望む平和はほど遠い

《集計の結果、最後のリレーで一位となった青組が優勝となりー》

 何故か陽真と武煉も含めた6人で行動することになり閉会式。特に興味のない演目結果と、その結果に合わせた嬉しそうな歓声を聞く。

「そう言えば優勝商品ってなんなんだろうね」

 こっちもあまり興味はないのか、左隣に座ったレグナがスマホをいじりつつ聞いてきた。それに答えたのは、レグナの隣に座る武煉。

「毎年変わるそうだよ、開会式でも優勝の組がわかってから決めると言っていたでしょう」
「わかってから決めるってなるとすごく簡単になりそう」
「そうでもないぜ? 結構豪華特典だよな、武煉」
「そうだね」

 武煉の隣に座る陽真もこちらをのぞき込むように会話に入ってきた。俺の右隣に座ったクリスティアとカリナもそれを聞いて会話に混ざる。

「豪華…?」
「そ。確かその組の色に合わせた商品にしてんだっけ?」
「そうだね」
「青なら青色のハンカチとかですか?」
「いや華凜さんそれは適当すぎだよ」
「豪華要素はどこへ行ったんだ…」
「去年は確か黄色が優勝していたね」
「そんで、なんだっけ。いくらかまでって上限があるけど、自分の希望の電化製品頼めるってやつだったろ?」
「そうそう。音楽機器とかね」
「へー思った以上にすげぇ豪華なんだね」

 黄色=雷や電気属性、で電化製品か。青だったらなんだ。水か?

「青は水一年分とか…?」
「それは中々困るな…」

 2人しかいない家でだいぶ困る。

「まぁまたなんかそう言う上限決めてなんか頼めるってヤツじゃね?」
「前は組全体でツアーとかもあったそうだけど、予定が合わないとか無理があるとかで廃止されたそうだよ」
「無理がある…?」
「赤組が優勝したら火山への旅、とか。昔はあったそうです」

 ものすごくはた迷惑だな。

「火山に行ってどうするんですか…なにも得るものなんてないでしょうに」
「炎の魔力結晶を得る旅! みたいな名目だったらしいぜ」
「ヒューマンへの考慮は!?」
「貴重な体験として、だそうだよ」
「ヒューマンへの扱い雑すぎだろう…」
「結構好評らしかったって聞いたことあるぞ」

 嘘だろ。いいのか。

「まぁ確かに火山なんて中々行きませんものね…」
「どうする龍、今年から旅行復活しますってなって深海の旅! とかって言われたら。刹那と一緒に行く?」
「予定が合わないと行って却下する」
「即答かよ…オマエ旅行とか嫌いなの? 刹那ちゃんとデートとかで旅行とかしねぇの」
「この男はすべて却下ですよ」
「龍は引きこもりタイプなんですか…?」
「名誉のために言っておくがわけありだからな?」

 断じて旅行が嫌いだとか引きこもりだとかじゃない。

「でも青って言ったら水ですわよね」
「やっぱり水一年分…?」
「マンガみたいに水族館とかってのもこの世界にはないもんね」
「異種族間の問題になるだろうからな」

 レグナの言うとおり、この世界ではよくある”水族館”だとか”動物園”だとかはない。物語の中で言われるいわゆる”動物”と言われるものはすべてビーストに分類され、ヒューマンやハーフと同等の扱いを受ける。すべての種族が平等に生きるこの世界で狩猟だ捕獲だなんだを行えばそれはもう罰則ものなわけで。異種族を殺した拉致されたと相当な罰を受けることになるために、そういった生物を使うような娯楽はこの世界には存在しない。青で連想されるものと言えば水が上がるが、かなり絞られるだろうな。ついでに言えばよくマンガであるような肉だとかは捕獲して得るのではなく、研究者が人間にとって必要な栄養素を詰め込んで塊とさせたものを肉として食べている。まぁそれはいいとして。

「青は難しいですね。先輩方からも青は中々聞いたことがないな」
「昔の深海ツアーとか位だよなぁ」

《では優勝商品を発表します!》

 閉会式の式辞を聞き流しながら話していれば、司会の女教師が楽しげに言った。瞬間、ざわつく場内。とりあえず自分のことでもあるからと視線を向ける。

《1年生は初めてなので説明しておきますが、この学園ではその色から連想された商品を優勝した組へ渡しています。今回の優勝は青組。青と言えば水ですが、やはり水ばかりだとありきたりなので、先生方が頭をひねって考えました》

