最近の親友はとても忙しい

2019-06-25

「連続演目ってきついね…」
「さっきも似た言葉を聞いたな…」
「私ですね」
「おつかれ刹那」

 体育祭もラストの演目になった。さっきまでのは演目中に次の召集がかかってたけど、やっぱりラストって言うのもあってか、それともさっきのミッション遂行走の最後にリレーの走者がいたのか。今回はミッションが終わってから少しして、リレー参加者の召集がかかった。リアスと紫電先輩と木乃先輩、退場してきたカリナ&クリスティアを迎えて数分後のこと。心なしかクリスはぐったりしてる気がする。

「さてと、向かわなきゃね」
「そうだな。おい刹那行くぞ」
「あと5分…」

 5分待ってたら始まりそうだ。苦笑いして、クリスの腕をリアスと一緒に引っ張ってやる。ちょっと歩き出したところで。

「俺たちも行こうか陽真」
「最後だし頑張るか」

 上級生組も腰を上げた。まじか、木乃先輩たちもか。

「お二人方もなんですのね」
「そういう華凜は1人お留守番ですか」
「ええ、ゆっくり休んでますわ」

 今回留守番のカリナはそうにっこりと木乃先輩に返す。すごい何気ない会話だけどちょっと待ってね。

「華凜はいつの間に木乃先輩とそんな仲良くなったの?」

 さらっと木乃先輩が”華凜”って呼んだ気がするんだけど。いつの間に。問えば、木乃先輩はわたわたとし始めた。

「やっぱり兄上の許可を取った方がよかったですか…?」

 ごめんなんの許可?

「いや別に怒ってるとかではなく…この前までは名字呼びだったのに急にどうしたのかなって」

 そのわたわたした様子に釣られて俺もわたわたして返す。なんだこれ。二人でわたわたしてれば、カリナが答えてくれた。

「マラソンで一緒になった際、せっかくだからと賭事をしたんですよ。私が勝ったら武煉先輩が敬語をはずす、先輩が勝ったら私たちを名前で呼ぶ、という親交を深める賭けですわ」
「で、見事にお前が負けたということか。残念だったな」
「うるさいですよ龍」
「いって」

 なるほどなんて納得してたら地雷踏んだリアスがカリナに足踏まれた。あーあれは痛そうだ。

「わたしたちってことは、龍たちもはいる…?」
「まぁ華凜の言い方的にはそうだよね」

 裾を引っ張って言ってくるクリスにそう返す。でも、木乃先輩はカリナ以外はまだ下では呼んでない。どうなの、って目を2人で木乃先輩に向けたら、ちょっと苦笑いした。

「中々こう、タイミングをつかめなくてですね…。呼んでいいのかもわからないし」
「別に構いませんって言ったじゃないですか」
「それはそうなんですが」

 どうやらただ単にタイミングが合わなかっただけらしい。よかった距離置かれてるとかそう言うんじゃなくて。ちょっと焦った。

「別に俺たち下級生なんで大丈夫ですよ?」
「自由に呼べばいいだろう」
「なんでお前は上から目線なんだよ…」

 話し方的に仕方ないけどさ。龍に咎めつつも木乃先輩に言えば、顎に手を当てて悩んで、ちょっと困ったような、照れくさそうな顔で笑う。

「では蓮、龍、刹那で構わないかな?」
「ご勝手に…」
「なんでもいいですよー」
「ほら言ったでしょう?」
「よかったです。俺も下の名前で呼んでもらって構わないので。と言っても刹那はすでに下で呼んでますが」

 あ、確かにそうだ。なんて笑ってたら、声を上げたのはもう1人の先輩。

「武煉だけずるくね、オレもみんなと仲良くしたいんだけど」

 ちょっと拗ねたように言う紫電先輩。ちょっと弟っぽくてかわいいかもなんて思ったのは秘密にしとこう。

「わたしは陽真って呼んでる…」
「刹那ちゃんはいい子だ」
「紫電は今のままでもいいだろう」
「なんで!?」
「俺は仲良くする気はない」

 リアスがそう言えば、さらにむくれる。けど、すぐに何か思いついたようにいたずらっ子の顔になった。

「じゃあオレと刹那ちゃんだけ特別でいいってことか」
「あ?」

 ああほらすぐそうやって挑発に乗る。

「名前で呼び合っちゃう特別な関係かぁ。いいかもな」
「おい刹那に手出さないんじゃないのか」
「恋愛的には刹那ちゃんは違うけど、親友って立場ならありじゃん」
「男女の友情なんて成り立つか」
「待って龍、それ言われると俺と刹那が成り立たなくなる」

 カリナとリアスはどうでもいいかもしれないけども。

「刹那」
「めんどくさいからやだ」
「お前な…」

 たぶん呼び方直せって伝わったんだろうけど、クリスはばっさり。容赦ねぇな。

《バトルリレーの参加者は速やかに集まってください》

「あ」

 なんだかんだもだもだしてたら、アナウンスが鳴る。収集付けなきゃなってカリナと目を合わせて。

「とりあえず俺たちは武煉先輩と?」
「陽真先輩でいいってことですかね」

 そうまとめた。陽真先輩も武煉先輩もにっこりと笑う。

「ついでに蓮クン、敬語もいらないぜ」
「えっ」
「俺もふつうに話してくれて構いませんよ」
「え、じゃあお言葉に甘えて?」

 いいのかわかんないけど上級生2人に直々に言われたならいっか。

「龍以外はいい子だなオレたちの後輩は」
「悪かったないい子じゃなくて。なる気もないが」
「少しは年上を敬えよ龍クン?」
「断る」
「とりあえず向かおっか、これ俺たちでしょ?」
「たぶん…」
「では華凜、また後ほど」

