我らが王子の魅力は90%が顔である

「まるで王子様のようですわね」

 隣に立つ妹がそう言った。

「だなぁ」

 俺はスマホで写真を撮りながら相づちを打つ。そして、一呼吸おいて、二人同時に言葉を発した。

「「顔だけは」」

 昼ご飯を食べつつ少し休憩をしたあと。クリスティアが「メリーゴーランドに乗ってみたい」と言ったので四人でアトラクションまでやってきた。さすがに通算で数千は越えるであろうこの年でメリーゴーランドに乗る勇気はなく。俺は遠くで見てるからと言えばカリナが「では私も」と言ったので現在兄妹揃ってカップルのメリーゴーランドを見学中である。

 だいぶ並んではいたけど、やっと二人の順番が来て、馬やら馬車やらを選び始める。クリスティアは少し大きめの馬が気に入ったらしく、指をさしこれに乗りたいと主張した。リアスは付き添いだしどれでもいいらしく、頷いて了承する。すごくない? 遠くで見てても何考えてるかわかるんだよ。長年の付き合いって怖い。
 そう思いながら見ていると、馬にはリアスが始めに乗った。お前が先に乗るのかよと内心でツッコみつつ事の行き先を見守っていれば、馬の少し後ろ側に乗ったリアスがクリスティアに手を差し伸ばす。

 そう、それはまるで白馬に乗った王子様のように。

 そしてクリスティアは姫のように、差し出された手にそっと自分の手を重ね、リアスに引っ張り上げられながら彼の目の前に座るように馬に乗った。

 お前らは童話の人間か、とツッコみたくなるほどきれいな動作に並んでた人や一緒にアトラクションに乗る人たちは見ほれている。周りからしたらもうリアスは王子様。一部の女子は目にハートが見える。確かにイケメンがさらっとああいうのできるってすげぇかっこいいよなぁ。男から見ても思うわ。だけどそのかっこいい行動はすべてクリスティアの為だけであって、中身がかなり残念であることを俺は知っている。現実って残酷だよね。とまぁ、そんなことがあって冒頭の会話に戻るわけでして。

「でもリアスって典型的な王子顔でもないよな」
「どちらかというと少女マンガで出てくるタイプの不良顔ですよね」
「それは褒めてるの?」
「あら、最上級の褒め言葉じゃないですか」

 ディスってるようにしか聞こえないのは俺だけかな?

「少女マンガではさわやか男子よりツンデレで意地悪な男子に落ちる確率が高いイメージがあるのですが」
「俺少女マンガは読まないからわかんねぇわ」
「熱血主人公よりクールなライバルの方が人気が高いみたいなものですわ」
「ああ、それならわかる」

 こいつほんとに現代のこと勉強してるなぁと関心しつつ、スマホでは動画やら写真やらを撮り続ける。あとでリアスに送るためのもの。ズームをしながら撮ってるけど、スマホの画質がいいのか表情もよく見える。結構楽しそうで何よりだ。その光景にこちらも微笑む。カリナにもあとで送ってやろう。

「その理論で言ったらお前もやっぱりリアスみたいな顔が好みなの?」
「不良顔ですか?」

 顔はずっとスマホに向けたままで、さっきの会話に戻る。もうカリナにはリアスの顔は不良顔と認定されているようだけどそこは気にせず頷いておいた。

「そうそう。女子はツンデレで意地悪な不良顔が好きなんだろ?」
「まぁ、ツンデレ男子はかわいいとは思いますが」

 かわいいんだ? そこの疑問は恐らく説明されても理解はできなさそうなので置いておいて、ふと思ったことがあったのでカリナに顔を向けて違う疑問を投げかけてみる。

「結構リアスって女子に人気だけどお前も好きになったことってあるの?」
「あの男を? 私が??」

 まるで「信じられない」といったような顔と声で言われた答えに俺も信じられない。好きになったことないのって言う方ではなくほんとにこの世の終わりのような顔の方に。

「女子はああいうのが好きなのかなぁって?」
「あの男の魅力は顔だけでしょう」

 言外に顔以外は全否定しているように聞こえるんだけど気のせいじゃないよな。

「他にはないの?」
「では逆に聞きましょう。彼の魅力は?」

 聞かれて「そりゃあ……」とリアスたちの方に視線を戻して考える。
 魅力。あいつの魅力。引くほどの過保護……は魅力じゃねぇか。すげえ強い。でも全部彼女のためなんだよな。心は一番最弱だしクリスティアに何かあると手がつけらんないしクリスティア以外に興味ないし……

