First grade April サンプル

2019-02-23

運命は、いつだっていじわる

運命はいつもいじわる。いじわるで、残酷で。そしてそれは、”変わることなんてない”って、突きつけられてる気がする。

学校のクラス分けとか、あれはまさに運命のいたずらなんじゃないか。

なんで突然、そんな話になるかと言えば。

「…高校一年目は終わった気がする」

今まさに、それに直面してるから。

四月。ハーフもビーストもヒューマンも、種族関係なく通える国家エシュト学園に、恋人のリアス様と入学した。門をくぐったすぐのところに張り出されてる、最初で最大の難関、クラス分け表を眺めたら。

わたし、クリスティアこと氷河刹那は一組、リアス様こと炎上龍は隣の二組。

うん、見事にクラス分かれてる。さっきから何回も見てるけど変わらない。

……どうしても分かれてる。

「俺も終わった気がする」

隣で同じくクラス分けの掲示板を見ていたリアス様が言う。うん、終わったね。でもね、わたしとリアス様の「終わった」の意味は全然違うの。わたしがリアス様と一緒のクラスになりたいのは、「好きな人と一緒になれたらうれしい」とかいうかわいらしい女子の、そんなかわいらしい理由なんかじゃない。

「これではお前の傍にいれないな」

齢十六にして彼女との同棲権を義親からもぎ取った過保護な彼氏とクラス離れるとそれはもう大変だから。ものすごく面倒だから。面倒な人と離れると平和になれるなんて言った人はどこのどいつなんだろう。うちでは逆です。離れた瞬間平和は終わる。

「いい、だいじょうぶ…。わたし自分のことくらい自分で守れる…」
「それができるなら十八歳の三月二十七日にお前は消滅しない」

そうじゃなくてですね。確かに自分の身を犠牲にしてリアス様をかばっちゃうから毎回十八歳で消滅するのを繰り返してきてるけども。でも今はこれからの学校生活の話をしたいんです。

どうにかリアス様の心配を和らげるものがないかと、もっかい掲示板を見上げる。
これだとまた授業中に鬼電してきたりメサージュ五秒以内に既読つけないとクラスに突撃してきたり、最悪の場合学校辞めることになる。実際全部あったしついでに言えば中学はクラス分けのせいで不登校だったし。

それは困ると必死に探してたら、ふと目に留まる名前。

わたしの氷河刹那の上に、見覚えのある波風蓮って名前がある。これは同じ高校に通う双子の兄妹、兄のレグナの日本名。

──これだ。

「リアス様、わたしのクラスにレグナがいる…」
「そうだな」
「レグナと一緒にいればリアス様も安心…?」
「まぁ、一割くらい」

親友への信頼度低すぎませんか。だけど一割でも安心するならそれでもいい。リアス様の服のすそを引っ張って、ちょっと上目遣いになるように、言う。

「ね、ちゃんとレグナの傍にいるから、連絡とかちょっと、ちょっとだけひかえてほしい」

あの二人はたぶん時間ぎりぎりで来るはず。まだ掲示板を見ていないであろう幼なじみの知らぬところで、彼の平和を犠牲にわたしの道連れにするという悪魔並の行動に出た。天使名乗っててごめんなさい。

「………………レグナがいるなら、まぁ、少しは控えてやらなくもない」

ものすっごい悩んで、ものすっごく納得は行かない顔だけど、リアス様は了承してくれた。内心でガッツポーズをする。

「…ありがと」

たぶんリアス様とか双子の幼なじみくらいにしかわからないけれど、ほほえんでお礼を伝える。レグナにもちゃんとお礼言うよ。事後承諾もかねて。

「確認できたなら行くぞ。立ち止まっていると邪魔になる」
「はぁい…」

ちょっと不服そうだけど、決まったことだからって歩き出すリアス様の手を取って、一緒に校舎に向かった。
さぁどうやってレグナに伝えようか。はじめにありがとうって言う? それとも学校通いたいから一緒にがんばろうね、とか。あ、これいいかもしれない。なんだかんだ面倒見のいいレグナだからきっと妥協してくれる。リアス様と離れたわたしと同じクラスになっちゃったからどうせ巻き込まれるんだろうし。だったらはじめから道連れにした方が早いよね。少しだけ天使とは言い難い考えしてる気がするけどまぁいいや。