「はいな、お気をつけて」
「あとでね…」

 延々と話し続けそうなリアスと陽真先輩を俺と武煉先輩が引きずって、その場をあとにした。

「番号が不思議だね」
「何かものすごく嫌な予感がするな…」

 受付を済ませて、特にクラス毎で並んでないみたいだからとさっきと同じメンバーで固まる。そこで1年の話題にあがったのは、いつも通り引いたくじの番号。

 俺が引いたのはグループ2ー1。この「ー1」が気になる。ちなみにクリスも一緒。そして2の部分だけだけど運悪くリアスも一緒。

「オマエらほんとに仲良いね」
「そういう陽真先輩たちもグループ2でしょ?」
「あったりー」

 聞けば、楽しげに2人は紙を見せてくる。ーの左側、2の部分は一緒だ。

「ま、これは知り合いと当たらない方が難しいよな」
「そうだね」

《これよりバトルリレーの説明を始めます》

 意味ありげに笑う2人に首を傾げながら、壇上に立った先生に目を向けた。

《このバトルリレーは本日最後の演目で、エシュト学園では伝統的に行われている演目になります》

 わぁこの時点で嫌な予感だわ。伝統的ってやつほどろくなものないよな。

《この演目では、各色の中で学年問わずランダムに組まれた6名一丸となり、他同様に組まれた11組と200メートルずつバトルをしながらリレーをします。全参加者を2グループに分け、さらにどのコースで走るかをくじには記載しています。左側がグループ、右側がコースです》

 言われて、くじを見る。ってことは、俺たちは第2グループで、俺とクリスは1コースを走るのか。リアス的にはよかったかも。俺もだけど。各クラス選抜された奴でっていう訳じゃないのがエシュト学園らしい。誰と組んでも頑張れよってことね。ていうか2つのグループってだいぶざっくり分けたな。

《走者は各コース同じになった人たちで自由に決めることができます。アンカーには戦力的にも走力的にも能力値が高い方をおすすめします》

 まぁ普通だよね、そうなるとラストはリアスっぽいけど。うわ当たりたくねぇ。そう言ってると当たるよね。知ってる。

《では具体的なルールについて。そのまま走るのもよしですが、演目名にもあるとおり、バトルが可能です。自分と同じレーンにいる走者に対して妨害を行うことができ、この演目はコースを外れることが可能。妨害守護合戦のように自由に動き回って他の走者の元へ直接妨害をすることができる演目です。といっても相手が重傷を負うほどのものは反則とみなしますのでご注意を。また、事前説明でもあったと思いますが妨害をできるのは自分の順番と同じ走者たちのみで、自身がバトンを持っている間のみとなります。前後の走者に向けて妨害をすることはできず、自分が順番を待っている間、もしくはバトンを渡したあとも妨害を行えませんのでそこもご注意を》

 コース外れていいってのはヒューマンにとっては利点かもな。近距離が得意な人は特に。これなら武煉先輩も心おきなく暴れそう。いまいちまだ能力値わかんないけど。

《最後に、この演目では障害物や制限時間はありませんので、時間を気にせず思う存分自身の力を発揮して頑張ってください。では10分後に第1グループから始めます。その間走る順番を決めておくように。また、他演目同様ヒューマンには貸出用の武器を用意しているので必要な方は各自取りに来てください。以上、頑張ってくださいね》

 そう笑って言って、先生はメガホンを切った。

「…とりあえず、行こっか、刹那?」
「ん…」

 自分のコースに行けば自然と集まるだろう予想して、同じ1コースのクリスに声をかけて歩き出す。

「怪我させるなよ」
「わーかってるって」

 誰が好きこのんで怒りを買うか。耳たこができそうなくらい言われたその言葉に返して、1コースに行けば。

「隣じゃん」
「そうだな」
「ついでにオレもその隣」
「俺はさらに隣ですね」

 結局全員固まってんじゃん。第1に俺とクリス、2に青組のリアス、3に黄色組の陽真先輩、4が武煉先輩。うっわめんどくさそう。

「波風じゃないか」
「しかも祈童もいんの」
「よろしく頼むぞ波風。氷河もな」
「どちらさまだろう…」
「同じクラスの祈童結きどうゆいだ」
「結…わかった」

「炎上くん、よろしくね」
「ああ」

 よくよく周りも見てみれば、同じコースには祈童。だいぶ離れてるけど7コースに見覚えのあるピンク髪。道化だな。そんで第2コースには閃吏。初めに陽真先輩たちが言ってたのはこういうことか。2グループにわけるから知り合い多いわ。

「じゃあ第2グループの1コースが揃ったところで作戦会議と行こうか」

 一応わかりやすくくじをかざしておけば、6人全員なんてすぐ集まって。祈童のかけ声で移動する。俺たちはすぐの出番じゃないから、少し離れた場所で丸くなった。とりあえず全員の顔を見ておこうかなって改めて他を見回してみる。俺たち含めて人型4人、ビースト2人か。

 そこで、ちょっと違和感。

「ねぇ刹那さん、気づく?」
「何が…?」

 あ、こいつはだめだ。

「祈童」
「ん?」
「このチームってさ」
「気づいたか! 全員1年だ!」
「だから何でお前はそんなに嬉しそうなの!」

 なんとなく全員が見覚えあるななんて思って祈童に声をかけてみたら大正解。しかもすげぇ嬉しそう。そんなになにか嬉しいのこいつは。俺的には絶望しかないんだけど?

