また、長くてあっという間な日々が始まる

「…毎度の事だが山に篭もりにでも行くのか?」

8月14日、月曜日。よく晴れた日の午後。旅行の初日であり移動日である今日、カリナが車を出してくれるというのでその厚意に甘え、指定された時間にクリスティアと玄関で待っていれば程なくして見慣れた車がやってくる。
そのドアを開けて、車の中を見て。第一声は挨拶でもよろしく頼むでもなく、そんな言葉だった。

「毎度のことですが泊まりに行くんですよ、今回は海際に」
「なんなんだその荷物の量は…」
「これでも減らしたんだよ?」
「いや前回より増えてるじゃないか」

広めの車のトランクいっぱいに積まれた荷物を見て、ため息を吐いた。俺とクリスティアは一つずつの鞄で済んだのに何故こいつらは毎度のごとく荷物が多いのか。

「洗濯もできるしアメニティもあると言っていたじゃないか」

クリスティアを先に車に乗せ、後を追うように俺も車に乗り込む。双子と向かい合うように座ってシートベルトを着ければ車が走り出した。一息着いたところで、先週カリナが言っていた事を言う。

「言いましたね確かに」
「なら何故この荷物の量になるんだ?」
「双子で6個くらいあるね…」
「4つはカリナだよ」
「それでもお前も2つあるのか…」
「一応天気とか何があるかわかんないし?」
「夜はお部屋で過ごすでしょうから。暇つぶしのものを少々」

少々どころの量じゃねぇよ。

「また面倒なものを持ってきたりしていないよな?」
「当然ですわ。今回のメインは海やプールですもの」
「なに、持ってきたの…?」
「とりあえず無難にトランプとかかなぁ」
「トランプ100個でも詰めてきたのか?」
「100個のトランプでどんなゲームするんですか」
「神経衰弱…」
「クリスの1人勝ちじゃん」
「さすがに全部覚えるのは難しそう…」
「トランプタワーでもやりますか」
「仮にトランプが100個あったとして5400枚でどんなタワーを作る気だ」

豪邸ができるわ。

「まぁ一応持ってきてはみましたが正直出番が無いことを祈りますね」
「余計なことをしたからか?」
「違いますよ、せっかく海やプールに行くんですから室内で遊ぶようなことがなければいいという意味です」

それはまぁわかる。
景色が段々と見慣れなくなっていくのを横目で見ながら、そう言えばと思い至って口を開いた。

「この旅行の日程はどうなっているんだ」
「遊ぶ予定的なの?」
「ああ。お前達で決めたんだろう? 俺とクリスティアは6泊7日ということしか聞いていない」
「一応こんな感じですわ」

カリナが近くの小さな鞄から手帳を取り出す。斜め前から手渡された手帳を受け取り、”旅行”と書かれた欄を見た。

14日、移動。
15日、プール。
16~18日、海。
19日、未定。
20日、帰宅。

海の割合多すぎないか。

「海、多いね…」
「その海のところ、初日以外はある意味未定ということで。近場に何があるかとか何がどうできるかというのは行ってみないとわからないこともあったので」
「さすがに19日まで海だときついよねってことでそこは正直に未定にしといた」

そこで正直になるなら他の日も未定と書いて良かったんじゃないか。そうは思いつつも恐らくこの女は必死に考えたんだろうというのはわかるので言わず、手帳を返した。

「本日と最終日が移動日なので実質遊ぶ日は5日ほど。泊まる場所はすべて同じですわ。いちいち泊まる場所を変えるのも落ち着きませんので」
「それは助かる」
「泊まる場所はホテルね」
「別荘じゃないんだ…?」
「それでも良かったんだけど、離れにあるから移動がちょっと大変なんだよね。一回一回車出してもらうことになりそうだし」
「でしたらホテルで、移動は最低限にしましょうかということになりまして」
「1週間貸し切りにしたのか?」
「そうなりますね」

こいつの行動力ハンパないな。それがすべて俺達、というか主にクリスティアの為だからとわかっているので今回はなるべく突っぱねないように努力しようと思う。

「あ…」

隣町に入っただろうか。車で2時間弱の場所と言っていたからあと半分くらいかと、普段来ない町の景色に目を移したら、隣のクリスティアが声を上げた。再びそちらに目を向ければ、思い出したように俺の服の裾を引っ張る。