ものすごく心配そうなリアス様に大丈夫と言い聞かせて教室の前で別れて、席に着く。時刻は八時二十分。きっともう少しで、レグナが来るんだろうな。今か今かと、目の前の空席を見つめながら、イメージトレーニングをする。本人のいないとこで勝手に平和を犠牲にしたことに罪悪感はちょっとだけあるけれど、後悔はしてない。ついでに言えば反省も。

これも運命のいじわるだもん。仕方ない。

やってきた幼なじみにそう伝えたら、「俺に対するいじわるを作り出したのお前じゃねぇか」って怒られた。

『運命は、いつだっていじわる』/クリスティア


知らぬが仏とはまさにこのこと

入学式を終え、クラスも隣同士ということで俺達は合流して四人で教室へ向かっていた。前を歩くクリスティアとカリナの後ろをレグナと並んで歩いていたら。

「俺、問題児と離れると平和になると思ってたんだけど」

唐突にレグナが言った。はて、問題児とは誰のことだ。

「問題児?」

レグナを見てそう尋ねれば、そいつは「え?」という顔をする。その顔を見て俺も「ん?」という顔をした。

「今俺の目の前で俺と話してるお前だよ」

そうか俺か。

は? 俺?

「失礼な奴だな。どこがどう問題児だ」
「毎度拾ってもらったくせに彼女の家の近くに引っ越させ傍にいなきゃ不安で鬼電鬼メサして最終的に同棲してるやつはお世辞にも普通とは言い難い」
「お前カリナと似たようなことを言うんだな」
「カリナにも言われてんのかよ」

ついさっき言われてきた。

「というか俺を問題児と言うのならお前の妹の方がよっぽど問題児だろう」
「は? カリナ? 確かにイタズラ好きではあるけどお前よりはよっぽど普通だろ」

そう言われ、今度は俺が「え?」という顔をする。そしてレグナが「ん?」という顔をした。

いやいやいや。

割と不仲なことが多い互いの引き取り手をあの手この手で親友にまで発展させて、兄の情報をいつも自分に行くようにしているカリナの方がよっぽどだろう。

しかし、少し考えた素振りをしても尚わからないといったような顔のレグナを見て、ふと疑問が湧き上がる。

「……お前まさかとは思うが知らないのか?」
「何を?」

きょとんとしたレグナに、開いた口が塞がらなかった。まじかこいつ。知らないのか。

毎回だぞ? 毎回突き放して自分の情報は言わないようにしても当たり前のように同じ学校になるんだぞ? おかしいと思わないのか。俺なら気付くぞ。つーか普通は何回もそんなのが続けば疑問を持つくらいはあるだろう。大丈夫かこいつ。妹だからって警戒心緩すぎるんじゃないのか。

不思議そうな顔をしているレグナに呆然としていると、ふと視線を感じた。前を見れば、妖艶に微笑んだカリナと目が合う。その目はこう物語っていた。

黙っておけよ、と。

心なしかものすごい気迫も感じられる。そして気付く。これは少しでもばらしたら社会的に俺が死ぬな、と。

「リアス?」
「……いや、なんでもない」

それを感じ取った俺は、どうしたと言いたげなレグナにそれだけ言って、口を噤む。今何か話すと余計なことを口走りそうだ。

「?」

突然黙り込んだ俺にレグナは訝しげな顔をしているが、気づかないフリをしてスマホを取り出しチェックする。何も連絡なんて来てはいないが、適当にメサージュを開いて文字を打つ仕草をすれば、レグナは気遣い屋だから邪魔しないようにとカリナやクリスティアの元へ歩を進めた。

いやなんでそういう風に周りを見て気遣いができるのに妹のことには無頓着なんだよ。

小さな変化とか、周りがどうしてるとかびっくりするくらい気付くくせに、一番近くにいて一番よく見ている妹のことは何故気付かない。そんなにあの妹はわからないようにしているか? 外部から見てると思いっきりわかるぞ? これが兄妹いつも傍にいたいんですと言うならわかる。お前一応妹の幸せのために自分から遠ざけたいんだろう。頑張って逃げて遠ざけようとしていただろう。なのに傍にいるんだぞ? さすがに疑問くらいは持ってもいいだろう。何千年これやられてると思ってるんだ。

やきもきしながら、クリスティアを挟むようにして歩く双子を見る。レグナとカリナは楽しそうに笑っていて。そこで、ふと日本にはこういうときの諺があるなと思い至った。
レグナが知らないことで本人が望む「平和」が成り立っているのなら、これはこれでいいのか。ちょっとあまりにも気付かなすぎて心配になるが、俺の社会的な生命のためにも言う気はない。それでカリナもレグナも幸せに笑っていられるのならもういいとしよう。何も言うまい。

