親友のネーミングセンスには未だに慣れない

2019-09-25

吹き荒れる風の音で、目が覚めた。

「まだ2時半じゃんか…」

スマホの時計を見れば、午前2時半を少しすぎたところ。同じベッドで眠る妹や、その隣のベッドで寝ているカップルたちを見てみるも夢の中。ちょっと損した気分の、旅行2日目の夜中。

「あー喉乾いた…」

とりあえず水分補給だけしようと妹を起こさないように気をつけながらベッドから出て、備え付けの冷蔵庫まで足音を消して歩いていった。中から俺の炭酸を出して、二口ほど飲む。冷たくてさっぱりする。

ペットボトルを冷蔵庫にしまって、また足音を立てずにベッドへと向かった。その途中にカーテンの隙間から見えた外は、風が吹き荒れて雨もひどい。これは明日は部屋かな。部屋ならのんびりできるしゆっくり寝れるだろ。

「さてと…」

そっとベッドに入って、窓側に背を向けて横になる。目を閉じて、また寝入ろうとした。

けれど。

一度目が覚めると人間って中々寝れないよね。しかも結構な轟音の中じゃなおさら。うるせぇな風の音。
たださすがに隣に寝てるやつがいるとなるとスマホで時間潰しをするのも抵抗がある。起こしたら申し訳ないし。耳塞げば少しは楽かなぁ。防音の結界とかなかったっけ。

なんて思考を巡らせればさらに頭もさえてくるわけで。気を紛らわせるように窓の方へ寝返りを打った。

「うぉびびった」

瞬間目に入ったのは、隣のベッドで起き上がっている、さっきまで夢の中だったはずの水色の少女。
振り向いたらいきなり座ってるとかどんなホラーだよ。

っていうかもしかして怖い夢見た? 今現状クリスが怖い現象引き起こしてるけどそれはまぁ置いといて。夜中目覚めるってことはなんかあったのかな。リアス起こした方がいっか? ひとまずはクリスにどうしたか聞こうかと、目元をこすりながらんーだとかむぅだとか唸っている彼女に近づくため腰を浮かせたときだった。

「どうした」

聞こえた、リアスの声。よく起きたなお前。毎度思うけどなんでクリスが起きるとお前も自動で起きるの。まぁリアスが起きたなら俺はいっか。浮かせた腰をまたベッドに沈めて、あとはリアスにお任せと言わんばかりに窓側に背を向けて目を閉じて。眠りのお供として2人の会話に耳を傾けた。

「怖い夢でも見たか?」
「んーん…」
「ならどうした。慣れないところで寝付きが悪かったか」
「んー…」

布が擦れる音が聞こえたからリアスがきっとクリスのこと抱きしめてんだろうな。こういうときのリアスの声ってすげぇ優しい。聞いてると俺まで眠くなりそう。

「ねぇー…」
「ん?」

「…たろーはどこー…?」

たろーってどちら様???

「たろーは家で留守番にさせただろう」
「んー…」

待っていろいろ待って。たろーが誰かもわかんないしリアスもなんで順応してんの。たろーってほんと誰。さっきうとうとし始めたのにばっちり目覚めちゃったよ俺。

「じろーは…?」

じろーまでいんの??

「じろーも図体がでかいからと家で留守番中だ」
「さぶろーとしろー…」

どんだけいるんだよ。

「片方しか連れていけないと言ったらお前が2人じゃないと嫌だと言うから置いてきただろう」

双子かな? これ何人いるんだろ。次はごろー? あれかな、チェスみたいにはちろーまでいるかな。

「ろくろーはー…?」

ごろー飛ばしちゃったよ。

「ろくろーは迷子になるからと置いてきた」

待ってねぇごろーは?? ごろーはどこにいったの?? しかもろくろー迷子になるって何だよ、自分で動く感じの子たちなの?? でもあの家にいるやつらだった場合俺一度も逢ったことないんだけど。

「さみしー…」
「俺では不満か」
「違うじゃん…抱き心地が全然違うじゃん…」
「悪かったな硬くて。ほらさっさと寝ろ。俺も寝れん」
「しちろーとはちろーもいない…」
「俺で我慢しろ」
「連れてくれば良かった…」
「連れて来たら絶対帰るときに置いてきただの迷子になっただの言うから置いてきたんだろうが」
「うー…」

なんか絶対これ良い展開というかかわいらしい展開なはずなのにもうさっきのごろーとかたろーでぜんっぜん中身入ってこない。つーか何人いるんだよほんとに。

「帰ったらいくらでも逢えるだろう。寝ろ」
「んー…」

さりげなくトン、トンって音が聞こえて、クリスの声もまどろんできた。俺もまどろみたい。

「あした、おへや…?」
「だろうな」
「たのしみー…」
「そうか」

そうリアスが返して数秒後、規則正しい寝息が聞こえてきた。クリス寝入るの早いよな。俺も寝たい。でもその前に。

「リアスさん、たろーってどちら様??」
「なんだ起きていたのか」

寝ている女子組は起こさないように、起きあがって小さな声で尋ねた。うん、ほんとはあのまま寝る予定だったんだよリアスのその優しい声で。クリスの発言で思いっきり目覚めたんです。

「たろーとかしろーとかいっぱいいたんだけど。いかにも一緒に住んでます感漂わせてたけど俺逢ったことないよ?」
「そりゃぬいぐるみの名前だからな」

だからネーミングセンスなさすぎだろ。

「リアスってほんとにクリスの為ならプライド捨てるよね…」
「一応男としてのプライドはあるからな?」
「男としてのプライドがあったらぬいぐるみを友達認定しないと思うんだけど」
「純粋な恋人に合わせるのは別にプライドも何もないだろう」

俺だったら恥ずかしすぎて無理なんだけど。あ、そうだ。

「ねぇごろーはどこいったの??」
「は?」
「クリス、ごろーだけ名前出なかったじゃん」
「それならお前だって逢っているだろう」

いや友人にそんなお名前の方いなかった気がするんですけど。

「逢ってなくね?」
「演習の時」

演習…? 演習…。ごろー…。あ。

「え、あの冴楼!?」
「その冴楼だ」
「あの子もその大家族の中に入ってんの?」
「そうだな、唯一ぬいぐるみじゃない。寝るときの共にはならないそうだ」

確かに翼とか刺さって痛そうだわ。

「クリスが付ける名前はどうやって決まってんだよ…」
「ぬいぐるみは手に入れた順だな。というか、俺が作ってやったものに名前が付いている」
「リアスの限定?」
「そうだな。個人で作ったものなら名前がなくてかわいそうと思ったらしい」

なんだろう、気持ちはうれしいんだけどセンスが残念すぎる。

「リアスはいいの? あのネーミングセンスで」
「いいんじゃないか、クリスティアが良いなら。付けた瞬間にミスマッチすぎて吹きそうになるがだいぶ慣れる」
「あ、そ…」

恋人に関しては許容範囲の広いリアスに苦笑いをこぼして、布団に寝転がった。あ、疑問がすっきりしたからちょっと寝れそう。

「もう眠れそうか」
「おかげさまで」
「そうか」
「リアスは寝ないの?」
「クリスティアも寝たし寝る」
「そ、おやすみー」
「おやすみ」

そう言葉を交わして、窓際に背を向けて、目を閉じる。今度はすぐまどろんできた。

明日の部屋遊びはどんなになるかなぁ。カリナがまたいろいろ持ってきてたし楽しそうだよな。

そう、明日に期待して。

意識を手放した。

『親友のネーミングセンスには未だに慣れない』/レグナ

志貴零