知らぬが仏とはまさにこのこと

 入学式を終え、クラスも隣同士ということで俺達は合流して四人で教室へ向かっていた。前を歩くクリスティアとカリナの後ろをレグナと並んで歩いていたら。

「俺、問題児と離れると平和になると思ってたんだけど」

 唐突にレグナが言った。はて、問題児とは誰のことだ。

「問題児?」

 レグナを見てそう尋ねれば、そいつは「え?」という顔をする。その顔を見て俺も「ん?」という顔をした。

「今俺の目の前で俺と話してるお前だよ」

 そうか俺か。

 は? 俺?

「失礼な奴だな。どこがどう問題児だ」
「毎度拾ってもらったくせに彼女の家の近くに引っ越させ傍にいなきゃ不安で鬼電鬼ラインして最終的には同棲してるやつはお世辞にも普通とは言い難い」
「お前カリナと似たようなことを言うんだな」
「カリナにも言われてんのかよ」

 ついさっき言われてきた。

「というか俺を問題児と言うのならお前の妹の方がよっぽど問題児だろう」
「は? カリナ? 確かにイタズラ好きではあるけどお前よりはよっぽど普通だろ」

 そう言われ、今度は俺が「え?」という顔をする。そしてレグナが「ん?」という顔をした。

 いやいやいや。

 割と不仲な事が多い互いの引き取り手をあの手この手で親友にまで発展させて、兄の情報をいつも自分に行くようにしているカリナの方がよっぽどだろう。

 少し考えた素振りをしても尚わからないといったような顔のレグナを見て、ふと疑問が湧き上がる。

「……お前まさかとは思うが知らないのか?」
「何を?」

 きょとんとしたレグナに、開いた口が塞がらなかった。まじかこいつ。知らないのか。

 毎回だぞ? 毎回突き放して自分の情報は言わないようにしても当たり前のように同じ学校になるんだぞ? おかしいと思わないのか。俺なら気付くぞ。つーか普通は何回もそんなのが続けば疑問を持つくらいはあるだろう。大丈夫かこいつ。妹だからって警戒心緩すぎるんじゃないのか。

 不思議そうな顔をしているレグナに呆然としながら考えていると、ふと視線を感じた。前を見れば、妖艶に微笑んだカリナと目が合う。その目はこう物語っていた。

 黙っておけよ、と。

 心なしかものすごい気迫も感じられる。そして気付く。これは少しでもばらしたら社会的に俺が死ぬな、と。

「リアス?」
「……いや、なんでもない」

 それを感じ取った俺は、どうしたと言いたげなレグナにそれだけ言って、口を噤む。今何か話すと余計なことを口走りそうだ。

「?」

 突然黙り込んだ俺にレグナは訝しげな顔をしているが、気づかないフリをしてスマホをチェックする。何も連絡なんて来てはいないが、適当にラインを開いて文字を打つ仕草をすれば、レグナは気遣い屋だから邪魔しないようにとカリナやクリスティアの元へ歩を進めた。

 いやなんでそういう風に周りを見て気遣いができるのに妹のことには無頓着なんだよ。

 小さな変化とか、周りがどうしてるとかびっくりするくらい気付くくせに、一番近くにいて一番よく見ている妹のことは何故気付かない。そんなにあの妹はわからないようにしているか? 外部から見てると思いっきりわかるぞ? これが兄妹いつもそ傍にいたいんですと言うならわかる。お前一応妹の幸せのために自分から遠ざけたいんだろう。頑張って逃げて遠ざけようとしていただろう。なのに傍にいるんだぞ? さすがに疑問くらいは持ってもいいだろう。何千年これやられてると思ってるんだ。

 やきもきしながら、クリスティアを挟むようにして歩く双子を見る。レグナとカリナは楽しそうに笑っていて。そこで、ふと日本にはこういうときの諺があるなと思い至った。
 レグナが知らないことで本人が望む「平和」が成り立っているのなら、これはこれでいいのか。ちょっとあまりにも気付かなすぎて心配になるが、俺の社会的な生命のためにも言う気はない。それでカリナもレグナも幸せに笑っていられるのならもういいとしよう。何も言うまい。

 自分にそう言い聞かせて、少し歩みを早めた。

『知らぬが仏とはまさにこのこと』/リアス

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