「どんな確率だよ…」
「それにしてもよくわかったな波風」
「はっきり覚えてなくてもあるじゃん、見たことある的な」
「全然わかんなかった…」
「お前あの抜群の記憶力はどこに置いてきたの」

 5月の神経衰弱はどうした。まぁ興味がなかったんだろうなって説明ついちゃうけども。

「祈童は全員知り合い?」
「そうだな、体育祭前に演習場で知り合った者ばかりだ」
「また人型は全員ヒューマンなんてことないよね?」
「安心しろ、今回ヒューマンは僕1人だ」

 安心していいのかなそれ。

「波風と氷河のことは知ってる人多いが、波風たちは彼らを知らないよな?」
「そうだね」

 俺たちほんと有名人だな。暴れすぎたか。なんて今更ながらちょっと後悔した。

「1年だからまた逢うだろうし、名乗っておいた方がいいか」
「どっちでも…」

 あ、クリスの奴覚える気ねぇな。そんなクリスはお構いなしに、ビーストの片方、この中では一番でかい、クマで背中に妖精っぽい羽をはやしたビーストが勢いよく手を挙げる。

『じゃあボクから!!』

 見た目に反してすげぇ元気で愛嬌いいな。

『クマのビースト、ティノって言います! ご先祖のどっかで妖精と結婚したみたいなんでボクの背中にも妖精の羽があります! よろしく!』

 かわいらしく挨拶をしたティノ。…男だよな。ボクっ娘じゃないよな。ボクっ娘にしては見た目雄々しすぎるから男でいいんだよな。

『では次にわたくしが』

 そう疑問に思ってたら、その隣にいた、金糸雀かな。きれいにオレンジの羽や毛を伸ばした見るからに上品な鳥のビーストが一度会釈をして口を開く。会釈したときにクリスティアも釣られて会釈した瞬間を動画に納めたかった。

『見た目通り鳥のビースト、エルアノと申します。魔力は持っていますがあまり術には長けていないのでご容赦を』

 カリナより丁寧にそう挨拶をして、また会釈する。すげぇ上品だな。カリナもいたずらっぽさがなければこんな感じになるのか。

 ビースト組は挨拶を終えて、流れ的にその隣にいた人型に目を向ける。猫耳を模した、ちょっとおっきめなベレー帽を深く被った女の子。目があった瞬間に、俯いてさらに帽子を深く被った。俯いた先から小さな小さな声が聞こえる。

「え、えと、雫来しずき雪巴ゆきは、です。雪女の一族で、ハーフです、が、がんばりますっ」

 たどたどしくそう言って、さらに俯いてしまった。顔はよく見えないけどまぁ引っ込み思案なんだなって解決して。魔力持ちなら心強いと挨拶された3人によろしくって返した。そこでなんとなく、俺の右隣に座ってたクリスティアが動くのが見える。

「もふもふ…」
「はーい刹那さん大人しくしてようねっと」

 それがティノのもふもふ目当てだというのはすぐわかって。ティノに近づこうとする自由奔放な幼なじみの首根っこを捕まえてもう一回座らせといた。また勝手に動かないように腹に腕を回しておく。

「…氷河と波風は」
「付き合ってないから。うちの過保護から直々に許可得てるから」

 言われるであろう祈童からの言葉を先回りして封じる。もうリアスさん俺つらいよこれ。

「で、走る順番とか作戦とか決めたいんだけど?」

 ”やっぱりそこくっついてるの”って言うような視線に耐えられなくて、そう話を戻す。第1グループより時間はあるとは言えど、悠長に離してる暇もない。さっさと作戦練らなきゃ。俺が言えば、みんなもそうだと思い出したようにちょっと真剣そうになった。

「ラストはやはり氷河か波風だろ?」
「なんでそこ確定事項かな」
『戦闘力がある方がラスト、と言っていらっしゃったでしょう。ここは1年グループ。1年でもっとも強い部類に入るあなた方を候補にするのは当然では?』

 ですよね。

「あの、あ、足が速いのは、氷河さん、だよね…」
『100メートル走すごかったもんねー!』
「そう…?」
『うん! すっごく速かった! ボク氷河さんに1票!』
『わたくしもですわ』
「あ、わ、私も…!」
「女子であそこまで速いのは見たことないからな。脚力も踏まえてならみなの推薦通り氷河をラストに持って行くか?」
「あー、いや」

 誰もが一番良いと考えるその案に、俺だけはちょっと首を振る。

「龍がラストに来るのであれば、の話だけど。その場合はたぶん刹那は一番アウト、持ってっちゃだめかも」

 俺の言葉に、クリス以外はみんなびっくりした顔。そりゃそうだよね。一番対等に戦えそうな奴を却下するんだもん。

 でも幼なじみからしたら当然の判断。前みたいに”リアスを止める”っていう場合じゃないときの、何気ないバトルの場合。カリナも、おそらくクリスも。対リアス戦では絶対にクリスは使わない。

『一番速くて、炎上さんにも対策ができそうな恋人の氷河さんが妥当なのではなくて?』
「それは龍がガチギレしたときの話。こうやって人選を選べるなら刹那はまず外した方が無難かな」
「なにか、あの、不利になることとか、あるってこと…?」

 雫来に言葉に、んーってクリスを見て。

「”刷り込み”ってやつ?」

 言えば、全員が首を傾げた。突然刷り込みだって言われてもなんだそれってなるよな。苦笑いをこぼす。

「まぁ簡単に言えば、刹那は龍の言葉には無意識に反応するようになってるってこと。あいつは知識豊富でいつだって最良の選択ができる。刹那はその最良の選択をできる龍のずっと傍にいて、その選択に従うことが多い。ってことで、こいつの無意識下では”龍は正しい”、”龍の選択は従うもの”っていう刷り込みがいつの間にか完成されてるってわけ」

 それが何千年という付き合いになればなおさら。別に龍の言葉がなければ動けないわけじゃない。自由に動くし、むしろ一番自由人だし、それでリアスを困らせることも多いけど。重要なのは、”いざというとき”。そのときに、クリスの中では”リアスが絶対的存在”であること。

「そんでもってこの演目は妨害あり。いついかなるときでも正確な判断をしてゴールをめざせ。要は自分の能力をすべて生かして敵を蹴落としゴールしろ。能力なんて単に戦闘能力だけじゃない。相手を如何にして妨害するかっていうのも重要でしょ? 龍は自分が使えるものは何でも使うから。おそらくその刷り込みも利用して一番に刹那を蹴落とすはずだよ」
「それに戦闘力が高い人が集まるなら、陽真や武煉もいるだろうし…。陽真いるならなおさら遠ざけた方がいいんじゃない…」
「ガチギレしないようにな」

