雨の日だって、幸せなことはたくさんある

2019-06-13

 6月。6月と言えば、梅雨。梅雨と言えば、その名の通り雨。
 よくありますよね、「傘忘れちゃった、入れて」なんてちょっとつき合いはじめかまだつき合っていない男女のあのイベントが。
 触れるか触れないかの距離。濡れる肩。女子は気づいたら、男子の肩の方が濡れてる、なんて。

「そんな甘いイベントがあっても良いと思うんですよ」
「生憎俺たち2人は傘を持ってきている。残念だったな」

 ええ本当に。内心舌打ちをしながら、教室の廊下側からでも見える土砂降りの雨を眺めた。
 帰りのHR。特にものすごく気になるような連絡事項もなく、後ろの席に座るリアスに少し体を向けてそんな話をする。まぁ一緒に住んでいる時点でどちらかが傘を忘れるなんて選択肢はまずないですよね。

「財布は持たせないくせに傘は持たせるんですね」
「最近は小銭を持たせているが?」
「そうじゃないんですよ」

 そういうときこそ一緒の家に帰るんだから、傘なんて一本で十分だよななんてそんな展開が欲しかった。BLだって中々供給してくれないんですからせめて公式のNLくらい供給してくださいよばかですか。もうこの2人恋人なのにここぞという王道の甘い展開出してくれないからリアルな供給が本当に少ない。そして生憎ながら私も傘を持ってきている。折りたたみならワンチャン忘れちゃいましたなんて言えたのに私が持っているのは普通の長い傘。しかもおろしたて。私もバカ。しかもしっかりもののレグナだって傘は持ってきている。朝見ましたよ。

「相合い傘とかしないんですか」
「する年か?」
「年齢的にはちょうどですよ」

 魂年齢的には厳しいかもしれませんが。どうしても王道な展開すらしてくれないカップルにため息を吐く。正直なところ本当ならBL的展開にしたい。リアスとレグナで相合い傘とか私とクリスが喜ぶ展開に持っていきたい。しかしさすがにそこまでやらせると色々とばれそうなのでやめておきます。クリスとリアスが違う家でさらにリアスとレグナの家が隣同士だったなら良かったのに。そしたら傘忘れちゃった入れてなんて展開も期待できそうなのに。

「そもそも傘を忘れたらテレポートで帰ればいいだろう」

 そんな期待もできそうになかった。

「あなた本当にいろんなフラグをへし折る男ですわね」
「いろんなフラグがどんなフラグかは聞かないが面倒なものはへし折るだろう普通は」
「せめてクリスティアと甘々な展開見せてくださいよ」
「自分でレグナと甘い展開でも作ってろ」
「それはちょっと近親的にやばいのでお断りします」

 ぼそぼそと2人で話していれば、江馬先生が連絡事項を終えたらしく、クラス委員が起立と号令をかけました。全員で立ち上がり礼をして、各々が帰る準備を始めます。私も机の脇に掛けてあるバッグを手に取り、先に歩き始めるリアスについて教室を出る。

「そもそも俺たちに甘い展開を求める時点で間違っているだろう」
「それもそうなんですが。せっかく親友と幼なじみが恋人同士ならなんかこう、欲しいじゃないですか。砂を吐くくらい甘い展開が」

 そしてそれをBLのネタにしたい。

「本来なら砂を吐く展開を見て周りは呆れたりするものなんじゃないのか」

 それは供給があったときの話ですよ。むしろなさすぎてこっちはそれに飢えてるんです。

「もしかしたらクリスだって、甘い展開を期待しているかもしれないじゃないですか」
「してないだろう」
「案外心の内がわかってないことだってあるかもしれませんよ?」
「一緒にいれば大抵はわかる」

