First grade May サンプル

2019-02-23

※この作品は、コミック・小説混合の作品です。変わった作品としてお楽しみください。

どうか男性陣のテンションが上がりませんように。

──魔術。
それは魔力を持っているハーフやビーストが扱うことのできる術。けれど、魔力を持っている”だけ”では実は魔術は使えないんです。魔力とは能力を会得し、そして具現化させるための手段となるもの。

私たちは”魔力結晶”と呼ばれる、能力を結晶化したものが体内にあることで初めて魔術を使えます。その魔力結晶を作るには、欲しい能力に魔力を流し込み結晶化させたあと、体内に取り込みます。ちなみに魔力を有する者には体の中に”結晶器官”というものがあるので体に影響もないですよ。結晶も自分の魔力を自分の中に戻すだけなので違和感だったり痛みだったりもなにもありません。

その魔力結晶に自分の魔力を流し共鳴させることで、能力を具現化できるようになります。熟練の魔術師であるならば魔力結晶はいくらでも体内に入れることはできますし、”この能力を使う”というイメージさえあればいつでも自分の使いたい魔術を使うことができます。

さて、何故私がこんな話をしているかというとですね。

本日は五月一日、一年生による合同演習の日だからです。

エシュト学園は人の笑顔を守るというコンセプトを掲げた学園。そのために、日々の見回りやボランティア活動が盛んに行われています。生徒それぞれ行く道は違えど、学園に入った以上、その方針には従わなければならない。なので日々の活動は全員参加。そして万が一、活動中にビーストやヒューマンの争いがものすごいことになったときには、武力行使でもなんでもそれなりに対処ができないといけません。

そこで、最低限の戦闘力をつけるために、エシュト学園ではほぼ毎月のはじめに、丸一日使った学年別合同演習があります。

と、いうわけで。

「相変わらず広いですねぇ」
「スタジアムに立つと、なおさら…」

一年生全員が動きやすい服に着替え、学園の離れにある演習場までやって来ました。クリスティアと二人、揃ってぐるりと見回します。
洋風なエシュトの校舎に合った外装、中はまるでコンサートホールを思わせるような広さ。入学説明会で観覧席から見たときは広いですねぇくらいでしたが、スタジアムから見上げてみると圧巻の一言に尽きますわ。全校生徒が入れるくらいはあるって言ってましたけど、見渡した限りそれ以上の人数が入りそう。視線を一周させて隣の男性陣に目を移すと、彼らはその広さに心なしかわくわくしているご様子。ただうち男性陣の場合、初めてこんな広さを体感した、というようなかわいいものでなく。

「全力で走っても余裕あるね」
「まぁ、暴れるのには十分な広さだな」
「これなら千本思いっきり投げられるわ」
「楽しみだな」

思いっきり戦闘ができるという嬉しさですよね。知ってましたわ。
「さてペア決めでしたよね」

切り替えるように手を叩いて、幼なじみへと促す。

朝のHRによると、演習は二人一組。今回は初回ですし、全員が互いの実力を把握していないだろうから同性同士、そしてヒューマンはヒューマン、能力者は能力者同士で組むこと。それを守ればペアは自由。ちなみに何故この場で決めるかというと、種族の割合上、クラス内だと余りが出たりなんなりあるからだそうです。
さてペアが決まり次第のスタートになるので、まずは相方を決めなければなりませんね。まぁ自由となればもう決まったも同然。

「この四人で異議はないです?」
「あぁ」
「おっけー」
「へいき…」

聞けば、三人も即座に頷きました。さすが幼なじみ、考えることは一緒ですわ。
では同性同士という縛りがあるので。

「私が刹那で?」
「俺が龍かな?」
「そうなるな」
「うわぁやりたくない」
「とか言いながらなんだかんだ気楽だろう?」
「まぁ手加減するよりはね」

なんて笑いつつ、ぱぱっと決まったペアを報告しにスタジアム中央へ向かう。

報告の順番待ちの列に少し並んだところで待っていたのは、我らが担任江馬先生。四人一緒に報告をして、

「え~、愛原・氷河ペアと炎上・波風ペアですね~。ではこれをお渡しします~」

彼女がタブレットに入力したあと、間延びした声で渡してきたのは、番号が書かれた紙。

「私たちが20ですね」
「俺たちは21」
「あなた方がこのスタジアムで戦う順番になります~。ひとまず九番目以降は一度上の観覧席で待機。スタジアム中央のモニターに、次降りてきて欲しい番号が出るので~」
「それが出たら降りて来いと?」
「はい~。それまでは観戦するなり、裏に書いてあるルールを読んでいてください~」

言われて裏を見ると、少し細かに演習のルールが。

「質問がなければ移動をお願いしま~す」
「行きましょうか」
「はぁい…」

促され、ひとまず我々は待機組になるので観戦席へと向かいます。
その道中で、先ほどちらっと見た、番号裏のルールへ目を走らせた。

「えー、ルール説明。”制限時間は三十分。勝利条件は、相手の戦闘不能もしくはリタイア。合同演習での武器・能力の使用は問わない。ヒューマンで武器を未所持の場合は貸し出し武器場で借りることも可──。”あとは先生が止めに入ったら素直に従うことだそうですわリアス」
「何故俺に言うんだろうな?」
「あなたが一番厄介なので」
「自分の能力の扱いは心得ているから大丈夫だ」

まぁそうですか、と軽く流して階段を上がりつつ次へ。

「で、待機中の指示も書いてありますわね」
「”待機中は他の生徒を見て勉強、もしくは各々の授業に戻ることも可”だって。ただし今回の初回だけは演習場内にいること」
「授業に戻っていいとは随分良心的だな」
「まぁ自分の夢の方に少しでも多く時間割きたいやつもいるだろうしね」
「加えて制限時間ぴったりで交代が続くとなると待ち時間も相当ですわ。今日だってぴったり終われば二時間半待ちですもの」
「時間を有効活用しろということか」
「そういうことですわ」

話しながら階段を上がりきり、観覧席へとやって来ました。早めに報告に行った甲斐もあって席はガラガラ。順番も早めなのですぐ移動できるところにしましょうかと、通路を出たすぐのところに腰を落ち着けました。

そうして四人で裏の注意事項を読むことしばらく。

「…!」

ビーッという電子音が鳴りました。見上げると、中央上部に設置してあるモニターに開始という文字が。あら始まりますのねと、下を見る。

スタジアムの方では電子音と同時に始まったようで。四組がすでに己の武器を交えていました。

ヒューマン同士は基本的に組み手。場所によっては竹刀を持って闘りあってるところもありますね。ハーフやビーストは比較的魔術合戦が多い様子。

しかし、魔力結界で分けられたどこの組も、その戦い方はどうしても拙い。魔術は立派なのに、相手に当てるのが怖くて大きく外したり、組み手も勢いがない。

これは──。

「三十分も保ちそうにないですね」
「十分くらい…?」
「まぁそこらへんが妥当だろうな」
「一年のときは、仮に順番が後ろでもここにいるのが賢明かもね」
「下手したら戻ったときに自分の順番が過ぎてそうですものね」

そう話している間に、案の定次々と決着がついていくスタジアム。その大半は、ペアの降参。ギブアップする方が多いようです。
交代してまた始まるも。

「あらら、またギブだ」
「十分どころか五分も保たずに交代ですわね」

まぁほとんどの生徒は戦闘のために来てるわけじゃないのだから当然ですかと納得してしまう。これはやっぱり──。思った言葉は、隣の兄がつまらなそうに言った。

「四人で組んで正解だったね」
「ノってきたところでギブアップだと萎えるしな」
「よっきゅーふまん…」
「不完全燃焼だ」

さらにギブアップが続く中、ふとモニターを見上げる。四つに分かれた円の中には、11、12、13、14。スタジアム前待機の欄には、15、16、17、18。呼び出し欄には19。そしてたった今リタイアが出て、数字が動き。