自分にそう言い聞かせて、少し歩みを早めた。

『知らぬが仏とはまさにこのこと』/リアス


恋人は似てくるって本当ですね

「レグナとクリスティアが美化委員ですか」

そうリアスに聞いたのは、彼が恋人の元へ行ってきた休み時間のあとでした。こちらのクラスではまだ決まっておらず、担任の江馬先生によるとこの時間に決めるそう。ちなみに何故私がリアスと時間差で知ったかというと、私は出席簿で一番前だったので決めごとの書記をしていたからです。終わらないので休み時間も書いてたんです。この男に手伝うなどという情はなかったようで。休み時間になった瞬間さっさと恋人の元へ行きましたよ。別にいいですけど。いいですけど。

「クリスティアがじゃんけんでことごとく負けたらしい」

まぁそんなことは置いといて、委員会になど入らなさそうな二人に驚いていれば、リアスは少しつまらなそうに答えました。ただそれはレグナと組んだからとかそういう嫉妬的な理由ではなく、自分の知らないところで彼女のことが勝手に決まっていくのがおもしろくないようです。まぁわかりやすいこと。

「あなたも美化委員やるんですか?」
「まぁ、そりゃあな」

後ろの席に着いたリアスに若干冗談をまじえてそう聞くと、やはり答えはYES。しかも当然といったような表情で。個人的には美化委員が終わるまで傍にいて待ってるというのが一番なのではと思いますが黙っておきましょう。

「レグナもいるならお前もやるんだろう?」

そんな私の考えは露知らず、リアスが聞いてきました。レグナどころか全員いるので楽しそうではありますが、どういう風に活動するのかわからないというのが一番の問題点。全員で一緒に活動できるなら喜んで行きますが、そうでないならレグナの傍で冷やかしながら待っていた方が楽しそう。

「私はちょっと考えどころですね。一緒にペアを組めるかもわかりませんし」
「お前ならあの手この手でペアを組みそうだけどな」
「さすがに行き当たりばったりでは無理ですよ」

彼の目が「行き当たりばったりでなければやるのか」と言っているようですが気にしない方向でいきましょう。

「では委員会を決めますよ~」

そこで、江馬先生の少し間延びした声がかかりました。前を向けば、豊満な体と優しい金髪を揺らしながらにこやかに微笑む江馬先生。そして黒板には実行委員会、図書委員など五つの委員会が書かれています。生徒の動向が見やすいように、普段は横にある壁に寄りかかるように座り、出席番号トップの特権である廊下側一番前から全体を見た。

「では実行委員から~」

江馬先生が声をかけると、ちらほらと手を挙げる方がいます。基本的には立候補制で、いなければ一組のようにじゃんけん、もしくはあみだくじのようです。うちのクラスは比較的やりたい方が多いのかしら。委員ごとに最低人数は手が挙がってますね。これはじゃんけんなどには巻き込まれなさそうと、事の成り行きを見守った。

「では美化委員はいるかしら?」

そうして順調に他四つの委員会が決まり、最後の美化委員。そう聞かれると、隣で動く気配。

「……やる」

ちらっと見れば手を挙げているリアスが。

ほんとに立候補しましたよリアス。

見た目不良の男が手を挙げているというこのギャップ。しかも美化委員。二人で話してるときは「そうなんですね、頑張ってください」と思っていたのにいざ直面するとすごい笑えてくる。吹き出さないように腹筋を引き締めましたよ。

それでも見ていると吹き出しそうだったので周りを見回す。あらリアスの立候補にクラスメイトたちもどよめいていますわ。

ですよね。めっちゃわかります。

自己紹介もすごい愛想がなく恐い印象だった人間がまさかの美化委員に立候補するとは思わなかったでしょうね。私も思いませんよ。

そのまま流れるように前を向き、書記の作業に戻るフリをしました。腹筋痛い。

「では男子は炎上くんでいいかしら」

しばしの沈黙のあと、江馬先生が声を掛ける。けれど、シンとしたまま。他に立候補者がいないのか単に恐くて立候補できないのかはさだかではありませんが、沈黙を肯定として、男子はリアスに決定。

そして、

「女子はいないのかしら?」

同じ理由で女子も立候補者がでません。中にはイケメンだしお近づきになりたいという方もいるようだけれど、踏み出すには至っていない様子。

「先生」

別に立候補してもいいですが、色恋沙汰には巻き込まれたくないので空気を消していると、後ろでリアスが口を開きました。

あら、嫌な予感がします。

「華凜……愛原がやってくれるそうです」

ほらぁ、そうやってすぐ巻き込む。しかも下の名前で一瞬呼んじゃったのも相まって女の子たちもちょっとざわざわしちゃってるじゃないですか。なんてことしてくれるんですかこの男は。

