あなただけは、ずっと変わらない私の親友

「炎上君たちの班はどうしましょうかね~」

 さぁやって参りましたわ護衛テスト。エシュト学園から少し離れたところの会場に車で移動し、11時少し前に到着。”エシュト学園生徒用”と看板が出ていた部屋に行けば、担当の江馬先生が迎えてくれました。
 以前提出したメンバー構成を見てポジションを配置して、当日告知、だそうなのですが。

「…俺達のところはまだ決まっていないと?」
「ちょっと悩んでしまいまして~」

 のほほんと笑う江馬先生に、彼女の生徒である私と閃吏くんは苦笑い、リアスはため息。

「悩んでいると言われましても…もう始まりますのよ?」
「そうなんですよね~」

 いやそうなんですよねじゃないでしょうよ。

「ねぇ、江馬先生はどうして悩んでいるのかしら?」
「2階のどの位置に配置するか、ですかね~」
「2階は決定なんだな?」
「そうです~」

 今まで会場の紙に目を落としていた江馬先生が、リアスの問いにこちらを向いていつもの穏やかな顔で笑う。けれど、その目は本当に教師のように真剣な目。いや教師なんですけども。

「1年生で組まれたチームで、一番戦力があるのは炎上君が率いるこのチームになります。先生としては~、全体を見回せて、かつ有事の際にさっと動ける場所に配置したいんですね~」

 案外この方はしっかり考えている方なんだと初めて知りましたわ。

「炎上君達は場慣れしている感じがすごいので~、こういう場所なら動きやすい、などがあれば嬉しいんですけど~、いかがです?」

 言われて、私も、レグナもクリスティアもリアスを見た。

「…何故俺を見る」
「あなたが一番良い案を出しそうなので」
「華凜に同じく」
「わたしこういうの苦手…」

 そう言えば、リアスはため息を吐いて。

「…入り口はいくつかあるのか」
「いいえ~、防犯用も兼ねて一つだけになります~」
「ならその真正面に配置してくれ。何かあったときすぐわかる」
「わかりました! では炎上君たちはこの位置ですね~」

 微笑んで了承していただき、江馬先生は持っていた紙に丸をつけて、リアスに渡す。

「開始までにこの場に着いてくださいね~。あとこれをお渡しします~」

 そう言って渡されたのは無線1つと連絡用スマホ人数分。無線はとても小型で恐らくつけていても周りからはわからなさそうですね。

「ないとは思いますが、不審な人物がいた場合は必ず一度私に連絡をいれること。緊急の場合にも、”突撃します”だけの一言は必ず入れるようにしてください~。また、対処の場合もなるべく隠密に。向こうが騒ぎを起こしたらそれまでですが~、今回の目的はパーティーを無事に終了させること。こちらから仕掛ける場合はなるべく影響が出ないようにお願いしますね~」
「わかった」
「では、健闘を祈ります~」

 リアスの返事に、笑顔で見送る江馬先生に一礼して6人で控え室を去る。そのまま会場の方へと向かい始めました。

「無線はどなたが持ちます? 閃吏くんや道化さん、持ってみますか?」
「ええっ? 俺は無理だよ、的確な指示とかできないし」
「あたしもこういうのは初めてだから厳しいわ」

 とりあえずと思って聞いてみましたが本人たちから願い下げでしたか。

「刹那は論外として…蓮にします?」
「なんでわたしは論外…」

 口下手すぎるからですよ、というのは言わず頭を撫でておいた。

「別に俺はいいけど。龍も論外だし?」
「そうだな。ただ今回はお前が良いんじゃないのか華凜」

 あなたに聞くとそう返ってくるから聞かなかったのに。

「…別に構いませんが」
「不服そうだな」
「毎回こういうのを押しつけられるからですよ。戦力にならないのは重々承知していますが」
「お前は交渉や支援で十分戦力になっているだろう。今回は隠密ありだ。だったら蓮を自由に動かせる方が良い」

 ご意見はごもっともですわ。

「えっと、波風君は隠密得意なの?」
「んー、得意ってわけでもないけど…この4人じゃ一番適任なんじゃない? 武器的にもね」

 愛用の千本を一本だけ出して、閃吏くんに笑う。私は刀、クリスティアは氷刃、リアスは暗器もいろいろ持っているけれど普段は使わない。一番慣れているのはレグナですもんね。毎度こういう伝達や交渉ばかりなのでたまには前線に出たいですが、これも任務ですものね。息を吐いて。

「わかりましたわ、無線係は私がやります」
「お願いするわね、愛原さん」
「お任せを」

 にっこりと笑う道化さんに笑い返して、会場へと続く大きな扉の前に立った。時計を見れば、時刻は11時45分。

「持ち場に着けば丁度ですかね」
「だろうな」
「では皆さん連絡用のスマホを」
「あらありがとう」
「えっと、何かあったときに離れたらこれ使えばいいってことだよね」
「そうなりますわ」

 全員に連絡用のスマホを渡して、では行きましょうかと扉に手をかけたところで。

「ああ、そうだ」

 リアスが、思い出したように口を開きました。

「刹那」

 名を呼んで、彼女の前に片膝をつく。

「なぁに…?」

 不思議そうに首を傾げるクリスティアに、リアスは綺麗に笑う。

 あ、これ良くないやつかも。

「今日はパーティーだから、少し他の奴らとも話す。嫌かもしれないが、我慢できるな?」
「ん」
「それと名目は”護衛”だ。基本は指示待ち。わかるか」
「だいじょぶ…」