 頭を捻るくらいなら毎度毎度変えなければいいんじゃないのか。

《今回の青組の商品は、”空の旅に行けるチケット”です!》

 楽しげなその教師がそう言うと、生徒たちの嬉しそうな声が響いた。主に女の。まぁ好きそうだしな。それにしてもだな。

「まぁ空の旅ですか」
「おい」
「楽しそうだね、よかったじゃん華凜」
「ええ」
「待て」

 こっちの女も嬉しそうな声を上げるが少し待とうか。陽真と武煉に向き直る。

「旅行関連はなくなったんじゃないのか」
「組全体で行くツアーはなくなりましたよ。予定が合わない生徒が多いので」
「ただその代わり旅行”券”は配布されるようになったぞ」
「先に言え」

 外に出ることがないと思って油断したわ。

《これは笑守人学園が開発したアトラクション入りジェット機に乗って青い空を一望できる旅のチケットとなっています。1枚の券で最大4名までご招待することが可能で、有効期間は夏休み中。各自裏面に記載された笑守人学園HPのURLから予約し、友人や今日の体育祭を通して知り合った方との交流を兼ねて是非楽しんでください》

「だってよ龍。刹那ちゃんとデートして来いよ」
「墜ちたらどうするんだ…」
「龍は心配性なんですね」
「心配性で済む話ではないですわ武煉先輩」

 心配にもなるだろう。運命変わっていきなり墜落したらどうするんだ。そんな心配をよそに、司会者は楽しそうに続ける。

《チケットは1人1枚配られますが、ほかの方と合算することができます。大勢で乗りたい場合は、チケットの合計枚数を予約画面の”使用枚数合計”という項目に記入してください。たとえば16人で空の旅を楽しみたい場合は合計の項目に4と記入すること。間違えて1と記入した場合はチケット1枚分の最大人数である4名までしか乗れませんのでご注意ください》

 できればその情報を今聞きたくはなかった。

「合算できるならします?」

 ほら来た。同じクラスで青だったカリナ。いつもの4人で行くことになればそのチケットは1組分あまるわけで。主に俺をのぞき込むように聞いてくる。

「誰を呼ぶ気だ」
「嫌ですわ龍ったら、ここで話す時点で決まってるじゃないですか」

 だよな。もうこいつにはなにを言っても無駄だと知っているし、最近では悪足掻きをすることも時間の無駄だと思い始めたので、ため息を吐く。

「好きにしろ…」
「だそうですわ、武煉先輩、陽真先輩、ご一緒にどうですか?」
「俺たちですか?」
「幼なじみ4人を邪魔しちゃさすがに悪くね?」

 司会者が受け取り方法だなんだとさらに説明する中でカリナがにっこりと笑って予想通りの人物達を誘う。気を使っているらしい武煉と陽真の視線が俺に来るが、もう好きにしろと言ったのでなにも言わない。

「龍のお許しも出てるし。どのみち俺たち4人だとチケット余っちゃうもんな、華凜」
「そうなんですよ。2枚使用で4人でもいいのですが、それだともったいない気もしますし。いかがです? 交流も兼ねて」
「いこ…?」

 後輩3人からの願いに、2人は視線を合わせる。数秒の後、ほほえんでこちらを向き直って。

「では、お言葉に甘えて」
「行かせてもらおっかな」

 そう答えた。

「また夏休みの予定が増えましたね、刹那」
「うん…」

 正直あまり気が乗らないが、クリスティアの嬉しそうな声を聞いてしまえばもうどうでもよくなってしまう。つくづく恋人やこの双子には甘いなと苦笑いがこぼれた。

《詳しいことはまた後日、チケットと共に詳細の紙を配りますので、そちらをご覧ください。以上で本日の体育祭を終わります。みなさまお疲れさまでした》

 司会者が閉会式の終わりを告げる。会場内は明るくなり、ちらほらと席を立つ生徒が出始めた。混雑は避けたいと座っていれば、話が進む。

「日程どうやって決める? 陽真先輩たち都合が悪い日とかある?」
「うーん、今のとこは何とも言えないですね。夏休みでも委員会や見回りがあるし」
「夏休み頃ってちょうどオレたち2年が担当するよな」
「ではラインでも交換しますか? せっかくだからグループで」

 この女こうなるように仕組んでたんじゃないかと思うくらいすんなり言葉が出てくるな。

「華凜だけ交換すればいいだろう」
「それをいちいち私が報告するんですか? 面倒すぎますよ。ではお二人方、ID交換しましょうか。グループ作りますわ」
「ID見せればいいですかね」
「そうですわね、入力します」

 3人でスマホを出して着々と進んでいく。というか待てカリナ。

「おい名前」
「別に隠してるわけではないからいいでしょう」

 いや確かにそうなんだがな?