「あら、本当? 愛原さん」
「あー……」

そんな私の嘆きは知らず、クラス全員の視線が集まって、言いよどむ。レグナもクリスティアもいるから別にいいんですけど、この状況はなんとなく嫌な事態を招きそうです。悩んでいると、

”ガンッ”

私だけにわかるくらいでイスを蹴られました。イスを蹴られました? この男、あろうことか女性のイス蹴りやがりました。抗議の目を後ろの席に送るため振り返ると、そこには世にも珍しい彼のほほえみ。まぁ美しい。それに不本意ながらも一瞬見とれていれば、ゆっくりと動く口。

”やれ。さもなくば、”

そこで、止まった。幼なじみって嫌ですね。声に出していないのにわかる上にその先の言葉がわかっちゃうんですよ。
レグナのストーカーの権を黙っておく代わりにこっちにもつきあえよ、と。そう言いたいんですよねわかります。正直ものすごくお断りしたいけれど、こちらとしてもレグナにばらされるととても困る。私も黙っとけよと言ったことですし協力してあげますよ仕方ないですね。そう睨んでリアスに伝えるとまたきれいに笑ったので交渉成立。一度ため息をついて、人当たりの良い笑顔を浮かべて振り返り、伝える。

「喜んで引き受けますわ、先生」

兄妹揃って幼なじみカップルに道連れを食らいました。まぁリアスにはこれで貸し借りなしということで。

『恋人は似てくるって本当ですね』/カリナ


失うと、わかっていたのなら

あの日失うってわかっていたなら、もっともっと、笑顔にしてやりたかった。

「行きたかったな、だってさ」

そう言えば、リアスは一瞬こっちを見て、また視線を元に戻す。

「交流遠足の話か」
「そう」

次が体育だからと、俺とリアスは男子更衣室で着替えてて。
クリスティアと離れる唯ニ(もう一つはトイレ)の機会に、朝、彼女が悲しそうに言った言葉をリアスに言ってみた。リアスたちにも今日配られたらしく、俺の言葉が何を指してるかはわかったようだ。

「”みんながいるから、行きたかったな”って。過去形で」

あーまだ肌寒いからジャージは持って行った方がいいかな。新しいにおいがするジャージを上に羽織った。

「行くつもりはない」

ファスナーを閉めてる間に返ってきた言葉は、予想通り。わかってたけどさ。ため息を吐く。

「クリスティアの気持ちは無視?」

ちょうど着替え終わったらしくて、腕を組んでロッカーにもたれかかって俺を待ってくれてるリアスに、ちょっと強めに返す。そうしたら、少しイラついたような目で睨みつけられた。でも怖くない。慣れてるし。だから続ける。

「お前には言えないんだろ、行きたいって。絶対YESは出さないから」

リアスは人が多いところが嫌いだ。元々騒がしいのが好きじゃないっていうのもあるけど、一番の理由は、やっぱりクリスティア。戦場で、人が多いところで、目の前で失ったから。そして一度だけ。埋もれるくらいの人混みの中でクリスティアを傷つけられたから。だから人が多いところに行くと、どうしても周りを警戒する。どんなに運命の日じゃなくても、突然運命が変わって、目の前で消えるかもしれない恐怖感。それから逃げるように、リアスはクリスティアを閉じこめるようになった。またあの日のように、失わないように。

でも、それでもこいつはいっつも後悔してるんだ。もっとああしてやればよかった、とか、こうすればよかったんじゃないか、とか。もっと、もっとって。

「たまには外に出るって願いも叶えてやれよ」

俺はその後悔を少しでも減らしてやりたくて、言う。そしたら、紅い瞳に更に怒気が増したことがわかった。俺たち以外がこれ以上言ったらやばいんだろうな、なんて苦笑いがこぼれる。

