彼曰く、常識人は忙しい

2019-05-23

お化け屋敷の中に入って、レグナ、リアス様、わたし、カリナで四人肩を並べて歩く。

「…本格的」

辺りを見回して、つぶやいた。ちょっと薄暗いけどしっかり中は見える。血みたいのとか骨みたいのとかがいっぱい散らかってて雰囲気がすごい。

「作り物とわかっていても怖がりな方には結構怖いかもしれませんね」
「作り物とか言うなよ……」
「実際作り物だろう?」
「アトラクションの中で言うなって言ってんの」
「お前そういうところはほんとに律儀だな」
「お前はほんとに非常識だよな」

その雰囲気をぶち壊しながら横で話す幼なじみの話を聞きつつ、歩を進めてく。そしたら、曲がり角が見えてきた。

「…右?」
「だろうな」
「律儀に張り紙なんてあるんですねぇ」
「迷わないようにだろ」

お客さんが迷わないように張ってくれている右矢印の張り紙の通りに曲がった。──瞬間。

「…ボール」

ころころと足下に、小さなピンク色のボールがやってきた。拾い上げてみると、

《…そのボール…返して…》

突然聞こえてきた、小さい女の子の声。全員で目を向ければ、そこには着物を着た女の……子?

「ねぇ女の子なの…? 女の人なの…?」
「クリスティアさん、あんまりそういうツッコミはしないであげて」

だって声と見た目が合ってないんだもの。すごい小さな子の声なのに、前に立ってる人はどう見たって女の人。

「やるならどっちかにちゃんと合わせて欲しい…」
「クリスって案外そういうとこ見ますよね」
「本格的にやるなら妥協は許さない…」
「クリスさーんそろそろあの子とのイベント進めてあげようか?」
「…このボール、返せばいいの?」

レグナに言われて、女の人に尋ねてみる。そしたら、その人はちょっと戸惑いながらこくりとうなずいた。

「返せばいいみたいですわね」
「投げ返せ」
「リアスさん、たぶんこれ手渡しで返すやつ」
「自分で手放してしまったなら自分で取りに来るべきなんじゃないですか?」
「どうせ手渡しで返しに来たやつを驚かす魂胆だろう」
「やめてあげて。クリス、ちゃんと返しておいで」
「……」

うなずいて一旦ボールを見て、考える。投げ返すのは、だめみたい。でも手渡しで返すのはリアス様が心配する。

じゃあ、と思って、ボールを足下に置く。そのまま右足を振り上げて。

──ボールを蹴飛ばした。

「どうして蹴飛ばしちゃうの!?」
「投げ返すのは失礼だと思って…」
「蹴飛ばす方がもっと失礼だよ!! ちゃんと返しておいでって言ったじゃん!」
「手渡しはリアス様が心配しちゃうから…」
「新しい発想でしたね」
「俺的には楽しかったからよかったが」
「俺たちはよくても向こう的にはよくねぇよ……女の人びっくりして逃げちゃったじゃん」

レグナに言われて見てみれば、女の人が居なくなってる。あれもだめだったのか。

「とりあえず阻む者がいなくなったので先に進みますか」
「もうやだこの面子。俺がびっくりする」
「向こう的にはいいんじゃないか」
「お化けじゃなくてお前らにだよ」

女の人がいなくなって通れるようになったから、四人で歩き出す。少しして、また張り紙があった。

「次は左だって…」
「またこの先に驚かすスポットがあるということですね」
「ワンパターンだな」
「ねぇ俺たちすげぇ質の悪い客なの気づいてる?」

左に曲がって、また歩く。そしたら、檻みたいのが見えてきた。

「あら、牢屋ですわね」
「ろくろ首でも出てくるんじゃないか」
「リアスさん予想は心にしまって」

《…を…て…》

ちょうど檻の目の前にきたら、かすかに聞こえる女の人の声。それと一緒に、牢屋にオレンジ色の明かりがついた。そこには、わたしたちに背中を向けて座ってる着物の女の人。

「…江戸時代の人?」
「疑問はそこなの?」
「でもああいうの着ましたわよね、懐かしいですわ」
「おばけもびっくりの反応だよ」

《私を…ここから出して…》

今度は、はっきり聞こえた女の人の声。

「…出して欲しいんだって」
「悪いことをしたから牢屋にいるんだろう。放っておけ」
「リアスさん、もう少し驚かされる努力をしようか」
「それには努力がいるのか? 向こうの技術の問題だろう」
「もう俺お前とお化け屋敷来たくないわ」
「二度と来ることはないから安心しろ」

