夏。水着の魔法は恐ろしい

「青い空ー…」
「白い雲だな」
「晴れてよかったね」
「昨日の大荒れが嘘のようですねぇ」

 旅行も後半に入った。昨日はあの後言っていたとおりトランプタワーで遊び、夕方からはトランプだオセロだとやり続け寝たのは日付が変わる頃。窓側だったこともあり、朝は日の光で目が覚めて。クリスティアや双子を起こさないように起きあがって外を見てみれば、昨日の天気が嘘のように快晴で、おそらく絶好の遊び日和となった。

「よかったですねクリスティア」
「うん…」

 昼を食べて全員水着に着替えて、目の前の海へと出る。日が当たって輝いて見える海。景色が好きなクリスティアは、それが見れて嬉しそうだ。相変わらず表情には出ていないが。

「さて、海に出てきたはいいけど何する?」
「海と言えば…?」
「中々海で遊ぶ機会がないので難しいですわね」
「泳ぐのか?」
「ずっと泳ぐだけだとつまんなくない?」

 と言われてもそれしか思い浮かばないんだがな。規制線もあるから遠くにも行けず、遊べる範囲も狭い。さてどうするかと悩んでいたら、カリナがあっと声を上げた。

「ありましたわ、海と言えば!」
「なぁに…?」
「えっと、なんでしたっけ、あの、蹴鞠みたいなスポーツ」

 蹴鞠みたいなスポーツなんて海であったか。

「もう少しヒントをくれないか」
「ボール使って遊ぶやつですよ」
「ああ、もしかしてビーチバレー?」
「それですわ!」

 ボール使うことしか合ってないじゃないか。

「お前知識古すぎないか…?」
「しかも使うの手…足使わない…」
「海で遊ぶ機会なんてないんですから仕方ないでしょう。ほら、ビーチボールもありますからやりましょう」
「何故ボールの名はすんなり出てくるのに競技名が出てこないんだ」
「お黙りなさい」

 砂浜に敷いたシートの上に置いてあるバッグの中から、カリナが膨らます前のビーチボールを手に取り俺に渡す。

 何故そこで自然に俺に渡す。

「当たり前のように俺に渡してんじゃねぇよ」
「こういうのは一番肺活量がある人がやるものでしょう」
「色々持ってきているんなら空気入れぐらい持ってこい」
「リアス、現代の便利なものに頼っちゃだめだよ」
「それを言うならスマホを今すぐ海へ捨ててこい」

 言いながら、ビーチボールを膨らませていく。だいぶ空気が入りにくくなったところで口を離し、素早く口を止めた。それをカリナに投げて渡してやる。

「ほら」
「まぁありがとうございます。ではどういう風にやっていきましょうか」
「チーム戦…?」
「それだとリアスがいると勝っちゃうよね」
「一応俺でも負けることくらいあるからな?」

 人を何でもできるチート扱いしやがって。

「でも大半はあなたが勝つでしょうよ。それだとつまらないのでボールを回しながらゲームしていきましょうか」
「お前本当にゲーム大好きだな」
「楽しめることが好きなだけですー」

 大体がゲームだと思うのは俺だけだろうか。

「ゲームなら、落としたら、負けとか…?」
「そうですねぇ。でもただただ無言もつまらないですし、頭も使いながらとかどうです?」
「会話しながらとか?」
「それもありですね。あとはしりとりとか連想ゲームとか」
「しりとりだと後半が厳しいんじゃないか?」
「じゃあ、連想ゲーム…?」
「とりあえずそれでやってみましょうか。では海に入りましょう」
「ビーチバレーって砂浜でやるものじゃないのか」
「せっかく海に来たのに、まだ4人一緒に海で遊んでないじゃないですか。ついでに海にも入りましょうよ」

 海がついでになっているがいいのかそれは。ただ確かに4人で遊んではいないのでまぁいいかと海へ入っていく。

「ではクリスは波打ち際で。転んだりしないように気を付けてくださいね」
「わかった…」
「連想ゲームってどんなだったっけ」
「さっきの海と言えば、と言われたら青、みたいに連想できるものを答えていくんだったか?」
「そうですね。私がボールを持っているので私から始めましょうか。余裕があればお題を出す前に次の人のご指名を。いいですか?」