 まるで子供に言い聞かせるように言って、「そうか」とさらに綺麗に笑う。待ってものすごく怖い。けれどクリスティアは笑っているリアスに恐れどころか笑っていることに嬉しさを感じている様子。笑っているのを見てクリスティアも心なしか微笑んで応じてます。

「なら」

 その綺麗な笑みは崩さぬまま、指を鳴らすような手を作って、リアスは彼女の顔の前に持って行った。不思議そうな顔の恋人に、一言。

「今日勝手なことをしたらレッドカードだ。意味、わかるよな?」

 そう、言われて。その言葉を飲み込んで。わかった瞬間に、クリスティアの顔は青ざめて、恐怖の顔に変わる。その言葉の意味を知っている私とレグナは全力で引いた顔になりました。
 4月の見回りのことを相当根に持っているんでしょうね。「次勝手なことをしたらお仕置き」だそうです。そのお仕置きが怖いこと知っているクリスティアが震えちゃってるじゃないですか。そんな彼女に構わず。

「刹那」

 さらに圧を加えるように、名を呼ぶ。

「……気をつけます、全力で」
「いい子だ」

 きちんと返事をしたクリスティアに、いつもの無表情に戻ったリアスは立ち上がった。

「さぁ行くか」
「あなた本当に最低ですね」
「任務を遂行しなければならないからな」
「閃吏、道化。これが恐怖政治ってやつだよ、覚えときな」
「とりあえず良いものではないということはわかったわ」
「え、炎上君て、ほんとに色んな意味ですごいね…」

 心なしか2人の顔も引いている様子。ですよね、やっぱり引きますよね。なんて思いながら、扉を開けて会場へと足を踏み入れた。

「うわぁ…すごいね」
「未知の世界だわ」

 中々こう言った場には来ないらしい2人の感動の声を聞きながら、会場を見回す。エシュト学園演習場の4分の1くらいの広さでしょうか。大きな会場に、豪華な装飾。あちらこちらにはまぁお金持ちですよ感がハンパないお偉い方たち。これ相当なパーティーですね。テストも兼ねてと聞いていたので小規模な軽いものかと思ったのですが。本職がいると言っても中々責任重大ですね。

「あれがシャンデリアかしら」
「そう…」
「あの、よくあるマンガとか雑誌で見たことある風景を生で見れるって思わなかったなぁ」
「エシュトに来て良かったかもね閃吏たち」
「うん、貴重な体験だね」

《これより、7月期懇親会パーティーを行います》

 会話を聞きつつ状況把握の為に会場を隅々まで見回して。2階へ続く階段を上り、先ほど入ってきた扉が目の前に来る場所へとたどり着けば、司会者らしい女性がそうアナウンスをかけました。

「懇親会だったんですね」
「夏休み前に、みんなでお楽しみ…?」
「そんで俺たちが護衛してるのかよ」
「偉い奴らはのんきだな」
「あはは…」
「でもパーティーでお食事できるのはいいわね、お昼抜いてきて良かったわ」

 まぁ普段食べられないものを食べれるのはいいですよね、なんて2階から下を見下ろし、祝辞だの乾杯だのを聞きながら話す。

《それではみなさま、ごゆっくりとお楽しみくださいませ》

「あの、護衛って具体的にどうすればいいのかな」

 司会者のその言葉で各々が食事や会話をし始める。辺りを警戒しながら不自然にならぬよう立っていれば、閃吏くんが聞いてきました。

「そうですねぇ…。基本は護衛対象を見ていること。ですが今回は誰か1人の護衛というわけではないので常に全体に気を配っていなければなりませんね」

 一応役割分担のためのポジションですが。全てに気を配っておいて損はないでしょう。

「あとは…如何に馴染めるか、ですかね」
「見ているだけなら馴染む必要なんてあるのかしら?」
「江馬先生も言っていたでしょう? 如何に紛れて警護にあたるか。とても重要ですわ」

 なんて言ってもまだあまり理解できていない様子。そんなとき、リアスが口を開きました。

「例えば、この誰もが談笑しているパーティーの中。護衛だからと警戒心丸出しの奴がいたらどう思う」
「そりゃあ不審と思うわよ」
「そうだろう」

 リアスに続いて、レグナも付け加える。

「それにさ、仮に不審な奴がいたらその警戒心は牽制にもなるけど、何かあるんじゃないかって他の人たちもびっくりしちゃうじゃん? 目的は”無事にパーティーを終わらせること”。護衛対象にも、他の人たちにも不安与えてたら”無事に”とは言えないでしょ」
「みんな、楽しく終わらせるのが、目的…」
「…案外難しいのね」
「まぁ簡単とは言えませんわね」

 気張りますし。

「ただ今日は俺たちがいるから。気楽に現場慣れ、って感じで良いんじゃない」
「入り口の警備も厳重だからな」
「というわけで、楽しみましょう?」

 そう言えば、閃吏くんも道化さんも安心したように笑う。それを見て、私も笑った。

「もし」

 さぁそれではお食事でも行ってみますかと足を踏み出そうとしたところで、肩を叩かれる。

「はい?」

 振り返れば、30代くらいの男性。その顔はどこかで見たことあるような。えーと、確か義父との仕事相手の方でしたっけ? パーティーだとこういう方に逢うから面倒ですよねと思うけれど、閃吏くんたちにとっては良い機会でしょうか。いつもよりは大人びた感じで微笑む。