呼び出し欄が20に変わりました。

「クリス、行きますよ」
「はぁい…」

私たちは20なので、変わったと同時にクリスティアに声をかけ立ち上がる。

「俺たちももう行く?」
「その方が早そうだな」

この早さならすぐ呼び出し欄変わりそうですものね。あまり順番は詰まらせては行けないので、次の出番のレグナたちも連れ少し駆け足で下に向かった。

そうして階段を下り、パタパタとスタジアムへと抜けると、

「あら」
「…終わったね」

ちょうど手前側で行われていた演習が、片方のギブアップで終了しました。ナイスタイミングなのかなんなのか。座る間がなかったのは少々惜しいですが、少し乱れた息を整え、クリスティアに声をかける。

「行きましょうか」
「ん」
「刹那、手加減するなよ」
「わかってる…」
「頑張れよ華凜」
「はーい」

次の順番を待つ二人にエールを送られ、スタジアムに入ります。お互い配置についたところで、まずは魔力結晶にしてある刀を具現化しました。クリスティアも自分の能力、氷を刃にして両手に持つ。

さぁ、頑張って参りましょうか。

「はじめっ」

準備を整え、先生の合図と共に同時に走り出した。

我々が配置された区画の中央。軽快な金属音を奏でて、刃が交わる。

「っ……」
「…」

私の刀とクリスティアの氷刃による押し合い。パワーはこちらがほんの少し上。両手でしっかりと柄を握って踏み込めば、彼女は一歩下がった。
このまま押し進めようとさらにこちらが踏み込んだ、瞬間──。

「──!」

感じた魔力と、冷気。下を見れば、地面が少しずつ凍っていく。

──あ、やばい。

反射的に後ずさるように跳ぶ。直後、氷の結晶が地面から勢いよく飛び出してきました。危ないですね。気付かなかったら串刺しですか。

「これ私じゃなかったら死んでますよ?」
「手加減はだめ、って言われたから…」

あの男余計なことを。あなたに従順なこの子にそんなこと言ったら実行しちゃうじゃないですか。目の前の子ではなくこれを見守っている男に若干の殺意が湧く。

「ふぅっ……」

ただ彼への恨み言はこれが無事終わってから。息を吐き、体制を整え、魔力を練る。

さて魔術とは、魔力結晶に魔力を流して能力を具現化したもの。熟練した方ならば、いつでもどこでも能力を使うことができます。

でも、どんなに優れた方でも能力を引き出せるのは八割方まで。

生物みな頑張っても雑念が入ったりするし、戦闘時なんてなおさら集中力は術だけには持っていけない。そんなとき、魔力結晶と100%共鳴するため”言霊”というものが必要になってきます。今で言ったら”詠唱”ですね。
この能力を使うためにはこの言霊を言う、というのを自分と魔力結晶の間で決めておけば、能力を使うとき最大限に引き出すことができるのです。
たとえば──。

【舞い散る華よ、刃となりて敵を貫け!! ブロッサムレイン!!】

魔力を練るのと同時に”言霊”を発する。そうすると、私の能力、桜の華は鋭い刃と化して、雨のようにクリスティアへと降り注いだ。

「っ…」

まぁ身軽なあの子には跳んでよけられちゃいましたけど。こんな風に、言霊に呼応して技が打てるんです。ちなみに同じ魔力結晶にいくつかの言霊を決めておけばそれに応じて技も変化してくれます。自分の好きなようにカスタマイズできてとっても楽しいんですよ。

なんて紹介してる暇はもうなくなるんですけどね。

【…宵闇に浮かぶ夢幻の世界】

聞こえた詠唱に、やばいとこちらも魔力を練る。集中して、できるだけ強度を高めるように。その間に、暗くなっていく視界。

【迷い子には幻想を、あらがう者には凍てつく刃を】
【聖なる光よ、我が身を守れ──】

【無限氷夢】
【バリアー!!】

寸でのところで自分を覆うように結界を張る。同時に、真っ暗な世界で無数のはじかれる音が聞こえた。見えはしないけれど、恐らく無数の氷の刃が私を串刺しにしようと攻撃してるんでしょう。本来ならとどめを刺すときに使う彼女の奥義とも言えるような無限氷夢。暗い世界に閉じこめ、無数の氷の刃で相手を貫く技。演習で出しますかこれ。冗談抜きに私じゃなきゃ死んでますよ??

「……」

まるで永遠とも言えるような時間をなんとかバリアーで耐えしのいでいると、音が止む。
直後、クリスティアが術を解いたんでしょう、空間に光が射しました。どんどん広がっていくその光のまぶしさに目を細めながら、自分の結界を解く。

さぁ空間が開ききった瞬間に反撃へと移りましょうか。

そう、勇んで踏み出した足は。

「──っ!」

──それ以上、進めることはできなかった。

「つかまえた」

目の前にはまぁ珍しいちょっと楽しげなクリスティア。
いつもならかわいいなんて思いますが、今はその笑みに冷や汗が流れる。頑張って笑みだけは返して、状況を確認しようと目だけを動かしてみると。

私の首もとには、彼女の氷刃の切っ先。

反射的に後ろに身を引きたくなるけれど、それはぐっと抑える。見なくてもどうなってるかなんてわかりますわ。この戦術を嫌と言うほど知っているから。恐らく後ろには、下がれば突き刺さるように氷の刃が展開されているはず。リアス直伝の戦闘術。

これを、打破するとなると──。

そう考えてすぐ、心の中だけで首を振った。これ以上は”本気の領域”に入ってしまう。それをするとこの後がいろんな意味でやばいと、長いつき合いで知っているから。

「……今回は降参ですわ」

カランと刀を落として降参と手を上げる。

しかし、この刃はすぐに解かれることはないことも私は知っていた。

「しょ、勝者、氷河」

そしてそれは、審判が「終わり」だと告げても。身を守るための戦い方を散々恋人から教え込まれているこの子は、ただ一人の許しがなければ「終わり」を認識しない。降参だと告げた相手が、術を解いた瞬間に反撃をしてこないように。面倒なことを教え込んでくれましたねと、解かれることのない術にため息を吐いて、助けを待つ。

「刹那」

決してクリスティアから視線を逸らさず、降参の手を下げぬまま立っていれば、案の定彼女の後ろにその男は来た。

「”終わり”だ。もういい」
「…!」

彼のその一言。たったそれだけを、合図に。

「…わかった」

解かれる彼女の魔術。きらきらと雪が降るように消えていく氷の中で、無意識に張りつめていた緊張の糸が切れた。ほっと胸をなで下ろしていると、肩を叩かれる。そちらに目を向けると苦笑いの兄がいて。私も苦笑いを返した。

「お疲れ」
「ありがとうございます」
「もうちょい遊ぶと思っていたんだがな」
「あなたが手加減するなと言わなければもっと遊びましたわ」

むくれたら素知らぬ顔で肩を竦められたので、心の中だけで彼にグーパンをかましておく。

「では刹那、行きましょうか」
「はぁい…」

こんな男は放っておき、すぐに交代だからとクリスティアとスタジアムを出ようと歩き出しました。

「……」
「……」

そこで、周りが妙に静かなことに気付く。見渡すと、ぽかんとした様子の生徒たち。演習を行っていた生徒もこちらに見入っていたのか、先生に注意されて模擬戦を再開させていました。あら、刺激が強かったかしら。これ結構優しい方なんですけども。たぶん全員が本気出したらこんなものじゃ済まない。

「龍、がんばってね…」
「刹那さんエール送るのまじやめて」
「どれくらい強くなったか見てやろう」
「そんな大したことないんでお手柔らかに、ほんとに」
「頑張ってくださいね、死なない程度に」

