親友は、案外ちゃんと男の子

2019-07-05

 夏休みに入って、数日。今日はカップルの家でみんなで遊ぶ約束をしてたから、お昼過ぎたくらいのところでカリナと一緒にカップル宅に向かった。

「来たか」
「やっほー」
「おじゃましますわ」

 インターホンを鳴らして、塀のところからちょっと遠い玄関に向かえば、ちょうどリアス達が出てきた。

「いらっしゃい…」
「おじゃましますわクリスティア」
「ん…」

 ほんの少し汗ばんだ額を拭きつつ家に上がらせてもらって、リアスが予め用意してくれてたらしい麦茶を飲んで一息。

「ねぇ…」

 さぁなにしよっかと言おうとしたところで、クリスティアが口を開いた。珍しい、なんか提案あんのかな。

「どしたのクリス」
「リアス様を泣かせるにはどうしたらいい…?」

 どうした暑さで頭やられたか。

 聞き間違えだよね? 

「ごめんクリス、なんて?」
「リアス様を泣かせるにはどうしたらいいの…?」

 残念聞き間違えじゃなかったかぁ。ていうかどういう状況を経てその発想に至った。リアスを見てみるもいつもの無表情。答えはぜんっぜんわかんない。

「クリス、とりあえず事の経緯をお聞きしたいのですが」

 たぶん同じく状況が理解できてない妹が聞いてくれる。

「リアス様にね、泣かされかけたから…」
「リアス、ちょっとそこに正座して待っていなさい」
「首が飛びそうだから断る」

 待って首が飛ぶようなことしたの。

「クリス、なにされたんです?」
「襲われ、かけた…?」

 おっとカリナが日本刀持ち出したぞ。

「被告人リアス、弁明はある?」
「襲ってなんていないが?」

 両者食い違いが起こっております。

「じゃあ何したのさお前は…」
「時々額を合わせることがあるだろう」
「あるね」
「あれをベッドの上で組み敷いてやった」

 アウトじゃね?

「もう色々想像するよね…しかも聞いて、リアス様めっちゃ甘い…」
「甘い、ですか?」
「もうそういう雰囲気全開の甘さがあってやばかった…」
「って言ってるけど?」
「多少浮かれてはいたが甘いかどうかは知らん」

 あ、浮かれてたんだ。

「俺はただ額を合わせようとしただけで、勝手に勘違いをして半泣きだったのはクリスティアだ。俺に非はない」
「明らかに狙ってたんじゃないですか?」
「…別に?」

 目そらした。これ絶対狙ってたやつだ。

「だからね、泣かされかけたから、わたしもリアス様を泣かせたい…」
「そういうことならお手伝いしますわクリスティア」
「お前が絡むと禄な事にならなさそうだから嫌なんだが」
「こうなった自分の行動を悔やみなさい。ではクリス、早速作戦会議と行きましょうか」
「会議…?」
「私と一緒にリアスを泣かせる策を考えましょう?」

 そう言って、クリスティアの手を引くカリナ。向かう先は、リアスとクリスの部屋。

「おい部屋を移動する気か」
「あなたを泣かせるために作戦を練るのにあなたに聞かれたら意味ないじゃないですか」
「余計な事は教えるなよ」
「あら、余計なこととはどんなことでしょう?」

 なんていたずらっ子の顔で聞けば、リアスは言いよどむ。あんまり過激な話ってクリスの前ではしないんだよなぁ。胸の話はするくせに。

「では行きましょうか」
「ん…」
「怪我させるなよ」
「あなたのテリトリー内でけがをさせることの方が難しいでしょうに。何かあったらきちんと呼びますよ」
「それまでは、男子禁制…」
「というわけです♪ ではまた後ほど」

 笑って言って、カリナはクリスを連れて部屋に入って行った。

 数秒の、沈黙。

 とりあえずこっちはこっちで色々聞いてみようかと、その沈黙を破ったのは俺。

「で?」
「あ?」
「実際どうっだったわけ?」
「どうだったとは?」

 ぜってー聞かなくてもわかってんだろ。

「クリスのこと、襲いそうになっちゃった?」

 なんて笑って聞いてみれば、ため息をついて。

「前にも言ったろう。本気ではやらん」
「でもそういうの思わせる直前の行動まではしちゃうんだ」
「そこは許されても良くないか? 寝起きで好きな女がいるんだぞ?」
「毎日の出来事じゃん」
「こっちは毎朝必死だわ」