「あなたは愛原家のお嬢さんではございませんか?」
「そうですわ。父のお仕事先の方ですわよね」
「ああ、顔を覚えてくださったんですか」
「父がお世話になっておりますので当然ですわ」

 正直はっきりとは全然覚えてないんですけどね。

「ということはそちらの少年は…」

 なんて私の思いはつゆ知らず、彼は私の隣にいた兄を見る。そうです、と笑って。

「お兄様ですわ」
「やっぱり! 波風財閥のご子息でしたか!」
「妹がお世話になってます」

 愛原家を傘下にしている波風家の養子であるレグナ。話を向けられた瞬間に、外向けようの笑顔を張り付ける。

「波風財閥の方にはいつもお世話になっておりまして…本日はお父様方は?」
「いえ、今日は所用がありまして…妹と代理できたんです」
「そうでしたか。ではお父様によろしくお伝えください」
「わかりました、今後とも妹共々よろしくお願いします」

 一礼した兄に合わせて、私も頭を下げる。正直このレグナがいつもと違いすぎて笑いそうですが頑張って笑顔を作った。

「こちらこそ! あぁそうだ、もしよければあちらでお話など…」

 おそらく私たちの家と親しみを持っておきたい男性の言葉に、兄妹そろって申し訳なさそうな顔をして。

「いえ、今日は大事な友人たちもいますので…」
「申し訳ありませんが、ご遠慮いたしますわ」
「ああ、そうでしたか。すみません」

 リアスたちに手を向けてそう断れば、頭を下げられ、「では」と去っていく男性。

 それを見送って、数秒。

「俺もう帰りたい」
「頑張りなさいな」

 一気に真顔に戻った兄に労いの言葉をかけてあげた。

「めっちゃめんどくさいじゃんいると思ったようちの仕事先の人とか!」
「声を抑えなさいな」
「な、波風君と愛原さんってすごいところなんだね…」
「名字でもしかしたらとは思っていたけれど、おうちもそうだしやっぱりすごい家だったのね…」
「すごいのかはわかりませんが、ちょっと有名なところなんですよ」

 そこの本当の子供ではないんですけれどね。

「まぁ、もし話しかけられたらあんな風に返せば大丈夫ですわ、当たり障りなく、笑顔で!」
「あたし自信がないわ…」
「美織ちゃん奇遇だね、俺もだよ」

 笑顔要員の目にまた不安が宿ってしまった。

「なんかあったらフォローするって」
「うぅ、お願いするわよ波風くん、愛原さん…」
「というか、笑顔って炎上君たちは平気なの?」
「何が」
「ほら、えっと、あんまり言うのもあれだけど、笑わないから」
「一応そういう場所ではきちんとする」
「あら、意外ね」
「任務を遂行するためだからな。とりあえず腹が減った」
「行きましょうか」

 笑わないように頑張ろうと心に誓って、近場にあるテーブルへと向かいました。

「ねぇ、あなた初めて見る子だけれど、パーティーに来るのは初めて?」

 さりげなく他のお偉い方(主に私とレグナ目当てですが)と話しながら、食事も楽しみつつ護衛に当たっていると、何人かの女性が話しかけてきました。

 リアスに。

 来ましたか、と一応腹筋に力を入れる。

 いつもならめんどくさそうな顔をしますが、さすがに場所をわきまえているので、リアスは綺麗に微笑んだ。

「いえ、何度かは出席してます」

 普段敬語なんて使わないリアスにやはり慣れないなと違和感を覚えつつも、不自然にならないようにとスイーツや飲み物に適度に触れる。

「えぇー、私達も結構出席しているけれど見たことないわ!」
「たまたま出ているものが違ったのでは?」
「あ、そうよね! こんなにかっこいい人、いたら絶対注目浴びるはずだもの!」
「それは光栄です」

 絶対光栄じゃないでしょうよ。あ、ちょっとマカロン持つ手が震える。ちらっとレグナを見れば、平然な顔しているけれどワイングラスが震えてる。道化さんや閃吏くんもちょっと顔頑張ってる感すごいです。そりゃそうですよね、あのリアスが微笑んで敬語。これできるんだから普段からもやればいいのにと思いながら、いつもはこんな女の子に囲まれると嫉妬で抱きつく彼の恋人に目を向ける。

「…」

 けれど彼女はリアスの言いつけ通り、今日は静かに、どちらかというと私達寄りの場所に立っている。偉いですね、ちゃんと言いつけ守ってます。

「ねぇ、あなたどこの家の方かしら」
「言ってもわかりませんよ」
「そうなの? でもここにいるってことは結構なお家柄ってことよね」
「家同士でも仲良くしたいし、メアド交換なんてどうかしら」
「生憎今は携帯を持っていませんので」

 その後ろポケットに入っている板はなんでしょうか。

 残念がりながらもイケメンと話せて嬉しそうな彼女たち。まぁほんとによくモテること。クリスは大丈夫かしら。たぶん心の中はすごい嫉妬でしょうね。見ないようにこっちに来させますかと声をかけようとしたところで。

「…」

 クリスティアは、リアスの元へ歩き出す。え、行っちゃいます?