「名前がどうかしたのか? 華凜ちゃん実は中二病な名前付けたりとか?」
「違いますよ、ほら送りましたわ」
「あ、来ましたね。えーと、”カリナ”さん?」
「私の本名です」
「ん?」
「華凜ちゃんの本名って事?」
「そうですわね」

 ”どうせこの4人だけだから”とラインの名前は本名にしてある。それを伝えれば案の定2人はパニック気味だが、カリナは意に介さない。

「ではグループ作りますわ」
「待ってください華凜、頭が追いついていない」
「実はフランス生まれなんですよー、こっちではみんな日本名字の親に預けられたので合わせるように下を変えてるんです」
「重要な情報さらっというね華凜ちゃん?」
「はい、グループできましたよ、みなさん入ってくださいな」
「うわ誰が誰だかわかんねぇ!」
「一番初めの文字で察してくださいな」
「無理ありすぎるだろう…」

 日本に来るならライン名も変えておけばよかったかと今更ながら後悔した。

「というか華凜、聞きたいことがあるんですが」

 質問、といったように武煉が手を挙げる。

「なんでしょう?」
「招待した人数と俺たちが合わない気がするんですが?」
「オレたち6人なのに華凜ちゃん抜いても招待されてんの4人だよな」

 ああ、と聞いた瞬間に納得して。

「俺と刹那のは一緒だからその数字で正しい」
「携帯も一緒なのオマエら?」
「俺との連絡用で持たせてはいるが?」
「え、オマエだけ?」
「刹那の携帯に俺と華凜のアドレスは入ってないよ」
「嘘だろ」

 初めて陽真の引いた顔を見た気がする。

「この男は過保護なので自分以外の連絡先はいれさせないんですよ。調べ事用のネットもできなくしてますし」
「オレ初めてオマエのこと本気で引いたわ」
「そのまま引いて行って関わらないでくれて構わない」

 その方が俺が平和だ。

「じゃあ刹那ちゃんどうやって話に入んの?」
「刹那と龍といっつも一緒だから画面も一緒に見て、みたいな感じだよね」
「たまにわたしも発言するよ…」
「な、仲がいいんですね…」

 武煉も頑張って笑っているが顔が引いている。俺もこいつらの立場だったら引いているなおそらく。

「とりあえず刹那の携帯の件は置いておいて、龍あなた早く参加してくれません?」
「共に行く許可はしたがラインに参加するとは言っていない」
「陽真先輩のことだって名前で呼ぶようになったのにまだ駄々こねるんですか」
「俺が自発的に呼んだような言い方しているがお前と武煉が誘導して呼ばせたんだからな?」

 うるさそうだから呼び方を変えただけで納得はしていない。なんて話してれば、俺のポケットに異物感。おいこら待て。

「刹那」
「参加しようよ…」

 言いながら犯人のクリスティアは俺の親指を持って携帯のロックを外す。

「刹那ちゃんロックの外し方手慣れすぎだろ」
「わたしも使うから…」
「プライバシーが皆無だね君たちは…」
「ここまで一緒にいてプライバシーも何もないだろう」
「参加しといたよ…」
「お前な…」

 話している間にクリスティアは参加のボタンを押したらしく、その画面を見せてくる。他4人が参加したという記述の下に、俺の名前で参加したというポップも追加されている。

「ラインは一緒、だからわたしにも決める権利がある…」
「そんで意見が分かれた場合は刹那が通る、いつも通りだね龍」
「最近恋人に甘い自分をどうにかしたい」

 割と切実に。クリスティアから携帯を奪い返しポケットに入れて。会場にだいぶ人が少なくなった事を確認して立ち上がった。

「龍帰るの?」

 レグナに声をかけられて、頷く。

「用は済んだだろう」

 言いながら荷物を持てば、クリスティアも立ち上がる。通路側のカリナの方を向くと、にやにやした視線と目があった。

「なんだかんだ用件が済むまでいるなんてお人好しですのね」
「突っぱねているとお前が強行突破をしてくるからな。人生あきらめが肝心だ」
「あら、足掻いてくださってもいいんですよ? 楽しいので」
「断る」