そんな周りのことは気にせず、スタジアムを出る直前にエールを送って、私たちは観覧席へと向かいます。
廊下を少し急ぎ足で歩きながら、前を歩くクリスティアに声をかけた。

「また強くなってましたねぇ」
「そう…? 華凜もだよ…」
「あら、お褒めに与り光栄ですわ」

肩を竦めて笑うと、振り返ったクリスティアも少し機嫌が良さそうに微笑んだ。

「たまにはこういうのもいいね…」
「まぁ普通ならあんな遊びませんものね。新鮮でしたわ」

互いに本気だったらあんな刃を交えるなんてしない。始まった直後に一瞬で首を狙うでしょう。そこは演習ならではの遊び。次の彼らの闘いではどうなるか知りませんが。

「向こうも、ちゃんとお遊びで済むといいね…」
「そうですねぇ。レグナがそんなに乗り気じゃなさそうでしたし、リアスも自分の力の扱いは心得てると言ってましたし。大丈夫じゃないですか?」

うん、たぶん。笑ってはみるけれど自信はない。互いにノってしまって本気に、なんてことはとてもありえる。できれば、というかぜひにそうならないことを願いたい。なにかあっても戦力的に女子二人では止められない。

「あら、ちょうど始まりますね」
「ん」

上にあがって前の方の席に座り目を向ければ、互いに構えていた兄とリアス。タイミング良かったですね。準備が整ったところで、先生のかけ声で同時に走り始めました。顔は、表向きは憂鬱そうだったりしていますがどことなく楽しそう。こういった演習みたいなものはここ最近ではあまりしませんでしたものね、気持ちはわかりますわ。楽しむことはとてもよいこと。それを見れるのもこちらとしては嬉しい。ただまぁとりあえず、

再び下に降りることだけはなければいいなぁと思いながら、その戦いを見守った。

『どうか男性陣のテンションが上がりませんように。』/カリナ


一週間後には多分後悔してる

五月二日、夜。学校を終え、クリスティアと食事を済ませ家で待機していると、インターホンが鳴った。後ろに彼女を引き連れて出迎えようと扉を開けると。

決して一週間弱の泊まりでは必要ないであろう荷物を携えた双子が立っていた。

「……山に籠もりにでも行くのか?」
「そんなわけないじゃないですか」
「結構絞った方だよ?」
「嘘だろう?」

そんな彼らの後ろでは、荷物運びに駆り出されたらしい愛原家と波風家の執事がせっせと車から荷物を出している。

荷物を出している?

待てまだあるのか。知っているか、あんたらが仕えている双子の足下にはキャリーケース三つに登山用リュックサックが二つあるんだぞ。それなのにまだあるというのか。
……さらに登山リュックが二つだと?

「……何を入れてきたんだそんなに」
「みなさんで楽しめるもの、ですわ」

にっこり笑う女が企んでいるようにしか見えない。
訝しげに荷物を睨みつけていると、やっと全て出し終えたらしい執事が彼らの一歩後ろまでやって来た。

「カリナお嬢様、お荷物は中に入れましょうか」
「結構ですわ、リアスが運んでくれるそうなので」
「聞いていないが」
「かしこまりました」
「お前のところの執事はお前にそっくりだな」
「まぁ、ありがとうございます」
「褒めていない」

話をスルーするのはそっくりだぞ本当に。

「レグナお坊ちゃま」
「いい、自分で運ぶよ、ありがと」
「左様でございますか」

その点この兄は基本は常識人だから自分で運ぶ。何故双子の性格にここまでの違いが出るのか不思議でならない。

「カリナ、運ぶ…?」
「あら、いいですわクリスティア。こういうものはリアスが運んでくれるので」
「自分で持てる量を持って来い」
「全部必要なんですー。ほら運んでくださいな」
「お前仮にも客人なんだから遠慮くらいしたらどうだ」
「あなたに遠慮することなんてないでしょうに」

追い出してやろうかこの女。

「ここに置いておくぞ」
「ありがとうございます」

二人の執事を見送ってカリナとレグナを家に招き入れる。カリナのリュックサックとキャリーケースを何回かに分けて家に運び入れた頃には少し体が汗ばんでいた。リビングの端に置き終わって向けられた笑顔にはだいぶ殺意しか湧かない。

「外から見てばっかりだったけどやっぱり中も広いね」

それはなんとか押し殺してひとまず飲み物を、と冷蔵庫から麦茶を出して飲んでいると、レグナがそう言ったので頷く。

「部屋は全部で四つ?」
「あぁ」
「そしてその中であなた方は一つの部屋を使っているんでしょう?」
「おいなんで知っている」
「予想がつくんですよ。どうせ引っ越す前は各部屋の家具を揃えてもらってベッドも二つあるけれど、あらかじめ片方が大きめのサイズを買っておいてそれで寝ているんでしょう」

その通り過ぎて寒気がした。

「でも部屋余らない?」
「いや、書庫やアルバム入れに使っているからそこまで」
「アルバムは多いですもんねぇ」
「そろそろ時代に合わせて電子化でもするか?」
「それもありかも…」

まずその電子化に骨が折れそうだが。
なんて、今あるアルバムの量を思い返し苦笑いを浮かべながらリビングへと戻ると、左側手前の部屋を見ていたレグナがわくわくした様子で聞いてきた。

「ねぇ書庫ってマンガとかラノベとかもあんの?」
「マンガは少ないがラノベはまぁ」
「まじでー」

左側奥の部屋を指さしてやれば、奴は嬉々として向かって行った。扉を開けて中に入りしばらく。歓喜の声が上がったのでお眼鏡に適うものはあったらしい。

「見るのは構わないが先に風呂にでも入ってこい」
「はーい」

そう声は返ってくるが、一向に部屋からは出てこないので恐らく後で引っ張り出さないと無理だろうと納得し。

「風呂行ってきたらどうだ」

妹の方に声を掛けた。

「お二人方はすでに?」
「ん…」

寝間着の薄紫のネグリジェを見せるようにしてクリスティアが頷く。それにほんの少し残念そうな顔をしたのは見逃さない。

「……何持ってきたんだお前」
「あら、かわいらしいお洋服ですわよ」
「それは今度にしてさっさと入ってこい」
「まぁ残念ですわ」

珍しく心底残念そうな顔をして、でかいリュックサックから風呂用品を出しカリナは浴室へ向かって行った。
それを見届けてから。

「寝床の準備でもするか」
「はぁい」

仮にも客人に手伝わせるわけにはいかないだろうということで、俺とクリスティアは寝床の準備をするため、普段使わない方の元クリスティアの部屋へ向かった。

 

「一応聞くが、ベッドじゃなくていいのか?」

あの後、カリナが出てきてもまだ書庫に篭もっていたレグナを風呂に入れさせ、夜十時頃。
明日からどうせ遊ぶんだからと気持ち少し早めに全員で床につく。薄暗い視界の中、床に敷いた元クリスティアの部屋のベッドから持ってきたマットレスに並ぶ双子に聞くと、当然と言ったように頷かれた。

「家主より優遇されるのはいかがなものかと」
「お前家主に荷物持ちさせただろう」
「それはそれ、これはこれです」
「都合のいい女め……」
「気になるならローテーションでもすりゃいいじゃん」
「メンバーのローテーションですか?」
「場所のローテーションですカリナさん」

メンバーのローテーションなんて俺がまったく得しないじゃないか。

そんな考えなど仮に言ったとしても意に介さないその女は、うつ伏せでスマホをいじりながら楽しそうに口を開く。

「ねぇ、せっかくですしなんかお話ししましょうよ」
「カリナさん布団の中で足上げないで、めくれて寒い」
「どうせ夜中に掛け布団なくなるんで今の内に慣れておいてください」
「布団奪う気満々じゃんか」