「っと」

 ちょっとハラハラしながら下手に止めるのもあれだろうと見守る。案の定クリスティアはリアスに抱きついた。

 そうして、一言。

「お兄ちゃん! 刹那置いてお話ばっかりなんてひどい!」

 あ、閃吏くんが飲み物吹いた。

「あら、妹さん?」
「そうです。妹の方が初めてでして」
「そうだったの」

 こっちが必死で笑いをこらえる中、リアスはクリスティアの横に片膝をつく。

「ほら刹那、初めての人には挨拶をしろと教えたろう?」
「お兄ちゃんが勝手に話し始めたから刹那、なんもできなかった…」

 普段絶対そんな表情しないでしょうというくらい目をうるうるさせて悲しそうな顔をする刹那。あ、今度は道化さんが食べ物喉に詰まらせてる。

「悪かった。ほら、そっちのお姉さん達に挨拶は?」
「…」
「今日の為に頑張って練習しただろう」

 そう言えば、クリスティアは片膝をついたリアスの後ろに隠れるようにして。

「…刹那、です…」

 ちょっと恥ずかしそうに顔を赤くして、そう挨拶をした。

「まー! かわいい妹さんね」

 そんなかわいらしさを見せられてしまえば、20代くらいのお姉さま方は心を射止められてしまって。目線を合わせるようにしゃがんで、今度はクリスティアをロックオン。

「綺麗な髪ねー」
「ねぇ、刹那ちゃんは何歳?」
「10歳!」

 嘘吐かないでくださいそこの16歳。

「ちょうどパーティー出始める頃ね」
「緊張してない?」
「お兄ちゃんがいるからね、刹那平気なの」
「そっかぁお兄ちゃん大好きなのね」

 そう聞かれたら、言えない彼女は満面の笑みを浮かべる。人生で一回見るか見ないかの笑顔いただきました。

「お兄ちゃん、刹那いるのに浮気しちゃだめ」
「悪いな、俺は刹那一筋だから許してくれ」

 なんて冗談なのか本気なのかわからないことを言いながら、リアスはクリスティアを抱き上げる。そこで、どなたかの携帯が鳴りました。

「あ、ねぇパパに呼ばれた」
「え、うっそ」
「行かなきゃ! お兄ちゃん盗っちゃってごめんねー刹那ちゃん」
「んーん、平気」
「今度逢ったときにはまた話しましょうね刹那ちゃん」
「うん! またね、お姉ちゃん達」

 その音はお姉さま方のものだったようで。父親に呼ばれたらしいお姉さま方は去っていき、それを笑顔で見送る刹那。

 数秒後。

「妹じゃないんですけど…」
「お前が言ったんだろうが」

 一気に無表情に戻るお2人方。腹筋がとても震えています私。未だにむせている道化さんたちや笑いをこらえている私たちに構わず、2人はギスギスと話し出す。

「お前何でああやって笑顔になれる癖に普段そんなに無表情なんだ」
「それブーメランだからね…? なにあの笑い方…モテるからってでれでれして…」
「してねぇよ。つーかあれほどいい子にしてろって言っただろうが。肋骨折る勢いで抱きついて来やがって」
「か弱い女の子が肋骨なんて折るわけないじゃん…何度言ったらわかるの…」
「お前はまだ自分がか弱い女だと思っているのか?」
「どこを、どう見ても、か弱い女の子じゃん」
「詐欺とはまさにこのことだな」
「降ろしてもらった瞬間にピンヒールでその足貫通させようかお兄ちゃん…」
「ごめん被る」

「とりあえずその辺にしなさいな」

 延々と言い合いを続けそうな2人に声を震わせながら止めに入れば、ものすごく不服そうにだけれど言い合いは終わりました。リアスがクリスティアを降ろし、水分補給のために彼女を連れてこちらに来る。

「え、炎上君たち、す、すごいね…」
「あたし生きてきた中ですごい恐ろしいものをみた気がするわ」
「場は弁えているからな」
「いつものごとく俺たち笑いこらえんのすっげぇ大変だったんだからな?」
「閃吏くんも道化さんも飲み物吹いたり食べ物を喉に詰まらせたり大変だったんですよ」
「正直死ぬかと思ったわ、二重の意味で」
「パーティーだとあんな感じだよ…?」
「それ、普段からやったらいいんじゃないかな…? 特に氷河さん」
「だめ…あれはこういう、私が龍の恋人だってわからない場所じゃないとできない…」

 いやたぶん恋人でもあのノリなら敵も減ると思うんですが。どうせ無理だと言われるのでそこは言いませんけど。

《お待たせいたしました! これよりお楽しみ大会となります!》

 なんて話していたら、1階でそんなアナウンスと歓声が聞こえました。下を見てみれば、私たちの真下にある壇上に、大きなガラポン。

「…くじ引き大会ですか?」
「偉い奴らはのんきだな」

 ええ本当に。

「お楽しみして、終わりになる…?」
「時間的にそんな感じですね」

 パーティーの終了時刻は午後2時。現在1時過ぎ。一人一人あのガラポンを引いていくとなれば結構な時間がかかるもの。あれをやってそれではみなさんまた今度、みたいな流れですかね。それを見てレグナが呆れ顔で。