 たぶんもう陽真先輩も変な風にはしないだろうけど。そこにクリスを投入するのはあまりにも危険すぎる気がする。この学園が。
 一通り話したとこで、ティノが明るく言う。

『じゃあ波風くんが最後に走るってことで決まりだね!』

 まぁ必然的にそうなるよねとは思ってたけども。

「龍に勝てるかどうかはわかんないよ?」
「いいんじゃないか、元々1年組だ。勝てる見込みは低いんだろ?」

 祈童に言われて、んーって考える。

「やり方次第では他には勝てんじゃね?」
「そ、そうなの…?」
「単に相手を攻撃して邪魔します、ってだけが妨害じゃないじゃん? 戦闘にばっか特化した俺らにはちょっと加減が難しいけど」
「相手を驚かせたり、なにか気を引けるのがあれば、十分妨害…」
「そういうこと。さすが刹那」
『では驚かせたりすればよいということですか?』
「んー、そうだなぁ。どうしよっか」

 戦闘力がそこまで高くない1年組だもんなぁ。案を求めるように、クリスに目を向ける。視線に気づいたクリスは、ちょっと悩んで。

「カウンターで行けばいいんじゃない…?」
「か、カウンター…? えと、やり返せばいい、ってこと…?」
「1年生組だから…上の学年と当たったら戦闘力は劣っちゃうし…。自分から仕掛けるんじゃなくて、仕掛けられそうになったときに技を出す、みたいな…?」

 ねこだまし、みたいなことを言いたいのかな?

「つまりは直接妨害受けそうになったら、各々ねこだましして怯ませて、その隙に逃げ切れってことで」
「そうそれ…」
「説明下手にもほどがあるよ刹那さん…」

 ちょっとため息をつきたくなった。

《第2グループ、5分後に開始します。選手は各地点にて準備をしてください》

 そこまで話したとこで、もう準備のアナウンスがかかった。まじか、まともに決めてねぇわ。

「は、走る順番、どどどうしよう…!」
「では僕が一番に行こう!」

 コースに向かいつつ雫来が言えば、いつもの楽しそうな顔で言ったのは祈童。

「後半に戦力高めの者を置いておけば、前半に少し差を付けられても平気だろ?」
「まぁうん、俺の前に刹那入れればたぶん大丈夫」

 妨害受けなければ200メートルなんて20秒ちょっとだし。

「ならば力のない僕から行く。ラストは波風、その前が氷河で」
『では2番目はわたくしが行きましょう。スピードはありますが術が得意ではないので』
『じゃあ3番目はボクが行く! あんまり足速くないんだよね~』

 祈童から言っていけば、着々と順番が決まっていく。ってことは。

「雫来、流れ的に4番目になるけど大丈夫?」
「は、はい! がんばります!」

 控え目な性格で断れないかなと思ったけど案外やる気っぽいから大丈夫そうだ。

「すんなり決まったね…」
「だな。祈童、1番頼んだよ」
「任せろ。ラストは頼んだ」
「はいよ。じゃあ持ち場に行くか」

 リレーだからバトン渡されるとこで待ってなきゃいけない。祈童以外にそう言って、歩き出した。

「あ、刹那」
「ん」

 各地点でみんなと別れて、5番目のクリスのところ。じゃあ、って言い掛けたところで、ふと呼び止める。

「ちょっと手伝ってほしいんだけど」
「なぁに…?」

 さっきの作戦の中で思い浮かんだことを、クリスティアに耳打ちをして。

「わかった」

 ほほえんで了承を受けてから、改めて自分の持ち場へ向かった。

「で、やっぱりいるんだ?」
「勢ぞろいですね」
「あれ、刹那ちゃん来るって予想してたのにな」
「だから言っただろう、蓮が来ると」

 自分の持ち場に行けば、さっきも顔を合わせたできれば戦いたくないメンバー。陽真先輩に武煉先輩、そして案の定リアス。やっぱフラグ回収しちゃったよ。

「戦力的には刹那が来そうでしたがね」
「そうそう」
「蓮がいる時点でその選択肢はなくなっただろうな」

 隣に並べば、1人だけ俺が来ると予想してたリアスが意味ありげにほほえんで言う。やっぱお見通しか。

「やるからには勝ちたいからね、お前にも」
「期待している」

 互いに好戦的に笑って。頭の中で攻略法を練って準備を始めたら。

《それでは第2グループ、スタートです》

 銃声の音が鳴って、俺たちのグループがスタートした。

「なぁ、蓮のとこってみんな1年生?」
「みんな俺たちの学年では見ない顔だね」

 って言っても俺たちはラストだから。来るまではちょっと暇で。横に並んだ4人で話をする。

「そうだよ、同じクラス2人に他クラス3人」
「なかなかのくじ運だな。ラックアップでも掛けてやればよかったか?」

 他のコースは上級生っぽい人たちもたくさん。たぶん1年グループは俺たちだけ。うん、確かにすげぇ引きだ。

「いいよ、刹那と組めただけラッキーだったし。それに頭は使うもんでしょ?」

 挑発的にそう言ってやれば、3人は楽しそうに笑った。ここはほんと血の気の多い奴がすげぇな。俺も笑って、レースに目を移す。

 祈童がうまく妨害を受ける前に貸し出しの武器で先手を打つ。ちょっとひるんだ間に6位で次のエルアノにバトンを渡す。エルアノは言ってたとおりスピードがあって。少し高めに飛んで、直接妨害を受けないように配慮しつつちょっと順位を上げていく。妨害受けそうになったら、持ち前のスピードで相手を翻弄して前に進んだ。
 やっぱクリスのカウンター作戦よかったな。基本は走りに専念。やられる前にやり返せ。リアス仕込みは伊達じゃないな。
 なんて思ってれば、隣のリアスから声。

「それにしてもギャラリーが多いな」
「たしかにそうかも。視線がすごいね」

 目はレースに向けたまま、答える。エルノアが4位でティノへバトンタッチ。いいペースだな。

「バトルリレーはラストという事もあって一番盛り上がる演目だからね。観客は多いんですよ」
「やる方も見る方も楽しいんだよなこれって」
「やるのも楽しいのはお前だけだろうが…」

