正直あの時はやりすぎたと反省はしている

2019-06-22

「あ、炎上君たちも来たんだ」
『久しいですな炎上っ』

 前半戦といえる3演目を終わらせて昼休憩となった。正直興味はないが青組が優位らしいとモニターに出ていた点数表を見ながらレグナを連れてカリナ、クリスティアと合流した。一緒にいた紫電と俺たちが演目中に合流したであろう木乃とひとまず別れ、どこか昼飯を食える場所を捜して歩く。どこも人が多いなとふらふら歩きたどり着いたのは屋上。ここも普段人が多いがもう他にはないとドアを開ければ、意外と少ない人の中に見知った顔がいた。

「閃吏くん、それにユーアくん」
「!!」
「おっと」

 その顔をとらえた瞬間にああここでは穏やかに飯は食えないだろうなと思っていれば、背中に衝撃。視線を下にずらせば、細い腕。カリナの声を聞いてそこに”奴”がいると知り咄嗟に抱きついてきたんだろう。いやまぁ男的には嬉しいんだが。心なしか遠ざけようと後ろに引くのは勘弁してほしい。空腹なんだから力出ねぇよ。

「場所変える? 龍」
「と言ってもここ以外ないだろう、奥にでも行けばいい。おい刹那離せ」
「やだ…」

 移動が面倒だからと言う理由なのか、いつもよりは人が少ない。見た限り奥はなおさらだな。この後の演目は妨害守護合戦で参加者も多い。だから下で食べてる奴が多かったのか。

「えっと、俺たち移動すればいいかな?」
「いい、俺達が奥に行く。悪いな」
『一緒に食べないですか炎上っ』

 恐らく刹那がマジギレした件は知らないユーアが俺のズボンの裾を引っ張って聞く。その瞬間再び体を後ろに引かれた。おいクリスティアマジで苦しい。

「あは、無理だよユーアくん」

 苦しさで声を出せずにいれば、閃吏が笑って言う。こいつメンタル相当強いな?

『なにゆえですか閃吏っ』
「俺氷河さんに嫌われちゃってるから」
『?? なにゆえ嫌いですか氷河』
「…」

 トコトコとクリスティアの足下近くまで行ってユーアがのぞき込むように尋ねると、後ろで擦れる感じがした。恐らくそっぽ向いたのだとわかる。

「あとで閃吏にでも聞いてよ、ユーア。今腹減ってるからまた今度な」
「私たち兄妹はこのあとも演目がありますので」

 だんまりを続けるクリスティアを見かねて、双子が助け船を出す。

『むっ、すまなかったです。我と閃吏も次出るのでまた演目でお会いするです、おふたがた!』
「ええ、後ほど」
「また後でね、波風君、愛原さん」
「おー、またな」

 またと言っても俺たちが奥に行くだけでしばらく同じ空間にはいるんだが。そう思いつつも黙っておいて、後ろのクリスティアを引きずるように歩き出す。

「刹那歩きづらい」
「…じゃあおぶってもらう」
「は? ぅおっ」

 いきなり引っ張られる感じがゆるんだかと思ったら今度は突然の重みが。こいつ飛び乗って来やがったな。俺じゃなかったら崩れ落ちるぞ。

「お前な…」
「いーじゃん…」
「最近は刹那のデレ期でよかったじゃないですか龍」
「デレっていうより嫉妬じゃなくて??」
「男相手に嫉妬されてもな…」

 だいぶ奥の方まで進んで、ほとんど人もいないところで立ち止まる。

「おい降りろ」
「はーい…」

 なんだかんだおぶって運んでやったクリスティアにそう促せば、今度は素直に降りる。やっと飯にありつけると座れば、いつも家でしているようにクリスティアは胡座をかいた俺の足の上に乗ってきた。

「あらあら刹那ったら、今日は甘えんぼさんですね」
「ここ最近いちゃいちゃが多いね龍?」
「非情に食べづらいんだが」
「お前普段構うくせにこういうときに突き離すのなんなの?」

 いや本来こっちが素なんだが?