「これってさ、さすがに2次会みたいなのはないよね?」
「えっと、そんな合コンみたいな感じじゃ、ないんじゃないかな?」

 ノリ的にはありそうですけどね、と閃吏くんに心の中で返す。

「行くとしても個人的にじゃないかしら。炎上くん、誘われないように気をつけなきゃね?」
「終わったらさっさと出るから大丈夫だ」

 その終わった瞬間に殺到しそうですが。まぁこの男ならうまく切り抜けるでしょう。

 それにしてもだいぶ平和に終わりそうですね、とワイングラスに注がれたジュースを飲む。さすが本職の方が出入り口で警備しているからでしょうか。不審な方は見あたらず。まぁいても困るんですけどね。

 そう、思っていれば。

「…!」
「! 華凜」
「まじですか…」

 隣にいたクリスティアの手が、何かに反応したようにぴくりと動く。

 それを、嫌な知らせだということを知っている。

 あれ? 私フラグ回収者でしたっけ? 兄の役目だったと思うんですが。

「蓮」
「おっけー」
「な、なに? 何かあったのかしら」
「えっと、どうかしたの?」

 私たちの雰囲気が変わったことで、お2人も何かあったと気づいた様子。

「恐らく何かが来ましたわ」
「ええと、何かって?」
「さぁな。刹那、どれかわかるか」
「まだ、来てない…」

 ならまだ安全でしょうかと首を振るクリスティアを見て思う。とりあえず私は連絡をしましょうか。

「江馬先生、聞こえますか? 愛原です」
《は~い、どうしました~?》

 無線を繋げれば、いつもののほほんとした声。一瞬気が抜けそうになるけれど、引き締めて。

「もしかしたら不審者が侵入したようです」
《あらまぁ~》

 あらまぁじゃないでしょうよ。気抜けますよほんとに。

《人はわかりますか~?》
「いえ、おそらく会場内にはまだ入ってきていないようです。わかり次第画像をお送りしますわ」
《お願いします~。急を要するようでしたらすぐに対応をお願いしますね~》
「わかりました」
《ただ~、あんまり派手に魔力を使ってではなく~》
「なるべく隠密に、ですよね」
《そうです~お願いしますね~》
「はいな」

 返事をして、無線を切る。リアスたちに振り返って。

「いました?」
「入ってきた…。あれ…」

 そう言ったクリスティアの指先を追えば、見た目では不審者とはわからない、きっちりとした服装の男性。周りを見回しながら、2階へと上がっている。

「普通の人じゃないかしら?」
「違う…ぞわぞわする…」
「氷河さん、よくわかるね」
「まぁ面倒な副産物だ」
「えっと、副産物?」
「あなた方も体験したでしょう? 刹那に対する生徒たちの視線を」

 言えば、ああ、と苦い顔をするお2人。

「どんなに気にしないようにしてても、人って嫌な目線には敏感になっちゃうでしょ? 刹那はやっぱりこうやって笑わないこと多いからさ」
「嫌な目線を向けられ続けて、人に対して敏感になったんだ」

 あまり嬉しい能力とは言えませんけどね。

「でもあの、それだけでこう、変な人入ってきたってわかるの?」

 閃吏くんの言葉に、少し考えて、リアスは口を開いた。

「例えばいじめられた奴だったり、家庭環境が良くない奴だったり。理由は様々だが、”人の顔色を窺う”という状況に常に立たされた奴はそういうものに敏感になる。嫌な目線には特にな。相手がどう思っているのか、自分はどう思われているのか。それがあまりにも特化した結果がこれだ。おぞましいもの、怖い雰囲気の奴。普通では気づきにくいものでもこいつにはわかる」
「害をなすのか否か、ってね」
「こういう護衛任務では助かるんですけどねぇ」
「なんか、あれだね」
「本人的にはあまりいいものじゃないわね」

 まぁ彼女は自分に向けられるものは基本的に気にしてないんですがね。一時期は気にしてましたが、現在ではどちらかというとリアスを盗られないために活用してますけど。
 とりあえずその件は置いておいて、先ほどもらったスマホで一度その男の写真を撮ってから、再び無線をつなぐ。

《は~い》
「愛原です、見つけましたわ。写真をお送りします。照合をお願いできますか?」
《了解です~》

 写真を送って、その男が不審なことをしないか見ながら返事を待った。

《愛原さーん、聞こえます~?》
「はいな」

 待つ時間はそう長くなく、再びのんきな声が返ってくる。

《そうですねぇ~、仰ったとおり、招待されていない全く関係のない方のようです~。ただ招待状は本物だったので、どなたかとすり替わって入ったか、というのが一番有力ですね~》
「どうした方がよろしいでしょう?」
《ん~、できれば早急に確保、ですね~。どなたかとすり替わって入っているということは、何か嫌な目的があって来ているからでしょうから~》

 このパーティーに出席する誰かに何かをするため、ですかね。なんのマンガですか。

《とりあえず今、この段階で何かしそうな雰囲気はありますか~?》

 聞かれて、リアスを見る。首を振られたのを見て。

「いえ、今すぐに、と言うわけではないかと」
《では~、何も起きない今のままで事を収めたいので~、うまく会場から出してもらえますか~? 不審者と悟られなければどのような方法でもおっけーです~》
「わかりました」
《他のポジションにいる生徒たちには私から伝えておくので~、何かあったらまた連絡をお願いします~》
「はいな。ではまた」