 若干疲れ気味のリアスに笑いがこみ上げてくる。そう言えば時代が進むに連れて一緒の家に住むなんてなかったもんなぁ。施設に入るときだって寝床は別だっただろうし。

「たまには親友の悩みでも聞いてやろっか?」

 なんて善意っぽく言ってみる。うん、多少の善意はあるよ。でも8割はめっちゃ話聞いてみたいだけ。なんてのはこいつにはお見通しらしく、ため息をついて口を開いた。

「と言っても別に悩みとかはないんだが。恋人として共にいられるしな」
「念願の同居だもんね」
「昔は当たり前だったんだがな」
「まぁ時代が進んで”みんな家族!” みたいなのはなくなったもんね」

 昔は村全体が家族、みたいな感じだったからどこで寝食をしようが自由だったのに。少し不便になったなぁとしみじみ思う。

「一緒に住まなくなってどんくらい?」
「本当にそういう制度が浮上してきた頃くらいだな。まぁ最低でも数百はあるだろう」
「でも昔はそんなに辛そうじゃなかったじゃん」
「繰り返しを始めて、少ししてくらいからはずっと兄妹のように育ってきたからな。あいつの身長的にも兄妹の方が通用しやすいし。恋愛感情はもちろんあったが妹を見ている感じというのと、生きるのに必死でそれどころじゃなかったというのもある」

 昔は争いもひどかったもんなぁ。いくら18歳で死ぬって決まってても何かの弾みでいきなりその日が運命になりました、なんてこともあるだろうし。その日を生きるので精一杯だったのはわかるかも。

「で? 争いの少なくなった現代で初めて一緒に住んで色々爆発しそうってわけ?」
「正直男がここまで辛いと初めて知った」

 俺はお前がこんな日常のことでそんな絶望顔するんだって初めて知ったわ。

「でも風呂とか一緒に入ってんじゃん」
「あいつの発育が乏しくてよかったと思う」
「お前それクリスが聞いたら殺されるぞ」

 確かに発育は乏しいけども。クリス聞いてないよね? と思ってドアの方に目を向けてみるけど、出てくる気配もないし魔力練ってる感じもしないから大丈夫そうだ。

「ただ最近本当に男として見られているのかが疑問に思う」

 リアスに目を戻せば、遠い目してる。うん、端から見ても恋人とは見えないよね、身長的にも。でもこいつが言ってるのはそういうんじゃないよね。

「例えば?」
「すぐ腹の上に跨がってくる」
「きついわ」
「そのまま揺られてみろ、きつい」

 7日の日もやってたけどあれは確かにきっついわ。

「風呂も時々きついときはあるな」
「あるの?」
「基本互いに端に座って向かい合って入っているんだが」
「うん」
「何を思うのか時々俺の間に入って寄りかかるように座ってくる」

 こいつほんとによく襲わないな。

「恋人いたことないけどものすごい辛いってことはわかるわ」
「あとは俺の上に乗って寝る」
「どういうこと」
「俺がソファに仰向けになって寝転がっていたら、暇になったのか上に乗って寝転がって挙げ句の果てに寝る」
「何でクリスは上に乗ろうとするんだよ」
「それをやるようになったのは夏になるとたまに金曜の夜にやるアニメを見てからだ」

 あれか。森に迷い込んだ女の子がもふもふの動物の上で寝たやつか。

「時々本気で一緒に住んだことを後悔する」
「まだ4ヶ月くらいじゃん。頑張れよ」
「あと3年弱持つと思うか?」
「う、うーん…」

 俺だったら無理だわ。

「そんなお預け状態が続いて、夏休みで一ヶ月半も24時間一緒にいれるとなったらそりゃ浮かれるだろう」
「浮かれるわ」
「多少、踏み越えてはいけないラインのぎりぎり位踏み込んでも罰は当たらないはずだ」
「お前もう一緒に住むのやめればいいじゃん」