「……お前には関係ないだろう」

うん、確かに、関係ない。でもさ、リアス。

「行きたいな、とか、あれが欲しいなって、叶えてあげられるうちがすげぇ幸せだよ」

あの日の後悔が、頭をよぎる。

寝具の上で、衰弱しきった妹。今でも鮮明に覚えてる。
病状は悪化して、どこにも行けなくなって。日を追う毎に、息も絶え絶えになっていく。明日、死ぬかもしれない。今日だって、目を閉じている間に彼女の人生は終わるかもしれない。
そんな、不安の中で。
こんな短い人生だったなら、もっとたくさん出かけてみても良かったんじゃないかなとか、もっと欲しいものとか聞いて、プレゼントしてあげれば良かったんじゃないかなって何度も、何度も思った。
現代に進むに連れて、傍にいなければもしかしたら病気になったりせずに、長生きできるんじゃないかなと思って遠ざけようとしているけれど。

──でも、傍にいるのなら。

「叶えてやれることは全部叶えてやった方が、後悔しないと思わない?」

俺たちの人生は、たくさんの後悔ばかり。けれどどうせ変わることのない人生なら、その運命の日までに、たくさんのことをした方が幸せじゃないか。

「……」

笑って言えば、リアスは視線をずらし、突然歩き出す。そのまま更衣室のドアを開けて、出て行った。え、なに、急に置いてくの。

「龍ー」

慌ててついて行って声を掛けるも、返事はない。雰囲気は、どこかイラついてるような、でも迷ってるような、そんな感じ。ああ、ちゃんとわかってるんだろうなぁ。俺が言うこと、誰よりも自分がわかってることを知ってる。だからこそ、俺の言葉にイラつくし、迷う。その迷った結果でクリスティアがやりたいって思ってることとか、もっと叶えてあげられたらいいんだけど。間違えても束縛の方向に行かないで欲しい。そう願いを込めて、追い打ちをかけるように後ろから声をかけた。

「大事な人の願いを叶えてやるのに、神様はバチなんて与えないよ」

返事はないとわかってる。案の定リアスは足を早めてしまい。それに仕方ないなって肩をすくめて、後を追った。

願わくば、リアスの後悔が少しでもなくなるように。

『失うと、わかっていたのなら』/レグナ


類は友を呼ぶとはこういうことか

ヒューマンとビーストと別れてからしばらく。全員がやっと落ち着いてきた時だった。脱力感と同時に、どっと汗が噴き出す。

「……死ぬかと思った」

思わずしゃがみ込み、そうこぼした。

「なんか、うん、お疲れ」
「さすがに同情しますわ」

俺の気持ちを察した双子の親友は苦笑いをしているような声でそう返してくる。あまりのことに顔も上げられない俺に、今回ばかりはカリナも茶化したりなんてしなかった。

「リアス様、だいじょうぶ…?」

ただ一人、クリスティアだけは俺がどうしてしゃがみ込んだのかはわかっていなくて。俺の目の前にしゃがんで心配そうに聞いてきた。ああ、と返しながらも実際は全然大丈夫ではない。今回の問題児である目の前のこいつに対してこう言いたくなる。

お前のせいだろう、と。

ヒューマンとビーストの争いが起きたのは言っちゃ悪いが別にどうでも良かった。普段から争いなんてどこにでもあるわけだし、最悪強行手段を使えばいい。俺が焦ったのは、クリスティアの行動だ。

こいつまじか、と本気で思った。

俺のトラウマ知っているか? あの日俺を守ろうとしたお前の手を掴めずに目の前で失ったことだぞ。貫かれて崩れ落ちていくお前を、呆然と見ていることしかできなかったことが俺にとっての人生最大のトラウマなんだぞ。それを何とか回避しようと、あれ以来合意を得た上でなるべくお前の傍にいて、どんなときでもお前を守れるようにしてるんだぞ。

その恋人にトラウマを再現するか?

なんか、こう、一言くらいあっただろう。今からテレポートするねとかもう強行手段で間に入った方が早いねとか何か一言。普通無言で行くか?

「リアス、大丈夫か。色々と」

頭の中で駆け巡るその思いを言い出せずぐったりとしている俺に、レグナは気遣いの言葉を掛けてくれる。カリナも同情の目を俺に向けているのが雰囲気でわかった。が、それにいつも通り返せる元気もなくて。

「……なんとか、生きている」

ただただそう絞り出すことしかできなかった。

「具合悪い…?」

それでも尚わかってはいないクリスティアが聞いてくる。恐らくいつもみたいに首を傾げているんだろう。具合は悪くないが心臓に悪かった。まじで。正直怒り任せに色々と言ってやりたいところだが、結局恋人に甘い俺は必要なことだけを紡ぐ。