 カリナの言葉に頷けば、では、とカリナが構えた。

「どうしましょうかね、やっぱり海なので初めは、”海”で。クリスー、行きますよー」
「はーい…」

 クリスティアが頷いたのを確認して、カリナが緩くトスを上げる。パシャパシャと水しぶきをあげながらクリスティアがボールを追って。

「次、リアス様…。海は…”青”…」

 トスを上げて緩い放物線を描きながらこっちにボールがやってくる。青。青と言えば。

「レグナ。青は”クリスティアの目”」
「答え辛っ!!」

 レシーブをしてレグナに返してやる。文句を言いながらもえーと悩んで。

「クリスの目…目…? えーっと”きれい”! カリナ!」
「きれいとか照れる…」
「よかったな」
「リアスさんもっと答えやすいのにしてよ!」
「思い浮かぶのがそれだったんだ。仕方ないだろう」
「きれい、ですよね。んー、ではリアス、”宝石”で」

 レシーブされて上がってきたボールをトスの構えで待って、考えた。宝石。よくニュースで見るのはあれか。

「クリスティア、”強盗”」
「ストップリアス」

 トスを上げる前にレグナに止められてしまった。思わぬ声にボールをキャッチする。

「なんだ」
「なんで? 宝石でなんで”強盗”出てきちゃうの?」
「よくあるだろう、宝石強盗が出たとかなんとか」
「あなた知識あるんですから宝石の名前とか、アクセサリーとか色々出てくるでしょうよ」
「強盗しか思い浮かばなかったな」
「親友の心が心配」

 よく目にするんだから仕方ないだろう。

「で? これ回答間違いとかで止まった場合はどうするんだ」
「特に考えていませんでしたわ」

 しまった言わなきゃよかった。

「なんか、罰ゲーム…?」
「でもここから何回も止まることあると思いますし、正直止まった回数を覚えるのも大変ですし…」
「砂浜に正の字でも書く?」
「今回は純粋に楽しむでいいんじゃないですか?」
「珍しいな、いいのか」
「あら、あなたが罰ゲームをしたいドMなら喜んでレグナの案を採用しますが」
「次行くぞ」

 罰ゲームはごめんだ。

「止まったらお題代える?」
「持ち直しができそうならそのまま続けていきましょうか。クリス、続けられそうです?」
「大丈夫…」
「ではクリスから行きましょうか」
「はーい…」

 次の番だったクリスティアにビーチボールを渡す。ほんの少しだけ悩んで、トスを上げた。

「レグナ、強盗は、”犯罪”…」
「犯罪、犯罪はー、”罰する”? カリナさーん」
「はいな。罰するですよね。んー、ではリアス」

 レシーブで上がってきたボールを、俺に向けて。

「”極刑”で」

 いやぶっ飛びすぎだろう。

「カリナストップだ」
「はい?」

 トスが上がってきたが返さずに受け取る。不思議そうな顔をしている女にとりあえず。

「なんだ極刑って」
「あら、ご存じないです?」
「そっちではなくてだな」
「いきなりぶっ飛びすぎじゃない?」
「でも悪いことをしたら罰するんでしょう? 罰すると言えば刑罰、なので極刑にと」

 強盗は犯罪で罰せられる、そこまではいい。そこで極刑になるってどんな連想ゲームだ。確かにすべてが極刑なら犯罪も減るとは思うが。

「なんかこう、懲役、とか色々なかった…?」
「連想しづらくなるかなぁと思いまして」
「極刑でも連想しづらいわ。死しか思い浮かばん」
「さすがにお題代えよう、もっと平和なものにしよう」

 そうだな、と頷いて。俺の番なので考える。平和かどうかはわからないがとりあえず目に入ったものでいいかとトスを上げた。

「レグナ、”ビーチボール”」
「めっちゃ平和。んー”丸い”! クリスー」
「丸…”お月さま”…? カリナ…」
「月ですか…”夏目漱石?” ですかね。レグナ」

 トスやレシーブでボールを周していきながら全員が順調に答えていく。

「漱石…漱石…? あー、昔のだけど”千円札”! リアスー」
「千円札…なら”金”。クリスティア」

 緩めにトスを上げて、返ってきた答えは。

「お金…”殺生”…?」

 今こいつの頭の中で何が起きた。

「クリスティア、一度止まろうか」
「なんで殺生起きちゃった?」
「よくあるじゃん…宝くじ当たるのが周りにばれると殺されたりとか…」
「いやありますけども」

 何故こいつらは悪い方向にしか行かないんだ。俺もだろうけども。

「死ネタは一旦頑張って離れよう。クリス、なんか違うのない?」
「お金で連想できるもの…?」

 んーと悩んで。

「”買えないもの”…」
「お金で買えないものですか。ではそれで行きましょう。お相手は?」
「カリナで…はい…」

 大きく放物線を描いて、再び始まったビーチバレー。カリナは少し首を傾げてから。

「買えないものと言えばやっぱりこれですよね、”愛”で! リアス」
「愛って難しくないか…?」

 レシーブで飛んできたボールが手元に来るまでに悩む。愛。愛から連想できるもの。クリスティアへの愛で連想できるのは、なんだ、自分の甘さとかか?