 あなたあの子が腐女子だって知らないでしょうに。

「お、来た来た」
「おつかれ…」

 なんて話しながら隣の教室へ行けば、廊下で待っているレグナとクリスを発見。2人を拾ってそのまま玄関へ。

「雨すげぇなぁ」
「傘持ってきた…?」
「当然。家の執事がうるさかった」

 執事め余計なことをっ。…と思ったのはきっと私だけじゃない。

「あら」
「ん?」
「おや」

 そう思いながら4人で下駄箱で靴をはきかえれば、最近よく見かける2人。
 1つ上の先輩、紫電先輩と木乃先輩が玄関先にいました。

「最近よくお逢いしますわね」
「顔を覚えたからそう思うんですよ。同じ高等部ですから、きっと何度かすれ違っていたかも」

 傘を広げながら、木乃先輩と話す。隣では紫電先輩がリアスたちに絡んでいるよう。

「刹那ちゃん元気?」
「おい人の恋人に媚びを売るな」
「挨拶じゃん。なぁ?」
「ん…」
「ちっ…」
「龍舌打ちしない」

 あれがリアスが紫電先輩に嫉妬しているとかならおもしろいのに。

「陽真たちも帰り…?」
「そー。でもオレ傘忘れちゃったんだよね」
「降水確率80%だっただろう。バカか」
「オマエ辛辣だね」
「龍、この人たち先輩だから」
「知るか」
「でもこの雨の中どうするんです?」
「俺の傘に入れて帰るんですよ。家が近いので」

 なにそのおいしい展開。

「ちなみにおうちはどこらへんなんですか?」

 ちょっと眺めてみたいのでできれば帰りをご一緒したのが本音です。きっとクリスもそう。だって一緒の傘に入るって聞いた途端に私と木乃先輩の方に耳傾けてるもの。

「地区的には東、ですがほぼ南よりですよ」

 ここで内心ガッツポーズしたのは仕方ないですよね。

「私たちもそちら方面なので、よければご一緒しません?」
「おい華凜」
「どうせ方向は一緒じゃないですか」
「なら俺はテレポートで帰る。雨もひどいし」

 そう言ってリアスが魔力を練ろうとしたところで。

「わたし、歩いて帰る…」

 女神がリアスの裾を引っ張ってそんなお言葉を。

「テレポートの方が楽だろう」
「みんなで帰りたい…」
「俺は嫌だ」
「じゃあ龍は1人でテレポートで帰ればいい…。わたしは武煉や陽真ともっと話したい」

 なんて言ってしまわれたらリアスが。

「…はぁ」

 了承するのは目に見えているわけで。恐らく今回は心配と言うよりは嫉妬の方でしょうね。渋々と言った感じで傘を広げます。それに倣ってクリス、レグナも傘を開く。

「オレせっかくなら刹那ちゃんのとこ入ろうかな」
「やってみろ殺すぞ」
「龍ー」
「陽真、あまりちょっかい出すな。早くこっちに入れ」
「はいはい」

 リアスを咎めるようにレグナが名を呼ぶ。木乃先輩も少し呆れたように言った。どうしよう今日BL日和かもしれない。ちょっとクリスの目も爛々としてますわ。

 話はまとまったところで全員で歩き出す。私はなんとなく、そうなんとなく先輩方2人の後ろを歩く。隣はもちろんクリスティア。後ろにレグナとリアス。見れないのは残念ですがきっと会話は聞こえてくる。

「今日やばくない…」
「やばいですね」

 ゆったりと、前を歩く先輩と後ろの会話に耳を立てながら歩きつつ、クリスティアとほぼ真顔で話す。だってにやけてたらおかしく見えるもの。

「まさか相合い傘のイベントあるなんて思わなかった…」
「私もです」
「朝わざと傘忘れようとしたらバカかって怒られたから仕方なく持ってきたけど思わぬ収穫だった…」

 この子自らリアスとレグナの相合い傘ルートまで持っていこうとしてたの。あっ木乃先輩がさりげなく紫電先輩の方に傘傾けてる。

「私折りたたみ傘持ってくれば良かったなとは思いました」
「でもそれでレグナかリアス様に傘貸してなんて言ったら怪しまれるよね…。わたしのところ入れって言われそう…」
「さすが同じ事考えますね」

 後ろではさっきからレグナがリアスにおとがめ中。先輩への態度とかですね。

「お前もう少し敬語とかさぁ」
「使う必要ないだろう。木乃はともかく紫電に使う必要はない」
「せめて”先輩”くらいつけろよ」
「なら刹那はどうなる。あいつは下の名前で呼び捨てだ」
「お前はもう敵意むき出しすぎるんだよ」
「当たり前だろう刹那が危険にさらされかけたんだぞ?」
「なら無理矢理にでもテレポートで帰れば良かったんじゃねぇの」
「それは、そうだが」