「具合は悪くない……が、頼むから、何かする時はせめて一言頼む」
「? なにか…?」
「テレポートするなりなんなり一言言ってくれ……」
「………あぁ…気をつける」

ようやく顔を上げてそう言ってやれば、やっと思いあたる節があったのか、納得したように頷いた。頭を撫でてやりながら、恐らく次には忘れているんだろうと予想する。何千という歳月の付き合いだ。俺はこの忠告が無意味なことを身を持って知っている。

目の前で困っている奴は放っておけないから。俺を助けたあの日のように。

そこがこいつのいいところだし、もちろん愛している。一言告げるというのはそろそろ覚えて欲しいところだが。

まぁ無理なものはもう仕方ないと、だいぶ復活したところで立ち上がりクリスティアの手を引いて立たせてやった。

「大丈夫そうです?」
「とりあえずは」
「あと半分くらいだから頑張れ」
「ああ」

気遣ってくれた双子に頷き返して再び歩き出した。クリスティアは可愛いビーストがいないかとカリナと共に少しだけ前を歩く。俺とレグナはそれを見守るように後を着いて行く。四人でいるときの、割と決まった歩き方だ。

「……まじで焦ったね」

ゆっくりと隣を歩きながら言うレグナに頷く。

「正直嘘だろうと思った」
「俺もまじかって思った。こいつリアスのトラウマえぐったなって」

それはもう見事に抉られました。

「……あいつのテレポート封印するか」
「有事の際に困るからやめて」
「抱えれば一緒に飛べるだろう」
「なんかすんでのところで掴めなくてまたトラウマ深くなる気がする」

なんて恐ろしいことを言うんだこいつは。だがものすごく予想できる。

「あ」

身震いしてそれはやめておこうと決心したところで、声を上げ立ち止まったカリナにつられ、立ち止まった。

「あちらの方でまたヒューマンとビーストのトラブル起きてません?」

彼女が指さした方向に目を向ければ、確かに言い争っているのが見える。またか。

「嘘でしょ?」
「多くないか? ──ってちょっと待て」

けだるい足を争いの方角に向けたところで、気付く。

クリスティアが、魔力を練り始めたことに。

「………刹那さーん」
「…二度あることは、三度ある?」

あってたまるか。

「…早めに解決した方がいいってさっき思ったから、行く」
「待て待て待て」

ダッシュでクリスティアの元に行き、魔力を練りきる前に解魔術でテレポートを解いた。間に合ったことに、ほっと胸をなで下ろす。しかし止められたクリスティアは少し不服そうで。

「一言、言ったよ?」
「そうじゃない、違くてだなクリスティア」

何故こいつはGOサインを待たないのか。小さな子供に言い聞かせるように、目線を合わせて言ってやる。

「距離が離れているからテレポートするのはわかる、さっきのことで早めに解決した方が得策なのもわかる。だがとりあえずお前は”全員で”ということを覚えてくれ」
「言うより行動の方が早い…」
「気持ちは分かるがこっちが焦る。割とまじで」
「…わかった」

未だ不服そうだが、それでも素直に頷いてくれた彼女の頭を撫でて立ち上がり、振り返る。待機しているであろう双子にさあ行くかと言おうとしたが。

そこには双子の姿がなかった。

再びクリスティアに振り返る。

「クリスティア、あの双子がどこに行ったか知っているか」
「わたしとリアス様が話してる間にテレポートしてった」

おいお前らもか。俺の言葉聞いてたか? ”全員で”ということを覚えろと。まさかその時すでにいなかったのかよあいつら。つーか目立たないようにするんじゃなかったのか。

「……もういい、行くぞ」
「ん」

もうどうにでもなれと溜息を吐いて、魔力を練り始める。クリスティアも魔力を練り始め、二人ほぼ同時に目的地へと飛んでいった。

人のことは言えないが、何故俺の仲間は勝手に行動していく奴らばかりなんだ。

『類は友を呼ぶとはこういうことか』/リアス


これがお互い様というものですか

リアス様はわたしが寝るまで寝ないし、わたしが起きる前に必ず起きる。なにが起きるのかわからないから、自分が先に眠っちゃうのが不安なんだって。だから必ず傍にいて、眠るのを見守って、起きるのを待つ。

いつからか、なんてもう曖昧なくらい昔から続いてるそんな生活。そしてそれは、やっぱり今日も同じ。

「んー…」
「起きたか」
「ん、おはよ…」
「はよ」

目を開ければ、枕元に腰掛けて本を読んでたリアス様が映る。わたしが起きればこっちを見て、あいさつを交わす。いつも通りの朝。

四月の末。もうちょっとで、学校に通い始めてから一ヶ月。ちょっとずつ慣れてきて、朝起きる時間も体に染みついてきた。ほんとならこのまま起きて、準備して学校に行く。だけど、今日は土曜日。エシュト学園はお休みの日。そんなゆっくりできる日に早く起きたことにちょっと損した気分になって、はだけた布団をたぐり寄せた。