ひとまず風邪を引かないよう心の中だけで祈りつつ。

「カリナ」
「はいな」
「話をしましょうかと言ったところで悪いが、残念ながらうちの姫様は時間切れだ」
「そんなばかなっ」

ほとんど夢の中に行ってしまっている腕の中の恋人の状況を伝えると、カリナはがばりと起き上がる。おいレグナ大丈夫か。咄嗟に目を向けたが、うつ伏せで恐らくソシャゲのデイリーをこなしている奴は慣れているのか、気にしていなさそうなのでクリスティアへと目を戻した。
深い蒼の瞳はもう閉じてしまっている。

「見ての通りだ」
「せっかくお話ししようと思ってましたのにーー」
「とか言いながらしっかり写真を撮っているじゃないか……」

悔しそうにしながらも目の前でパシャパシャ連写している女は顔と相反して喜んでいるようにしか思えない。

「そもそも話なんてすることもないだろう」

もうやめてやれとスマホを遮りながら言うと、とても小さく舌打ちをして手を引っ込め布団に戻って行く。おいその舌打ちちゃんと聞こえてっからな。枕を投げてやろうかと思ったが、さすがにそれは隣の兄がガチギレしそうなのでなんとか抑えた。

「ある程度は知っていますが雰囲気で楽しみたいとかあるじゃないですか……こう修学旅行! みたいな感じで」
「それは学園の修学旅行でやれ。俺は寝るからな」
「連れない男はモテませんよ」
「恋人にモテているから大丈夫だ」

それだけ言って、まだ不満そうなカリナを無視して布団を肩までかける。
寝息を立てて安心したように眠る恋人にすり寄って、俺も目を閉じた。

「薄情な男ですのね」
「別に明日から一週間近く一緒なんだからいいじゃん。いくらでも話せるよ。話す内容がほぼないのがあれだけど」
「それですよね」

なら何故持ちかけたと数刻前の女に聞きたい。
目を閉じてもほんのりと感じていた光がふっと消えたことで、レグナもカリナもスマホの電源を切ったのだろうと知る。布が擦れる音が落ち着いたところで。

「んじゃおやすみ」
「おやすみなさい」
「……おやすみ」

こちらに投げかけるようにして言われた挨拶に、小さく返した。

数分して聞こえ始める寝息。

一度目を開き、恋人が寝息を立てていることを確認して、再び閉じる。
彼女を守るように抱きしめて。

どうせ明日からろくなことはないんだろうなと思いつつも、どこか楽しさに期待を込め、浅く、意識を沈めて行った。

『一週間後には多分後悔してる』/リアス


一日目・トランプ大会

それじゃあお泊まり会一日目。レグナがお送りします。

全員で十時過ぎ位に布団から出て、朝昼兼用の飯を食い終わり十三時。

「トランプ、チェス、スゴロク……あとはレグナが持ってきてくれたゲームが数点ですね」

ゲームが入ってるリュックやらキャリーケースやらを開けて、全員で今できるゲームを確認。

さて。

「何やる?」
「トランプ…」
「チェス」
「ではスゴロクで」

うわすげぇバラバラ。

けれどこれはわざとだと知っているので。

「意見まとめてみよっか、さんはい」
「「「トランプ」」」

というわけで全員一致のトランプを手にして他のものを一旦片す。リアスは向かい合い、右にカリナ、左にクリスティアと四人で輪になって座り、トランプを開けた。赤い裏地のトランプを取り出して、適当に切り始める。

「ゲームは?」
「私はババ抜きで」
「ポーカー」
「…神経衰弱」
「すでに出たワードを言っちゃいけない呪いでもかかってんの?」

俺もあっち側ならやるけども。
まぁどうせ一通りのゲームはやるだろうと、まずはジョーカーを一枚抜いてから十分に切り終えたトランプを配っていった。

「とりあえずババ抜きね」
「同じ数字か?」
「…同じ色?」
「それとも同じマークですか?」
「今まで同じ数字以外でババ抜きしたことなくね??」

なんてツッコミながら四人分配り終え、手札を見る。同じ数字を捨てていって、俺が六枚、クリスティアが七枚、リアスが五枚、カリナが九枚……カリナ多いな。

「カリナ全部捨てた?」
「えぇ。ちょっと多いですが、準備オーケーですわ」
「いつでも」
「…だいじょうぶ」
「んじゃじゃーんけーん」

ほいっとみんなで手を出すと、勝ったのはリアス。時計回りが楽だからということで、リアス→カリナ→俺→クリスティアの順で、ゲームスタート。

「クリスティアがなかなか揃い辛そうですわねー」
「リアス三枚だもんな」
「ねー…つらい…」
「だからといって俺も揃いやすいわけではないんだがな」
「手持ちが少ないからね」

相手の手札から引いて、揃ったら山へ捨てていく。心理戦とはいえど流れ作業なので話も弾んだ。

「この四人でこういう心理戦に適したのって誰でしょうね」
「言葉が入らないならリアスじゃない?」
「そうか?」
「ポーカーフェイス…」
「そうそう」

お、また揃ったラッキー。山へ捨てて、クリスへ手札を差し出し、カードが引かれていくのを見届ける。

「表情が読みづらいと言ったらカリナもそうだろう、ずっとにこにこしているし」
「あらまぁ、光栄ですわ」
「レグナは、遊びとかじゃなければ心理戦得意だよね…」
「あーまぁ、やるってなったらね」
「お前のあの笑顔や無表情は恐ろしいよな」
「そう?」

肩を竦めて、リアスが言う笑顔を見せたら引いた顔された。ひでぇ。

「でも」

いつもの表情に戻して、リアスたちが引いたカードを山へ捨てて行くのを見届けていると。
隣の少女が声を上げて、三人でそちらに顔を向けた。

その少女の目は、少しきらきらして、自信に満ちあふれている。そうして小さな口から、目と同様自信たっぷりに、

「ポーカーフェイス、無表情なら、わたしが一番…」

俺たちが口を引き結ぶ言葉が放たれた。

みんな同じ表情だったんだろう、クリスティアは首を傾げる。

「わたし、ポーカーフェイス、でしょ…?」
「うーん」

うん、……うん。まぁたしかに表情は変わりにくいね。
楽しいよーって言ってるときびっくりするくらい無表情なこと多いし。

けれどクリスさん。あなたのその言葉には頷けないんだわ。

ちょうど俺がクリスのところから引く番なのでやってみましょうか。

「……んーとね」

迷わずに、ある一枚のカードに手をつける。

その、瞬間に。

「…♪」

無表情な彼女はまぁ可愛らしく周りにお花を舞わせるじゃありませんか。

そして、今度はそのカードを”避けて”、違うのに手をつけると。

「…!」

あら不思議、マンガの効果にあるようなどよんとした雰囲気が漂うじゃないですか。

わっかりやすすぎるんです。

「ごめんなクリス、俺やっぱりさっきのには頷けないわ」
「どーしてー…」
「なんだろうね、顔はポーカーフェイスなんだけど雰囲気がポーカーフェイスじゃない」
「意味わかんない…」

ごめん俺もなんでそうなるのかよくわかんない。可愛いけど。

「結局どれにするの…」

ぐいっと押しつけるようにしてカードを引けと促される。待ってだいぶばればれだけどそれ以上はカード見える。

さてどうするか。
試しにもう一度普通のカードであろう場所に手をつけてみる。

途端に彼女はまた、とても悲しげな雰囲気になってしまった。

うわこれすっげぇ心いてぇ。しかも本人気づいてないから質わりぃ。
どうしたものかと、ちらっと横目でリアスとカリナを見てみると。

「「……」」

あ、めっちゃ心痛そうな顔してるわ。

「あー、……じゃあこれで」

彼女に目を戻し、悩んだ末、スッと抜き取ったのは。

「…!」

裏返すとこちらをあざ笑うかのように見ている、ジョーカーのカード。やっぱりあなたでしたか。

「♪、♪」

から笑いしつつクリスティアに目を向けると、ジョーカーが去ってとても嬉しい模様。ついでに言えば隣の保護者たちも安堵のご様子。果たして勝負の意味はあるのかと問いたいけれど、この子に悲しい顔はさせたくないので大人しく手札にジョーカーを混ぜた。

