この長い長い人生が、終わることなんてありませんように

波打ち際を、パシャパシャさせながらリアス様とゆっくり歩いてく。
空もきれいに晴れて、水面がキラキラで、大好きなきれいな景色、ちょっと後ろには好きな人。

少女マンガみたい。ほっとんど読んだことないけど。

「きらきら…」
「そうだな」

旅行最終日。帰るのは明日だけど、移動日だから遊べるのは今日まで。泳ごうか、って話にもなったんだけど、よく晴れた天気にしてはちょっと肌寒くて。カリナが女性は体を冷やすものではないですよ、って言ったからのんびりお散歩中。双子はわたしたちよりだいぶ後ろで一緒に歩いてる。

「あっという間だったね…」
「まともに海には入らなかったな」
「でも、ちょっと遊べた…」
「楽しかったか?」
「とっても…」

後ろを向きながら話して、笑えば。リアス様も優しい顔で笑う。日に当たって、かっこいい顔がいつもよりもっとかっこよくて、きれいに見える。スマホ持ってくればよかった。水に落とすからだめって言われたから持ってこれなかった。

「そのまま転ぶなよ」
「だいじょぶ…わたしはそんなにどじじゃない…」
「だいぶ近い位置にはいると思うがな?」

そんなことないはず。たぶん。

でも確かにこのままずっと後ろ向きながらだと転びかねないから、前に向き直って、下の水面に目を移す。きれいで透き通った水の中。光ってて、歩けば波紋が広がって。それだけでもなんか楽しい。

あ。

歩いてたら、きれいな貝がら発見。ほんのり赤くて、リアス様っぽい。

「貝がらー…」
「待て待て待てストップだ」

思わずしゃがんで手に取ろうと思ったら、いきなりバシャバシャ聞こえて腕を引かれた。

「なに、貝がら触るのはだめだった…?」
「そうじゃなくてだな。今お前が着ているものは何だ」

今日の服? 服…。確かめるように下を見て、またリアス様の紅い目を見る。

「白い、ワンピースです…」
「そうだな。膝丈のワンピースだな。そのまましゃがんでみろ。びしょびしょだろうが」
「貝がらあったの…」
「どれ」
「あれ…」

指をさしたら、リアス様が腰だけ屈めて拾ってくれた。ほら、って差し出されたのを受け取る。手のひらに乗ったうっすら赤い貝。優しいリアス様、って感じ。

「わーい…」
「なんでお前は海を歩くとなった時にそのワンピースを着てきたんだ…」
「よくあるじゃん、あの…スカート…」

あれなんて言うんだっけ。

「あの、ふわって…」
「翻して、か?」
「そうそれ…」
「もう少し自分の性格を考えてこい」
「わたしそんなに行動先に起こすばっかじゃなくない…?」

なんてリアス様を見上げて言ったら、は? って顔された。ひっさびさに向けられた、その心底信じられないって顔。

「ちゃんと考えるときは、考える…」
「お前とは1万年弱の付き合いだがしっかり考えて行動した事なんて1割にも満たなかったが?」
「リアス様わたしのことちゃんと見てるの…?」
「生憎俺はお前しか見ていないからよくわかっている」

よくさらっとそう言うこといえるよね。
さっきとは違って手を繋いで、また波打ち際をゆっくり歩いてく。

「考えるより先に行動するから昔は俺が怒鳴り散らしていたんだろうが」
「あれすごい不思議だった…」
「俺も不思議だったわ。お前こそ俺が言った言葉とかちゃんと覚えているのか?」
「一語一句全部覚えてるよ…?」
「なら何故言うことを聞かないんだろうな」

覚えてるのとそれを実行するのとは違うと思うの。

「ねぇもしもさ…」
「ん?」
「いきなり記憶喪失になったらどうする…?」
「お前は本当に突然話が飛ぶな」

つながってるじゃん、覚えてるとかの話から。

「というかそれはどっちがの話だ」

しかもそうやってちゃんと乗ってきてくれるじゃん。

「んー…じゃあわたしがなる…。リアス様の言った言葉とか全部忘れちゃうの…」
「現状と対して変わっていない気がするんだが」
「わたしは覚えてるけどいざとなったら忘れるだけ…」
「記憶喪失より質が悪いと思うのは俺だけか?」

きっとリアス様だけ。どうなの? ってのぞき込んだら、前を見据えて。

「別に。記憶喪失になろうが、仮にお前が一生俺を思い出さなかろうが、変わりはしない。俺はお前を愛するだけだし、なんならもう一度好きにならせる」

すんなり出てくるその言葉に、わかってはいたはずなのに体温が上がった。どうしてそんなにすらすらと出てくるの。

「…言わせておいて何故照れる」
「照れてない…」
「手が熱い」
「離して…」
「断る」

逆にもっと強く絡めてきやがった。

「いった」

しかもいきなり止まって。思わず腕が逆方向に曲がりそうになった。言ってよ止まることくらい。

「なに…?」
「お前は思い出や記憶に関しては執着心が強いが」
「…?」
「たとえどちらが忘れることになっても変わらずに愛してやるから安心しろ」

それだけ言って、また歩き出す。手繋いでるから止まってたら引っ張られるようになったから、学校帰りみたいに、ちょっと後ろを着いてくように歩き出した。

え、何このイケメン。
3回目かもしれないけどよくすらすらこんなこっぱずかしいこと言えるよね。意味わかんない。すっごい心音上がってるんですけど。なに変わらず愛するって。こっちだって変わらず愛してやるわ。言えないけど。言えないから延々と繰り返してるけども。

