人生で必要なのは、裏を掻くこと

「それで? どうしましょうか」

 とりあえず向こうは向こうで話したいことがあるでしょうと部屋に来ることを提案し、クリスと一緒に彼女たちの部屋にやってきました。私はベッドヘッドに座り、クリスティアは近くにあったぬいぐるみを抱きしめてベッドに寄りかかるように床へ。
 多少なりとも案は出そうと、下にいるクリスに目を向けて聞いてみた。

「リアス様ってあんま泣かないよね…」
「そうですねぇ」

 大昔はちょっと涙が出やすいタイプでしたけど今はそんな面影もなく。加えてクリスティアの前ではかっこいい彼氏でいたいというプライドで彼女の前では絶対に涙は見せなくなった。それを泣かせるというのは中々至難の業ですよね。

「ちなみにどんな感じで泣かせたいんですか?」

 ちょっと涙が出る感じ、とか大泣きさせたい、とか要望があれば案も出しやすいんですが。聞けば、クリスはちょっと悩んで。

「もうごめんなさい許してくださいって縋るほど泣かせたい…」
「ちょっとシンキングタイムを要請します」

 さすがにその方向で来るとは思わなかった。手を挙げて申請すれば、クリスはどうぞと言ってくれます。とりあえず想像してみましょうか。リアスが泣いてごめんなさい許してくださいと縋る姿。ベッドかソファに寝転がっている彼を見下ろす感じですかね?

 どうしよう吐き気しかしない。

「クリスティア」
「終わった…?」
「ちょっと私には難しい問題でしたわ」

 あの男がまじめに泣いて縋る姿など見たくない。演技で仕方なくなら許せますが。

「え、本当にあの男のそんな姿が見たいんですか…?」
「なんだろう、普段全く想像できない感じのを見てみたい…」

 せめて大泣きするところからという発想はなかったのかしら。彼がわんわん泣く姿もちょっと見たくないですが。せめて世間で言われている「かっこいいリアス様」でいて欲しい。

「でもさカリナ…」
「はぁい?」

 彼の泣く姿を想像して若干引いてるところで、クリスが服の裾を引っ張って聞いてきます。

「蓮龍とかなら、ありじゃない…?」

 もうそうやってすぐ腐った話に持ってく。

「今日はあなたがリアスを泣かせるための案を考えるんでしょう?」
「そうだね…」
「腐の話はやめましょうよ、聞かれたら大変ですよ」
「でもそれなら想像しやすくない…?」

 そう言われたら想像しちゃうじゃないですかやめてくださいよ。

「レグナが普段の仕返しでリアス様を泣かせる…」
「それならそれでありですけども!」

 今日は違うんです! 止まれ私の腐の思考。咳払いをして。

「真剣に考えましょうクリスティア。腐の話はまた後日、彼らに聞かれる危険性がない状態でしましょう」
「えー…」
「あなたが泣かせたいんでしょうよ」
「もうわたしじゃなくてもいい…。傍観者で見てたい…」

 なにそれ最高。じゃなくて。

「で? リアスをどうやって泣かせるかですよね!」

 ぱん、っと手を叩いて切り替える。さぁあの男が泣くこと。クリスがちょっと不服そうな顔していますが気にせずいきましょう。

「リアス様ってまず今泣くの…?」
「そこなんですよね」

 だいぶ泣かなそうですけども。

「あれはどうですか?」
「なに…? レグナ使う…?」
「クリス一旦腐の思考から離れて」

 戻らせないで。

「ほら、感動物の映画とか」
「あー…」
「そういうのって見ます?」
「んーん、基本は本読んでるからあんまりテレビも見ないかも…朝と夜のニュースくらい…あとたまにやるアニメ…」

 あの大型テレビ泣いてませんか使われなさすぎて。

「一緒に暮らしてからそういう感動物の映画を見たことは?」
「ない…」
「ならそれはいかがでしょうか」
「ていうか、見れない」
「見れない?」

 まさかビデオ機能がついていないとか。

「感動物って死んじゃう系じゃん…」
「まぁ主にそうですね」
「リアス様、最後の日思い出して見れないみたい…」

 あの男ほんとに豆腐メンタルですね。レグナは病気系の感動物見ますよ。なにかヒントがあるのではとかそういう愛が素敵だからとか言ってしっかり見てますよ。

「だから感動物は見ない…ハッピーエンドもうちは見ないし…」

 初手でだいぶ詰んでる気がしますね。んー、他には…。

「くすぐり、とか」
「リアス様効かなくない…?」
「いやあの男に触ることがほぼほぼないので知りませんが」
「わき腹は、効かない…」
「足の裏とかはどうです?」
「体制によっちゃリアス様が別の性癖目覚めそうじゃない? 靴をおなめ的な感じの方で…」

 うっわありえそう。好きそうですあの男。となると、

「リアスが新しい性癖目覚めない方向で、死を連想しないものってことですよね」
「そうだね…」
「ハードル高すぎませんか…?」
「高いね…」

 無駄にスペック高くしなければこんなに悩む羽目にはならなかったのに。

「んー、とりあえず、涙が見れればいいです?」
「まぁ、最悪そんな感じ…涙を流す感じを見てみたい…」
「鳩尾とか思い切り叩けば痛くて涙が出るんじゃないですか?」
「普段わたしバイオレンスだけどその発想はなかった…でも泣かなくない?」
「こう、何度も叩きつける感じで」
「さすがにちょっと…」

 だめですか。

「目薬とか」
「それはちょっと違う…」
「ですよねぇ」

 泣くためにできそうなこと。クリスティアが悪い方向で関わると良くないし私もやらせたくはないのでそこは除外。むしろそれをやると涙が出るより先に世界が滅びそうですよね。

「ま、瞬き禁止とか?」
「確かに涙は出てくるけども…。こう、自然な流れで泣かせに行きたい…」
「自然な流れ、ねぇ…」

 ふだんの生活の中であの男が泣きそうなこと。涙を流せる状態にさせること…。
 2人で腕を組んで考え、ふと、思い浮かんだことがありました。

「クリス」
「はぁい…」
「もしかしたら妙案かもしれません」

 可愛らしく首を傾げるクリスに笑って、話せるように彼女の隣へ降りる。

「なぁに…?」
「とりあえずですが、部屋を出たとき、何か案が浮かんだかとどちらかが言うと思うんです」
「そだね…」
「そのときは、”残念ながら何も浮かばなかった”と言いましょう」
「ん…」
「それでですね…」

 クリスに耳打ちをする。自然な流れで彼を泣かせることが出来るのは今考えられる時点でこれだけ。しかもこれなら私も見ても吐き気なんて全然しない可愛らしい泣きを見れるはず。そう思いを込めて小さく言えば、彼女は期待に満ちた目でこちらを見た。

「いかがです?」
「カリナ最高…それで行こう…」

 了承も受けられたことで、2人で楽しげに笑って。

 さぁでは今からやりましょうかと立ち上がり、部屋を後にした。

『人生で必要なのは、裏を掻くこと』/カリナ

有償依頼受付中
依頼用
志貴零へのご支援はこちらから↓
ギフティ
志貴零おすすめ書籍