2年後は、もしかしたら4人一緒かもしれないから

2019-07-07

 確かに言った。負けず嫌いの恋人が頑張って俺を泣かしたいと言うから、期待しないで待っていると。

 そしてそれなりに頑張るんだろうと予想も立てていた。今となってはあまり涙も出なくなったが自由奔放で時々予測が出来ない恋人がしでかすであろう作戦に備えて、涙腺は引き締めてはいた。

 が。

「おい」
「なぁに…」
「寄越せ」
「やだ…もうちょっと」
「頼むまじできつい」
「言ったじゃん…泣くの見たいって」
「そうだな、言ったな。俺も楽しみにしていると言ったな」

 ただな、クリスティア。

「さすがに俺も玉葱のみじん切りを使ってくるとは予想していなかったわ」

 痛く、勝手に涙が出てくる目をこすった。

 レグナとカリナがやって来て、クリスティアが俺を泣かせたいと言ったので女子組が俺とクリスティアの部屋で作戦会議をした後。
 部屋から出てきたクリスティア達にレグナが何か思いついたかと聞けば、至極残念そうに”なかった”と首を振った。

 カリナのことだからどうせ何かを案を出すだろうと思っていたので拍子抜けはしたが、最近は泣かないし、泣くような物はクリスティアにタブーを出しているから確かに出しづらいかもしれないなと安堵のような、頑張る姿を見れなくて残念なような気持ちにはなった。

 その後は4人で、レグナが俺達の家に置いていっているゲームをして遊んで、夕方。今日は元々晩飯を食べていく予定だったから、何にしようかと悩んで。前回のゴールデンウィークではレグナが振る舞ってくれたから今回は自分達で振る舞おうとクリスティアに提案され、そうだなと調理台に立ったのが間違いだった。今思えばこの時点で気付くべきだったのに何故気付かなかったんだ俺は。あまりにも自然な流れすぎたからだ。

 さて今日は何にしようかと冷蔵庫を2人で開けて。この前デリバリーが来たから食材は豊富。ただ客人をあまり待たせるわけにもいかないだろうということで、なるべく早めにできるものにしようとなった。そこでクリスティアがオムライスとコンソメオニオンスープがいいと言ったのでならばそうするかと何の疑いもなく決まる。2人で作るときはなるべく怪我をさせたくないので基本は俺が包丁を持つ。恐らくそこを利用したんだろう。「スープとケチャップライス作るから材料切って」といつも通り言われれば当然のごとく俺は包丁を持ち、クリスティアが用意していく食材を切っていく。人工肉から始まり、人参を切り、オニオンスープも作るからといつもより多めの玉葱を置かれ、それを切っていく。

 ああ目が染みてきたなと思ったところだった。

 目が染みてきた? と自問した。

 そう言えば玉葱切るとよく涙が出るというよな。

 そこで気付いた。今日のメニューの真意に。

 何故わざわざオムライスとオニオンスープを提案したのか。うちではオムライスに玉葱を入れる。当然玉葱を切ることになる。そしてオニオンスープ。オニオンとついているんだからこちらも当然のごとく玉葱を切る。

 狙いはこれか。無理矢理泣かせるためか。

 そう気付いたので、名前を呼べば、クリスティアは走り出す。染みて痛む目をどうにかしたくて、まずはティッシュかと探し彼女を追ってリビングに行けば。

 望んだ物はクリスティアの手の中にあるじゃないか。

 こいつわかってて逃げて先手を打ちやがったのかと顔がひきつった。

 そうして冒頭の会話に戻るわけだが。

「いい子だからそれを寄越してくれないか」

 すぐに収まることのない痛みに伴って、自分の意志とは関係なく涙が出てくる。それを拭いつつ手を差し出せば、彼女は首を振る。そんな光景を見て双子は必死に笑いを堪えている。後で覚えておけ。

「クリスティア」
「もうちょっと」
「いてぇんだよ」
「あと5分…」

 恐らく何もしなくても5分は泣くわ。

「知っているかクリスティア、玉葱はあと1個残っているんだ」
「そうだね…」
「それを乗り切るためにまずはこの涙を拭いたいんだが」
「どうせまた泣くんだからそのままでいいじゃない…」
「とりあえず鼻をかませてくれないか」
「先にほら、玉葱切っちゃった方が早いと思う…」
「クリスティア」