「愛…”甘い”? レグナ」
「甘いかぁ。甘いと言えばー、クリスー、”お菓子”!」
「お菓子…じゃあリアス様…」
「ああ」

「食べたいです…」

 連想ではなく願望が返ってきてしまった。しかし誰もストップをかけない。

「いいのか!? 食べたいでいいのか!?」
「いいんじゃないですか? 彼女が連想したのは甘いものを食べたい、でしょう。ありです」
「クリスだし」
「お前らも大概こいつに甘いな…」

 トスが上がってきて、高さ的にレシーブで返そうと構える。食べたい。食べたいもの。

「…唐揚げが食いたい。レグナ」
「唐揚げ? えー俺焼きそば食べたい」
「お待ちなさいな、連想じゃなくて願望ゲームになってますわ」
「だって食べたいって言われたから」
「甘いもの食べたい…」
「食べたいものと聞かれたら唐揚げが食いたい」
「俺唐揚げより焼きそばがいい」
「やめてくださいお腹空くじゃないですか」

 現段階ですでに空き始めている。

「なんか、買いに行く…?」

 もう頭の中では甘いものを食べたいという思いでいっぱいのクリスティアが言えば。

「…たしか近くにホットスナックの自販機がありましたわ…」

 俺たちの言葉で腹が空いてきたらしいカリナが了承したので、とりあえず上着を取りに4人で海を上がっていった。

「ねぇあっちにきれいな貝殻ありますよ」
「それって持って帰っていいんだっけ?」
「たぶんだめなんじゃないですか? 規制線内で見るだけならいいはずですわ」

 あれから近場の自販機で食い物を買って、休憩して。俺はそのままシートに残り、海の中を見る双子を目で追っていた。旅行が始まってすぐの海とは逆だな。ちなみにクリスティアと言えば。

「できたー…」

 俺の隣で砂遊びをしている。

「見て…塔…」
「模様が細かいな」
「こだわった…」

 まっすぐの塔に細かな模様が描かれたその作品をを俺にどう? っと見せてくる。正直塔はなんでもいいがお前が可愛い。

「ほらスマホ」
「ん…」

 どうせ写真を撮るだろうと近くにあったこいつのスマホを渡せば、思った通りカメラを起動して撮り始める。

 嬉々として写真を撮っているのはものすごく可愛いんだが。

「クリスティア」
「なーにー」
「カリナ達と遊ばなくていいのか」

 海に来てから行動は俺と2人か、4人で。普段制限はしているがプライベートビーチだし、相手はカリナ達だし。ここから見ているから別に遊んできてもいいんだが。しかし彼女は食べ終わった後も尚俺の隣で遊んでいる。

「別にあっちで貝探しでもしてきていいが?」

 そう言ってやるが、クリスティアは「んー」と生返事を返すだけで動こうとはしない。いや本人がいいなら別に構わないんだが。

「クリス」
「いーのー」

 今日はポニーテールの恋人の髪に触れながら、答えを求めるように名を呼んでやればやっと拒否の答えが返ってきた。

「貝探ししなくていいのか」
「リアス様そんなに1人になりたい…?」
「いや、遊びに来たのならカリナ達とも遊ばなくていいのかと思っただけだ」

 そう言えば、彼女は一度こっちを見て。また砂へと目を移す。

「こっちで、一緒…その方が、いい…」

 ぽつりと零れた言葉は、注意していないと聞き取れないほどの小ささで。平常の時にしては珍しく自分の思いを言うクリスティアにほんの少し目を開いた。

「…そうか」
「リアス様が向こう行くなら、わたしも行く…」
「いや、いい」

 それだけ返して、再び砂遊びを始める恋人の髪を遊ぶ。頬が変な風に緩むのを耐えるが、少しだけ上昇した体温だけはどうにもできない。

 プールの時と言い何故こいつはいきなり不意打ちをかますのだろうか。
 クリスティアは、俺に対する思いや、俺と恋人的にどうしたい、などは基本的に言わない。呪いのせいもあるが元々恋愛関連では言葉で表す事が下手だ。それに呪いが加わって、彼女はなるべく行動で自分の思いを表すという手段を取るようになった。たとえば何も言わなくても俺の傍にいたり、過激ではあるが手が出たり。病み期に入ると少し素直にはなるが基本は言葉より行動派、俺もそれに慣れているので特段言葉を求めたりはしない。