もう来ないの? って残念がってたら、カリナが「ねぇ」って言ったからみんなでそっちを向いた。

「驚かされる努力ってことは、まずはちゃんと向こうの話にノってあげればいいんですね?」
「まぁ、そうじゃね?」
「ではクリス、話しかけてみましょう」
「わかった…」

うなずいて、女の人に話しかけてみる。

「どうやって、出せばいいの?」
《そこの鍵を…はずして…》
「でも、悪いことしたからそこにいるなら、勝手に出ちゃだめ」
「この状況でそれ言っちゃう?」
「現実なら正論だけどな」

《いいの…早く…早く私を…》

話にノってあげたら、ちょっとずつこっちを向く女の人。

──じっと、見ていたら。

《私をここから出してぇぇぇぇええええ!!》

ガシャンって音をたてながら、檻にしがみついて大声を出す。振り返ったその顔は、のっぺらぼう。

「・・・・・・・」
《・・・・・・・》

そして、走る沈黙。

「なんかリアクションは」
「のっぺらぼう…」
「ろくろ首じゃなかったか」
「ろくろ首でしたら自分で開けられるでしょう」
「そうじゃないじゃん、驚こうよ」
「それはお前にも言えることだからな?」

ぜんぜん驚くことなく言うわたしたちに、向こうの女の人はちょっと戸惑ってるみたい。顔見えないからわかんないけど。

「ここはこれで終わりでしょうか?」
「それ聞いちゃうんだ」

振り返ってからはとくになにもなくて。カリナがのっぺらぼうさんにそう聞けば、向こうはうなずいた。

「なら進むか」
「ですねぇ」
「なんかほんとに申し訳ないわ」
「ばいばい…」

のっぺらぼうさんに手を振ってから歩き出す。すごい悲しそうな雰囲気だったけど、止まってるわけにも行かないので先に進もう。

「……!」

それからちょっと進んだとき。何かが来る気配を感じた。
瞬間、ぺたって音と、暗くなる視界。停電かなって思ったけど、誰も声を上げてない。違うのかな。どうしようもできなくてその場に止まってると、最初にレグナの呆れた声が聞こえた。

「…リアス」
「なんだ」
「これは一体どういうこと?」
「俺がクリスティアに張った結界にこんにゃくが張り付いている」
「お前はほんとにすべてを台無しにするな」
「さすがに私も予想外でしたわ」

真っ暗な視界の中で三人の会話を聞いてると、どうやらわたしにこんにゃくが張り付いたらしい。冷たさを感じないのは、リアス様が張った結界のせいだと思う。ひとまず危ないものじゃないとわかったのでひっぺがそうと奮闘してみた。なかなか取れなくてわたわたしてたら、突然ちょっとだけ明るくなる視界。目の前には、カリナ。

「大丈夫です?」
「なにも感じてないから大丈夫…」

カリナはほほえみながらわたし(に張られた結界)についた水滴を拭ってくれる。なにも感じないのに水滴を拭われてるのは不思議な感覚だ。「いいですよ」と言ってくれたカリナにお礼を言って、リアス様に向き直る。

「リアス様…」
「……念のためと思って」

咎めるように名前を呼べば、ちょっと気まずそうに返ってくる。気持ちはわからなくもないけども。

「これじゃ楽しめない…」
「あ、楽しんでたんだ?」
「とっても」
「もうちょい表情に出して」

失礼な。とても楽しそうな表情してたじゃん。そう聞けば、レグナには首を振られちゃった。こんなにも表情に出してるのに。

「「「「──!」」」」

なんて話してれば、またなにかが来る気配。しかもすごい勢いで。移動してくるそれは、今度は物とかじゃなくて──。

「人間だな」
「定番のおっかけだろ」

四人で後ろを振り向く。その姿が見えたのは、わたしたちまであと三メートルくらいのところ。お屋敷内が暗くても見える、真っ赤な体に、金棒。

「…鬼…わっ…」

それが鬼だとわかった瞬間、体がふわって浮いた。視界は変わって、リアス様の背中が見える。ああ抱えられたんだと思って上体を起こしたら、ちょっと後ろでレグナとカリナも走ってた。