 命令を聞かせるように名を呼ぶ。が、本日は強情らしい彼女は怯まず、首を振る。

「恋人の、泣いてる姿を見たいと思う、このかわいい彼女の思いを汲んでくれてもいいと思うの…」
「自分でかわいいと言うか」

 いや確かにかわいいんだが。おいレグナお前肩ものすごく震えているが大丈夫か。とりあえずそこの親友は置いておいて。

「おいカリナ何写真撮ってる」

 その隣にいた双子の妹に矛先を向ける。事もあろうか笑いながらこちらにカメラを向けているその女を睨みつけた。

「泣き顔で睨まれても怖くないとはこのことですのね」
「勝手に納得するな」
「それとこれ動画です」
「なお悪いわ」

 後で携帯割ってでも消してやる。そう決意して、再び目の前の恋人に目を向けた。

「クリスティア、ティッシュ」
「やーだー…」
「これだと料理が進まないんだが?」
「さっきも言ったじゃん…どうせまた泣くんだから今何しても仕方ないって…」
「これ以上あの胞子を受けると鼻水がやばい」
「鼻の中氷漬けにすれば回避できるんじゃない…」
「殺す気か?」

 息できねぇよ。

「ほらクリス、せっかくかっこいいリアス様が台無しになってしまうので、鼻だけかませてあげたらどうです?」
「えー…」
「涙はそのままにしてくれるってさ」
「言っていないが?」

 そのまま涙も拭う予定だったのが先手を打たれその計画は壊された。けれど双子の提案に揺らぎ始めた彼女を見れば、効果はあるそうで。
 啜るのもだいぶ辛くなってきたので、もう一声。

「わかった、とりあえず涙は拭かんから鼻だけかませてくれ」
「ほんと…?」
「本当だ」
「涙拭った瞬間に今日の夜から玉葱で寝床囲うから…」

 それお前もきついんじゃないかと思ったがとにかく鼻をかみたいので了承し、ティッシュを受け取る。とりあえず鼻をかんで、紙屑をゴミ箱へ放り投げた。

「鼻かんだから続き頑張ってね…」

 普段天使のようにかわいい恋人が悪魔に見える。

「お前ほんと覚えてろよ…」
「たまにはいいじゃん…」
「もう少しかわいげのある頑張りを期待したんだがな?」

 俺が食材を切らないと次進めないので調理台に戻り、再び玉葱に挑む。

 とても目が痛い。

「…♪」

 しかも隣では俺をのぞき込むようにクリスティアが見ている。とてもやりづらい。

「クリスティア」
「なぁに…」
「そこから覗いていると包丁が危ないんじゃないか」
「え? リアス様は間違っても恋人にけがなんかさせないよね…?」

 だめだドSスイッチがオンになっている。

「たまにはいいね、こういうの…」
「俺はごめん被りたい。そしてそこの女、目の前に来るな」

 スープ用に玉葱をスライスしていれば、目の前に人の気配。ちらりと見えた服装ですぐにカリナだとわかる。目は手元から話さずに威圧感たっぷりで言った。

「いいじゃないですか、私あなたの料理してる姿みたいです」

 が、そんなのは意に介さず楽しそうに言う。絶対そんなこと思ってないだろう。目を向けなくても動画撮ってる事なんてわかるわ。

「カリナ、その動画はどうするつもりだ」
「クリスティアが泣き顔を見たいという衝動に駆られたら見せるつもりですわ」

 そんな発作的に出るものなのか?

「悪いことは言わないからさっさと消せ」
「お断りします」
「あとでその携帯が壊れていても文句は言わせないからな?」
「知っていますかリアス、今はクラウド保存というものがあるんですよ」

 時代の進歩を全力で止めたい。なんて思っていればこの女の隣に人の気配。レグナか。

「何故囲むようにして来る」
「あっれ、バレた?」
「俺が気付かないとでも思ったか?」
「泣くのを堪えるの必死で気付かない、に一票だったんだけど」
「残念だったな」

 残り半分になった玉葱を切っていく。鼻をかみたい。目がめちゃくちゃいてぇ。

「リアス様、すごい辛そう…」
「これで楽しんでたら俺はとんだ変態だろうな」
「だめだよクリス、これ以上変態にしちゃ」
「そうですよ、あなたでは収拾着かなくなりますよ」
「そこの双子、晩飯抜きでいいんだな?」

