さぁ、その扉を開けて

「…どうして、あっちの二人にしたの?」

 女子二人で楽しくコーヒーカップに乗っていれば、突然目の前に座るクリスティアがそう聞いてきました。

「んー……」

 その言葉になんて答えたらいいのかわからず、言いよどむ。もちろん理由はあるんです。ただ、彼女に言って良いものか否か。

「ちょっと、確認段階です」

 とりあえずそう言って、一週間ほど前のことを思い出しました。

 入学してまもなく、私たち幼なじみがクラス分けにされたペアで付き合っているという誤解が起きました。私は準備で先に授業に行ってしまったのでその場にはいませんでしたが、その誤解をなんとなくレグナが解いてくれたとのこと。その話を聞いて「ああ、これでまた少し平和が戻るんですね」とレグナとほっとしていたのもつかの間。

 次の日学校に行っていつものように四人で廊下を歩いていれば、なにか不思議な言葉が聞こえてくるではないですか。

「ねぇ、リュウレン歩いてるよ」
「あ、リュウレンだ!」

 ……はて、リュウ=レンなんてうちの学校にいたでしょうかと聞こえてくる単語に耳を傾けてみます。

「今日も隣同士で歩いてるね」

 聞いていけば、それは人の名前ではあるようですが一人の人物を指すわけではなさそうです。もう少し詳しく聞こうと、クリスティアの話に相槌を打ちながら女子たちに意識を傾けていけば衝撃発言が。

「あそこって炎上君がほかの幼なじみの子全員と付き合ってるんでしょ?」

 そんなバカな。あれ、レグナがそれとなく誤解を解いたのでは? というかさりげなくリアスとレグナも恋人みたいになってるんですがどういうことなの。リュウレンって龍蓮のことですか。うちのリアスとレグナのことでしたか。そこまで考えて、一つの答えを導き出す。

 ……これっていわゆるBLですよね?

 太古の昔から同姓同士で愛し合い生涯を終えた方々も見たことがありますし、ご相談をされたこともあったのでもちろん存在は知っています。最近ではBLやGLというんですよね。そして現代ではそう言った愛を想像(創造)するフジョシなるものも存在するというのも存じています。転生者たるもの現代のことを勉強するのは当然ですから。さすがに自分の身内がその対象になるとは思いもしませんでしたが。まぁ妄想は自由ですしそこはいいでしょう。

 さて、転生者たるもの現代のことを勉強するのは当然のこと。人生を無難に過ごすためには、どんな話を振られても答えられることが大事。知識はあっても損はない。というわけでその日から龍蓮、つまりBLなるものはどういったものなのかをもう少し深く勉強すべく観察することにしてみました。

 その第一段がこのコーヒーカップ。本来ならば日常の中で見れれば一番いいのですが、まず第一にクラスは離れている。加えてリアスはクリスティアと常に一緒にいるし、四人で歩くときは基本的に男性陣は後ろを歩いているし、彼らが二人きりになるのなんて私が見ることのできない男子更衣室か私たちのお手洗い待ちのとき。
 これではいけないと思っていたところにリアスが遊園地に来ることを許可してくれたのでこれは天からのGOサインだと思い、リアスを買収して男女別でコーヒーカップに乗ることに成功しました。もちろんリアスを買収するためのクリスティアの写真ももう撮影済み。私も欲しいので。

 そしてきちんとクリスティアを見つつ、リアスたちを観察している現在に至ります。

「…珍しいね」

 記憶のトリップを終えた頃、クリスティアはちょっと楽しそうにコーヒーカップのハンドルを回しながら言いました。かわいいなぁと思いつつ話に乗ろうとしたら記憶のトリップが長すぎてなんの話してたのか一瞬忘れました。なんですっけ、ああ、コーヒーカップのペア決め。

