叶うなら、この穏やかな日々が、永遠に。

 再びビーストとヒューマンの争いが起きたので、話し合っているリアスとクリスティアを置いて現場の商店街に来ちゃいました。あとで色々言われそうですが早期解決が一番なのでいいでしょう。
 争っているヒューマンとビーストの間に入って話を聞けば、新しく引っ越してきたヒューマンがいまいち規制線の場所がわからず、ビーストの縄張りに無断で入っていってしまったらしいのです。これは確かに”規制線を越えた”という点ではヒューマンに非がありますが、引っ越してきたばかりという点を踏まえると一方的に責めてしまうのは平等とは言えませんね。ここでも当然ながら言葉が通じないので、私とレグナが仲介に入り、何故ビーストが怒ったのか、何故ヒューマンが規制線を越えたのかを話すと、ビーストの方も意外と物わかりがよく、”そういうことなら”と許してくださいました。

「では、この件はこれで解決と言うことでよろしいですか?」
「ああ、ありがとう」
『問題ない』

 問いかければ、お二人とも異議なしと言ったようで問題は無事解決。めでたしめでたしですね。笑顔で帰って行くヒューマンをビーストを見送って、ふぅ、と息を吐いたのもつかの間。

「おい」
「はい?」

 後ろからちょっといらついたような声が聞こえました。振り返れば、置いてきたカップルが。

「遅かったねリアス」
「今し方解決しましたよ?」

 レグナと一緒にそう言えば、明らかに不機嫌そうなリアスはため息を吐きます。今日の彼はとても大変そうですね。

「クリスティアにも言ったがせめて一言くらいはくれないか……」
「お話中に声をかけるのも無礼かなと思ったので」
「突然いなくなる方が無礼だし焦るわ」
「あなただっていつも突然テレポートしてクリスティアのところに行くでしょうに」
「声はかけているが?」
「あら、そうでしたっけ?」
「お前な……」

 なんて返しながら、彼がいつもいなくなるときを思い出す。そうですね、たしかにいつも「じゃあな」とかなにかあった気がします。

「まぁリアスたちの手間をかけさせなかったってことで。ね?」

 未だに不機嫌で突っかかってきそうなリアスを、レグナが割って入ってうまくフォロー。そうすれば、この方はなんだかんだレグナの言葉は聞くので。

「……はぁ」

 先ほどは違い呆れ気味に大きくため息を吐いて、もうそれでいいと言ったように口を閉じました。私の言うことは全然聞かないくせにレグナの言葉はしっかり聞き入れるんですよね。とても解せない。

「ビースト、かわいかった…?」

 話が終わったところで、服の裾を引っ張られる感覚。そちらに目を向ければ、クリスティアがほんの少しきらきら輝いた瞳で尋ねてきました。ああもうこの子本当にかわいい。いやされます。

 たたビーストの件については残念ながら今回は彼女の期待には応えられず。

「ゴリラに猫耳をつけたようなちょっと視覚的に良くないビーストでしたわ」
「それだけで想像したくないような奴だな……」

 正直笑いをこらえるの大変でした。

「…それは、かわいくない」
「そうでしょう」

 そしてクリスティアは頑張って想像したのか、とても難しい顔で首を横に振りました。さすがにかわいいと言われたら私もびっくりします。よかったかわいいの感覚がずれていなくて。また次かわいい子に逢えたらいいですねと頭をなでてあげた。

「さて、見回りも残り少しのところまできたなー」
「……ものすごく道のりが長かったと思うのは俺だけか」

 きっとあなただけだと思います。精神的な面で。

「ここら辺で一度辺りの状況を見ておきましょうか」
「だね」

 商店街を抜けて、なるべくヒューマンがいなさそうなところまで移動し、私は魔力を練って魔術モニターを展開しました。いくつかの電子パネルが出て、そこに色の違う点がいくつか表示される。これものすごい便利なんですよ。ビーストやヒューマン、ハーフのエネルギーを感知して、辺りがどういう状況かわかる優れ物。戦闘中では必須とも言えるものなので、魔法使いや天使などの魔力を有している方は全員が持っていると言っていいでしょう。

 ──と思っていたんですけど。

「そのモニターはなんだ?」

 うちの最強天使様がいつも私の予想を覆す。え、ていうか知らないんですか。

「魔術モニターですよ。状況把握のための必需品として誰もが持っているはずですが」
「俺は持ってないが?」

 嘘でしょう?