「おい、寝るな」

落ちてくるまぶたに従ってもう一回寝ようと思ったら、リアス様の声に止められる。せっかくの休みの日に寝るなとはなにごとだ。どうせ朝ご飯作れとか言いたいんでしょ。自分で作れ。わたしは眠い。

「…せめても少しだけー…わっ」

布団に顔を埋めて寝ぼけた声で言えば、思い切り布団をはがされた。いつまでも寝てるときにされる、「起きろ」の合図。恨めしげにリアス様をにらみつけた。

「…へんたい」
「遅れるぞ」

…遅れる? わたしのにらみ攻撃なんて気にしないリアス様の言葉に、頭にははてなマークがいっぱい。今日は学校はない日だよね。ああ、リアス様寝ぼけてるんだ。そんな風に思ってるのがわかったみたいで、リアス様は小さな声で言った。

「……行くんだろう、交流遠足」
「え…」
「二度は言わん」

びっくりしてるわたしにそう言って、リアス様は部屋を出ていった。わたしを置いて部屋を出てくなんて珍しいななんて、全く関係ないことを思う。だって信じられない。
あのリアス様が、でかけるって言った。人がいっぱいいるところがだいっきらいなリアス様が。今まで、千回お願いしてやっと一回どこかに連れてってくれたらいい方だったのに。どうして、とかなんで、とか、疑問が頭をいっぱいにする。そしてぱっと、思い至った。

「…わかった、夢」

そう、きっとこれは夢。とっても都合のいい夢を見てるんだ。諦めてたけどやっぱり遊園地行きたいって思ってたのかな。できればこのまま夢を見続けて、みんなで遊園地を楽しみたい。ジェットコースター乗ったり観覧車乗ったりしたい。でも、そしたら現実のリアス様が起きないって心配しちゃう。だから一回目を覚まさなきゃ。今頃起きろって揺さぶってるかもしれない。夢ってどうやって覚めるんだっけ。夢の中でもっかい寝たら目が覚めるのかな。

「…とりあえず、目閉じてみようかな」

はがされた布団をかけ直して、もっかい寝ようと目を閉じる。さっきの衝撃発言でちょっと目が覚めちゃった感じがするけど、休みの日ってわかった体は寝転がったらすぐに心地いい眠気がきた。

よし、今の夢は心に刻んで、現実をしっかり見よう。

そう決意して、眠気に任せて二度寝を決めた。その間に、夢の中のリアス様がまた起こしにきた気がしたけど、寝たふりをして無視。現実のリアス様のところに帰らなきゃ行けないから、おやすみなさい──。

そのあとリアス様にキレ気味に起こされたのは、家を出る三十分前でした。

「なんで言ってくれなかったの!」
「言っただろう、交流遠足に行くんだろう、と」

バタバタリビングを駆け回って準備しながら、優雅にコーヒーを飲んでるリアス様に珍しく声を上げて抗議した。

また布団をはがされて強制的に起こされれば、日付は変わらない四月の二十九日。確かに交流遠足の日。なんだけど、行けないと思ってたから普通に休みだと思ってた。

「前日に言ってくれてもよかった!」
「俺が言わないの知っているだろう」

知ってますけども。どうしていつも一言欲しいっていうくせにこういうときはくれないの。大事なときに一言欲しい気持ちもわかるけどわたしは普段のときに一言欲しいよ??

「なんも準備してないじゃん!」
「荷物ならまとめておいたが」

廊下をさす指を追えば、いつもよりちょっと大きいリュックと鞄がある。いつの間に準備してたの。リアス様の方が楽しみにしてるみたいになってるけど。もう怒りを通り越して呆れが出た。

「ほら髪の毛。寝癖」
「誰のせい…」

急いで朝ご飯を食べて着替えて、時計を見たらあと十分で家を出なくちゃいけない。なのに今日に限って寝癖はひどくて。リアス様に言われるままドレッサーの前に座れば、温めてくれてたアイロンでわたしの髪の毛を整え始めた。

