変わらない騒がしさに、楽しさ半分、疲労半分

2019-07-09

「…何故いるんだ?」

 夜9時半近く。クリスティアは今日は眠かったらしく早く寝ていて。その寝入った直後辺りに双子から”今から行く”と言う連絡があった。明日からいないから何か渡すつもりだろうと了承し、程なくして。インターホンが鳴り、いつも通りモニターを見ずにドアを開けたことを若干後悔した。
 目の前には、案の定荷物を持った双子。そしてその後ろには。

 陽真と武煉の、上級生組。

「やっほー、来ちゃった」
「来ちゃったじゃねぇよなんでいる」
「ほんとにオマエら一緒に住んでんだな」
「聞け」
「さすがに夜遅いですからね。後輩だけで歩かせるのはどうかと思って陽真と一緒に来たんですよ」

 なんとなく陽真が”来たい”と駄々をこねたのではと思うのは気のせいか。

「というかお前ら先に連絡を入れてくれないか」
「忘れてましたわ」
「嘘つけ」

 しっかり来ることは連絡してきたじゃねぇか。呆れてため息を吐いたそんな時。

「リアスさまー…?」

 小さな声で、恋人の声が聞こえた。

「やべ」
「え、クリス寝てたの?」
「眠かったらしい。勝手に上がってろ」
「はいな」

 双子にそれだけ言って、部屋の方に戻る。渡される物によっては起こそうかと思ってはいたが自力で起きるとは予想外だった。
 少し小走りで廊下を抜け、部屋のドアを開けた。

「クリスティア」
「リアスさまー…」

 眠気眼の恋人に近寄りつつ腕を広げれば、子供のようにすり寄ってくる。特に泣いてもいなさそうなので別に怖い夢を見たわけではないのかと安堵した。

「なんじ…」
「9時半。カリナ達が来てる」
「あさー…?」
「夜」
「なんでー…」
「さぁな、俺も知らん」

 いつもよりふわふわとしたしゃべり方に心にクるものを感じつつ、とりあえず待たせるわけにもいかないかとクリスティアを抱き上げてリビングへ向かった。

「わ、ほんとに一緒の部屋なのオマエら」
「お前のその情報はどっから来るんだ毎度毎度」
「そりゃ一人しかいないじゃんリアス」
「そうだよな」

 その女を睨みつけてみるがにっこり笑われた。

「それにしても、刹那を起こして良かったんですか?」
「構わない。どうせ起こす予定だった」

 クリスティアを抱えつつ冷蔵庫に向かう途中で聞いてきた武煉にそう返し、一度クリスティアを降ろす。首に回されていた手が腰に回ってきたのに構わず、冷蔵庫から麦茶を出して4人分のコップを出しまたリビングへ戻る。なるべく後ろにひっついているクリスティアが転ばないようにしながら歩いて、テーブルにコップや麦茶を置いた。

「好きに飲め」
「サンキュー、って今更だけどいいの、オレら上がっちゃって」
「親友達を送ってくれた奴らを無碍にするほど非常識じゃない」
「あなたそういうところだけ本当に常識的ですよね」
「お前ら双子は連絡においては本当に非常識だよな」
「類は友を呼ぶって言うじゃんリアス」

 それ以上何も言えなかった。
 とりあえずクリスティアを前に来させて、テーブルの近くに座って膝の上にクリスティアを座らせる。未だに夢見心地の彼女は今にも寝そうだ。軽く揺すれば、閉じかけた目が開き、また閉じようとする。

「先にクリスティアが寝てるか確認しておけば良かったですね」

 それを見たカリナが少し申し訳なさそうに言う。お前俺に対してはそんな申し訳なさそうな顔しないだろう。

「少しすれば起きるだろう。ほら起きろ」
「んー…」
「龍、あまり無理矢理起こすのは良くないんじゃ…大丈夫なんですか?」
「起こさないと後で文句を言うのはこいつだ」