 もうそこで「お前ともいたかったんだ」とか言ってくれたら最高なのに。

「華凜って考えてること丸わかりだよね…」
「それはあなたも考えてることだからでしょう」
「類は友を呼ぶ…」
「良い友呼びましたね」
「全くだよ…。そんな後ろの会話に聞き耳立ててる間に前に進展あるよ」
「えっ」

 言われて意識を前に向ければ、イヤホンを2人で分けて曲を聴いている先輩方が。

 恋人ですか???

「なんですかあれ」
「もうあそこデキてるんじゃない…」
「刹那や龍にちょっかいかけるのは木乃先輩に嫉妬して欲しいから?」
「王道だね…」

 王道最高。

「そう言えばお前あのゲームどうするんだ」

 今度は後ろで違う話題。今日忙しいですね。私とクリスが。

「どのゲーム?」
「あれだ、なんかあの、女オトすやつ」
「あーギャルゲー? え、お前のとこに置いてたっけ」
「もう少し甘い展開が欲しいからこれで勉強しろと目の前でやってたろう」

 待ってその言い方語弊がある。”クリスティア”って入れないと私たちには何かとても語弊があって聞こえる。がんばって私の表情筋。

「あったねー少し前に泊まったときのだろ」
「ああ」
「あれからやった?」
「ゲームもしていないし実践もしていないが?」
「なんでよやってよ」

 実践をですか??

「カリナにも言ったが甘い展開なんて別に望んでないだろう」
「わかんないじゃん。欲しいって言ったらどうする?」
「…言われたらそれはまぁ、するが」
「言わなくてもするのが格好いいんじゃん」
「そういうものなのか?」
「そういうもんだって。嬉しいよ」

 ねぇちゃんと名前を入れて。”クリスティア”って入れないとあなたたち2人の間の話に聞こえるから。クリスティア隣でもう顔伏せちゃってますから。

「あっ武煉、今日泊まってく」
「また? 家で喧嘩でもしたの」
「兄貴が彼女連れてくるんだってー。出てけって言われた」
「仕方ないな…」
「どうせ一人暮らしじゃん。迷惑じゃないだろ?」

 しかも前は前でまた刺激が強い会話繰り広げてるし。何ですか今日は。ご褒美の日ですか?

「わたし今死んでも悔いはない気がする…」
「奇遇ですね私もですわ」

 前後で繰り広げられる会話にもう幸せしかない。ありがとう神よ。

 なんて話していれば、いつも解散する分かれ道に到着してしまいました。時間とはあっという間ですね。

「では私はこちらなので」
「俺と龍たちはこっち」

 私は南地区、レグナは北で反対方向、この道だとレグナの方面にいく途中でカップルのおうち。ここからは1人ですね。

 と思いきや。

「俺たちは南地区よりなのでこっちです」

 紫電先輩と木乃先輩がこちらだそうで。え、まだ私にネタ提供を??

「じゃあここで。華凜ー、気をつけて帰れよ」
「はい。また明日。みなさんもお気をつけてくださいな」
「じゃあ、華凜…」

 手を振るクリスティアから思いを感じ取る。彼女は言っている。

 あとは任せた、と。

 恐らく向こうも何かしら観察してくれるのでこちらも2人の先輩のことを観察。そしてあとで互いに報告。完璧。意図を汲み取った私はにっこりと微笑んで手を振る。

「では行きましょうか」
「華凜ちゃん結構家遠い?」
「こっちだと遠回りじゃないんですか?」

 さりげなく紫電先輩の隣に行き、先輩2人が隣同士になるように並んで歩き出す。そんなことないですよと返しながら、なにか報告できそうな事がないかじっくりと観察を始めた。

 結局、話を聞いていた限り紫電先輩は木乃先輩のこと、木乃先輩は紫電先輩のことばかりというのろけのような話を延々と聞かされ、夜にはクリスティアに延々とその会話をラインにつづって送りつけときました。

『雨の日だって、幸せなことはたくさんある』/カリナ

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