「どうした」
「気分でも優れなくなりました?」
「違くて…リアス様、あれ」
「あれ?」

あれってなんだ。何かあったか。

「お水…」
「水…。ああ」

その単語を聞いて、思い出した。

「水? 持ってこなかったの?」
「違う。この旅行中、あのエンドウどうするんだ」

聞けば、2人も思い至ったらしい。

「一週間、いないから…どうするのかなって…」
「忘れてましたわ」
「俺も言うのを忘れていた」
「あ、そっちじゃなくて」
「ん?」

双子が忘れていたのはエンドウの存在ではないようで。クリスティアと首を傾げれば、カリナが穏やかな顔で言った。

「一週間ほどいない、というのを事前に相談していたんです。そうしたら、江馬先生がその間は面倒を見てくださると仰ってくださいまして」
「だから俺たちは何もしなくて良いってさ」
「そういうのも、ありなの…?」
「まぁお盆? とかは帰省する人も多いらしいし。どうしてもメンバー全員が少しの間来れない、って時もあるみたいだから」
「申請書を書く必要はありましたが快く承認してくれましたわ。心配はいらないと言うのをすっかり忘れてました」
「わたしたちめっちゃ悩んだ…」
「悩んだな。そしてエンドウの調子も微妙だからとお前に相談しようとしていたのをすっかり忘れていた」
「夏休みも案外バタバタだもんなぁ」

全くだ。空の旅だこの旅行だ武術会だ。休みとは。

「できれば旅行はゆったりしたいんだがな?」
「できると良いですねぇ」

カリナがクリスティアを見て言う。当の本人は首を傾げているが俺もそこがものすごく心配だ。できればびっくり行動だけは避けて欲しい。その願いはきっと叶わないんだろうと知ってはいるが。

「お嬢様方、そろそろ目的地へ到着いたします」

話していれば、交通状態も良かったおかげか予定より早く声がかかった。言われてクリスティア側の窓を見る。そこには広い海が広がっていた。

「海ー…」
「きれいですねぇ」
「あそこで泳げるの…?」
「えぇ、規制線の中であれば自由に」
「楽しみ…」

ものすごく楽しみという雰囲気を出すクリスティアに、思わず口が緩む。海なんていつぶりだろうか。見ることはあっても入る事など滅多にない。俺が許していなかった、というのもあるが規制線の規定が厳しくて入れる場所もなかったというのもある。

「何年ぶりくらい?」
「数百くらいあるか?」
「向こうは結構規制線厳しいもんなぁ。俺たちもそんなもんかも」
「許されても波打ち際辺りでしたものね」
「中に入る、ってのは全然ないよね」

いくらハーフという間の存在であっても規定は守らなければならない。海は魚や貝など、海でしか存在できないビーストの領域。そこの主が許してくれるのなら規制線も緩くなるが、基本的にヒューマンとビーストの仲が悪いのでどこも厳しいのが現状。

「よく緩い場所に愛原家のホテルがあったな」
「私も驚きましたわ。そしてまたとないチャンスだとも思いました」
「4人そろったってわかった瞬間から絶対海に行くって意気込んでたもんね」

ああ、目に見える。想像して笑いそうになったところで、車が駐車場に入っていき、ゆっくりと停車した。

「お待たせいたしました」
「助かりますわ」

シートベルトを外して荷物を持てば、先に降りていた執事がドアを開けてくれた。それに礼を言ってから俺から降りていく。

「では最終日にまたお迎えにあがります」
「はいな」
「ほかにも何かご用があればお呼びください、すぐに参りますので」
「わかりましたわ」

カリナのその言葉にほほえんで、執事は一度礼をしてから車に乗り込み、去っていく。それを見送って。

「あいつは一緒に泊まらないのか」
「あら、ホテルは私たち4人しかいないようになってますよ」
「リアス落ち着かないでしょ?」

確かに落ち着かないが正直ものすごく悪いと思っている。ただ世話になっているとは言えど居たら恐らく眠れないのでカリナ達の気遣いに感謝した。

「では今日は荷物をまとめてお食事して、という感じですかね」
「部屋はおっきい部屋で4人部屋ね」
「またリアス様とレグナ、一緒に寝るの…?」
「できれば勘弁したいかな?」

俺もごめん被りたい。少しずつ赤くなってきた空の下で一度ため息を吐き、クリスティアの分の荷物も持ってホテルへと歩き出す。

とりあえず、散々気遣いをされたので今回はなるべく双子の遊びには付き合ってやろうと決めた。

『また、長くてあっという間な日々が始まる』/リアス