 なんで起こしてくれなかったのだのもっとしっかり起こしてよだのうるさそうだしな。テーブルに置いてある麦茶の入れ物を持って頬につけてやれば。

「つっめた…」
「起きろと言っているだろう」
「安眠妨害なんていい度胸…」

 ものすごく不機嫌そうに起きた。

「めっちゃ機嫌悪そうじゃん刹那ちゃん」
「なに…はるまたちもきてたの…?」
「おはよう刹那、お邪魔してます」
「…はよ…」

 段々意識もはっきりしてきたのか、目元をこすりながら辺りを見回す。

「おはようございますですわクリスティア」
「ごめんね起こして」
「だいじょぶ…あとでリアス様蹴飛ばすから…」
「全く持って何が大丈夫かわからないんだが」

 確かに起こし方が良くないとは思っているが。

「あんな起こし方なくない…?」
「どうせ後で駄々捏ねるだろう」
「優しく起こしてよ…」
「それをやって起きた試しがないからこうしたんだ」

 無理矢理起こさないとすぐ二度寝するだろうが。

「で? 何でこんな夜遅くに来たんだ?」

 10時も近いと言うことであまり長居させるのも憚られるので本題に戻る。するとカリナはぱっと顔を明るくした。

「忘れてましたわ!」
「忘れるな」
「これですこれ」
「蓮クンが頑張ったヤツね」
「私も頑張りましたわ」
「ほとんど外してたじゃないですか…」
「まぁまぁ、カリナも頑張ったよ」

 なんて話しながらカリナが大きめの袋を持ってこちらにやってくる。俺達の前に座って、クリスティアに差し出した。

「今日夏祭りだったので行ってみたんですよ。そしたらこの子がいたので」
「…?」
「夏祭りなんてやっていたのか」
「毎年7月末になるとエシュト主催でやってんだよ。オレたち地元組は毎年行ってるよな」
「そうだね。そして陽真はよく俺のところからいなくなるね」
「それは武煉先輩の女遊びが激しいからでしょ?」
「蓮クン大正解」

 ちょっとした衝撃事実に驚いていれば、下のクリスティアの雰囲気が明るくなる。

「いいものでも…ぅぐっ」

 同時に、暗くなる視界。

「見てリアス様…! ルーナくん…!」
「とりあえずもう少し離してくれないと見れないんだが?」
「すごい…! おっきい…! もふもふ…!」
「伝えてくれるのは嬉しいが落ち着け」

 見てと俺の目に押しつけるようにしているので悪いが俺には全く見えん。

「ほらクリス、リアス見えないって」

 レグナがそれを一旦取り上げてくれたのか、視界にはもらったものを追うクリスティアが広がった。心なしか目が輝いて嬉しそうだ。

「龍クン大丈夫?」
「すげぇふわふわしていた」
「目に毛とか入らなかったかい?」
「割とギリギリだった」

 笑いを堪えている上級生2人に安否を伝え、クリスティアの視線を追う。そこには、クリスティアが好きなブランド、”ルナノワール”のイメージキャラクター、ルーナ。比較的大きくクリスティア好みのいいふわふわ具合をしている。あれ目に入ってたらめちゃくちゃ痛かったな。

「レグナが取ったのか?」

 レグナから返してもらい、嬉しそうに抱きしめるクリスティアの髪を撫でつつ聞く。

「んー、最終的には?」
「最初は華凜ちゃんが頑張ったんだけどね」
「彼女には輪投げの才能がなくてですね」
「武煉先輩お口を一度塞ぎましょうか」

 どうやらカリナが頑張ったが無理だったのを見かねて、もしくは頼られて折れて、レグナがこいつを獲得してきたらしい。随分でかいから上の賞じゃないのかこれ。

「あ、でもリアス大丈夫だよ、カリナの見てたから一回で終わったし」
「そうか」

 恐らく相当頑張ったのではという顔をしていたのがわかったのか、レグナがそう言った。まぁこいつなら感覚を掴めば武器的にも得意分野に入るだろう。こちらに時間をかけてあまり祭りを回れていない、とかでないのならいいか。