「刹那、せめてどちらかに寄ってくれ」
「どっちがいい…?」
「右」

 利き側じゃない方を言うと、クリスティアは右側に寄って俺が食事をするスペースを空けてくれる。そのまま俺がずっと持っていた、昼食が入っているコンビニ袋を漁って菓子パンを出すと開けて頬張った。好き勝手しといて俺の分は出さねぇのか。

「あなたのお姫様はまだご機嫌斜めなんですか?」
「だいぶ直ったんだと思ったんだがな」

 持ってきた弁当を食べながらくすくすと笑うカリナに若干苦笑いで返す。閃吏に会うとまだ無理だったか、とコンビニ袋から出したツナマヨのおにぎりを頬張った。

「そいえば龍たちって昼ご飯作ったりしないの? 今回ずっと買ってきてるよね」

 しばしの間無言で食事をしていたら、レグナが言う。2つ目のからあげおにぎりを開けて一口食べてから。

「昼はないな。夜は作るが」
「朝別に食べない派じゃないですよね」
「むしろ食べる方だ、特に俺が」
「でも作らないよ…。朝はパン…。お休みの日はたまに作るけど…」
「俺も朝はパンしか食わん」
「朝きっちり作ってそうなのにな」
「朝から箸動かすのなんて面倒だろう」
「ほんとそれ…」
「お前ら案外めんどくさがりだよね」

 朝からちまちましたもの動かしてられるか。

「作るのが面倒なら夜多めに作っておいて朝詰め込めばいいじゃないですか」
「夜の内に次の日用作っておくとか。どうせ作るの毎日交代なんだろ?」
「いやその通りだがなんでお前ら双子は俺たちの生活事情を知っているんだ…」
「前も言ったでしょう、あなた方は予想できるんですよ」

 そんなにか? 3つ目のツナマヨを開けながらそんなに予想できるのかと思う。いやこいつらだけか。特にカリナ。

「それか俺たちで作ってくる?」
「私が刹那に、蓮が龍に手作り弁当ですか?」
「なんでその組み合わせかはわかんないけどまぁそんな感じで」

 なぜこの女は同性でくっつけようとしてくるんだ毎度毎度。

「というか悪いだろう」
「そうだよ…。蓮が龍に作るのはいいとして華凜には悪いよ…」
「待ってなんで俺はいいのかな刹那さん?」
「提案したからには龍に作りたいのかなって…」
「そこでなんでお前も龍固定なのかな」
「え、自然とそうなるでしょ…?」
「自然だったら逆だよ逆」

 普通異性に作ってくるもんだろう。

「まぁ作ると言っても私たちでなく家の執事ですが」
「いやなお悪いわ。申し訳ないだろうが」
「あなたに申し訳ないと思う気持ちがあったんですね、意外ですわ」
「張ったおすぞ貴様」
「あら怖い」

 怖いと言ってる割にはくすくす笑って全然そうは見えないんだが。

「でもコンビニばっかだと栄養偏りそうだし、一回くらい作ってくるよ?」
「いらん、別に昼だけだし構わないだろう」
「そうは言いますがねぇ」

 若干心配そうな双子に、クリスティアがもそもそと菓子パンの最後の一口を頬張りながらぽつりとこぼす。

「コンビニは唯一自分の好きなものだけ買えるからこのままがいい…」
「だそうだ」
「あなた普段厳しい食育でもしてるんですか?」
「してねぇよ。どっちが当番になっても野菜は使えって言ってあるだけだ。傷むから」
「おかげで嫌いなのも使わなきゃいけないからコンビニが天国…。最新のスイーツとかあるし…」
「それはなんともまぁ…」
「天国を邪魔しちゃだめだな…」

「あ、いたいた」

 全員が一通り食べ終わって話していると、駆け寄ってくる足音と聞き覚えのある声。見れば、さっき別れた閃吏とユーアがこちらに来ていた。瞬間、クリスティアの雰囲気が少しだけ不快そうなものに変わる。笑いが出そうになるのをこらえながら、閃吏たちに聞く。

「どうした」
「えっと、そろそろ次の演目集まってってモニターが出たから」
『こちらでは見えていないかと思って来てみたですっ』
「あら」

 言われて校庭を見てみるも、確かに俺たちからは見えない。危なかったな。

「ありがと閃吏、俺たちも片づけたら行くよ」
「うん、わかった」
「龍たちはどうします?」
「もう少しいる。またさっきのところらへんに戻るから終わったら来いよ」
「はいよ」
「あっ、そうだ」

 レグナたちが片づけ始めたところで、閃吏は思い出したように言い、こちらに近寄ってきた。俺に用かと思ったが、その視線の先はクリスティア。近づくに連れて、クリスティアは俺にひっついてくる。ついでに言えば不快そうな雰囲気も悪化している。それでも構わず近寄ってくるこいつはやはり強者だなと的外れなことを思った。