「珍しい、とは?」
「カリナはいつも、理由がちゃんとあるから…。確認段階って珍しいな、って」
「そうですかね?」

 ふふっと笑いながらごまかす。この観察に至るまでにちょっとネットサーフィンをして勉強しましたが、この趣味的なものはちょっと誰でも彼でもには言えない。どんな質問が来ても答えられるのが人生を無難に過ごすためのコツ、なんて言いましたが、言えるかとあの日の自分を叱りたい。この子が同種なら話は別ですが。それを確かめる勇気はちょっとない。

「とりあえずは勉強と言いますか、そのための確認ですわ」

 そう、言葉を濁しながらも、リアスとレグナを見る。うーん、二人とも無表情ですね。

「ふぅん…」

 その答えにとくに興味なさげに相槌を打つクリスティア。そしてコーヒーカップを回し続けます。この子すごい丁度良い早さで回すんですよね。おかげでよく見れます幼なじみたちが。ちらちらとクリスティアもきちんと見ながら男性陣を観察していると、レグナが突然笑いました。

「あ、笑った」
「笑った…?」

 しまった思わず声が。レグナが楽しそうに笑うから声出ちゃったじゃないですか。こちらへ目を向けて首を傾げるクリスティアに「いえ、」と笑う。

「リアスたちもなんだかんだ楽しそうだなと」

 実際リアスは全然笑っていないけれど、とりあえずそう言ってごまかせば、クリスティアもリアスたちを見て「ほんとだ」とちょっと嬉しそうな顔をします。なんでしょう、なんか私が彼らを見る視線とクリスティアが彼らを見る視線が違っててなんかこう、なんとも言い表せない。

「楽しそうで、うれしい…」

 この子なんて純粋なの。ちょっと表情には見えないけれどリアスが楽しそうで自分も嬉しくなるこの子がほんとに天使に見えてきます。いや実際天使なんですけど。私も天使ですけども。聖天使ってこういう子のことを言うのかしら。

「…どんな話、してるんだろうね」
「またいつも通りの会話でしょう、レグナがリアスをいじってるんじゃないですか?」

 なんて返しながら、ほんとになんであんなに突然楽しそうに笑ったんでしょうかと考える。いつも通りの会話なんでしょうけど、今までレグナもちょっとつまんなそうだったから余計に気になります。つまらない顔の理由は私がこのペアにしてるからなんですけどね? それを笑顔にするってなにをしたの。ここからだと当然ながら聞こえないし、傍受魔法なんて持っていないし、でも会話は気になるし。さてどうしたものかと悩んでいたら、突然ほんとに神が舞い降りたようにこう思いました。

 聞こえないなら妄想すればいいじゃない、と。

 そうですよねなんて納得した時点で私はすでに腐女子の扉を開けて片足入れてる気がしますがそこは気にせずまずは神の言うとおり妄想してみましょう。
 いきなり無表情だったレグナが楽しそうに笑い、リアスもつられて段々と楽しそうな雰囲気を醸し出しました。ということはリアスがレグナに笑顔になるようなことを言ったということ?? リアスが「たまにはお前と二人でも良いかもしれないな」なんて言ったら?

