恋人は、残念なハイスペック

 エシュト学園は、人のために活動する学校。入学したら、自分の夢に向かいながら地域の人たちの為になるようなこともする。その代表的なのが、毎日放課後にある見回り。ほんとはみんな仲良くが一番なのに、異種族間、とくにビーストとヒューマンがちょっとケンカが多くて、言い争ったり殴り合いとかしてることがあるの。それを止めるのが、エシュト学園の生徒の役目。この放課後の見回り制度ができて、少し争いが減ったんだって。ケンカは危ないし平和が一番だから、ほんとは一日中交代で見回りした方がもっと争いが減ると思うけど、みんなの授業とかがあるからそれは難しいみたい。

 そんなこんなで、四月の中頃、わたしにも見回りの順番が回ってきた。なにがあるかわからないから、男女の二人一組。当然レグナと一緒。放課後になって、さぁ行こっかって席を立とうとしたら、それは起こった。

「…………………刹那さん」
「わかってる…」

 立ち上がろうと少し腰を浮かせた瞬間、肩と頭が重くなって、そのまままた座る。その重みの正体は見なくてもわかってて。後ろに引き寄せられるようにまわってきた腕に身を任せて体重を預ければ、ちょっと背もたれが食い込んで痛い。でもこの腕から逃げられないのは知ってるから、どうする気もなくて目の前の幼なじみに目を向けた。あ、ものすごい呆れた顔してる。

「龍、これから見回りなんだけど」
「………」

 授業が終わってテレポートで飛んできたらしい重みの正体・リアス様は、レグナに言われるけど無視して、さらに抱きしめる力を強めた。痛い痛い。背もたれ食い込んで痛い。

「…持ってった方が早い気がしない…?」

 そんな痛みに耐えてるわたしなんてお構いなしに、抱きしめて離さないリアス様をちょっと見て言う。たぶん離してくれないし。だったら引きずって連れてった方が早そう。

「ぜってぇ龍が問題持ってくるだろ。目立つし」
「見回りはなるべく隠密に、が原則ですからね」

 レグナの言葉に、リアス様に置いてかれたらしいカリナがやってきて答えた。その言葉に、見回りが始まったときに言われた言葉を思い出す。
 見回りしてると、争いが起きて危ないんじゃないかって騒いじゃうから、あんまり大々的に見回りっぽくしちゃダメなんだって。それっぽく見えないように、さりげなく。人数が増えれば争い止めに行ったときに逆に目立っちゃうから、できればリアス様はお留守番。なんだけど。

「行く」

 まぁ聞いてくれるはずもなくて。さらにぎゅって抱きしめられる。だから痛いって。

「龍」
「無理だ」

 レグナがちょっと注意する感じで名前を呼んでも、即答。んー、やっぱり連れて行った方が早そう。

「それに俺がついて行くのは問題ない」

 みんなで呆れてたら、リアス様はそう言った。どっからその自信は来るの。

「だからなるべく隠密に行きたいんだって」
「俺が姿を消していれば別にいいんだろう?」
「いやまぁ、確かにそうだけど」
「後ろからこっそり追いかけるんですか」
「そんなストーカーのような真似はしない」
「現段階で割とギリギリだけどなお前」

 恋人でもわたしじゃなかったらアウトだよねっていうのは黙っておいた。

「隠密で行きたいなら姿消しの魔術を使えば俺の姿は消えるだろう。それを使う」

 さも当たり前のように言ったリアス様の言葉に、一瞬シーンとする。一番に口を開いたのは、レグナ。

「…………姿消しの魔術ってさ」
「今では禁術の方に入るのでは?」
「そうだな」

さも当然、っていうようにリアス様はうなずく。

 カリナが言った通り、姿消しの魔術は今では禁術。術自体が難しいとかじゃないけど、悪いことにも使えちゃうから。覗きとか。それが問題になって禁止にされたのは、もうだいぶ前。今では会得できないようになってるし、禁術になる前に持ってた人は神様が使えないように封印した。だから今では使える人はいないはずなんだけど。

「封印されませんでした? その術」
「封印解いた」
「待ってください」
「神の封印解いたってどういうこと」
「多少苦労はしたぞ」
「聞いてるのそこじゃない」

 リアス様はなんでもできちゃうから。わたしが呪いにかけられたりしたら困るからっていっぱい勉強して得意になった解呪はもう神様の封印も解くことができるようになっていまして。いつの間にか禁術の封印を解いてたみたい。すごいなぁって的外れなことを思いつつ時計を見たら、時刻はもうすぐ四時。そろそろ行かなきゃ。暗くなっちゃう。三人で話してるところに、声をかけた。

「…蓮、そろそろ行かなきゃ」
「うぇ!? まじだ、あんまり遅いと怒られるよな」
「暗くなって見回りしづらくなっちゃうし…」
「急いだ方がいいんじゃないか」
「お前がその進行を妨げてんだよ気付け」
「だからついて行くと言っているだろう」
「ぜってぇ目立つじゃん、ぱっと帰ってくるから大人しく待っててくれよ」
「断る」
「どうしよう話が進まない」
「まぁでも私も彼を連れていくことには賛成ですわ」

 呆れ顔のレグナと対照的に笑って言うカリナに、全員で視線を向ける。

「これ連れてくの? 穏便にとか無理だろ」
「逆に置いていった場合を考えてみてください。まず心配でうるさいですし、下手したらテレポートで飛んでいくので逆に目立ちそうですね」
「あー、確かに」
「そしてそのお目付役はどう考えても私なので疲れるし願い下げたいです」
「お前そっちが本心だろう」
「まぁ確かに連れて行けば目立つかもしれませんが」
「その目立つのが嫌なんだって」
「それはすべてこの派手な容姿のせいにすればいいんじゃないですか」
「悪かったな派手な容姿で」

 見た目不良だからなおさら目立ちそうだよね。

「でも連れて行った方が静かですし、仮に万が一になった場合戦力的には安心。案外穏便にすませられるかもしれませんよ」

 口がうまいカリナがにっこり笑ってそう言えば、妹に弱いのも相まって、レグナは少し悩んでからため息をついた。

「絶対目立たない?」
「それは刹那次第だな」

 そこでわたし出すのずるい。勝手に引き合いに出されたことにイラついて下から頭突きしたら、わたしの頭に乗せていたリアス様の顎がガツンって鳴った。あ、めっちゃ痛そう。予想外の攻撃でゆるんだ腕からするりと抜けて、立ち上がる。

「行こっか…」
「龍がものすごく悶えてますが」
「気にしないで、行こ…」

 苦笑いの双子に声をかけ、未だに顎を押さえてるリアス様の手を引いて歩き出す。今日はかわいいビーストに逢えるのかな。ちょっと期待に胸を膨らませて、見回りに向かった。

『恋人は、残念なハイスペック』/クリスティア

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