 辛い思いしながら一緒に住むのはどうなのさ。そこで、あっと思い浮かぶ。

「あれならルームシェアでもしてみる?」
「ルームシェア?」
「そ。お前らカップルと、俺たち双子で」

 4人で住めば楽しいし煩悩に悩むことも少なくなるかなと思って提案してみれば。

「お前ならいいがあの女と24時間一緒に入れるのは1週間が限界だ」
「リアス、一応言っておくけど俺の妹だから」

 兄貴の前でなんてこと言うのこいつ。なんだかんだそうなったら一緒に住むんだろうけども。この案はだめだったかとため息をついて、極論。

「もういっそのこと踏み込んじゃえば?」
「さすがに絶対的に嫌がることをするのは憚られる」

 だったらギリギリもやめてやれよ。いっそしてくれと思うわ。

「だが今回はあれだったな」

 こいつほんとに無駄に紳士だなって思ってたら、ふと思い出したようにリアスが言った。

「ん?」
「怖がる素振りはなかった」
「え、よかったじゃん。大丈夫になったの?」
「いや、たぶん緊張と普段全くやらないことで頭が追いついていなかったんだろうな」

 すっげぇ目に見える。

「今度からそう言う感じで攻めてけば?」
「やりすぎると慣れないか?」
「毎回アプローチ変えてけばいいじゃん。恋愛小説でも貸そうか」
「ハッピーエンドは読まないからな」

 全く勉強にならないじゃねぇか。

「ていうかさリアス」

 とりあえず勉強は他の方法でさせようかと思って、そろそろ吐き出しきっただろう親友に一番気になったことを聞いてみる。

「何だ」
「朝襲いそうになったわけじゃん?」
「襲う気は最初からなかったからな?」
「うんまぁそこは置いといて」
「いや重要なんだが」

 大丈夫俺にとっては重要じゃない。

「負けず嫌いのクリスはリアスを泣かせたい、ってなったじゃん」
「そうだな」
「大丈夫なの?」
「何が」

 いやだって。

「一番はじめの時はなきむ…」
「お前それ以上言ったら脳天撃ち抜くからな」

 急いで口を噤んだ。

「というか元々あの頃だって泣いていたわけじゃない」
「でも涙は出やすいタイプだったよね」

 なんて言えばリアスはぐっと苦い顔をする。
 紅い目もあって大昔のあだ名は「泣き虫リアス」。懐かしいなぁ。言ったら殺されるから言わないけど。

「今は全然見なくなったけど、まだ涙もろかったりすんの?」
「さすがに何千年と生きていれば涙腺も強くなるだろう」
「お前の恋人は年々涙腺弱くなっていってない?」
「不思議だよな」
「原因はお前だよ」

 散々自分に依存させるから泣きやすくなったんだろ。

「いざなんかあったら涙でちゃったりしてね」
「今泣くとしたらあいつが消滅するときだろうな」

 さすがにリアスを泣かせたいが為にそこまではしないだろう。たぶん。カリナが止めてくれるはず。

「それにあいつの前では泣きたくない」
「かっこ悪いところ見せられないって?」
「一応男としてのプライドはあるからな」

 クリスの為にだいぶそのプライド捨ててる気もするけどな。ぬいぐるみ友達認定したり。やべ、思い出したら笑えてきた。

「…何笑っているんだ」
「いや、ちょっと思い出し笑い」
「思い出し笑いは変態らしいな」
「お前ほどじゃないから大丈夫だよ」
「俺を変態扱いしないでくれないか」
「言っちゃあれだけどお前はこの4人の中で一番変態だよ」
「おかしい」
「お望みなら何度でも言うけど?」
「断る」

 とりあえず笑いは抑えて、氷が溶けてきた麦茶を一口飲む。

「それにしてもクリスたちはどんなの考えてくるんだろうね」

 未だに作戦会議中であろう彼女たちに、期待半分嫌な予感半分。

「カリナがいるからどうせ禄なものじゃないだろう」
「もしかしたらすごい案出してくるかもしれないじゃん」
「お前が甘やかすから調子に乗ってああなったんじゃないのか」
「兄として当然のことしてるまでだけど?」

 なんて言ったらリアスがすごい哀れみの目を向けてくる。なにその目。

「お前は本当に残念な奴だな…」
「悪いけどお前にだけは言われたくないわ」

 過保護がなければイケメンで超かっこいい彼氏でいられんのに。ほんとに宝の持ち腐れだわ。

「今失礼なこと考えただろう」
「べっつにー?」

 読心術でも覚えてんのこいつ。適当にはぐらかして、そうだと思いつく。狙って使えるかはわかんないけど。

「リアス」
「ん?」

 にっこり笑って、告げる。

「クリスたちの作戦、まともなものだといいね」

 たまには妹たちの興に乗って上げようとフラグを立てるように言ってやれば、リアスはものすごくひきつった顔をした。

 作戦決行まで、きっとあと少し?

『親友は、案外ちゃんと男の子』/レグナ