「リアス、上がりませんねぇ」

それからも引いて捨てての繰り返し。みんなの手札が減ってきて、俺とクリスが二枚、カリナが三枚、リアスが一枚となった頃。カリナが少し楽しげに言って、リアスに手札を差し出した。

「中々合わないからな」

当の本人は意に介さない様子でカードを引いては手元に残す。クリスが引いた後に最後の一枚にはなるけれど、中々上がることはない。ババ抜きって最後になってくると合わないよね、なんて話しながら、カリナに手札を差し出した。

お。

「あら、合いませんわ」
「残念だったな」
「えぇまったく」

先ほど俺の元へやってきたジョーカーがカリナの手によって去っていく。残念と笑うけれど、一瞬”あっ”て顔をしたのは見逃さない。それは恐らくリアスも。さりげなく警戒心が高まったリアスに、どちらに向けるでもなく頑張れとエールを送って。
さて今のところジョーカーが回ってくることはない俺は楽しく続けましょうかと、クリスティアのカードを引こうと手を伸ばした。

瞬間止まった。

「まじかクリス」
「ん」

どれにしようかと向けた視線の先には、

カードが一枚。

「え、もしかしてさっきのターンでリアスから引いたときにカード合った??」
「うん…」
「捨てていたぞ」

まじかよ見逃してた。

止まった俺に、クリスティアは若干嬉しそうな顔でカードを差し出してくる。引けよ、と言うように。

えぇめっちゃ引きたくない。

これを引いたら必然的にあっちの戦いに参戦決定じゃん。

「えぇ……? ババ抜きってパスなかったっけ?」
「ねぇよ」
「おいでませジョーカーの戦場へ」
「まじかよ……」

しかし引く以外の選択肢はないので、諦めてクリスティアの手からカードを引き抜いた。

「上がった…」
「よかったですねクリスティア」
「ん」

直後、勝利というように彼女は両手を上げ、それにリアスがよかったなと頭を撫でてあげている。嬉しそうに撫でられている彼女は大変微笑ましい。それを見るがために、全員さりげなくクリスティアを勝たせるようにしたであろう。彼女のことが大好きな俺たちには、この嬉しそうな雰囲気はある意味ご褒美。そのためならいくらでも勝たせてあげてもいい。

けれど、それはクリスティアに対してのみである。

ここからはそんな甘さなど一切ない。

「レグナ」

リアスに名前を呼ばれて、諦めたように二人を見た。

手加減という制限がなくなり、それはまぁ美しく微笑むラスボス二人。

「では続きと参りましょうか」

自称勇者、ファイナルステージに行って参ります。

以下、一部ダイジェストでお送り。

「あら、今リアスがジョーカー持って行きましたよ」
「なんで言うんだお前は」
「敵ですもの」

「待って俺も引いたわ」
「残念だったな」
「ちょっと私に回さないでくださいよ?」
「それはカリナの運次第でしょ、実力のうちって言うじゃん」
「まー、ご自身に返ってこないことを祈りなさいな」
「フラグ回収者だもんな」
「うるさい」

「あ、上がりますわ」
「嘘でしょ!?」

なんて話しながら引き引かれを繰り返すこと数十分。

「……」
「……」
「……」
「……早く引け」
「待って悩む」

長かった最終決戦が終わりを迎えようとしてまいりました。

カリナが上がり、絶望したのもつかの間。
ついに俺の手持ちは一枚となり、リアスの二枚の手札から引く番がやってきた。

ここでリアスから俺のペアのカードを引けば上がりなわけで。やることがなくなって山札でタワーを作っているクリスティアを横目に、透視する気迫で、カードを睨みつける。

「潔く引いた方がいいだろう」
「だって俺がペア引いたら上がりだしお前負けだもん、絶対引きたい」
「”だもん”じゃねぇよさっさと引け」
「うー……絶対上がってやる」

しかしどんなに睨みつけてもカードは見えないわけでして。リアスの言うとおり潔く行くかと意を決し。

「せいっ!」

俺から見て、右のカードを引っこ抜いた。

ただ、このとき俺はすっかり忘れていた。

──自分がフラグ回収者だと。

「最後の最後でジョーカーかよっ!!!」

何度目かのご対面に思わずジョーカー床に叩きつけたわ。

「そうして上がるのは俺か」
「あっずるい!」

そしてリアスは、俺がまだ手に持っていた方のカードを引いていく。

こっちに、揃ったカードを見せつけるようにしてきれいに笑い、

「運も実力のうち、勝負は無情、な」

立派なトランプタワーを築き上げているクリスティアに渡して、勝負は終了となりました。
クリスには手加減思いっきりしたくせにっ。

けれど自分がリアス側だったら同じことしたし同じ言葉も言ったので。

「では負けたレグナにはこれを」
「はーい……」

ひとまず視界の端にやってきた黒い物体の正体を暴くことにしようかと、意識をそっちに向けた。

「えぇ、黒くね……」

全体を見てみると、真っ黒だけれどとりあえずボックスだというのがわかる。どこにこんなの詰めてたのって言うのは置いといて、

「……カリナさん、このBOXは」
「お仕置きBOXです」
「罰ゲームBOXじゃなくて??」

負けた上にさらにお仕置きされるってどういうことなの。疑問を投げかける前にカリナは移動してしまい、もう一つの白いBOXをタワー崩しをしているクリスティアに差し出した。

「勝者にはこれを」
「…ごほうびBOX」
「お前わざわざ両方作ってきたのか」
「楽しめるかと思いまして」

えっ敗者楽しめなくない?

けれど敗者は勝者に従うのがうちの暗黙のルール。文句は言わず、大人しくBOXに手を入れて一枚カードを引く。二つ折りにされた紙を開いたら、達筆なカリナの字でこう書かれていた。

“リアスと就寝(レグナ専用)”

いろいろ待とうか。

「メンバーのローテーションは本気だったの!?」
「私だってクリスティアと寝たいんですもーん」
「”もーん”じゃないよ……この歳で男二人で就寝とかねぇわ……」
「同感だ。さりげなく巻き込みやがって」
「恨むなら罰ゲームになったレグナを恨んでください」

見事罰ゲームになった自分をとても恨む。リアス睨まないで。ごめんって。

ていうか、

「数ある紙の中で”レグナ専用”引くのってどんだけ……」
「あなたもリアスと寝たかったんじゃないですか?」
「ねぇわ」
「あとで感想聞かせてくださいね」
「やらずとも言えるけど?」

なんてのは妹には通用せず、「しっかりやってくださいね」と言葉を残して、BOXを端に寄せに行ってしまった。ため息を吐いてる中で、入れ替わるようにしてやってきたのはクリスティア。

「ポーカーやろー…」
「ほら姫様のご所望だ、やるぞ」
「切り替え早いよリアス……」
「今日の夜にさっさと寝ればそれで終わるだろうと気付いてな」
「まぁそうだけども」
「ポーカー…」
「はいはい」

急かすように、こちらに山札を突き出してきたので諦めの息を吐き。
ちょっと嬉しそうな雰囲気の彼女に、カードを受け取りながら尋ねた。

「ちなみにクリスは何引いたの? ご褒美BOX」
「リアス様が甘いもの買ってくれる券…」

ここにもリアスがいらっしゃる。

「なぁ何故さりげなく俺を混ぜる?」
「恋人からのプレゼントは嬉しいと思いまして」
「さっきの仕置きBOXは」
「三位も多少なりともペナルティがあった方がおもしろいかと」