 ティノが咆哮を上げて一瞬相手をひるませて先へと進むのを見ながら、隣の3人の会話にも混ざる。

「ねぇ先輩、上級生が多いのは気のせい?」
「気のせいじゃないですよ。なんだかんだ個々の能力をよく見れる演目ですからね。妨害守護合戦のようにごちゃごちゃしているわけでもないし、他の演目のように個々の能力だけでなく純粋な戦闘能力を見れますから。上級生の中では秋から行われる武闘会に向けての情報収集の場としてる人も多いんじゃないかな」
「そう言えばあるって言ってたなぁ…」
「特にラストの方で走る奴らは戦闘力が高い奴が置かれるから。龍も蓮もがっつり見られんじゃねぇの?」
「果てしなく迷惑だ」

 ラストに行くなんて言わなきゃよかったかな。なんてちょっと後悔。

「さてそろそろ準備しよっかね」

 ある程度が4番目の選手にバトンを渡し始める。それに合わせて、陽真先輩はそう言った。アンカーの空気が少しだけ緊張感に包まれる。

 今のところ順位は俺のとこが8位かな。リアスのとこが4位。陽真先輩のとこが2位。武煉先輩のとこは3位。1年組にしてはまぁ善戦してるよな。最下位じゃないだけすごい。雫来にバトンが渡ったのを見て、俺も準備しようかとウォーミングアップを始める。

 雫来はちょっと走ったところで、同じレーンの人たちを妨害するように吹雪を展開させた。すげぇ雫来。さすが雪女の家系だな。猛吹雪となればなかなか前には進めない。その隙をついて、雫来は順位をちょっと上げて行く。

「蓮のとこは1年の割にはすげぇな。今5位じゃん」
「それなりに対策立てたもんね」

 まぁ対策だとか作戦って言うには拙いけどな。2年になったらもう少し作戦の幅が広がりそうだからそれはそれで楽しそうだ。

 そこで、1位のところ、7コースから順に第5走者へとバトンが渡っていった。緊張感がさらに増す。

 俺のとこはまだもうちょいだけど。リアスのとこに追い上げをはかるように雫来が頑張る。ただ、ちょっと距離が開いてたみたいで、追いつくことはできずにリアスの第4走者がバトンを第5走者に渡した。って、

「閃吏じゃん」
「今の今まで気づかなかったか」
「自分のとこしか見てなかった」

 よくよく見てみたらリアスのところの第5走者は閃吏。バトンをもらって、一気に走る。案外速いな、って感心してるところで、俺の前の走者、クリスにもバトンが渡った。

「でも刹那に渡っちゃえばこっちのもんだよね」
「どこと組んでもあいつに足は敵わないしな。刹那と当たったところはある意味”捨て”だ」

 まぁそうだよなぁ。お、クリス早速抜かせそうじゃん。やっぱ俺の前に置いといて正解だったかも。クリスが差つけてくれればやり方次第では勝てそうかな。

 なんて思ってるとき。

 ちょうど閃吏が残り20メートルくらいのところ。もう少ししたら1位のところらへんからバトンが渡るかなって頃だった。

「炎上くーん!!」

 いつものかわいらしい笑みで、閃吏は大声を出して手を振る。突然の声に、一緒に走ってた奴らも、ついでに言えば俺含め次の走者も。ちょっとびっくりして止まる。ものすごく余裕だなあいつ。止まってる他の奴らには構わず、また叫ぶ。

「いくよー!!」

 行くよってなんだろう。

 あいつ天使でもないしそもそもヒューマンだからテレポートも能力使うこともできないよね。作戦かなとか思ってリアスを見て見るも、わけがわからないって顔してる。あ、これ作戦じゃねぇな? そう思い至った瞬間。

 閃吏は大きく振りかぶる。

 やばいすげぇおもしろい予感がする。

「えーと、閃吏ピッチャー」
「待て待て待て」

 俺が言い出せば、きっと同じことを考えた先輩2人もモーションに合わせて口を開く。

「大きく振りかぶってー?」
「おいやめろ」

「投げました!」

 武煉先輩のかけ声と同時に、閃吏は思いっきりバトンを投げてきた。

「おい待て閃吏!!」
「マジで投げたあの子!! 超ウケる!」

 残り20メートルで思い切りバトンを次に投げつけるっていう大胆な発想にリアスは声を荒げ陽真先輩は大爆笑。ちなみに俺も武煉先輩も笑ってます。その発想はなかった。

 誰もが予想してなかった行動にみんな止まって、その放物線を眺めてしまう。まさか届くなんて思うはずもないけれど、閃吏が投げたバトンはきれいに大きな放物線を描いて、このまま行けばきれいにリアスの手元に落下する。すげぇな閃吏。って関心してる場合じゃない。

「刹那! 走れ!」
「!」

 びっくり行動に呆けてたのはクリスも一緒で。このままだとみんな呆けてる間にリアスのとこが1位に大逆転。それに気づいてクリスティアに声を掛ければ、はっと我に返って走り出す。俺のその声に他の走者も我に返ったみたいだ。止まってた走者が一斉に走り出した。

「頑張ってね炎上くーん!」
「あとで覚えてろ閃吏!」

 みんなが一斉に走り始めたこともあって、バトンがリアスの手元に着いたのは2番目。きれいに手元に着いたバトンを受け取って、リアスは走り出す。バトンを投げただけで順位が上がるってすげぇな。ていうか20メートル先の人間に投げて渡せるっていう閃吏がすごいわ。