「おい危害は加えないんじゃなかったのか」
「いやあれも驚かすためだけに追いかけてるだけだから!」
「でもすごい威圧ですよ」
「いかにも人殺しそうな感じがするんだが」
「金棒振り回してるよ…」
「うわぁ殺る気満々」

わたしだけ後ろ向いてるから見える鬼は、結構なスピードで金棒を振り回しながら走ってくる。あれすっぽ抜けたりしないよね。めっちゃ怖い。

──あ。

「スピード、あげてきた」
「まじか」

鬼も驚かせようとしてるみたいで、もっとスピードを上げてきた。心なしか金棒を振り回すスピードも上がってる気がする。あれ絶対飛んできたら痛いよね。間違ってもすっぽ抜けないで欲しい。

「すごい速い…走るのも金棒振るのも…」
「奴はアスリートか何かか」
「ねぇ一回止まって驚かされたフリした方が早いんじゃないの!?」
「いやこのまま出口まで追いかけるのが目的だろう。止まったところでここを出るまではひっついてくるんじゃないか」
「お前お化け屋敷詳しいね!?」

ちょっとずつ縮まる距離を離すように、こっちもスピードを上げて、出口まで走り続ける。

《わるいごはいねぇぇぇぇえかぁぁぁぁぁあああ!!》
「それなまはげの言葉だよ!!」
「走りながらツッコミするのも大変だね…」
「おかげさまでな!!」

レグナのツッコミに頑張れとエールを送りながら、なまはげ鬼との距離を見る。向こうもまたスピード上げてるみたいで、ほんの少しずつ距離は縮まってった。

「…あと一メートルくらい」
「まじか」
「ではここで先ほどのこんにゃくを投げてみましょうか」
「まじか!?」

あと少しで追いつかれそうになったとき、カリナが持ってたらしいこんにゃくをなまはげ鬼に投げる。突然のことにさすがのなまはげ鬼もびっくりして、飛び上がってそのまま転んだ。

「止まりましたわ、今のうちに出ましょう」
「ナイスだカリナ」
「お化け屋敷に来てお化けを驚かす客なんて聞いたことねぇよ!!」

そのうちに、出口を抜ける。いきなり明るいところに出たから、思わず目を細めた。

「怪我はないか」
「大丈夫…」

リアス様に下ろしてもらって、自分は無事なことを伝える。わたしは無事。隣ではレグナがしゃがんですごい息切らしてるけど。

「あの程度で息が切れるのか。だらしないな」
「お前らに、ツッコんでた、からだよっ……」
「あら、そんなにツッコまれるようなことはしてませんよ?」
「終始してましたけど記憶にありません??」

確かにいつもよりレグナはいっぱいツッコんでたなぁと思い返す。おつかれと肩を叩いて、さすがに休ませてあげようと問いかけた。

「レグナ、なんか飲む…?」
「飲む」
「フードコートにでも行きましょうか」
「そうする……めっちゃのど乾いた」
「よく喋るからだろう」
「何回でも言うぞ、そのしゃべらせたのはお前らだ」
「別にツッコまなくたっていいんですよ?」
「ツッコまざるを得ないことばっかりするからだろ……」
「そうでもないだろう」
「お前が一番ツッコまさせてんだよ」

呆れ顔のレグナの手を引っ張って立たせてあげて、また全員で歩きだしてフードコートに向かった。

のどを潤しても結局ツッコミ三昧になったレグナは、もう天性のツッコミ気質なんだと思う。

『彼曰く、常識人は忙しい』/クリスティア

 

おまけ

親友の抱え方がとても残念

 

お化け屋敷よりも目の前がホラーでした

 

お化け屋敷よりも目の前がホラーでした2

 

すべてを愛せるわけじゃないのよ