 無線を切って。

「とりあえず、この何もしない状態で会場の外に連れ出して欲しいとのことです」
「接触はありでいいの?」
「ええ、参加者の方に不審者と悟られなければどのようにしても、と」
「それは果たして隠密なのかしら」

 ばれなければ隠密です、きっと。

「えっと、じゃあどうすればいいかな?」

 閃吏くんの切り出しに、全員でリアスを見る。彼は考える間もなく、指示を出し始めた。

「まずは接触を図った方がいいな。華凜と蓮が妥当だろう」
「お任せを」
「一応あの催しもので気が引けてるから良いが、向こうがどう動くかはわからん。道化と閃吏はあいつから離れたところ…、もうくじを引き終わった奴らが集まっているところで待機だ。騒ぎがあったとき、一番に気を引かれやすいあいつらのとこにいて、何か起きた瞬間にそれを上回るもので気を引け」
「マジックでも良いかしら?」
「なんでもいい。なんならナイフ投げのナイフも貸す」
「それって俺が的になるよね炎上君!?」

 十中八九そんな感じですわね。

「俺と刹那は階段から離れたところの柱にいる。気は進まないが女の気は引けるだろう」
「一番適任ですわね龍」
「正直とてもやりたくないがな」

 でしょうね。

「では作戦は大丈夫ですね?」
「任せて! いざとなったらあっと驚くことをするわ!」
「美織ちゃんの支援は任せて、暴走する前にちゃんと止めるから」

 暴走することがあるのですかというのはとりあえず置いておきましょうか。何を起きるかわからないこの状況で悠長に話している時間はない。

「不審な動きがあればこっちも動く。道化、閃吏、お前達は唯一1階だ。なにか不審なものがあったら触らずすぐに連絡しろ」
「わかったわ」
「では行きましょうか」

 うなずいたのを確認して、ひとまず同じ方向に行き、途中でさりげなくばらける。道化さんたちはそのまま下へ。リアスとクリスティアは階段付近の柱へ。
 私とレグナは、ターゲットへ。

「あっ」

 いきなり話しかけると不審ですから。兄と談笑するフリをしながら近づき、さりげなく私がぶつかる。トンッと衝撃と同時に身を引いて、少し大げさに尻餅を付いた。

「いたた…」
「華凜、大丈夫?」
「ええ、すみません、ぶつかってしまって」

 レグナに引っ張られながら起きあがって、目の前の男性に申し訳なさそうに謝る。

「え!? あ、いや、こ、こここちらこそ!?」

 動揺しすぎでしょうよ。侵入したならもっとわかりづらくなさいな。

「お怪我はございませんか?」
「え、ええ、大丈夫です」

 思わずアドバイスをしたくなるのを押さえて、とりあえず接触という第1段階は突破。申し訳なさそうな顔でもう一度頭を下げれば、兄が「あれ」と言い出す。

「お兄さん、どっかで見かけた顔ですね」
「え!?」
「ねぇ華凜?」

 話を振られて、こんな人逢ったことないですよねなんてことは言わない。

「そうですね。どこかでお逢いしました?」

 合わせるように頷いて、相手がレスポンスするよう疑問系で会話を進めていく。

「そ、そうだね、少し前に違うパーティーに出席していたから…そこでじゃないかな」
「まぁそうでしたか。今下でくじが行われていますが、行かないんですの?」
「い、いや私はもう引いてきたので…」
「あれ? 俺上にいたけど…お兄さんさっき入ってきてましたよね」

 なんてレグナが言えば、彼の顔がひきつる。

「もしかして急を要するご用事でした? 引き留めてしまって申し訳ないことしてしまいましたね」
「あ、ああ、いえ、とんでもない! ちょっと探し人をですね…」
「あ、それならお詫びにお手伝いしますよ? たださすがに全員はわかんないから…。確か控え室に出席の名簿があったんでもしよければ見に行きませんか?」

 ぐっじょぶレグナ。ここで彼に与えられた選択肢は2つ。応じるか、逃げるか。本来相手側の立場から考えれば賢明なのは前者。応じて控え室まで連れて行き、そこで私たち2人を拘束でもなんでもすれば事はすんなり進む。

 けれど。

「い、いえ! 大丈夫です!」

 彼が選んだのは、後者。慌てて後ずさろうとする彼に若干ため息が出そうになる。この人ほんとに不審者なんですか? 挙動は確かにおかしいけれども。
 とりあえず彼が私たちから視線を逸らした一瞬の隙を見て、リアスを見る。群がる女性の合間からこちらを見ていたリアスはうなずき、恐らく隣にいるであろう恋人に指示を出すはず。それまでこちらがもう少し。

「でも…上から探すよりでしたら名簿を見てその方の元へ行った方がよいのではなくて? もしかしたら私たちの知り合いかもしれませんし…」
「いやいや、ほんとに大丈夫ですので! すみません、お手数をおかけして!」