「……顔」

 考えて考えて、精一杯の答えがそれしかなかった。

「でしょう」
「うん……」

 ごめんリアス、お前の魅力がわからない。こんな親友を許して。せめてものフォローをと、聞いてみる。

「じゃあ中身は置いておいて、顔だけで言ったら?」
「顔だけで言ったら好みではありませんが良い顔だとは思いますよ」

 好みじゃないけど良い顔ってどういうこと。

「まぁ中身はアレでも顔が良い彼は得ですよね」
「なんで?」
「顔がいいからいろんなことが得できるでしょう」
「得なんてしてたっけ」

 記憶を探ってみるもそんなに得をしている様子は出てこない。

「とりあえずモテますね」
「あーそれはな」
「モテるので貰いものがすごいんですよ」
「バレンタインとかクリスマスとか誕生日?」
「そうです」
「確かにもらってたかもな、すげぇ量」
「そしてそれがすべてクリスティアのものになります」
「得してるのはクリスティアじゃねぇか」
「リアスも得でしょう、自分がモテることでクリスティアに貢げるんですから。笑顔になりますよクリスティア」
「リアスにあげてる人たちがかわいそうにならないのか……」
「あの男にそんな良心があると思います?」

 あると自信を持って言えない。それでも頑張って一個くらいは顔以外にいいところを見つけようと頭を回転させれば、一つ、思い至った。

「なぁ」
「はい」
「彼女に一途とかは魅力じゃない?」

 何千年も、変わることの愛情。若干歪んでいってる気はしなくもないが、この何千年間一人だけを愛し続けるってすごいんじゃないだろうか。もちろんクリスティアにも言えるけど。

「自分のことそんな長い間変わらず愛してくれるって嬉しくね?」
「浮気の一つでもした方が運命変わる気がしますけどね」
「お前絶対それリアスに言うなよ」

 笑って言ってるけど冗談に聞こえない。

「でも魅力、ではあるんでしょうね。彼女だけを愛して、そして彼女を守るために強くなる。そこは良いところではあると思いますよ」

 なんか久しぶりにリアスへの褒め言葉を聞いた気がするのは俺だけだろうか。

「まぁだからこそあんな残念な男ができあがったわけですが」
「華凜さん上げて落とすのやめて」

 本人が聞いたら絶対心が折れる。

「お前龍のこと嫌いだっけ?」

 あまりの辛辣さにカリナを振り返って思わず聞けば、

「あら、そんなことありませんよ?」

 笑顔でそう返ってくる。ごめん信じられない。

「彼にはなんだかんだなんでも言えますから。大切な幼なじみですよ」

 さっきのは信じられないけど、これには同意できた。俺もリアスには比較的何でも言えるかも。悩みでも、普通の会話でも。もちろん、クリスティアにも結構なんでも言える仲だけど、リアスはまた別なんだよなぁ。遠慮なく、素のままで言えるかも。

「これも一つの魅力?」
「ですかねぇ」

 なんて話していれば、時間が来たらしくブザーが鳴ってアトラクションが止まり、クリスティアとリアスが馬から降りる。そのときもリアスが先に降りて、クリスティアの手を取りながら降ろしてやっていた。ほんとに見てると王子様だよなぁ。

「あれで中身が心配性で残念でなければ文句ないのですが」
「天は二物を与えないんだろ」
「むしろ宝の持ち腐れでは?」
「そっちかぁ」

 クリスティアたちが歩いてくるまでにそんな会話を繰り広げていると、リアスがすげぇ不機嫌そうな顔をした。え、なに突然。

「どうしたリアス」
「何故だかものすごく不快なこと言われた気がした」

 お前はエスパーか。すかさずカリナが言葉を発する。

「あなたの魅力について語ってたんですよ」
「どうせ顔だけがいいとか言っていたんだろう。中身が残念だとか」
「お前俺たちの会話聞いてたの??」
「鎌をかけたつもりだったんだが本当に言っていたのか貴様ら」
「そもそもなんでその話してたって予想に至ったかがわからなすぎて怖い」
「帰ってくるときに見たお前らの口の動きでなんとなく」

 こいつは読唇術まで覚えてるのか。若干恐怖で身震いする。二の腕をさすりながら、とりあえず移動しようかと歩き始めた。

「ねぇクリス」
「ん」

 のんびり歩を進めてれば、前を行くカリナが同じく前を行くクリスティアに聞く。

「なぁに?」
「リアスの魅力ってなんです?」

 それ聞いちゃうの? 変なこと言わないだろうなと冷や冷やしながら、悩んでるクリスティアを見る。恋人でもぱっと出てこないのか。よく悩んだ方が愛があるって言うけどほんとなのかな。あまりにも残念すぎて出てこないじゃないよな。そうして一分くらいみんなで眺めてたら、クリスティアがはっとした顔になって口を開いた。

「…代表的なのは、顔」

 姫すら中身ではなく顔だった。

「だそうです」
「知っている」
「ショックとかはないの?」
「何故だ?」

 いや何故だって、ねぇ?

「もっと中身とかに魅力感じてほしいとかさ、あるじゃん?」
「人間結局のところは顔だろう」
「あ、うん、そだね」

 まさにそれを体現している友人に俺はそれ以上の言葉を返せなかった。

『我らが王子の魅力は90%が顔である』/レグナ