リアスが一位で俺がビリだったときはなんて言うんだろうこの異常に口が回る妹は。カードを切って、中心に置く。

「んじゃとりあえず始めよっか。チェンジは?」
「一回でいいだろう」
「勝負回数」
「人数分で、四回…」
「そして追加ルールで各回一位の方はご褒美、ノーペアの方はお仕置きのカードを引くのはいかがでしょう」

さらっと何言ってるのマイシスター。
どっちのBOXも聞く限り巻き込まれ事故多発しそうなんだけど。まぁただただゲームをしていくのはつまらないのもわかるので。

「いいんじゃない?」
「…楽しそう」
「巻き込まれ事故が自分の身に降りかからないことを祈っておけよレグナ」
「なんで俺だけ」

フラグ立てる気満々じゃんか。まぁでも何回かはしのげるはず。フラグよ立つなと念じつつ、五枚ずつカードを引いた。

「準備はいいですか?」

チェンジが必要な人は終えた後。カリナの言葉に頷いて。

「では、せーの」

掛け声で一斉にカードを出す。

俺:ワンペア
カリナ:ツーペア
クリスティア:スリーカード
リアス:ロイヤルストレートフラッシュ

まじか。

「リアスすげぇ」
「ロイヤルストレートフラッシュって確率ものすごく低いですよね」
「チェンジしたら揃った」
「勝てると思ったのに…」
「残念だったな」

しょぼんとするクリスティアの頭をカリナが撫でてあげながら、微笑む。

「ではリアスはご褒美BOXですね。今回お仕置きはなしで。BOXの中身はその日のゲームがすべて終わったら一斉開封にしましょうか」
「えっさっき開けちゃったけど?」
「それは初回なので結構ですわ。これからのものはそうしましょう。内容によってはチェンジの声が殺到しそうですし」
「チェンジの声が殺到しそうなもの入れてんの??」

どうしよう中身が不安。

「では二回戦。いきますよー」

そしてさらっと流した妹に不安が確信へと変わった気がした。

まぁ罰ゲームだしと割り切り、もう一度切り直して、各々準備を整える。
あ、今回は引き悪い。

「……」
「…いーい?」

チェンジをしてもそれは変わらず。今回は仕方ないかとクリスティアの問いかけに頷いて。

「…せーの」

掛け声で、手札を見せた。

俺:ノーペア
カリナ:ノーペア
クリスティア:ストレート
リアス:ロイヤルストレートフラッシュ

お、カリナもノーペアか、ラッキー。

それよりも、

「リアスすごくない??」

何ロイヤルストレートフラッシュ二連発って。

「確率の壁を越える男ですか」
「なんだその言い方は……」
「実際越えてるでしょ。その運残しといて、ソシャゲのガチャ引いて」
「何のキャラがいいか決めておけよ」
「えっ指名できんの??」

神かお前は。

「では三回戦行きましょうか」

各々がBOXからカードを引き、リアスの引きに若干違和感を感じつつ再び山札を切って中央へ。
五枚ずつ引いて、チェンジをし、手札を揃える。お、今回は引きいいかも。

「準備は」
「おっけー」
「いくぞ。せーの」

あわよくば一位を狙って、リアスの掛け声で手札を見せて。

俺:スリーカード
カリナ:ワンペア
クリスティア:ノーペア
リアス:ロイヤルストレート──

「ストップ」

思わず声を上げた。

「どうした」
「リアス、イカサマしてない?」
「していないが」
「なんでこんなにロイヤルストレートフラッシュ連発なの」

三回連続なんて奇跡すぎるだろ。しかし本人は何食わぬ顔。

「さすがにすごいですわね……」
「ほんとに何もしてない?」
「トランプはこれしかないし仕掛けられるわけないだろ」
「そうだけども」
「カードじゃなくて、本人には…?」

クリスティアが発した言葉を聞いた瞬間、リアスが止まった。

「……」
「……」
「……リアス、言ってみようか。さんはい」
「……いつ何時クリスティアに何があっても運良く守れるように常にラックアップはかけている」

リアスさんや。

「そういうのをイカサマって言うんだよ、解け」

リアス、イカサマによりご褒美BOX没収。
その後行われた第四回戦では、カリナがトップになりました。

それから、神経衰弱をして。
本日ラストの勝負。

「んじゃラストの7並べ行こっか」

三人に掛けたその声は、ポーカーまでとは一転して。自分でもわかるくらい嬉々としていた。

それも当然。

「勝者はご機嫌だなレグナ」
「そりゃあね」

その神経衰弱で勝利をいただいたからである。

単純に記憶力と言ったならクリスティア。彼女は他の誰もが覚えていないことを覚えていたりするくらい、記憶力がすごい。
けれど、”リアスに関すること以外は全く持って覚える気がない”というたった一つだけ、致命的な弱点があるので。

「…」

たくさんのミスをしてしまい、結果最下位となってしまった。
さすがに神経衰弱は記憶と運なので手加減できなかったのは許して欲しい。俺とは対照的にご機嫌斜めで頬を膨らませている彼女に苦笑いしながら、最後に7並べっていうことで、カードを切り直し、配っていく。
全員に渡ったところで手札を見ると、何故か俺が7を全部持ってたのでフィールドに並べていった。

「確かスペードの7持ってる人が一番最初だっけ」
「そうですね」
「んじゃ俺から時計回りでいい?」
「だいじょうぶ…」

順番はさっきと変わって俺→クリスティア→リアス→カリナ。まずは隣接してるところ。未だ膨らませてるクリスティアの頬を指で挟んで空気を抜き、手札を再度確認。6か8はっと。

おっと??

「…………あの」

とりあえず、挙手。

「どうした」
「えーーーーーと」

声を出している間にも、穴が空くくらい手札を見て何度も確認をする。けれど、

お望みのものが、ないじゃないですか。

黙っていたいけれど順番的に俺からじゃないですか。黙ったままだとゲームを進めることもできないですよね。
うん、もっかい見たけどねぇや。息を吸って、申し出る。

「パスで」

全員が一度理解するために、黙った。

沈黙を破ったのは我が妹カリナ。

「嘘でしょう?」
「ほんとほんと」
「何故7をすべて持っていてその隣接するカードが一切ないんだ……」
「わかんないけどほんとにあの、手札見せたいくらいお隣さんがいらっしゃらない」

思いっきり手の内をさらしてしまっているけれど仕方ない、だってゲームが進まないんだもの。

リアスとカリナの信じられないみたいな目から逃れるようにしてクリスを見る。きょとんとした彼女に、頷いた。

「クリスさん」
「はぁい」
「お願いします」
「うけたまわった…」

結局クリスティアからみたいになって、ほんの少しだけ機嫌が直った彼女から順番にカードを出していった。

さてそんな俺のパスから始まった7並べなんですけれども。

「……お前の手札はどうなっているんだ」
「終局で覆したい……」

なんと言いますか。
その後も度々俺のパスが出ましてですね。

「すごい事故り方ですわねぇ」
「わかんないじゃん、策略かもしれないじゃん」
「このフィールド上を見て策略じゃねぇことくらいわかるわ」

フィールドがだいぶ埋め尽くされて後半に差し掛かった現在。
リアスとカリナがあまりのパスの多さに呆れております。

俺が一番呆れたいわ。

聞く?? この手札の事故聞く??