 徐々に後ずさってその場をあとにしようとする男。ほんの少しずつ、逃げるために階段へ近づいていく。男が走り出すか出さないかのところで。

「おい刹那! 勝手にそっちに行くな!」

 来た。

 普段の彼はあまり出さない大きな声と同時に、視界の横で、小さな水色の髪が走ってくる。

「わっ」
「っ! 今度は何だ!?」

 偶然を装って思い切りぶつかれば、小さな体は負けて思い切り転んでしまった。その勢いに任せて、彼女は男のスーツにさりげなく化粧をつけて汚す。

「おい! 気をつけろ!!」

 しかも幸運なことに。男はピリピリしていたのか、すごい剣幕で少女に怒鳴った。ぐっじょぶですクリスティア。さぁ頑張って。

「っ…」

 起きあがった彼女は、転んだ衝撃と偶然にもものすごい剣幕を向けられ、悲しそうに顔をゆがませていく。目は潤み、しゃくりあげ。

 
「うあぁぁぁおにいちゃぁぁぁん」

 10歳(仮)の子供ならでは。大泣きを始めた。

「なに?」
「子供が泣いてるー」

「! ちっ…」

 少し大きめの泣き声は人の視線を集め、さらに男の逃げ場をなくす。あのときこちらに応じていればよかったものを、と思ってしまうのは仕方ないですよね。

「刹那」

 そこでうちのチート様が現れればもう布陣は完璧。刹那を抱きしめ、男に申し訳なさそうな顔を作る。ひっさびさにそんな申し訳なさそうな顔見ましたよ。

「すまない、妹が」
「っい、いや、平気です。こちらこそ怒鳴ってすみません…」
「いえ…。! あの、スーツに汚れが…」
「えっ」

 リアスが男の右ポケット付近にある化粧汚れを指摘した。慌てて落とそうとするも、落ちず逆に広がるだけ。

「すみません、すぐに替えのものを用意させます」
「いや、結構だ!」

 だからなんでこの人は応じないのかしら。応じてしまえばこちら的にも早いものを。

 そこで。

「お兄ちゃん」
「ん?」

 クリスティアが、まだ少しぐすぐすと鼻をすすりながら口を開く。

「あのね、刹那ね、ぶつかったとき、痛かった」
「お前が勝手に行くからだろう。きちんと謝れ」
「違うの、あのね、ぶつかったときね、ほっぺにとがったのが当たったの」

 この子の演技力どうなってるんですか。ものすごすぎて会話が地味に耳に入りづらい。けれど聞き落としてはいけないものが。その言葉を聞いた瞬間に、男が青ざめていく。あー、これいけないやつですか。

「とがったの?」
「ほっぺにね、ごつごつしてとがったのが当たったの…もしかしたら刹那、お兄さんが大事にしまってたの、傷つけちゃったかなぁ…」
「…と言っているんですが…、何かポケットに入れてましたか?」

 リアスが聞く。あんまりこういうもって行き方はしたくないんですがやむを得ませんよね。こういうタイプが追いつめられたときにとる行動と言えば。

「っお、お前ら…! 大人しくこっちに来てもらおうか…!」

 逆上。クリスティアが指摘したポケットから黄色いとがった石のようなものを出し、私たちにわかるくらいの声で脅し始める。
 手に取るようにわかりますねこの男は。

「い、いいか。騒いだらこれを…! わかってるな…!?」

 爆発するとでも言いたいんですかね。呆れてため息が出そうになるのを堪えていたら、リアスは立ち上がり、男へと近づいていく。

「お、おい…!? こっち来るな…!」
「それ、やってみたらどうだ」
「は!?」
「やってみろと言っているんだ。どうせ爆発物なんだろう? スイッチはそちらのポケットか」

 ほんの少し笑みを浮かべて、リアスはなるべく多くの人には見られないよう彼の前に立つ。軽く肩を組むようにしていれば、先ほどクリスティアが大泣きしてこちらを向いたギャラリーは、彼らが知り合いだったのか、はたまた解決したのかと解釈し、目を離していく。

「お、おおお前、押したらどうなるのかわかっているのか!?」
「そりゃ爆発物なんだから爆発するんだろう。あんたは今日これを爆発させるために来たんだろう? ならやればいいんじゃないのか」
「し、死ぬんだぞ!?」

 その言葉に、ため息を吐いて。リアスは反対側に入っているであろうポケットを探る。お目当てのものがあったのか、それを抜き取れば、まぁおなじみのスイッチ。

「例えば押すタイミングを間違えた場合。爆発する規模があまりにも広かった場合。自分が巻き添えになって死ぬ可能性を考えなかったのか?」
「そ、そんなこと…俺は死ぬなんて嫌だからこうやって遠距離用に…!」
「死ぬのが嫌だから、ね…」

 スイッチをもてあそんでいた手を、彼の前にかざす。それはもう美しく笑って。

「は…」

 その男の、目の前で。

「死ぬ覚悟もないくせに、こういうことは企てるものじゃない」

 スイッチを、押した。

「まぁ何も起こる訳ないんだがな」

 押して数秒。何も起こることなく、会場は変わらずにぎわっています。

「な、なんで…」
「残念だったな、この世界が多くの能力者で溢れていて」

 笑って言えば、全てでなくても意図を察した男は、自分が死ぬことのなかった安堵からか糸が切れた人形のように崩れ落ちる。そんな男に、今度はレグナが近づいて。

「とりあえず、不審物所持、及び使用未遂ってことで」

 その肩を、叩く。

「ひっ…」

 置いた手からさりげなく千本を出して、首元に突きつけ。

「一旦外に行こっか? おにーさん」

 そう、笑顔で言えば。

「……はい……」

 怯えた顔で、了承いただきました。

「江馬先生、不審者捕獲、完了しました。炎上と波風がそちらに向かいますわ」
《了解です~。ご苦労様でした~。モニターで見ていましたが見事でしたね~》
「光栄ですわ」
《愛原さんたちも班のメンバーとして一緒に来てくださいね~。報告を済ませたらちょうど終了時刻になりますので~あなた方の班は報告で終了になります~》
「わかりました、早急に向かいます」