「もー…」
「ってぇな」

どうしようもできなくて、とりあえず思いっきり背中叩いといた。

「これ雨降りませんよねぇ」
「夕方だから暗くなってるだけでしょ?」
「ただ雲は少し出てきたな」
「ですよねぇ」

あのあと。貝がらはちゃんと海に戻して、海から上がってきた。砂落として、早めに夕食食べて、時刻は6時半過ぎ。ホテルの窓からカリナが外を見てるから、わたしも並んで一緒に眺める。ちょっと暗めの海もきれい。

「風とか大丈夫ですかね?」
「…カリナ、さっきから天気の心配してる…」

ちょっとだけ雲が出てきた空。それを見つけてから、カリナは窓にべったり。

「なんかあるの…?」

聞いたら、やっとこっちを向いて、ちょっと困った顔で。

「花火をしようと思っているんです」
「花火…」

夏のふーぶつしのあれ?

「おい旅行最終日に初耳なんだが」
「そうですね、今言いましたから」
「お前最近開き直ってきやがったな…」

窓に背を向けて、持ってきたオセロをやってる男子陣に目を向ける。白のレグナが優勢だ。珍しい。

「予定のほとんどが未定だったじゃないか」
「まぁできるかもわかりませんでしたしねぇ」
「一応あるというのは言ったらどうだ。レグナ、お前も知っていたんじゃないのか」
「んー? あーなんかでかい袋入ってるなぁとは思ってたけど俺も知らなかった」

てことはカリナ以外全員初耳。別になれてるので、何も言わずにカリナがバッグの方に行くのに着いてく。

「天気が大丈夫そうなら最終日にやろうかなと思ってましたわ」
「先に言っておけ。それとやるのは構わないがねずみ花火と打ち上げ花火はやらないからな」
「大丈夫ですよ」

おっきなバッグからがさがさって袋を出した。

「そう言うと思ってたので線香花火だけ持ってきましたから」
「すっごい寂しい花火になるけど大丈夫??」
「ちなみに無難に20本です」
「珍しく無難だな」

1人5本。カリナにしてはまとも。

「線香花火だけの花火って売ってたっけ」
「基本買わないから定かではないがあまりないんじゃないのか」
「おっきなキットをいくつか買って線香花火だけ抜いてきましたわ」

荒技すぎる。

「ちなみに他の花火はうちの執事たちが楽しんでます」

夏休み中に愛原邸から花火が打ち上がりそう。

「というわけでご飯も食べましたし最後の思い出として花火をしません?」

線香花火だけが入った、おっきな袋を掲げて言うカリナ。答えはもちろん。

「さんせー…」
「いいんじゃない?」
「…まぁ、線香花火なら構わない」

全員オッケー。嬉しそうに笑ってもう少ししたら行きましょうかって言うカリナに全員で頷いた。

「えーと、ろうそくと、お水、準備は大丈夫ですかね」

リアス様が逆転勝ちしたオセロが終わって、バケツに水をくんで、必要なものを持ってまた海辺に来た。1本ずつ線香花火を持って、あとは火付けるだけ。

なんだけど。

「おいカリナ」
「はいな」

たぶん誰もが思ったことをリアス様が言う。

「火はどこだ」

そう、ろうそくだけあって肝心の火がいない。マッチは?

「必要ないでしょう?」
「花火始められないじゃん」
「だってリアスがいるじゃないですか」
「俺の魔術は花火をするためのものではないんだがな?」
「ものは使いようですよ。ほら、間違えて引火、などという事態が起こらないためにですわ」

絶対嘘だ。

「というわけでお願いします」
「ったく…」

言ってても火がないことには始まらないから、リアス様が仕方なさそうにろうそくに火を付けた。火が安定したところで、カリナから線香花火に火を付けてく。
瞬間、ぱちぱち光っていく花火。明るくなる砂浜。

「きれー…」
「ほら」
「ん…」

リアス様がわたしの分の花火に火を付けて渡してくれる。落とさないように受け取って、みんな火が着いてから、なるべくそのきれいな火を近くで見るようにしゃがんだ。

ぱちぱち色を変えながら光ってく花火。その音を聞くためなのか、見入ってるのかわかんないけど、誰もしゃべらない。

ゆっくりゆっくり火が上がって、だんだん花火も小さくなって。
数分も経たないうちに、ぽとぽととみんなの花火が落ちていって、ろうそくの火だけが残る。

花火の音もしない、静かな砂浜。
最初に口を開いたのは、レグナ。

「…カリナさん」
「はいな」
「めっちゃ寂しい」
「最初からクライマックスでしたね」

あまりのもの寂しさにすごい、何とも言えない。きれいなんだけど楽しいって言うよりは悲しい。

「普通の花火も持ってこようか悩んだんですが一番安全かなと思ってこれだけにしたんですがね」
「心遣いは大変嬉しいが俺もここまでもの寂しくなるとは思わなかった」
「なんだろう、切ない…」
「ラストを飾る方の花火だからね」