 だからこそ、彼女が俺とこうしたい、という思いを言うと少し驚くわけで。

 普段なら俺がこう言うから、俺がどうだから、と俺を理由にするのに、ときたまこうやって自分でこうしたい、と言うものだから慣れてない俺としては割と心臓に悪い。他からしてみればものすごく些細な事ではあるが、俺は何千と生きてきた中でほとんどどうしたいこうしたいと言われたことがないので。初日のプールのように「抱きついていた方が安心する」だとか自分から「一緒がいい」と言われると慣れていないせいで多少心音も早くなる。早く静まれ。

「どしたの…?」
「何が」
「なんか変…」
「別に」

 声が聞こえて深い思考から抜ければ、クリスティアがこちらを向いていた。不思議そうに首を傾げて聞いてくる彼女にお前が原因だと返したいが格好悪いので黙っておく。

「プールの時も変…いきなり顔赤くして…」

 おい掘り返してくるな。

「別に顔は赤くなかっただろう」
「赤かったー…」
「日が当たってそう見えただけじゃないのか」
「スライダーのとこほとんど日当たってなかったじゃん…」

 今こいつの無駄に良い記憶力を呪いたい。とりあえず顔を見られたくないのでクリスティアを抱き上げ、背後から抱きしめるように俺の間に座らせた。

「なに…」
「別に。こうしたいだけだ」
「顔見られるのやだ…?」

 なんでこう言うときだけ察しがいいんだよ。何も言わずにいれば、彼女の肩が揺れる。

「何笑ってやがる」
「リアス様が照れるのって中々見れないから…楽しい…」
「別に照れていない」
「じゃあなんで顔赤くなってたの…?」
「お前だって水面に落ちた後顔赤くなっていただろう」
「目の前に水も滴るなんとやら、がいたら赤くなる…」
「普段風呂で見慣れているだろうが」
「水着の魔法は凶器だった…」

 なんだ水着の魔法って。

「あのとき、あと今も…そんな照れる要素あった…?」
「もう何も言うな、俺の精神のHPがなくなる」
「かっこつけなくてもいいじゃん…」
「恋人の前じゃ格好つけたくもなる」

 恋人の、俺より一回り以上小さな右手を左手で弄ぶ。指先を触っていれば恋人繋ぎのように絡められた。

「そんな恋人も、たまにはかっこいい彼氏さまのかわいい一面が見たいです…」

 なんつー不意打ちかまして来やがる。

「お前今日どうした」
「なにが…?」
「やけに素直じゃないか」
「わたしはいつだって素直…」
「お前の素直さはバイオレンスで発揮されているがそうではなくてだな」

 絡められた手をこちらからも絡めて、指先で手の甲や指をなでていく。

「妙にああしたいだのこうしたいだの言う」
「普段言わないだけで思ってるよ…?」

 普段言わないから耐性がなくていきなり言われると照れるんだっつの。

「かっこいい彼氏さまは照れ屋さんだね…」
「普段格好良いなんて言わねぇだろ…」
「言ってるじゃん…」
「顔だけな」

 性格は残念だとか言うじゃないか。なんて思っていれば、手元を見ていた恋人がいきなりこっちを向いたので反射的に少し引く。あぶねぇな、鼻ぶつけるかと思った。

「どうした」
「リアス様」
「ん?」

 首を傾げてやれば、ほんの少し言いづらそうに目を泳がせて、再び俺の目を見るように、青い瞳がまっすぐと向いた。小さな口が、ゆっくりと開く。

「いつも、かっこいい、です………顔だけじゃなくて、全部…」
「……………は」

 それだけ言って、ぱっと前を向くクリスティア。ポニーテールにしているから見える耳は、ほんのりと赤い。
 一瞬思考が止まったが、それを見て、言われたことを頭の中で反復する。

 いつも格好良いと言った。しかも普段褒める顔だけではなく。

 全部、と。

 過保護な面も、普段の行動も何もかも。正直過保護な面は格好良いかは不明だが。

 ただそれを理解した瞬間に、体温と心拍数が一気に上がった。

「…勘弁してくれ…」

 思わず彼女の肩口に顔を埋めれば、普段魔術で冷たいはずの恋人も、ほんのりと熱かった。

『夏。水着の魔法は恐ろしい』/リアス