失うと、わかっているから

 その日に失うとわかっているから、どうにかしてそれを回避しようとする。束縛して守れるならいくらでも縛る。でも、それが逆だったなら。
 俺はー。

 レグナから交流遠足の件で色々言われた日の夜。クリスティアが隣で寝息をたて始めたのを確認して、ペンくらいしか入れていない鞄から交流遠足のプリントを取り出した。

 四月の二十九日、土曜日に行くらしい遊園地。

 行くことはないと思って一切目を通していなかったから、日にちも場所も知らなかった。

「……”行きたかった”、か」

 穏やかな顔で眠るクリスティアを見ながら、レグナが伝えてくれたこいつの言葉を思い出し、心が痛くなる。それを言わせたのは、間違いなく俺だ。

 クリスティアは意外と好奇心が旺盛で、色んな場所に行くことが好きだったりする。昔はあそこに行きたいだとかここが楽しかっただとかで色々連れ回された覚えがある。

 それをしなくなったのは、俺のせいだ。

 最期の日に思い出を作ろうと二人で出掛けては、クリスティアが消滅する。事故に遭ったこともあれば、事件に巻き込まれったことだってある。数え切れないほどだ。そんなことを繰り返していけば、外に出たくもなくなる。また事故に遭うかもしれない。誰かに、クリスティアの命を奪われるかもしれない。そんな恐怖感に支配されるように、クリスティアを閉じこめた。自分の手の届く範囲に。罪悪感がないわけじゃない。むしろ束縛がひどくなるほどに、最期の日の後悔も、ひどくなっていった。

 彼女が大切にしている思い出を、もっと増やしてやれば良かったんじゃないか、と。

 どこか出かける度に写真を撮っていたクリスティア。カメラがなければその景色を覚えて、家に帰って絵に起こす。それを丁寧に保管して、最期の日の前日にどこか人目のつかないところへ埋めて。生まれ変わったら、取りに行く。それを繰り返した結果、俺とクリスティアの部屋には古いアルバムが多くなった。こいつが描いたもの、写真を撮ったもの。なにひとつ欠けることなく、手元に残っている。今では、そのアルバムが増えることは少なくなったけれど。

「……我ながら最低だな」

 無意識に手に力が入って、プリントを握りしめた。

 奪って、奪って。色んなものを奪っていった。自由、喜び、楽しみ。元々表情が豊かな奴ではないけれど、いつの日からかクリスティアの笑顔は減っていった気がして。それを痛感する度に、望んだ世界はきっとこんなものじゃないと、自分を責めた。

 俺は、ただ愛する人が、笑っている世界を望んでいるだけなのに。

 自分が出来るのは、すべてを奪うことだけ。それを改めて思い知って、今日説教をしてきた親友がうらやましくなった。あいつは遠ざけようとはするけれど、傍にいるのなら、なんだって与えてやる。物も、思い出も。その日に失うと、わかっているから。

「……たまには見習わなければな」

 呟いて、クリスティアの柔らかい髪を撫でる。

 叶えてやることでこいつが少しでも笑えるのなら、そうした方が俺だって幸せで、笑うことができる。恐怖や不安で奪い続けたものを与えるのは、まだ怖いけれど。

 未来のあの日、お前が「幸せだった」と笑顔になってくれるなら。この恐怖に立ち向かってみたって罰は当たらないんだろう。
 親友の言葉を思い出して、感化されているなとほんの少し笑みがこぼれた。

『失うと、わかっているから』/リアス

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