あの日の思い出は、もう遠い昔

 ため息を、つく。

「………」

 今日配られた、プリント。四月二十九日、土曜日に開かれる一年生の交流遠足会。それをぼんやりながめながら、また。

「どした。プリント眺めてため息ついて」

 それに気付いたレグナが、声をかけてきた。レグナをちらっと見たあと、またプリントに視線を戻す。それを追ってわたしが持ってるプリントを見たらしいレグナが「ああ」って納得の声をこぼした。

「リアスか」

 即座に理解してくれた親友にこくんとうなずく。

 エシュト学園は、一年生のはじめは全員で行う行事が多いみたい。こういうものがあるよ、っていうのを覚えるための講習会みたいなのとか、今回みたいに仲良くなりましょうねっていう遠足会とか。

 そこまではいいの。遠足でも講習会でも好きに開催すればいい。でも、問題は我が恋人様。

 講習会みたいな、自分がすぐ駆けつけられるならまだしも、人が多くてなにがあるかわからない場所に、クラスが離れちゃってる状態では連れて行ってくれないのは明らか。ただでさえ、外はなにがあるかわからないからってでかけることなんてほとんどしてないのに。却下されることが想像できて、またため息が出る。

「…おやすみかな」
「俺と一緒でもダメなの?」
「…たぶん。学校の中なら蓮と一緒にいればまだ許してくれるだけ。外はまた別」
「俺の信頼度低すぎるだろ」

 とても申し訳ないくらいには低いです。

「刹那は行きたいの?」

 ぼーっとプリントを見つめてたら、そんな声が落ちてきた。目的地に、目を向ける。

 行く場所は、遊園地。

 もう、どのくらい行ってないんだろう。考えてみたけど、いつ行ったかなんて覚えてない。楽しかった、とかあんなのに乗った、っていうのはすごいはっきり覚えてるのに、いつって聞かれると、「ずっと昔」って曖昧にしか言えないくらいには、遠い昔。あれからどんな乗り物が増えたんだろ。ずっと変わってないものもあるのかな。そこで、みんなで。

「わたし…」

 レグナもカリナもいて、リアス様もいて、みんなで遊園地。いろんなものに乗って、笑って。きっと、とても楽しい。

 でも、行けない。

 「あの日」からわたしに対して過保護になったリアス様が、段々、お出かけを許してくれなくなったから。

 元々人の多い戦場でわたしを失ったっていうのもあるけど、一番は、人混みで一回けがしたあとから。押しつぶされそうなくらいの人混みで、刃物で切りつけられてけがして。それを見てからは、それまでよりももっと人混みを避けるようになったし、必要以上のおでかけもしなくなった。わたしが消滅したら、イヤだからって。

 だからこの遠足に行きたいって言っても、絶対にイエスとは言わないと思う。人混みで、もしかしたら自分が一緒にいれるかわからないから。一緒にいれたら、行けるのかな。約束がきらいなリアス様だから、どのみちだめかな。もやもやとネガティブな思いが支配する。本当は、行きたい。みんなで、楽しく過ごしたい。でも、行けない。

「……行きたかった」

 やっとの思いで絞り出せたのは、過去形の言葉。
 無意識に手に力が入って、くしゃってなった紙を見つめながら、そうつぶやくしかできなかった。

『あの日の思い出は、もう遠い昔』/クリスティア

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