「そこまで怒ることもないだろう」
「怒る…もっとわくわくとかして明日の話とかしたかった」
「それはレグナやカリナとしてくれ」

いやそもそも行くということを教えてください。髪が少しひっぱられるのを感じながらリアス様を鏡越しににらむ。当の本人はアイロンに目を落として気にしてない。

もういいやとあきらめたところで、

「終わったぞ」

鏡の中のリアス様から自分に目を移せば、いつも通りのストレート。

「…ありがと」
「どういたしまして」

小さくお礼を言って、いすを降りる。もう行かなきゃ、遅れちゃう。最後に全身をチェックして、部屋を出た。リアス様はアイロンを片づけて、わたしの分まで荷物を持って玄関に向かう。そのあとを追って、わたしも玄関に向かった。

靴を履いてるリアス様を見ながら、ふと思う。約束をしなくなったリアス様。人混みも極力避けるリアス様。なのにどうして、今日は──。

「…どうして、今日は許してくれたの?」

行きと帰りのバス以外はほかのクラスの人とも行動していいらしい今日の交流遠足。でも、一緒にいれても人とかすごそうだから絶対だめって思ってたのに。靴を履いてる間に、開けたドアに寄りかかりながらわたしを待ってるリアス様の声が落ちてきた。

「……調べてみたら、笑守人で貸し切るそうだ」
「貸し切り…?」
「一般の人間はいないし、笑守人の人間が入りきったら結界を張ると聞いてな。それならまぁ、いいだろう、と」

だんだんと小さくなる声に相反するように、少しずつ口角があがっていった。

きっと今までだったら、いいだろうって思ってるだけだった。でも今日は、それを実行してくれた。リアス様にとっては大きな一歩。がんばったんだろうなぁ。

「…ありがとう」

だから朝のことはこれで良しとしようと、いろんな意味を含めてお礼を言った。普段の時に一言欲しいけど、それはゆっくりでいいかな。なんて思ってる間に靴を履き終わり、外へ出る。鍵を閉めたリアス様といつものように自然に手を繋いで、学校への道を歩きだそうとしたとき。

「クリスティア」

名前を呼ばれて、リアス様を見上げた。

「なぁに」
「八時半でバスが出るらしいからテレポート使うぞ」
「八時半…」

さて問題です。今何時でしょう。
リアス様の腕を引っこ抜く勢いで引っ張って、そこにある腕時計を見た。

八時二十五分。

「何時ってゆった?」
「八時半」
「間に合わないじゃんか」
「だからテレポートを使うと言っている」

あがってた口角が下がった気がする。ゆっくりでいいかななんて撤回。やっぱり一言って必要だと思う。

「あとで覚えてて…」
「物騒だな」
「ここでやられないだけありがたいと思って」

リアス様に悪態をつきながら魔力を練って、急いで二人で学園にテレポートした。

『これがお互い様と言うものですか』/クリスティア


小ネタ(C)


犯人がすぐに予想できた(C)


最後くらいは頑張りたいらしく圧がすごかった(C)


First grade April 収録内容

◇運命は、いつだっていじわる/クリスティア
◇平和とは、儚いものである/レグナ
◇あなたが普通だというのなら、世間はどうなるの/カリナ
◇知らぬが仏とはまさにこのこと/リアス
◇望む平和は、彼らの中に/レグナ
◇恋人は似てくるって本当ですね/カリナ
◇妄想は恐ろしい/リアス
◇イラスト1
◇その花に、願いを込めて/クリスティア
◇あの日の思い出は、もう遠い昔/クリスティア
◇失うと、わかっていたのなら/レグナ
◇失うと、わかっているから/リアス
◇恋人は、残念なハイスペック/クリスティア
◇二度あることが三度あるなら、一度あったことは二度目があるってことだよね/レグナ
◇類は友を呼ぶとはこういうことか/リアス
◇イラスト2
◇最強天使はいつだって恋人基準(C)
◇これがお互い様というものですか/クリスティア
◇君に幸あらんことを/レグナ
◇あの日を越えた幸せを、みんなで/カリナ
◇結局僕らは似たもの同士/レグナ
◇どうか彼女にはご内密に/カリナ
◇イラスト3
◇だって落としたのそっちじゃない(C)
◇投げる程度ならまだ可愛かった(C)
◇こんな客今まで見たことない(C)
◇こんな客今まで見たことない 2(C)
◇犯人がすぐに予想できた(C)
◇最後くらいは頑張りたいらしく圧がすごかった(C)
◇前も後ろも(C)
◇こんな客今まで見たことない 終(C)
◇イラスト4
◇大好きなものは、大好きな人たちと共に。
◇いつかは、あの日の約束を果たせるように/リアス
◇April extra story/レグナ

全91ページ(スマホ版129P)

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