三周目のところらへんからもう事故確信したよね。いや始めでほぼほぼ確信してたけれども。
何なの3が四枚、Aが二枚、5とクイーンが一枚ずつって。ほぼ後半のカードしかねぇわ。
しかもそのときに持ってる5は俺はクローバーで? フィールドに出てる6はスペードとダイヤのとこだから俺出せないじゃん?
それ以外のカードって結構フィールドに揃ってこないと出せないカードじゃんか。Aなんて最後じゃねぇか。

どうすんだよってその場でカード叩きつけなかった俺を褒めたい。

なんとかカリナが6とか4を出してくれていくも、俺はその間も多くのパスを出し。

そしてさらに、もう何度目かもわからないパスをまた先ほど出しまして呆れられているわけです。後半だから出しやすくはなっているんですけれども。今現在の手札スペードの3とハートのAまで持ってきたんですけれども。またちょっと詰まってるんですよ。
仮に俺の手札にジョーカーがあったならもうちょっとスムーズに行けたと思う。けれど俺の手元にはなく。

しかもそのジョーカー(二枚)は、先ほどリアスとクリスティアがお使いになられまして。

「なんでジョーカーが俺の元に舞い降りてくださらなかったのか……」
「先ほどあなたが叩きつけたからですかね」
「あれかぁぁぁあ」

あのとき叩きつけなければ来たのかぁあああ。
立てた膝に突っ伏したらちょうどジョーカー様と目が合った。またあざ笑われてる気がする。

「ねぇジョーカーが俺のことばかにしてる……」
「ばかなこと言っている間にお前の番だぞ」
「嘘じゃん……」

ほんとだったわ。
えぇ……? またパスですか??

自分でもうんざりしながらフィールドを見回したら。
先ほどまでなかったハートの2のところにカードが置かれてることに気づいた。
あ、出せる。

「やっとカードあった……」
「後半出しやすくて良かったな」
「そうね……」

たしか置いてたのクリスティアだっけか。心の中で感謝しながら、カードを出した。

さて。

「嘆いたりしていた割にはなんだかんだ残り一枚じゃないですか」
「いやぁでも全然出せないんだけど」

他三人がカードを出すのを視界に入れつつ、手元に残る最後の一枚を見て、息を吐く。
スペードの3。

初めはしょうがないとして。この子、後半になった今でもスペードの4が置かれなくてぜんっぜん出せないのです。
これ出したら勝てるのにっ。

「絶対誰か止めてんでしょ」
「止めるならリアスでしょう?」
「お前だってありえるだろう。実はクリスティアだなんてこともある」
「えぇ…? わたしに止めるほどの脳があると思うの…?」

ごめん、長年の付き合いであなたを見てきて「ある」って即答できないわ。

そうして周ってきた自分の番。

4は置かれていないので。

「パスだよもぉぉおお」
「またか。俺はもう上がるぞ」

言われて見たリアスの手札は一枚。嘘じゃん。

「あなたは出せるんです?」
「あぁ」
「えぇ……俺出せたなら一位だったのに」
「ごめんね持ってなくて…」
「クリス素直に言ってくれてありがとう、お前ら二人か阻止してるのは」

俺の言葉にリアスは呆れたように息を吐き、

「お前もう少しクリスティアを疑うことを覚えろよ」

そう言って最後のカードを出す。

「まぁ」

放るように、出されたのは。

「お前の望んだカードを持っているのは俺なんだがな」

──待ち望んでいた、スペードの4。

「やっぱお前じゃん!」

ババ抜きよろしくスペードの3を叩きつけ。

「誰も止めてないとは言っていない」
「そうだけども!」
「ほらあなたの番ですよレグナ」
「もぉぉお!! リアスのばかっ!」

そのカードをフィールドにきちんと並べて、結果、俺は二番目に上がりになりました。

「負けちゃった…」
「ごめんなさいね、クリス」

止められてたカードが出されればそのあとは早いもの。俺が抜けて、二人も次々と出していき。
三位にカリナ、四位クリスティアと終えた。

「あ”ーー悔しい」
「残念だったな」
「ほんとにな!」

まぁあの手札で二位になっただけいいかと、無意識に張っていた気を緩めてソファにもたれこむ。

「脱力するのは構いませんが、カードの開封忘れないでくださいね」
「はいはーい」
「行使は随時やっていくのか?」
「そうですね。一応ご褒美の方は、ラストの日を使って頑張りましたデーのようにしようと思ってはいますけども。どのくらい増えるかも予想ができないので行使の方はご自由にどうぞ」
「わかった」

リアスとカリナが話しているのを聞きながら、本日のカードを手に取る。開封が残ってるのはご褒美一枚に罰一枚。
ひとまずご褒美が初なので、そっちから先にと二つに折られたカードを開いた。

”ご飯リクエスト”。

わぁすげぇ平和。オムライス作ってもらおう。

ほっと気が緩み、残った罰の方もなんの疑いもなく開けた。

“一日メイド服”

おっと待とうか。

「カリナさん!!」
「はぁい」
「メイドって何!? 俺が着るの!?」
「あらあなたが引いたんですの? リアスが着たらおもしろいのにと思って作ったんですが」
「視覚的暴力だよ!」
「そっくりそのまま返してやるよ」

ごもっともです!!

「そもそもメイド服なんて女子用で俺たちのサイズは──」

と言いかけたとき。カリナがバッグを漁る。待って。カリナさん止まろうか。

しかしそんな心の声は届かず。
ひらっという効果音がつきそうな感じで出てきたのは、なんともまぁかわいらしいメイド服。

「ご安心くださいレグナ、あなたの言うとおり、サイズはありませんでしたわ」

けれど、と。

「魔力で衣装の結晶を作り、まとわせるようにすれば万事解決です」
「ごめんなんも解決してない」

問題そのまま残ってる。
絶望感たっぷりで引き気味に笑う俺に、

「よい世界に生まれたものですね、お兄さま」

妹はそう言って、大好きな顔で笑ったので。

「……ソーデスネ」

妹に甘い俺は、頷くしかできなかった。

そんな疲労困憊の中、追い打ちをかけるようにリアスとの就寝がありましたが。

とりあえず結論だけ言うと、リアスの寝相が良すぎて今日の疲れが吹っ飛ぶくらい安眠できました。

『一日目・トランプ大会』/レグナ


朝起きたらメイドだなんてどこのマンガですか


心理戦 Ⅰ


嬉しく思うわたしは、悪い子でしょうか

楽しくてあっという間なゴールデンウィークが開けて。
学校に行くと、余韻に浸る間もなく本格的に授業が始まった。

クラスのみんなは授業に追いつくのに必死らしくて、始めの週だけでも疲れた顔の子が出てきてたけど。わたしとリアス様が取ってるのは実技授業ばっかりなのでばたばたすることもなく。
リアス様と、ときどき一緒になる双子と授業を楽しみながら過ごしていたら、いつのまにか二週間近くが経ってた。

「…♪」

そんな水曜日の今日は、自由音楽の時間。これはリアス様と取ってる授業。
字のごとく自由に音楽を奏でる授業で、ピアノを弾いても良いし、それに合わせて歌ってもいいし、なんならそのままドラムとかでセッションしてもいい。みんなが思うままに、音を楽しむ時間。
四月の後半からこの授業が始まって今日で四回目。前回まではわたしがいろんな楽器をいじっていたのだけど、今日は。

「りゅー」
「ん?」

棚からアコースティックギターを引っ張り出して、隣にいるリアス様に渡す。

「……なんだ」
「アコギ…」
「俺が聞いているのは楽器名ではなくだな」
「弾いて…?」

わぁリアス様、そんなめんどくせーって顔しないで。

「たまには龍が楽器弾いてるの見たーい…」
「感情がこもっていないせいで全然弾いて欲しそうに思えないんだが」

なんて言いながらも、リアス様は近くにあったいすに浅く座って、楽器を抱える。
なんだかんだ叶えてくれるその姿に、自然と口角が上がった。

「うたも…」
「歌わねぇよ」
「せっかくだから…」
「何がせっかくだ、何が」
「あたっ…」

おでこを小突かれて、リアス様をにらむけれど。恋人様は楽しそうに笑って、その指で近くのいすを指さす。言わなくても座れっていうのがわかったから、隣に引き寄せて座った。