これあと4本あるんでしょ? 終わったとき絶対悲しい。

「次回はもう少し普通の花火も入れておきますわ」
「次回もやるのか」
「毎年旅行の予定です」
「年々長くなるとかはないだろうな?」
「予定次第ですね」
「まじかよ…」

話してるのを聞きながら、次の花火に火を付けてく。またぱちぱち鳴って、周りも照らしてく。

また静かになりそうなとき、レグナがそう言えばさぁと口を開いた。

「なんです?」
「線香花火っておまじないとかなかった?」
「おまじない…?」
「途中で落ちなかったら願いが叶うーとか、あとは純粋に誰が落ちるのが早いか、とか」
「少女マンガでよくありそうな話ですね」
「せっかくならやってみる?」

なんて言った瞬間に、レグナの線香花火が落ちた。

「あ、落ちちゃった」
「…やらなくていいと花火からのお告げか?」
「もしくはゴーサインじゃない?」
「ポジティブですねレグナ。でもまぁいいんじゃないですか? あと3本ありますし、各々願い事でもかけていきましょうか」
「3個も願いなんてあるか?」
「あら、すべての花火が最後まで灯っているとは限りませんわよ」
「…あんまり最後まで、っていうのないのかな…あ」

わたしのも途中で落ちちゃった。一気に周りが暗くなって、リアス様やカリナの花火も落ちてったみたい。

「とまぁこんな感じで途中で落ちるものなので」
「案外難しいんだな」
「ラックアップ全開にしとけばリアス」
「さすがに願掛けに使うのは卑怯だろう」

ゲームで使うのも卑怯だと思うのですがそれは。たぶん全員同じこと思ったけど黙っておいて、3本目に火を付ける。

ぱちぱち光る花火を見ながら、考えた。

願い事ってなんだろう。なんかあるかな。リアス様に、想いを伝えること?

なんて思ってたら一気に花火が落ちた。

「一気に行きましたねクリスティア」
「ふと考えた願いはだめらしい…」
「もっかい願ってみれば?」
「それで落ちたらへこみそう…」
「それは叶わないと言われているようだな」

まじですか。とりあえず次の花火に火を付ける。
わたしのが始まったら他のみんなも落ちていって、次の花火に手を着けた。

「案外続かないものですね」
「まぁ落ちなかったら願い叶う、って言われるくらいだからやっぱ難しいんじゃない?」
「願いは自分で叶えろとのお告げなんじゃないか」

リアス様なら自分で叶えそうだね、って笑って。たぶんみんな、それぞれの願いを込めながら花火を見つめる。

お願い、みんな一緒かな。

ところどころは違うかもしれないけど。

「あ…」
「落ちたな」
「私も落ちましたわ」
「みんなラストじゃん」

きっとその願いはだめ、って言われてるのか、みんな落ちてく。最後の1本になっちゃって、なんとなく、ジンクスだってわかってるけど、みんなちょっと真剣に火を付けた。

もしも願いが叶うなら。

ぱちぱちと火がつき始めた線香花火を見ながら、思う。

叶えたい願いは、いっぱい。
大好きなリアス様にたくさん想いを伝えたいし、もっとみんなでいっぱい思い出作りたい。
18歳の先まで生きてみたいし、リアス様と結婚、とか、恋人らしいこととか、いっぱいしたい。

そんなたくさんのお願いごと。でも、もしも叶うなら、一番は、この中じゃなくて。

「…あら、クリスの続いてますね」
「うん…」

みんなはもう落ちちゃったらしくて、あとはわたしだけ。きっと同じだから、みんなわたしの花火を見守る。

「……落ちなかった」
「すごいじゃん」
「よかったな」
「お願いごと、叶いますね」

ギリギリで落ちるかな、って思った火は、意外にも落ちなくて。いつもならカリナがおめでとうございますなんてはしゃいで来るけれど、線香花火の寂しさもあってか、静かにそう言った。

それに、頷く。

「じゃークリスのも終わったし片そっか」
「終わってみると案外早かったですねぇ。もう少し持ってくればよかったかしら」
「線香花火だけ延々とやるのも中々精神がきついな」

立ち上がって、終わった花火を入れたバケツと、火を消したろうそくをリアス様たちが持つ。ホテルの方に歩き出したのについてくようにわたしも歩き出した。

誰も聞かない、お願いごと。誰もが思ってるけど、たぶん、口に出しちゃいけないってわかってる。

一回、海に振り返って。月明かりに照らされた海を見て、今日とか、旅行の日々を思い返して。

線香花火に込めた願いが叶うように、お祈りした。

『この長い長い人生が、終わることなんてありませんように』/クリスティア