 出やすいようにカリナが立ち上がり、先に通路へ抜ける。クリスティアが出て、俺もそれに続いた。振り向けば、ついでにと言ったようにレグナや武煉たちも出てくる。

「蓮、私の荷物くださいな」
「はいよ」
「お前達も帰るのか」
「あなたが言うように用は済みましたので。みんなで仲良く帰りましょう?」

 にっこりと笑うその女に一つため息を付いて。無言で歩き出す。いつも通り裾を引っ張られた感覚と数人の足音がしたことで、ついてきていることを察した。

「ところでオレたちはこれからなんて呼べばいいんだ?」

 後ろの双子と上級生2人の他愛ない話を聞きながら演習場を出て、いつもの帰路に立つ。ふと会話が途切れたところで、陽真が聞いてきた。

「そう言えばそうだね」
「呼ぶって、なにを…?」
「名前。刹那ちゃんたち本名あるんだろ?」

 言われて、後ろを振り返りレグナたちと一度目を合わせる。特に何も言うことはないとまた前を向けば双子が代表するように答えた。

「今まで通りで構いませんわよ?」
「家とか4人だけの時じゃない限り日本名で呼んでるし」
「ではお言葉に甘えて今まで通りで」
「レグナとカリナちゃんと? リアスだっけ。刹那ちゃんは?」
「クリスティア」

 代わりに答えると、陽真と武煉は感嘆するように「へぇ」と言った。

「キレイな名前なんだな」
「でしょ…」

 誉められて、クリスティアが嬉しそうな声を出す。寝るときの話題に出てきそうだ。

「本名の方はクリスちゃんで覚えとこ」
「本名を覚える必要があるのか…?」
「ラインは本名じゃん。まぁ刹那ちゃんいないけど」
「わかるように日本名に変えておいてやろうか?」
「いやいいわ」

 挑発的な笑みで振り返って言えば、陽真は楽しそうにそう笑った。それに少し笑って前を向くと後ろでまた会話が聞こえ出す。

「俺たちは日本名で呼びますが、君たちは気を使わず本名で呼び合っていいですからね」
「今後6人で逢うときはそうするかもしれませんわね」
「おい俺は行かないからな」
「じゃあ刹那だけ参加って事になるけど?」
「……行けばいいんだろう」
「龍は本当に刹那に関することがに弱いんですね。クールなイメージだったけれどだいぶ印象が変わるな」
「クールに見えて彼女大好きですもんね」

 いちいち答えていたら心労がひどそうだと面倒なことには無視を決め込んで歩く。

「刹那ちゃん人質にするとガチギレだもんな」
「陽真先輩よく生きてたよねあのとき」
「死ぬかと思ったけどあの龍を這いつくばらせたかったな」
「いつか陽真死にそう…」
「陽真は無駄死にするタイプだね」

 ああ、しそうだと後ろの会話を聞きながら歩いていけば、いつもの分かれ道。

「では俺たちはここで」
「華凜ちゃん送ってくわ」
「あら、ありがとうございます」
「じゃあ妹お願いします。華凜またね」
「はい、また連絡しますわ」
「ばいばい…」

 反対方向の3人とは別れて、レグナとクリスティアと歩く。騒がしい向こうの奴らと離れたことで自然と息を吐いた。それを見たレグナが笑う。

「お疲れ」
「まったくだ。リレーのあたりから気が休まらん」
「閃吏のバトントスとか…?」
「あれはあれで確かに驚いたがな…」

 あの距離で投げるとは思わなかった。が、そこではなく。

「本当にお前ら双子といるとろくな事がない」

 主にそれは今隣にいる奴の妹のせいだが。こいつも咎めたりしないから余計に面倒ばかりがやってくる。恨みがましく見れば、楽しそうに笑った。

「いいじゃん、リアスだってなんだかんだ楽しんでんだし」
「楽しそうに見えるのかこれが」
「見えるよなぁクリス?」
「とっても…」

 こいつらの目は節穴か。とも思うがやつらがいることを許している時点で完全否定はできない気がする。

「…まぁ、全く悪いわけではないけどな」
「だろ?」
「空の旅も、楽しくなりそうだね…」

 のぞき込んで聞いてくるクリスティアに、半ば諦め気味で「そうだな」と返し、歩みを進める。

 正直もう少し控えめにして欲しいと、おそらく届かないであろうが一応願っておいた。

『望む平和はほど遠い』/リアス

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