「蓮…」
「お」

 呆けてた分ちょっとロスはしたけど、持ち前の足の速さでクリスは4番目にやってきた。順位的には4だけど3位の紫電先輩のとことは僅差。十分。

「ありがと刹那。じゃあ頼むわ」
「まかせて…」

 クリスにそう言って、走り出す。リアスは10メートル先。1位の人から魔術で妨害受けてるけどリフレインで無力化してるからこのまま行くとぶっちぎりだな。

「先行くぜ蓮」
「俺もお先に」

 3番目の陽真先輩と、こっちも僅差だったらしい5番目の武煉先輩が加速して俺を抜かしてく。

「紫電陽真、覚悟ー!」
「おっと、あっぶね」
「今日こそ倒してやらぁ紫電!」

 陽真先輩はすげぇ絡まれてるな。軽々かわして走ってるけど。さすがアンカーだけあってみんな速いなぁ。なんてぼんやり思う。でもその中でやっぱり速いのはリアス。初めにどうにかしないとね。

 魔力を練って、紡ぎ出す。

【闇に蝕まれし心、恐れる心、悲しみ、怒りー】

 っと、ここで一旦詠唱はやめて。頑張れ俺の演技力。息を大きく吸って、焦ったように、声を出す。

「龍!!」

 まぁこの時点では振り向く訳ないんだけど。もう一回息を吸って。

 切り札。

「刹那が怪我してる!!」

「っ!!」

 掛かった。俺の言葉に、その足は止まった。

 でも気はゆるめない。

 あいつは安否を確認するために振り返る。その視線の先には、バトンの受け渡し場所で無事だと伝えるために元気よく手を振っているだろうクリスティア。それを捉えれば、過保護なリアスは安堵する。

 その瞬間を狙って。

【すべてを照らせ! ”リュミエール!!”】

「!!」

 ついでにもう一個。

風蛇ヴェントセルペンテ!】

「ちっ」

 リアスの目元を狙って、少し大げさな光源を弾けさせた。対応できなかったリアスは、目元を押さえる。その隙にあいつの足に俺の蛇たちを絡め付ければ、一定時間は動けない。足に風をまとわせて、一気に加速した。

「お先!」

 能力使えばリアスに追いつく事なんて簡単。抜かして、気はゆるめずに距離を離すため走り続ける。

 リアスがアンカーに来たときに俺のできる一番の対処法。それは、リアスが恋人にやったであろう”刷り込み”の利用。
 リアスが彼女の中で自分を”絶対的存在”となるように刷り込みをしてきたように。あいつは自分自身に刷り込みをしてしまってるから。

 ”クリスティアが絶対的存在”だって。

 彼女がいない世界に意味なんてないと思ってたらそりゃまぁいつからかクリスがリアスにとって”なくてはならないもの”となるのは必然で。何千年と”なくてはならないもの”、そして”守りたいもの”と頭に刷り込まれちゃえば、怪我した、傷ついただなんて言葉。仮に嘘だとわかっていても、聞いてしまえばその足は止まる。
 人間って不思議だよね。きっと嘘だとわかっていても、”もしかしたら”なんて思っちゃえば確認せずにいられない。傷つくことを異常に恐れてるリアスならなおさら。ついでに焦った声で言ってやれば効果は倍増。ただし仮にほんとに傷ついてた場合はガチギレなので、振り返った先に無事だと示すようにとクリスティアに言っておけば、ガチギレ回避。ついでに無事だってことに安堵して隙もできる。

 気がゆるんじゃえばこっちのもんだし、その状態ならさっきカリナにやられたような目くらましでも十分通用する。

「あとは追われる前にゴールしたいちゃいんだけど、なっと!?」
「残念、時間切れだな」

 風で加速して、飛んでくる魔術の飛び火を避けつつゴールを目指して。半分切ったところで、目の前に魔力を感じて飛びずさる。

 瞬間、地面から氷の結晶が。あぶね、これ気づかなかったら刺さってたわ。

「危ないんだけど!?」
「知るか、避けられるだろう」

 犯人なんて分かってて、隣に恨めしげに目をやれば、ちょっとお怒りっぽく笑うリアス様。その手には短刀。捉えた瞬間に千本を出しておく。ついでにもう加速は無理だと察して、足にまとわせてた風を解いておいた。

「よく考えたもんだな、あいつを使うとはいい度胸だ」
「刷り込みって怖いよね」
「全くだ」

 走りつつもお互い刃をかわす。周りをちょっと見てみれば、後方にすげぇ絡まれてる陽真先輩、それに巻き込まれてるみたいに妨害を受けてる武煉先輩。ここのアンカー、基本的に陽真先輩狙いっぽいな? 見た顔はいないからみんな上級生。ってことは強いしたぶん陽真先輩に勝負挑まれて負けた人たちなんだろうな。

「余所見とは余裕だな」
「うわっと」

 なんてちらちら状況確認してれば、リアスから一閃。飛び退いて避ける。

「余裕ってわけじゃないんだけどね?」

 でもまぁ妨害って名目上本気は出されないからその分はちょっとだけ余裕。黙っておくけど。

「今んところお前倒しちゃえば1位だし、頑張りたいなって」
「退けられるとでも?」
「自信ねぇわ」

 怪我したなんてもう通用しないし。さてどうするかね。

「あーもううざってぇな!!」

 打開策を考えながらリアスと刃を交えてれば、後方でいらついた声。この声陽真先輩だ。絡まれすぎていらいらしちゃったんだろうなぁ。

「オマエら弱いから楽しくないんだって!!」
「あの恨み、ここで晴らさずしてどこで晴らす!!」
「こっちが本気出したらすぐ謝ってきたくせになにが恨みだっつの!」
「3年が2年に頭下げるなんて屈辱味わわせたあんたが悪いのよ!」

 すげぇめちゃくちゃ恨み買ってるんですけど。大丈夫あの先輩?

「ものすごいな」
「でしょ?」
「まぁ上級生には好かれそうになさそうだからな」
「逆に後輩とか同年代には好かれそうだよね、いじめっ子相手に這いつくばらせて救っちゃいましたみたいな」
「俺は好いていないがな?」
「全員とは言ってねぇよ…」

 思わずそう話したところで。もっかい陽真先輩の叫びが聞こえた。

「邪魔だっつの!! 【パルーデ】!!」

 魔力が一気に練られたのを感じて、リアスととっさに防御態勢を取る。…それにしても、パルーデってなんか聞いたことあるな。

「ねぇ龍」
「どうした」
「パルーデってなんだっけ」
「イタリア語で”沼”だな」

 沼か。

 沼?