「あのさ、氷河さん、甘いの好き?」

 クリスティアの視線に合わせるようにしてしゃがみ、男子にしてはかわいらしい顔でそう尋ねてくる。突然の質問に俺も、クリスティアも呆然とした。が、俺はすぐに我に返って。

「相当の甘党だ」

 どうせ本人は答えないだろうと代わりに答えてやる。それを聞いた閃吏は優しく笑った。

「じゃあ、はい、これ」

 そう言って差し出してきたのは、よく行くコンビニの、期間限定だとか言われていた甘味。そう言えばあれば食べてみたいと言っていた奴ではなかったか。

「これ…」
「あのね、俺お腹いっぱいになっちゃって。これからまた演目だし、生物だから夜まで持たなそうだし…。もしよかったらもらってくれないかな?」
「なんで…」
「氷河さん演目ないよね? 知り合いはみんな演目だから、他に人がいなくて。あの、余り物で申し訳ないんだけど、この前のお詫びもしてなかったから」

 困ったように言っているが、その瞳は優しい。恐らくクリスティアが来た時点でわざと残しておいたんだとわかった。

「炎上君、盗っちゃってごめんね。許して、ってわけじゃないけど、もしよかったら食べてほしいな」
「…」

 差し出されたその甘味を、クリスティアは受け取らない。
 クリスティアにとっては嫌いな奴。だが悪い奴でないこともわかっているし、他の奴らよりこの学園で生活する上での覚悟を持とうとしていることもわかっている。ただやはり俺を盗られるのがよほど嫌だったから(そもそも勘違いなんだが)、その手は伸びない。見かねて一つ、ため息をついて。

「食べ物を粗末にするな」
「……………ん」

 そう言ってやれば、俺の言葉にはほぼ絶対的に従うこいつは、おずおずと手を伸ばす。それだけで、閃吏はさらに笑みを深めた。

「言うことは」
「……閃吏」
「ん?」
「…あり、がと」
「えっと、どういたしまして」

 満足そうにほほえんで、閃吏は立ち上がる。

「悪いな」
「ううん、ほんとに俺も困ってたから。氷河さんが甘いもの好きで良かった」
『氷河は甘いもの好きですかっ、ならこれもおすすめです』
「なに…」

 一連の流れを見ていたユーアも、クリスティアが甘いものが好きだと知って、もふもふとした体をなびかせながら近づいてくる。その小さな手を差し出されたら、クリスティアも反射的に手を出した。
 そこに落ちてくるのは、ブロック型の飴。

『舐めてると味が変わるです、最近のまいぶーむです氷河』
「ありがと…」
『喜んでもらって嬉しいです氷河っ』

 呆然とした状態で礼を言えば、ユーアは微笑む。その光景にほんの少し頬が緩むのを感じていたら、ブザーと共にアナウンスが鳴った。

《妨害守護合戦に出席する生徒はすみやかに校庭に集まってください。繰り返します》

「わ、やべ」
「行きましょうか」
「あ、そうだね、じゃあまた!」
『また後ほどです炎上、氷河っ』

 集合を促すアナウンスを聞いて、レグナたち4人は慌てて駆けていった。その後ろ姿を見届けてから、クリスティアに目を移す。その顔は嬉しそうな、不服そうな。複雑な表情。

「よかったな」
「ん…」
「閃吏にもらったのは前に食べたいと言っていた奴だろう」
「ん」
「少しは見直してやれ」
「……」

 わかってはいるけれど認めたくはない。俺が紫電に対する気持ちと同じだろうなと苦笑いがこぼれた。

「あいつは人を盗ったりするタイプでもないだろう。あのときは俺が悪ふざけがすぎた」
「ん…」

 結果閃吏がさらに嫌われる形になったのは今現在大変申し訳なく思っている。

「食べたら感想でも言ってやれ。それであの件はチャラだ。いいな」
「……わかった」

 クリスティアの髪を梳きながら言い聞かせるように言ってやれば、素直に頷いた。さすがに好きなものをもらって無碍にするほどの奴じゃないのはわかっているが、くぎを差しておく。まぁしばらくは反射的に不快そうになるとは思うが。

「わかったらさっさと食え。レグナ達のが見れなくなる」
「はぁい…」

 促して食べさせれば、やはり食べたかったものなので嬉しいのか、段々とクリスティアから不快そうな雰囲気はなくなっていった。

 これでほんの少しくらい閃吏との仲が修復されればいいと願いながら、食べ終わるのを待った。

『正直あの時はやりすぎたと反省はしている』/リアス