 ザンッと音を立てながら玉葱を思い切り切ってやれば無言になった。最初から黙ってろよ。

「ほら、切ったぞ」

 なるべく早く切っていけば、あっという間になくなって。まな板の上に玉葱のみじん切りとスライスを分けて置き、包丁を置く。やっと終わった。目がいてぇ。

「玉葱、少なくない…?」
「嘘だろう?」
「もう一個、行く…?」
「断る」

 こいつは悪魔か。

「ほら次はお前の担当だろう。ティッシュを寄越してさっさと作れ」
「それが人に物を頼む態度…?」
「頼むからティッシュをくれないか」
「断る…」

 まじか。

「わたしが作り終わるまで、そのまま…」
「どうしたお前悪魔に転職でもしたのか?」
「クリスは元々こんな感じでしょう?」
「わたしは心まで天使じゃん…」
「心まで天使の子は入学初日に親友を道連れになんてしないよね」
「まだ根に持ってるのレグナ…」
「悪いけど一生言うからね?」

 なんて話をしながら、クリスティアはティッシュを脇に挟みつつ調理を始める。取れそうだな。未だにぐずぐずと鼻を啜りながら、それに手を伸ばす。

 瞬間。

「って」
「おいたしない…」
「おいたしたのはお前じゃないのか」

 パシンと良い音をたてて伸ばした手をはたかれたので素直に引っ込めた。

「これ胸に挟めたら最高だったよね…」
「取ってみなさいよ的な感じですか」
「そうそれ…発育が乏しくて挟む胸もない」

 吹いたわ。

「カリナだったら挟めるんじゃない…?」
「そしたら絶対に取らない自信があるな」
「私もこの男には取らせない自信がありますわ」
「元々女の子の方が取らせるようにするんだけどね?」

 誰がこの女の胸に挟まれたものを取るか。とりあえず切り終わって暇になり、若干目の痛みも引いてきたのでタマネギのスライスを持ってキッチンの奥に周り、彼女がやっていないスープの方に手をつける。

「あらリアス、もう大丈夫なんですか? 料理始めて」
「全く持って大丈夫ではないが暇だからな。腹も減った」

 そう言えば、「そうですか」という声と同時に軽快な音が鳴る。今の今まで動画を撮っていたのか。

「じゃあカリナ、はい…」
「はいな」

 携帯をしまったのを確認して、クリスティアがカリナにティッシュを渡した。玉葱を持っていなければたたき落として奪い取れたのに。絶対狙っただろうこいつ。

「なんかこうやって4人で調理台のとこで話してんのもいいね」

 調理を進めていれば、レグナが言った。まぁ確かに悪くはないなとスープをかき混ぜながら思う。

「さっきリアスに言ってたけど、ルームシェアとか楽しそうだよね」
「ルーム、シェア…?」
「そ。4人で住むの」
「あら楽しそうですね」

 毎日この騒がしい状態が続くと想像するとものすごく疲れそうだが楽しそうでもあると思う。少なくともさっきレグナが言ったとおり煩悩も抑えられそうだとは思う。

「3年生くらいから4人で住み始めます? このおうちで」
「うちは決定なのか」
「だって寝床余ってるじゃないですか」
「レグナと、リアス様が同じ部屋…?」
「なんでそのペアなのかなクリスさん?」
「だってこういうときって、男女別なんじゃないの…」
「それは見ず知らずの仲の場合じゃない?」

 なんでうちの女子どもは同性でくっつけようとしているんだ。

 呆れつつ、できあがったスープに蓋をして、クリスティアが卵を焼き始めたので皿を出しに行く。
 この双子と同じ学校だとわかってから何故か4人分きちんと用意してしまった皿を持ってきてケチャップライスを盛りつけていけば、その上にクリスティアが焼き上がった卵を乗せていった。

「でも4人で住むとあれですよね、リアスがうかつに手を出せないんじゃないですか?」

 一瞬皿落としそうになったわ。

「…別に手を出す気はない」
「直前まではしたくせに…」
「もうこの話題やめないか」

 目の前の台にできあがったオムライスを置いていく。レグナがそれをテーブルに並べていき、カリナが他の食器を出し始めた。

「まぁ手を出す出さないは置いといて。自分で提案してあれだけど4人で住んだらクリスとの時間なくなっちゃわない?」
「その4人で住むというのは確定なのか?」
「あら、あくまで仮の話ですよ」

