこへ視線を向けました。 我らがヒーロー・クリスティアへ。 「…なんでこのタイミングでわたしを見るの…」 勘づいていらっしゃるようなんですが圧がすごくて言葉が出ない。 あなた守られるより守るタイプのだいぶたくましいお方ですよね? なんて。 言えないけれども見てしまった以上何か言葉を発さなければいけない。ちょっとレグナ「早く言ってよ」って言いたげにぐいぐい背中押さないでくださいよ。リアスもさりげなく足つつかないでください。どうして物理になると反射的に前に出るのに言葉になると私に任せるの。 「違うんですよクリス!」 こうして私が咄嗟に言葉を出すからなんですけれども。 ただ違うんですよと出たものの何が違うのと自問してしまう。やめて「違わないですよ」って返してこないで心の声。違うんです、違うんですよ。 「なぁに…?」 「えーーーーーと」 氷のような目がとても怖い。何か、何か。 頭をフル回転させたとき。 リアスの言葉を思い出しました。これなら合う。 「寂しがり屋!」 「…?」 予想外の言葉にきょとんとしたクリスティアに今だとよく回る口で言葉を紡いでいく。 「ずっと一緒にいるじゃないですか、片時も離れずに! もちろんリアスの過保護があるからというのもわかっていますが、クリスだってリアスがいないとやっぱり寂しいでしょう?」 考えるみたいにリアスの方見ないで。リアスが若干緊張しているから。 「…」 「……」 そんな我々のことはつゆ知らず。じっとリアスを見たクリスティアはふんわり顔をほころばせて、リアスにぎゅっと抱きつきました。 そうして、かわいらしい顔で。 「…いないと、さみし」 天使の笑顔いただきました。しかし今回ばかりは写真は撮らず、口を開く。 「その寂しがり屋なところがほら、クリスティアにぴったりなんですよ! ね! ね? リアス!」 かわいさにかまけていないで頷いて。 ね、と圧を込めて再度聞くと、ようやっとリアスは頷く。それに、クリスティアがさらにご機嫌になったのがわかりました。 よし。 「それでは寂しがり屋でか弱いクリスティアにぴったりなうさぎさんにしましょう!」 そう、言えば。 「うんっ…♪」 クリスティアも頷いてくれたので。ひとまずこれで一安心と言うことで。体重をかけてきているレグナを見上げる。 「ではお兄さま」 「はいよ」 「とびきりかわいい服お願いしますね」 「もちろん」 笑った兄に、笑みになったら。 「そうだカリナ」 「はいな」 「さっき自分では結構って言ってたところ悪いんだけど」 嫌な予感がして、顔が笑みのまま止まる。しかし兄の口は止まらない。 「俺らの衣装、二人の話聞いてたクリスティアの第一希望で双子のお揃い猫だから」 にっこり笑う兄に。 「わざわざフラグを回収しに来なくていいですよお兄さま」 死にそうな声で、そう返すしかできませんでした。 試着のときにクリスティアに猫耳付けたりして遊べるから結果的にはいいんですけれども。 『まさか本当に自分で見るとは思わなかった』/カリナ