リアスとサンタはお友達

くいっと服を引っ張られたら、クリスティアが話しかけてくる合図だ。

内容は、ただ単に話しかけてくるだけだったり、わからないことがあって聞いてくるだったり、当然ながら様々。

「蓮…」

今日も、俺の裾が引っ張られた。若干悲しげな声に何も予想ができぬまま、体育球技のテスト案内プリントから目を離して「んー?」と聞きながら後ろを向く。

そこには声と同じ、悲しげな顔をしたクリスティア。

やべぇと反射的に血の気が引いたのはリアスの影響だと思う。
思わず固まってしまって何も言えずにいれば、その小さな口から出たのは。

”サンタさんが来ないかもしれない”との、悲しげな声。

普通のヒトならここで「なんだそんなこと」だとか「まだサンタさんいると思ってるの?」なんて言うんだろう。実際隣で話が聞こえてたらしい道化も祈童も突然のサンタさん発言に耳を疑ってる様子。

けれど俺たち幼なじみからしたら一大事である。

クリスティアはリアスの紅い目の影響で紅が好きで、中でもサンタが大好きだ。一緒にいたときなんてそりゃあもうわくわくしながら靴下を用意して眠りについていたのを何度も見てきた。
そんな姿がもう可愛くて可愛くて、全員で「サンタはいるものだ」と周りを巻き込みながら彼女の夢を壊さずに生きてきたのは記憶に新しい。前世だってそうだったんだから。

それは当然今世も、今年もそしてこれからも同じだと思っていたんだけれど。

緊急事態らしい。

「……は? なんで?」

なるべく平静を装いながら聞けば、「だって」と眉を下げる。

「だってないんだもの」
「何が」
「サンタさんの侵入ルートがない…」

あーーーーーー。

そうきたかーーーー。

え? でも別に侵入しなくても行けんじゃね? だって侵入って煙突とかそういうのがあってでしょ。今はそういうのないんだからお宅訪問系じゃんか勝手にそう思ってるだけだけど。
だから今年だってサンタはお宅訪問──。

「……」

そこまで考えて、ふと思い至ってしまう。

あの家お宅訪問無理じゃね、と。

その答えはYESですと言うように水色の子はまた悲しげに言う。

「おうち、結界張ってる…」
「ですよねー……」
「…サンタさん、来れない…?」

すとーっぷ待とうかクリスティア、そんな悲しい顔はしてはいけないな??
俺の心がずっしり重くなっちゃうから待って待って。

「そもそも氷河」
「ごめん祈童あとで全部話すからちょっと今黙ってて」
「お、おぉ」

明らかにそのあとに続くの「サンタのことまだ信じてるのか」じゃん。言わせてたまるか。

俺の気迫についでに道化も黙ってくれたところで、考える。
ひとまずリアスのバカ過保護って言うのはあとで本人にど突かせてもらうとして。

今この場を切り抜ける打開策。

訪問は無理じゃん?
他にサンタがこう、来れそうな感じ。実は今回ちょっと忙しいからって俺とカリナが預かります、みたいな? いやそれはちょっと夢がないな。結局俺たちからのプレゼントみたいじゃん。プレゼントだけれども。

サンタがちゃんとあそこに入れるようなできごと。
リアスの過保護が発生しないような──

あ、あるじゃん。

思考を回して、思い浮かんだものに俺が笑顔になり。

「大丈夫刹那、今年もサンタさんちゃんと来るよ」
「…?」

未だ悲しげにしている純粋な親友へ。

「今までずっと黙ってたんだけどさ、龍ってサンタと友達なんだ」

純粋でない友人二人が吹きだしたけれど構うことなく笑顔を保つ。

「おともだち…?」
「そう。じゃなきゃあの龍が見知らぬヒトからのプレゼントなんて受け取らせるはずないでしょ?」

なんて言ってしまえばリアスに手なずれけられてるクリスティアはそっかと信じていく。ありがとう親友今だけはその過保護に感謝するわ。とりあえず隣の奴らの肩が震えているのを見せないように、クリスティアに詰め寄って。