 このまま進めていくと本当になりそうで怖いんだが。

「だが現時点でもクリスティアと2人きりというのは中々ないだろう」

 学校もあるし、休日は割と双子と遊ぶし。完全に2人きりなのは朝起きた時と寝る時だけ。

「部屋がクリスティアと一緒なら、お前らと住むことになってもたいして変わらないんじゃないか?」

 オムライスを作り終わり、クリスティアと共に食器や作った物を並べてくれたリビングへ向かう。

「なら一緒に住んじゃいます? わざわざ来るのも面倒ですし」
「レグナにも言ったが俺はお前と24時間一緒にいられるのは一週間ほどが限界だ」
「奇遇ですね私もですわ」

 なら何故提案したんだこの女は。
 なんて思ったのが通じたのか、目の前に座ったカリナはにっこりと笑って。

「では食べましょうか」

 と思い切り話を逸らす。もう慣れているので追求はしないが。斜め前に座ったレグナが手を合わせ。

「じゃあせーの」
「「いただきます」」

 掛け声の後に、4人揃ってそう言った。

「ほんとに一緒に住むの…?」

 夜。レグナ達も帰り、風呂を終え、9時半。ベッドヘッドに寄りかかって本を読んでいたら、うつ伏せになって同じく本を読んでいたクリスティアが聞いてきた。それに、首を振る。

「言っただろう、俺はカリナと24時間一緒にいられるのは一週間が限界だ」
「お互い仲良しなのにそんなに嫌なの…」
「あいつと俺は別に仲良しではないからな?」

 信頼はしているが。

「まぁ本当に住む、という話になったら別に構わないとは思うがな」

 さすがに今すぐはごめん被りたいが。

「また繰り返すとしても、最後の年くらいは4人一緒にいても良いだろう」

 なんて言えば、クリスティアは微笑む。

「楽しそう…」
「騒がしそうだ」
「でも、悪くないでしょ…?」

 聞かれて。

「まぁな」

 4人ならばいいかと、思う。どうせ家は広いし、カリナはまた体調を崩すだろうし。レグナだっていちいち愛原家と行き来するならこの家で全員でいた方が楽しいかとは思う。

「最後の年、楽しみ…」
「おいまだ決まっていない」
「悪くないって言った…」
「決定事項ではないからな?」

 視野にはいれておこうかとは思うが。

「どうせ断りきれずおっけーするんでしょ…」
「話題が出ればな」
「出してあげるよ…」
「やめろカリナがノってくる」

 そういうときのカリナは面倒だからごめん被りたい。ただ、まぁ。と思って、本を閉じる。

「もし仮に、その話題が出て一緒に住むとしたら、だ」
「ん…?」

 不思議そうに見上げてくるクリスティアに微笑んで。

「こういう休みの日、2人きりになれるのは今だけだな?」
「そだね…」

 彼女から本を奪って、本についていたしおりを挟んで、ベッドサイドに置く。

「リアス様ー…? わっ」

 うつ伏せで寝転がっている彼女を反転させて組み敷いてやる。驚いた瞳に、また笑って。

「え、あの…」
「俺は言ったなクリスティア」
「へ…」
「”覚えていろよ”、と」

 言った瞬間、顔がひきつる。それを見てさらに自分の笑みが深まるのを感じた。
 さすがに出来ないことをする気はないため初日のような事はしないが。

「4人で住んだら部屋に飛び込んできそうなことは、今のうちにやっておかないとな?」

 なんて、いろんな事を思わせること言えば、何を想像したのか顔を赤くする。確かにこいつが想像しているであろうことをできないのはきついがこれを見ているだけで満足するのも本心だ。

 笑って、一度上体を起こして。自分の手を、彼女の体に持って行く。

「え、あの、リアス様…」

 ゆっくり持って行ったところで。

「っ、ふふ、あはは、待って」

 わき腹に手を添えて、思い切りくすぐってやった。

「待って待って、あはは、くすぐったい」
「言っただろう逆にお前が泣かされると」
「い、言ったけど、待って、くすぐったい!」
「足の方が良かったか?」
「ちが、あはははは!」

 普段ここまで声を上げて笑いはしない彼女に満足しながら。

 とりあえず涙が出るまで思い切りくすぐってやった。

『2年後は、もしかしたら4人一緒かもしれないから』/リアス