「それとクリス、こちらも」
「ん…」

 ご機嫌なクリスティアに、カリナがもう一つの袋をクリスティアに差し出した。よく祭りになると見かけるキャラ物の袋。

「わたあめ…!」
「お好きでしょう?」
「うん…!」

 さらなるプレゼントに珍しく顔を明るくして喜ぶクリスティア。その顔を見れるのはもちろん嬉しいんだが。

「おいこんなにもらっていいのか。お前達が祭りに行ったんだろう」

 当の本人達よりも楽しませてもらっている気がして、聞いてみる。が、双子も、そして上級生組もきょとんとして。

「せっかくクリスの好きなものあったんだし」
「それをスルーなんて出来ませんわ」
「刹那ちゃんの嬉しそうな顔も見れたことだし?」
「こちらはこちらで楽しんでいたからね。大丈夫ですよ」
「ちなみにリアスにはお好み焼きあるよ」

 なんて楽しげに言うので。

「…もらう」

 それならばいいかとまだ少し熱の持ったお好み焼きを受け取った。

「さてそろそろ帰りましょうかね」

 俺がお好み焼きを、クリスティアが綿飴を食べ10時を少し過ぎた頃。カリナが満足したと言わんばかりに立ち上がって言った。

「明日大丈夫なのか」
「平気だよ、行くのは昼からだし」
「華凜たちはどこか行くんですか?」
「一度フランスに。長期休みにはなるべく帰るよう言われていますの」
「龍と刹那ちゃんは行かねぇの?」
「行かん」

 義父には会いたくないし。クリスティアの両親も何も連絡が来ていないから忙しいんだろうし。

「あんまり行かないと向こうから連絡来るんじゃないの?」
「頃合いを見て義姉には連絡はする。冬くらいに」
「え、オマエ姉ちゃんいんの」
「義理のな」

 今回の家の奴らはあまり好きではないが、義姉はお節介だが心を許せるのでそのうち連絡はする。そのうち。

「龍は一人っ子のイメージですけどね。それか下にいるか、ですか」
「義理の姉ができる前は一人っ子だ」

 一番初めの人生じゃ下にいたから武煉の予想もあながち間違えじゃないが。

「結構後輩クンたちって見た目のイメージと違うよなぁ」
「それはお前達にも言えることだからな? 武煉と陽真は真逆にしか思えないんだが」

 そう話しながら、玄関まで見送りに出る。

「オレこんなに一途なのに」
「思いっきり遊んでそうだがな」
「やっぱりリアスもそう思うよね?」
「わたしも思った…」
「ひでぇ」
「俺も初めは女の子遊びひどいのかなって思ったよ陽真」
「オレはものすごく純情なヤツかと思ってたよ武煉」

 人は見かけによらないとはまさにこのことか。腕を組んで壁にもたれ掛かり見ていれば、全員靴を履き終わり、カリナが「では」と言う。

「お邪魔しましたわ」
「ごめんねリアス、クリスティア。夜遅くに」
「いや。こちらこそもらってばかりですまない。クリスティア」
「ん…」

 そのまま帰ろうとする前に、クリスティアに促すように名を呼ぶ。もらったルーナを大事そうに抱きかかえ、頷いて。

「あの…」
「どうした刹那ちゃん」
「…ありがと…いっぱい…」

 少し微笑んで礼を言えば、一瞬4人はきょとんとしたが、嬉しそうに微笑んで。

「どういたしましてですわ」
「楽しいものも見れましたし、こちらこそありがとうだよ刹那」
「また連絡するわリアス」
「ああ」
「また来るね龍クン」
「来んな」

 なにさりげなく来ようとしてる。

「家の前まで来れば入れてくれますよ陽真先輩」
「おいそこの女止まれ」
「今度から兄ちゃんが女連れてきてて武煉のとこにも女いたらここに来よっかな」
「お前もノるな」

 出ていきながらとんでもない話をし始めている2人に声をかけるが意に介さず。呆れてため息をつく。

「頑張れリアス」
「そのときはお願いしますね龍」
「待て武煉」

 労ってくれる親友に紛れてさりげなく自分の友人を任せようとする武煉にさらにため息をついて。

「賑やかになるね…」
「勘弁してくれ…」

 夏休みくらいゆっくり過ごさせて欲しいと、その背を見送った。

『変わらない騒がしさに、楽しさ半分、疲労半分』/リアス