これがお互い様と言うものですか

 リアス様はわたしが寝るまで寝ないし、わたしが起きる前に必ず起きる。自分が先に眠っちゃうのが、不安なんだって。何が起きるのかわからなくて。だから必ず傍にいて、眠るのを見守って、起きるのを待つ。

 いつからか、なんてもう曖昧なくらい昔から続いてるそんな生活。そしてそれは、やっぱり今日も同じ。

「んー…」
「起きたか」
「ん、おはよ…」
「はよ」

 目を開ければ、枕元に腰掛けて本を読んでたリアス様が映る。わたしが起きればこっちを見て、あいさつを交わす。いつも通りの朝。

 四月の末。もうちょっとで、学校に通い始めてから一ヶ月。ちょっとずつ慣れてきて、朝起きる時間も体に染みついてきた。ほんとならこのまま起きて、準備して学校に行く。だけど、今日は土曜日。エシュト学園はお休みの日。そんなゆっくりできる日に早く起きたことにちょっと損した気分になって、はだけた布団をたぐり寄せた。

「おい、寝るな」

 落ちてくるまぶたに従ってもう一回寝ようと思ったら、リアス様の声に止められた。せっかくの休みの日に寝るなとは何事だ。どうせ朝ご飯作れとか言いたいんでしょ。自分で作れ。わたしは眠い。

「…せめても少しだけー…わっ」

 布団に顔を埋めて寝ぼけた声で言えば、思い切り布団をはがされた。いつまでも寝てるときにされる、「起きろ」の合図。恨めしげにリアス様をにらみつけた。

「…変態」
「遅れるぞ」

 …遅れる? わたしのにらみ攻撃なんて気にしないリアス様の言葉に、頭にははてなマークがいっぱい。今日は学校はない日だよね。ああ、リアス様寝ぼけてるんだ。そんな風に思ってるのがわかったみたいで、リアス様は小さな声で言った。

「……行くんだろう、交流遠足」
「え…」
「二度は言わん」

 びっくりしてるわたしにそう言って、リアス様は部屋を出ていった。わたしを置いて部屋を出てくなんて珍しいななんて、全く関係ないことを思う。だって信じられない。
 あのリアス様が、出かけるって言った。人がいっぱいいるところがだいっきらいなリアス様が。今まで、千回お願いしてやっと一回どこかに連れてってくれたらいい方だったのに。どうして、とかなんで、とか、疑問が頭をいっぱいにする。そしてぱっと、思い至った。

「…わかった、夢」

 そう、きっとこれは夢。とっても都合のいい夢を見てるんだ。諦めてたけどやっぱり遊園地行きたいって思ってたのかな。できればこのまま夢を見続けて、みんなで遊園地を楽しみたい。ジェットコースター乗ったり観覧車乗ったりしたい。でも、そしたら現実のリアス様が起きないって心配しちゃう。だから一回目を覚まさなきゃ。今頃起きろって揺さぶってるかもしれない。夢ってどうやって覚めるんだっけ。夢の中でもっかい寝たら目が覚めるのかな。

「…とりあえず、目を閉じよう」

 はがされた布団をかけ直して、もっかい寝ようと目を閉じる。さっきの衝撃発言でちょっと目が覚めちゃった感じがするけど、休みの日ってわかった体は寝転がったらすぐに心地いい眠気がきた。

 よし、今の夢は心に刻んで、現実をしっかり見よう。

 そう決意して、眠気に任せて二度寝を決めた。その間に、夢の中のリアス様がまた起こしにきた気がしたけど、寝たふりをして無視。現実のリアス様のところに帰らなきゃ行けないから、おやすみなさい──。

 そのあとリアス様にキレ気味に起こされたのは、家を出る三十分前でした。

「なんで言ってくれなかったの!」
「言っただろう、交流遠足に行くんだろう、と」

 バタバタリビングを駆け回って準備しながら、優雅にコーヒーを飲んでるリアス様に珍しく声を上げて抗議した。

 また布団をはがされて強制的に起こされれば、日付は変わらない四月の二十九日。確かに交流遠足の日。なんだけど、行けないと思ってたから普通に休みだと思ってた。

「前日に言ってくれてもよかった!」
「俺が言わないの知っているだろう」

 知ってますけども。どうしていつも一言欲しいっていうくせにこういうときはくれないの。大事なときに一言欲しい気持ちも分わかるけどわたしは普段のときに一言欲しいよ。

「なんも準備してないじゃん!」
「荷物ならまとめておいたが」

 廊下をさす指を追えば、いつもよりはちょっと大きいリュックと鞄がある。いつの間に準備してたの。リアス様の方が楽しみにしてるみたいになってるけど。もう怒りを通り越して呆れが出た。

「ほら髪の毛。寝癖」
「誰のせい…」

 急いで朝ご飯を食べて着替えて、時計を見たらあと十分で家を出なくちゃいけない。なのに今日に限って寝癖はひどくて。リアス様に言われるままドレッサーの前に座れば、温めてくれてたアイロンでわたしの髪の毛を整え始めた。

「そこまで怒ることもないだろう」
「怒る…もっとわくわくとかして明日の話とかしたかった」
「それはレグナやカリナとしてくれ」

 いやそもそも行くということを教えてください。髪が少しひっぱられるのを感じながらリアス様をにらむ。当の本人はアイロンに目を落として気にしてない。

 もういいやとあきらめたところで、

「終わったぞ」

 言われて鏡に映る自分を見れば、いつも通りのストレート。

「…ありがと」
「どういたしまして」

 小さくお礼を言って、いすを降りる。もう行かなきゃ、遅れちゃう。最後に全身をチェックして、部屋を出た。リアス様はアイロンを片づけて、わたしの分まで荷物を持って玄関に向かう。そのあとを追って、わたしも玄関に向かった。

 靴を履いてるリアス様を見ながら、ふと思う。約束をしなくなったリアス様。人混みも極力避けるリアス様。なのにどうして、今日は──。

「…どうして、今日は許してくれたの?」

 行きと帰りのバス以外はほかのクラスの人とも行動していいらしい今日の交流遠足。でも人が多いことは変わらない。絶対だめって思ってたのに。尋ねれば、開けたドアに寄りかかりながらわたしを待ってるリアス様は口を開いた。

「……別に俺は、行きたくないからとお前の意見を突っぱねているわけじゃない」

 それだけ言って、そっぽを向く。たぶん他の人が聞いてもわからないと思うけど、わたしや幼なじみの双子たちは長いつきあいだからこの意味が分かる。

 ”失うかもしれない不安や心配で行かないだけで、一緒に出かけたいとは思ってる”。

 きっと今までだったら、思ってるだけだった。でも今日は、それを実行してくれた。リアス様にとっては大きな一歩。がんばったんだろうなって思うと、ちょっとだけ頬がゆるむ。

「…ありがとう」

 だから朝のことはこれで良しとしようと、いろんな意味を含めてお礼を言った。普段の時に一言欲しいけど、それはゆっくりでいいかな。なんて思いながら靴を履いて、外へ出る。鍵を閉めたリアス様といつものように自然に手を繋いで、学校への道を歩きだそうとしたとき。

「クリスティア」

 名前を呼ばれて、リアス様を見た。

「なぁに」
「八時半でバスが出るらしいからテレポート使うぞ」

 その言葉に、顔がひきつった気がする。

「今何時」
「八時二十五分」
「リアス様のバカっ」

 ゆっくりでいいかななんて撤回。やっぱり一言って必要だと思う。

 リアス様に悪態をつきながら魔力を練って、急いで二人で学園にテレポートした。

『これがお互い様と言うものですか』/クリスティア

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