「お前なんで禁術とかの類はあらかた使えてこういう初歩的なもの持ってないの」
「必要ないかと思って」
「いやめっちゃ使いません? これ」
「常にクリスティアの傍にいるならそういうのは必要ないだろう」
「恋人の監視用じゃないんですよ」

 この男の能力会得の基準はクリスティアなのは知ってますけども。

「周りに敵がいるとかわかった方がいつ襲われるかとかの不安も減るんじゃないの?」

 レグナのそんな言葉に、リアスはハッとしました。

「レグナお前天才か」

 この人ほんとにバカですか。ため息を吐いて、隣にいた彼の恋人へ言う。

「……あなたの恋人は本当にあなたのことしか見てませんね」
「…照れる」

 いや褒めてるつもりはないんですけども。まぁとりあえずリアスは置いといて、モニターで辺りのことを確認しましょうか。

「えーと……」

 魔力モニターはその人の魔力によって見れる範囲が違います。私はたぶんこの町全体くらいなら見れると思いますが、見回りは学校周辺なので今回はそこに絞って展開してみました。規制線を表す赤い線の内側には、たくさんのヒューマンやハーフを表す青と黄色が。そしてその外にはビーストを表す紫色が映っています。

「とりあえずこの辺り周辺でなにか起きている様子はないですね」

 周辺一帯を見てみるも、紫色で表されたビーストが規制線を越えた様子はなく。規制線付近でもヒューマンとビーストが接触している様子がないので、一安心ですかね。

「じゃあもう終わり…?」
「このまま帰るまでに何事もなければ、そうですわね」
「長い旅だったな」
「あなただけですよ。とりあえず学校に向かいながら残りも見て回りましょうか」
「学校に帰らねばならないのか」
「報告あるから。先帰ってもいいけど?」
「お前わかっていて言っているだろう。断る」

 本来二組の私とリアスは行かなくていいのでレグナの言うとおりこのまま帰ってもいいんですけどね。どうせこの男は心配だからと最後までついて行くので、折角ですから私も最後まで付き合いましょう。ゆっくりと、辺りを見回しながらまた四人で歩き始めます。

 穏やかな笑い声、楽しそうに歩く人々。こうして見ると争いは多々あれど、やっぱり平和になりましたよね、と誰に言うでもなく思う。戦争が絶えない時期は外に出ることだって難しかったのに、よくここまで平和になったものです。

「…毎日、こんな感じならいいね」

 ぼんやり眺めながら歩いていたら、同じことを思っていたらしい隣のクリスティアが小さくこぼす。そうですね、と、目を向けず返した。

 こうやって歩いていると、あの頃のものすごく平和だった時を思い出します。
 四人でゆっくり歩いて、時々ちょっとした争いごとを解決することもあれば、トラブルの中心になることもあって。バカだなぁなんて思うこともあるけれど、最後はいつもみんなで笑って。あの日、もし悲しい結末なんてなかったのなら。こんな幸せな日々が続いていたのかしら。その答えは、いつもわからないけれど。

 ただ一つ、あの頃から変わらず思うこと。

 どうかこの先は、ほんの少しでも長く、楽しい幸せな日々が続きますように。

 クリスティアと二人で並んで、後ろの男性陣の話を聞いて。四人でのんびりと、歩いていく。
 そんな、小さな日常が、これからも──。

「毎日こんな、穏やか日々ならいいですねぇ」

 夕焼けの空に目を移して、小さくこぼす。

 初めに同じことを言った水色の親友が視界の端で小さく頷いたのを確認して。

 願いが叶うように祈りながら、歩みを進めた。

『叶うなら、この穏やかな日々が、永遠に。』/カリナ

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