「まじかよ!」

 理解した瞬間に、俺たちの走る200メートル、ついでに言えば全コースの地面が沼化した。リアスと2人して翼を出して空中に飛ぶ。

「すげぇデジャヴ!!」
「5月にあったなこんなこと」

 言葉を理解できた俺とリアス、あとは技を知ってた武煉先輩、術者の陽真先輩は間一髪で空中に逃げる。って言っても武煉先輩はヒューマンだから陽真先輩につかまってたけど。

「めんどくさかった」
「お疲れ陽真」
「なんでオマエはオレに掴まってんだよ」
「俺は能力者じゃないから回避は陽真が頼りなんだよ。傍にいてよかった」

 飛ぶ用らしい気球を手に出して、陽真先輩は一緒にくっついてきた武煉先輩とこっちに来る。もしかして武煉先輩わざわざ一緒にいたのかな。

「で、オマエらも回避しちゃったわけね?」
「龍が言葉わかったからなんとか」
「君の頭の中はすごいですね」

 まぁ伊達に長生きしてないもんな。

「で? このまま空中戦でもすればいいのか?」
「さすがにここまで離れれば解いてやるよ。ほれ」

 残り50メートル地点。陽真先輩は指を鳴らして、術を解く。そしたら一瞬で沼は消えて、元通りの校庭。後方の人たちは怪我はないけど戦意喪失っぽいかな。

「じゃ、お先に」
「ずるいよ陽真」
「え、こっから!?」
「4人でか」

 全員が着地したところで、一番に陽真先輩が走り出す。後ろも少ししてから走り出してるけど、追いつくのは無理そうかな。前を向いて、走る3人の背を追う。

 足速いなやっぱ。ほんとは風で思いっきり加速したいんだけど。リアスにリフレイン使われて転ぶ未来が見えるからちょっとやめておこう。

 追って、並んで。リアスが先行して、また追いついての繰り返し。陽真先輩が楽しそうに笑う。

「こっからは純粋な脚力勝負ってのもいいかもな!」
「そしたら龍が圧勝だよ陽真先輩、こいつ刹那の次に足速いから」
「蓮も中々速いですよね」
「男子でも速い方だろうな」

 お前がいるからいまいち自分が速いとかわかんねぇわ。

「そういえばさ」

 残り30メートル。陽真先輩が思い出したように言う。

「どうしたの陽真」
「武煉の名前呼びって、華凜ちゃんと勝負で決めたんだっけ」
「そうだね」
「じゃあ龍、オレが勝ったらオレのこと下の名前呼びな」
「は!?」

 言って、陽真先輩はさらにスピードを上げる。まだ上がんの。確かにみんな全力疾走ってわけじゃないけど。

「おい待て了承はしていない!」

 それを追うようにリアスもスピードを上げる。見てた武煉先輩も楽しげに加速した。とりあえず諦めるって選択肢はないから俺も走る。

「陽真、賭けは平等にしないといけないよ」

 そこなんだ?

「仲良くなること前提でオレに望むことある?」
「ない」

 即答だった。

「それに、俺に勝てるとでも?」
「勝負なんていつどうなるかなんてわかんねぇからおもしれぇんじゃん」
「陽真に同意だね、っていうことで」

 にっこりほほえんだ武煉先輩が、視界から消える。

「お、わ!?」
「陽真、悪いけど先に行くよ」

 いきなり陽真先輩が跳んで減速したことで、武煉先輩が足払いしたんだとわかって。一瞬びっくりして止まりかけたけどなんとか踏みとどまって走り続けた。

「ちょ、おま武煉!」
「同じ組なら助けるけれど、君とは違う組だからね」
「あんた案外えげつないんだな…」

 突然の裏切りにリアスも引いてるよ。俺も引いたわ。

「俺は課されたものをこなすだけですから。体育祭での任務は自分のチームを勝たせること」
「次は俺か?」
「そうなりますね」

 にっこり笑ってるけどその目は敵意むき出し。この人敵じゃなくてよかったかもしれない。同じ赤組でよかった。

「と言ってもあまり俺は妨害に向かないんですけどね。武術派なので。なにしても怪我しそうですから。陽真や君たちみたいに反射神経が避ければさっきみたいに避けてくれるんだけど」
「あんたはどんな武術を習ってるんだ…」
「なんかこう、軽く相手をいなす的なのはないの?」
「あはは、ないかな」

 それ笑って言うこと?

「そう言えば龍、さっき蓮が叫んでいたことですが」
「ん?」

 もう20メートル切ったところで、武煉先輩が思いだしたように言った。さっき叫んでたことってあれかな。

「怪我したってやつのこと?」
「そうです。あれ、龍振り返ってとても安堵してましたよね」
「まぁ怪我してなかったからな」
「本当ですか?」

 ん?

「は…?」

 2人して武煉先輩を見る。さっきまで敵意むき出しだった目は、優しいけれど真意が読めない。呆けながら走る俺たちに、武煉先輩はさらに言う。

「本当に、刹那が怪我してなかったと思いますか?」

 瞬間、なんかリアスからこうぶわって冷や汗が出た気がした。感覚的にだけど。

「…元気に手を振られたが?」
「怪我なんて見た目でわかるもの以外にもありますよね」
「とくに走っている間違和感なんてなかったが」
「あの閃吏くんとやらがバトンを投げたときもずっと見ていましたか?」
「………」

 誰もが閃吏に集中してたあの瞬間。渡されるリアスはなおさら意識も集中してたよね。転んだとかそう言うのは見なかったけど。え、これ嘘だよね? すごいほんとっぽく言うから俺でもわかんないんだけど。