「だから刹那がいい子にしてれば大丈夫。サンタさんはちゃんと玄関から来るよ」
「ほんと!?」
「ほんとほんと。あとで龍に聞いてごらん」
「わかった!」

一気に笑顔になったのにほっと一息。笑いをこらえている友人にはあとで釘を指しておくとして。

「波風」
「はぁい……」

話を広げてしまったことを心の中で親友に謝りながら、背後から聞こえた低い声に背筋を伸ばす。

そっと振り返ると。

まぁ無表情な杜縁先生。

「話しているが、テスト内容の確認はちゃんとしているのか?」

やめてその圧のこもった声地味に怖い。けれどもこちらも事情があるので、両手を合わせながら苦笑い。

「あーーと、ちょっとサンタの件で緊急事態が起きたので先にそっちをと……」
「サンタ?」

そりゃいきなり十六歳の生徒からサンタ発言来たらびっくりしますよね。初めて見たよそのびっくり顔。

けれどそれは一瞬で。うきうきなクリスティアを見てなんとなくの状況を判断したらしい。
あぁ、って納得した先生はクリスの視線を合わせるように机の前に膝を着いた。

膝を着いた?

「氷河」
「…」

え、待って何言うの。サンタ信じてないで夢の方頑張れって?
いやいやいやそれは困る。がたっとイスから腰を浮かせて。

「せんせ──」

思わず千本を手にした瞬間。

その口から、優しい声が出た。

「今年もサンタさんが来るのか」

まるで小さな子に語りかけるような声に拍子抜けして、上がりかけていた腰がすとんとイスに落ち。千本もしまう。

そんな俺のことはかまわず、クリスティアはうれしそうにうなずいた。

「いい子にしてたら、来るって…」
「そうか」

お父さんかな? って思いたくなるくらい初めて聞く優しい声で先生は頷くと、微笑んでとんとんっと、テスト内容プリントを指す。
そうして優しい声のまま、言い聞かせるようにその口を開いた。

「サンタは十二月になったら子供達を見るという」
「…?」
「きちんとこのプリントを読んで、テストを自分なりに頑張って受けられたなら。サンタは君をいい子だと褒めて、プレゼントを豪華にしてくれるだろうな」
「…!」

ごめん親友、今年のクリスマスのハードル上がったかもしれない。

「ほんと…?」
「炎上は詳しいんだろう。あとで聞いてみるといい」
「うんっ…!」

”リアスは”なんて言葉も付け加えられたら効果は絶大。クリスティアさん簡単に信じて頷いちゃったよ。ごめん親友。

でもこれはさすがに止められなくない??

これ言ったら絶対「お前いつも止める気ないじゃないか」って言うんだけども。

こんな嬉しそうなクリスティア見たらもう親友に頑張ってもらうしかないでしょ。俺も手伝うから今年は本気でちょっと頑張って欲しい。

嬉しそうに頷いたクリスティアを確認して去っていった杜縁先生の背中を見送ってから、目の前のもう一人の親友に目を戻す。
とりあえず危機は回避できたので杜縁先生に感謝をしながら、じゃあ一緒に読もうかとクリスティアと共にプリントに目を落とした。

瞬間。

「……」

目に見えたのは、テスト項目のところ。

そこに、”体力テスト”との文字。

え、これどういう体力テスト? 基本的な体力テスト? それとも持久走的な体力テスト?
クリスティアさん持久系もっぱら苦手じゃないですか。後者だとやばいじゃないですか。え?

これは全員ハードルが上がっているのでは??

しかし嬉々としているクリスティアはぜんぜん気にも止めていない様子。そうだよね、頑張ればサンタさん、プレゼント豪華にしてくれるもんね。でもクリス目の前の壁は結構高いぞ。

さてどうすると血迷った結果。

「……この体力テスト、祈童か道化替え玉ならない……?」

ばっと隣を見て小さくこぼしたけれど、二人は頷いてくれませんでした。

これは緊急会議が必要かもしれないというのがようやっと浮かんだのは、もう少し頭が落ち着いてから。

『12』/レグナ