 リアス達がさりげなく友人を装いながら男を運ぶ中で江馬先生に報告し。今度は連絡用のスマホで下にいるチームメイトに電話をかける。

《はいはーい! 道化だよー!》
「道化さん、任務完了ですわ。江馬先生に報告がありますので扉の前に集合をお願いします」
《おっけー! すぐ行くわ!》
「ちなみに不審物などはありませんでした?」
《大丈夫だったわ! 偉い人が特に集まりそうな場所、入念に見てみたけどおかしなものは一つも!》
「ありがとうございます。ではまた」
《はーい!》

「では行きましょうか刹那」
「ん」

 スマホも切って、近くにいたクリスティアと共にリアス達を追った。

「まさかラストで不審者が入ると思いませんでしたね…」
「ほんとにね…わたしもびっくり…」
「あたしもびっくりだったわ」

 あれから、不審者を江馬先生に提出し諸々の報告を済ませたあと。
 明日から夏休みというご褒美をもらって、一度愛原邸に返ってきました。初めに刹那を着替えさせる部屋に女子で移動し、堅苦しいワンピースを脱ぎ始める。

「怪我がなくてよかったですわ刹那。道化さんも」
「炎上くんが下に配置してくれたおかげよ。けど見たかったわ、刹那ちゃんの大泣き。よく咄嗟に泣けたわね」
「目の縁に氷仕込んで置いたから…薄く膜みたいに張っとけば、体温で溶けて涙みたいになる…」
「嘘泣きにはもってこいの能力ね…」
「ちなみに龍もやりますよ、その手」
「是非見たいわ」
「今度動画撮っとくね…」
「あら、ありがとう」

 クリス、絶対あとでお仕置き食らいますよそれ。と言っても絶対その場では忘れているので言わないでおきましょうか。

「そういえば、爆発物を持ってたらしいわね」

 帰り道でクリーニングをすると言うのをあの手この手でやめさせたワンピースを受け取る。

「そうですね」
「スイッチを押したらしいけれど」
「龍ですね、押したのは」
「どうして爆発しなかったのかしら?」

 仮に見ていたとしてもさすがにわかりませんよね。不思議そうな道化さんに笑って。

「それも刹那の氷ですよ」
「凍らせたってことかしら」
「ええ、内部だけ。外側も凍らせてしまうとまた騒ぎになりませんから」
「何かあったんじゃないかーってことね」

 それに頷く。

「彼女が転んで、あの不審者のポケットに不審物が入ったというのがわかり、それを出した瞬間に、刹那が内部だけ凍らせたんですよ。機能を停止させてしまえばいくら押しても爆発なんてできませんから」
「あなたたちはほんとにチートなのね」
「とんでもないですわ。自分たちが持っている能力を最大限に生かしているだけです」

 リアスに関してはほんとにチート級ですけどね。
 着替え終わったクリスティアからも服を受け取って、忘れ物がないかを確認する。恐らく向こうはすでに着替え終わっているだろうから、私を服を、彼女たちは荷物を持って、部屋を出る。

「何かあなた方にプラスになるようなことはありました?」

 初の護衛任務。不審者が来たのもまぁある意味良い経験だったということで。彼女たちに何か利益はあったかと聞いてみた。

「あたしはあなたの交渉術を見習いたいわ」
「まぁ、光栄ですわね」
「いろいろな場面で使えそうだもの。会話とかで相手を引き入れさせるのはすごいと思う。道化師として魅力的だわ」
「そうですねぇ。その分面倒な交渉は全てお任せされますが?」
「勉強になるから何でも来いよ!」

 閃吏くんといい、ここの方々は向上心がありますねぇ。なんて思っていたら、いきなり道化さんが目の前に立つ。何かと思っていれば、可愛らしくにっこりと笑って。

「だからこれからも仲良くしてもらえると嬉しいわ、華凜ちゃん!」

 一瞬驚いたけれど、かわいらしいその笑みにつられるように、笑う。

「…えぇ、こちらこそお願いしますわ、美織さん」

 そう告げれば、とても嬉しそうな顔をして。彼女は先に私の部屋へと入っていった。

「…よかったね、お友達…」

 それを見送れば、隣から聞こえる声。そうですね、と頷いて。

「中々下の名前で呼ばれるのはむずがゆいですけれどね。彼女とはお話が合いそうですし、仲良くしてもらえるのは嬉しいですわ」
「ん…わたしも、嬉しい…」
「まぁあまり仲良くしてしまうと、この世を去るのが辛くなりますけどね」

 18歳でこの世を去る身。大切なものが増えてしまえば、手放すのも辛くなるというもの。

「…大丈夫」

 どのくらいの距離を保ちましょうかね、と考えながら美織さんを追うように部屋に入る直前。服を引っ張られる。振り向けば、笑った顔。

「辛い、けど…わたしは、ずっといるよ…」

 同じ辛さを知っている彼女のその言葉に、嬉しさが募って。

「そうですね。私もずっと、一緒にいますわ」

 床に服がばらまかれるのなんて気にせず、クリスティアを抱きしめた。

『あなただけは、ずっと変わらない私の親友』/カリナ