「いやお前クリスティアのこと心配しすぎるから二人だとこっちも気が気じゃない」

 だめですすごい現実的な言葉しか出てきませんわ。楽しくなるどころか不機嫌MAXになりそうです。

 とりあえず冷静になって設定から考えてみましょうかと、ふぅっと息を吐いた。ちゃんとクリスティアのことは見ながら、脳内で妄想の旅に出る。

 レグナはリアスが好きで? クリスティアもリアスが好き、それでリアスはレグナが好きだけどクリスティアと付き合って……どうしましょう、ただの最低な男にしかならない。あ、じゃあこうしましょう。私もクリスティアが(友情的な意味で)好きなのでそこも入れてみましょうか。ええと、クリスティアとリアスが許嫁、でも本当はリアスとレグナ、私とクリスティアが好き合っていて、というのであればリアスが最低な男にならずに済みますよね。なんか自分とクリスティアを巻き込んだ気がしますがあくまで妄想なのでいいでしょう。
 そこでさっきのリアスの「たまにはお前と二人でも良いかもしれないな」というのを考えてみましょうか。リアスが好きなレグナは「……何言ってんだよ」と、照れた顔に。照れた顔? 楽しそうな顔じゃないですね。あ、でも照れた顔のあとにやっぱり嬉しくて楽しそうな顔になる……これですわ。え、かわいくないですかレグナ。我が兄はかっこよさだけでなくかわいさも兼ね備えていましたか。やばいですね妄想。考え始めたらどんどん溢れてくる。普段恋人らしいことできないけど二人きりなったら甘い雰囲気になって、レグナも外では甘えられない分すごい甘えちゃったりして。かわいい。いいかもしれない龍蓮。片足どころかもう扉開け広げて飛び込みましたわ。後悔はない。

 むしろ何千年も生きててとくに代わり映えもない日常にいいスパイスですよね。もちろん正しくはクリスティアとリアスがくっつくのですが、妄想の中では日常を変えてみてもいいんじゃないでしょうか。というかリアスとレグナを本気でくっつければ運命変わって私たちのこの長い悲しみの人生も終わるのでは?

「…カリナ?」
「はいっ!?」

 なんて考えていれば、クリスティアに袖を引っ張られ名前を呼ばれました。びっくりして素っ頓狂な声が出ちゃいましたわ。

「終わったよ?」

 彼女は小首を傾げてそう教えてくれます。かわいいなぁと思いながら景色を見れば言われたとおり止まっていました。あらまぁ旅に出ている間に終わってたんですね。

「失礼しましたわ。行きましょうか」

 動揺やら興奮やらを悟られないよう、いつも通り笑ってそう言えば彼女は頷いて先を行く。出口では、すでに降りていた龍蓮が待っていました。

「おかえりー」
「ただいま戻りましたわ」
「楽しかった…」
「そうか」

 合流して、珍しく四人横一列になって歩き出します。左からリアス、クリスティア、私、レグナ。しまった男女逆にすればよかった。

「お二人はいかがでしたか?」

 ちょっと悔やみながらも努めて明るく聞けば、

「「虚しかった」」

 同時に返ってくる言葉。息ぴったりじゃないですかもう。ネガティブな言葉さえも同時に言ってしまえば仲良しでお似合いとか思ってしまう。フィルターってすごい。

「…楽しくなかった?」

 しかしクリスティアはその言葉に残念そうで。首を傾げて聞けば、それに弱い二人は少しの間考えて、

「最後の方は割と楽しかったかも?」
「……まぁ、少しはな」

 というありがたいお言葉いただきました。ぐっじょぶクリスティア。それを聞いた私もクリスティアもとても嬉しそうな顔になります。たぶん意味は違いますが。

「さて、次はどこに行きましょうか?」

 心の中でクリスティアに何度もお礼を申し上げつつ、地図を広げて次の目的地を問います。ここから近いのはお化け屋敷ですか。暗闇の中で触れ合ったり間違えて手掴んじゃったりしちゃうアレですか。妄想も楽しいけれどせっかくこうやって来たのだからちょっとくらい見たい。普段イベントとか絶対起こらないし今のうちにネタが欲しい。

「とりあえずぶらぶら歩きながら行こうよ」

 そう思いながらレグナの言葉にそうですね、と返し歩を進めていきます。このまままっすぐ行けばお化け屋敷からは離れてフードコートに行きますね。気持ち左側に向かって歩いていきましょうか。さりげなく、ほんとに少しずつ、方向をお化け屋敷に向けながら歩いていく。そうすれば思い通りにお化け屋敷方面へと方向が変わっていきました。ぐっじょぶ私。
 さて、お化け屋敷ではどんな楽しいことがあるのかしら。期待に胸を膨らませながら目的地へ誘導して行ったことは、誰も知らない。

『さぁ、その扉を開けて』/カリナ

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