「…!」

その流れで前を見たら。

「ねぇ見てー……」
「え、やば、ちょっとあれはかっこいい」
『少し近くにさー』

授業に参加してる女の子たちが、こっちを見てることに気づいた。
小さく聞こえてくる声は、きっとリアス様のこと。聞こえた声の通り、女の子たちはこっちに寄って来る。

「…」

でも、その足はすぐに止まった。

全員が一定の距離を保って、さりげなく楽器とかに触れてる。
耳がいい子なら会話が聞こえるその距離以上からは、近づこうとはしてこない。

それでも、ちらちらこっちのことは見ていて。

「…今回は、騒がしいモテ期じゃなくて静かなモテ期?」

思わず、隣のリアス様に聞いた。
軽いチューニングをしていたリアス様はこっちを向く。

「何だいきなり」
「今回、周り静か…」
「……ああ」

思いいたったらしくて、またギターの方に、目を戻した。

中学までの、リアス様。
あ、もちろん生まれてから中学まで。

長い長い人生の中で、きっとリアス様の周りが静かだったのは、人生の繰り返しが始まった最初くらいだと思う。

いつからか、この人の周りはヒトが、というか女の子がすごい集まってくるようになった。

理由は言わずもがな、このお顔。
最初の頃は、紅い目が血みたいって思われちゃってたから周りの目は厳しかったけれど。
時代が進んで、容姿にも寛容になって。

元々お顔が良いこの恋人様は女の子にモテモテになりました。

モテモテが始まった頃は、リアス様を悪く言う人がいなくなったねって笑っていたのだけど。
尋常じゃないモテ方にその考えはすぐなくなった。

うん、すごかったよ。
小さな村だったときとか、時代が進んでできた学校とか。ちょっと狭い空間にいようものなら女の子が寄ってきて歩けなくなるのは当たり前。本格的な学校が始まったら、休み時間は女の子たちのアピール大会。
そして神様からのがんばれよっていうお告げなのか、告白はもう毎日と言ってもいいくらいあった。昔は恋文がもう毎日山のように。現代では放課後毎日お呼び出しのお誘いが。

そんなことが毎日のように、そしてこの前卒業した中学のときまであった。うんざりしていたリアス様の顔は記憶に新しい。
きっとエシュトでも、遅くても今くらいには女の子たちがやってきて。またうんざりした顔を見るんだろうなぁと。

思っていたのだけれど。

エシュトに入って二ヶ月弱。女の子たちはほとんど周りに寄ってこなかった。休み時間も、登下校中も。
ただ別に興味がないってわけではないらしくて、今みたいに女の子たちから視線は感じる。

でも、やっぱりそれだけで。昔の子たちみたいに近づいて来てーっていうのはめったにない。

「今回はめずらしく、控えめな子たちにモテたの…?」
「仮にそうだったとしても、この静かさは異常じゃないか」

たしかに。
もっかい周りを見て、不自然な距離を確認して。また、リアス様に目を向けた。

「じゃあ授業、忙しいから…?」
「いや? もっと根本的な理由だろうな」
「…根本…?」
「そう」

軽く音を出して確認しながら、穏やかにリアス様は言った。

「笑守人は”生物の笑顔を守る”ための学園であると同時に、夢に向かう奴らをサポートする役割もある。しかも国家学園。必然的に、熱心な奴らばかりが集まってくるだろう」

そんな奴らが、恋愛にかまけると思うか? と。

うつむいて少し髪に隠れた紅い目が、ほほえむ。

「仮に恋愛をするにしても、まぁ熱心な姿に惹かれてだとか相手の夢を一緒にいることで支えたいだとか、まともな理由ばかりだろうな」
「龍だって、授業熱心…」
「それだけだったなら、今頃昔みたいに女が殺到しただろう。だが今回、俺は四月にあの噂だ」
「幼なじみ、全員…?」

柔らかい金髪を揺らして、うなずいた。

「要は俺は、誰彼かまわず手を出すような人間に見えているというわけだ。夢を追う側、とくに女からしてみたらどう思う?」

どう…?
首を傾げたら、視界に入ったみたいで、少ししてから答えをくれた。

「自分をたぶらかして、夢の邪魔をしてくるかもしれない男」

言われて、自分の眉間にしわが寄ったのがわかった。

「そうなれば、当然関わり合いをしようとは思わないだろ。だからいつものように女が寄ってこない」

わたしとは逆に、それはそれは愉快そうに笑って。チューニングを終えたリアス様はギターを抱え直した。

「…昔みたいに…なんもしてないのに、勘違いされてる…」
「まぁ似てはいるんだろうな」

そう、穏やかに言いながらきれいな指を弦に添えて、弾く。声と同じくらい、ポロンと優しい音がした。

「おかげで静かだろう?」
「静か、だけど…。昔みたいにイヤな目向けられて、ヤじゃないの…?」
「別に?」

曲になっていない音に合わせるように、言葉を紡いでく。

「まぁ遠巻きな視線が気にならないと言えば嘘にはなるが、今回は昔のような被害があるわけでもない。むしろあらぬ噂のおかげで学園生活は穏やか。俺としては願ってもないことだ」

目が合って、紅い目が、いとおしそうにゆがんだ。

「やっとゆっくり、お前との学校の思い出が作れる」

それに──。

音が止んで、手が。わたしのところにやってくる。

弦に触れていたよりも優しく、いとおしそうな手つきで、ほほをなでられた。

少しだけのぞき込むようにしてきたリアス様の顔は、手と同じいとおしそうで、でもちょっとだけ、いたずらっぽい。
楽しそうに角を上げたその口が、ゆっくり開いた。

「家だけじゃない。学校でも。やっとお前も俺を独り占めできるだろう?」

そう、言われてしまったら。
どうしても嬉しくなってしまうわけで。

「…ばかじゃないの…」

照れ隠しに、リアス様の手に顔を隠すように、すり寄った。

『嬉しく思ってしまうわたしは、悪い子でしょうか』/クリスティア


First grade April 収録内容</5>

Part.1
◇どうか男性陣のテンションが上がりませんように。/カリナ
◇むしろここまで強くてどうして恋人を守れないの/レグナ
◇ゴールデンウィークの予定が勝手に決まりました/リアス
◇イラスト1
◇一週間後には多分後悔してる/リアス
◇一日目・トランプ大会/レグナ
◇二日目・スゴロク大会/リアス
◇イラスト2
◇類は最高の友を呼ぶ
◇朝起きたらメイドだなんてどこのマンガですか(C)
◇結局見つからなかったので三日目開始した(C)
◇プレイヤーを逆にすれば良かった気がする(C)
◇心理戦 Ⅰ(C)
◇心理戦 Ⅱ(C)
◇あなたには今何が映ってるの(C)
◇心理戦 Ⅲ(C)
◇罰カードをもらうということで許してもらえました(C)

89ページ(スマホ版 130P)

Part.2
◇第一回罰ゲーム消化/カリナ
◇四日目・チェス大会/レグナ
◇後日送られた写真は、控えめに言って最高でした/クリスティア
◇結局泊まりになり、翌日四人で投稿した/リアス
◇イラスト3
◇嬉しく思うわたしは、悪い子でしょうか/クリスティア
◇親友がイケメンだったら当然の対応のはず/レグナ
◇決して諦めない/カリナ
◇愛しい君が、幸せな生活を送れるように/リアス
◇イラスト4
◇May extra story

104ページ(スマホ版 159P)
今回ページ数が多いため、part.1 part.2 と分割しています。

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