「おや」
「あ」

 突然、龍は加速。今までそんな速く走ったことあったっけって思うくらいの速さで走り出した。声をかける暇もなくその背を見送って、隣の武煉先輩に聞いてみる。

「…あれって」
「もちろん嘘ですよ」

 あ、やっぱり。

「できれば減速を狙ったんですが。加速して行っちゃいましたね」
「そうですね…」

 ケロっとした感じで言うからこの人恐ろしいなって思った。

「妨害はしないんですか、蓮」
「いや今あの余裕ないとこ邪魔したら殺されそうなんでやめときます」
「あはは、チーム的には悪いことしちゃいましたね」

 たぶんリアスの心臓的にも悪いことしてますよ。とは言わなかった。

「なにアイツあんな加速してんの!?」
「あ、陽真先輩」

 減速してからやっと追いついてきたらしい陽真先輩。すげぇ汗かいてる。頑張ったんだな。

「もうさすがに追いつく気力ねぇわ」
「200メートルって結構きついもんね」
「そのラストにあれだけ加速する龍はすごいですね」

 あなたが原因ですけどね? 全速力でも中々追いつけないリアスを3人で追いかける。そしたら。

「蓮、武煉」

 突然、前のリアスが止まった。もうあと1歩でゴールのところ。え、どうしたの。走るのは止めずに全員でそっちに視線を向ける。

 そこにはきれいにほほえんだリアス様。中々見れない、誰もが見とれる王子様みたいなほほえみ。
 ただ俺にはわかる。

「人で遊んでくれた礼をしてなかったな」

 目が、笑ってない。

 咄嗟に寒気がして、防御態勢を取った。2人もかばうように。そしたら、きれいに笑ったリアスの口が、動く。

【グラビティ】

 それ俺が防げない奴じゃん。

「容赦なさ過ぎだよ龍」
「さすがに予想できませんでしたね」
「あれはねぇよ龍クン」
「人で遊ぶから悪い」
「おつかれ…」

 グラビティなんて使われたらリアスの後ろ姿を見届けることしかできず。1位で余裕にリアスがゴールして、術が解かれた瞬間に走り出し。武煉先輩、俺、陽真先輩。あとは陽真先輩に絡んで途中で戦意喪失した人たちも順にゴールして。なんか長かったリレーも終えた。

 ちなみにリアスはと言えばゴールして術を解いた瞬間にクリスティアのところにテレポート。もちろん怪我もなく、リアスはとても安心しきった顔でクリスティアと一緒に順位の旗の下で待ってた。

「いきなりテレポートで飛んできたからびっくりした…」
「俺の遊びが過ぎたんですよ、びっくりさせて申し訳ない」
「ほんとに刹那ちゃんに関しては過剰反応だな、大丈夫なのそれで」
「大丈夫じゃないから焦ってさっさとゴールしたんだろうが」

 全員がゴールしたのを確認して、係員から解散を促される。祈童やティノたちに別れを告げてから、カリナが待ってるところに5人で歩き始めた。

「龍はもう少しメンタル面を鍛えた方がいいかもしれませんね」
「無理だ」
「諦めちゃうのかよ。そこはもうちょい頑張れよ龍クン」
「断る」

 突っぱねてる割にはなんだかんだ仲良くなってきてる3人に笑いそうになる。リアスの隣にいるクリスティアも心なしか嬉しそうだ。

「あら、おかえりなさい」
「ただいま華凜…」
「刹那、がんばりましたねぇ」

 今日で集合場所に定着した人工芝に行けばカリナが出迎えてくれる。クリスが駆け寄れば、カリナはまるで姉のようにクリスの頭を撫でた。

「で、結局あなたが1位ですか。面白味がありませんね」

 突然辛辣すぎる。

「やめて華凜、これ以上龍のメンタルにダメージ与えないで」
「豆腐メンタルは大変ですね」
「全くだな」

 確かにクリスティアに関してはメンタルもろすぎるけど。

「せっかくだから勝ちたかったんだけどな、武煉に邪魔されるとは思わなかったわ」

 モニターに集計中って画面が出てる間、6人で座って話す。陽真先輩はちょっと悔しそうに人工芝に寝ころんだ。

「敵だから容赦はしないよ陽真」
「龍に下の名前で呼んでもらおうとしたのにな」
「あら、あなたまだ渋ってたんですの?」
「仲良くなる気はないからな」

 なんだかんだ仲良くなってることには気づいてないのかなこの幼なじみは。おもしろいから黙っておくけど。そしたらカリナが口を開く。

「でもいいんですの?」
「なにがだ」
「今この段階で、あなただけが陽真先輩だけを名字で呼んでるじゃないですか」
「そうだな」
「それってなんか特別扱いみたいですよね」

 にっこり笑って言うカリナに、リアスが固まる。

「何故そうなる…」
「だって武煉先輩は下の名前で呼ぶのに陽真先輩だけ変えるって特別みたいじゃないですか」
「あはは、確かにそうですね」
「嫌いだからそうしてるだけだ。仲良く思われたくない」
「よく言うじゃないですか、嫌よ嫌よも好きのうち、なんて。ねぇ武煉先輩?」
「そうだね。俺からしたら言うほど陽真を嫌っているようには見えないけれど」

 なんだこのコンビ。リアスが挑発に乗りそうなうまい具合をついて煽ってく。ちょっとはらはらしながら見届けてれば、リアスがいらついたように口を開いた。

「おい陽真」

 あ、名前で呼んだ。

「んあ?」
「お前罪滅ぼしにストレス発散付き合うと言ったよな」
「語弊があるけどまぁそんな感じだな」
「今度演習つき合え」
「お、まじでー? おっけー」

 嬉しそうな陽真先輩とは裏腹にリアスはものすごく不機嫌そうだけど。”特別扱い”ってされるのがよほど嫌だったんだろうな。でもリアス、たぶんそれ思いっきり乗せられてるよ。っていうのはさすがに今のリアスにいったら火に油だから言わないでおいて。

《閉会式を始めます。生徒のみなさんは演習場にお集まりください。繰り返しますー》

 陽真先輩が死なないように祈りながら、そうアナウンスが鳴ったので6人で演習場に向かった。

『最近の親友はとても忙しい』/レグナ

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