すでに先行き不安な体育祭

2019-06-19

《選手宣誓、私たち笑守人学園の生徒は、この体育祭を通し、より一層人々を笑顔に出来る力を身につけると誓います》

 雲一つなく、よく晴れた体育祭当日。正直雨よ降れと思ったが願いは通じず。エシュトの生徒は動きやすい服装に、各チームのハチマキを任意の場所に着けてまずは演習場に集まった。あまり頭に着けるのは好きではないので、青色のハチマキを利き側の二の腕辺りに着けて9時からの開会式に出る。生徒も多いことから開会式はクラスごとで分けられることなく、双子とクリスティアの4人で観覧席に座り、開会式の行く末を見ていた。

「選手宣誓もエシュト学園らしい宣誓ですのね」
「体育祭の名目が”人を笑顔にする為の予行練習”、って感じだもんな」

 右隣で双子が話していれば宣誓も終わり、体育祭実行代表らしい杜縁がマイクをとる。

《諸君、今年も体育祭がやってきた。これは笑守人学園の本分である”人を笑顔を守る”ための予行練習である》

「蓮が言った通りだね…」
「その通り過ぎて一瞬ビビったわ」

《各クラスで演目の説明はざっくり受けていることだろうが、今一度重要な部分はここで繰り返し確認させてもらう。本年度の体育祭演目は6演目。内半分、100メートル捕縛走、騒動鎮静マラソン、討伐合戦においては、”個々、もしくは団体が一つの目標をやり遂げる”ことを目的とするため妨害行為は一切なし。他妨害守護合戦、ミッション遂行走、バトルリレーにおいては、分けたチームが一丸となり、いついかなる時でも正しい判断が出来るよう、妨害は可能としている。ただし、相手に重傷を与えるなど、過剰行為は禁止だ。あくまで”妨害”ということを胸に刻むように》

 一呼吸置いて、杜縁は続ける。

《ちなみにすべての競技場所は校庭。生徒数も多いから観覧場所は自由とする。教室の窓から見ても良いし、この演習場にモニターも設置しておくからこの場にとどまってもいい。自身の競技にだけは遅れないこと。それと、チームで分けているからわかると思うが、各演目には順位によってポイントがつく》

 言った瞬間に、なんとなく生徒たちの雰囲気が変わった気がした。

《優勝チームにはささやかだが褒美も出る。内容は優勝チームが決まった段階で発表する》

 ざわざわと嬉しそうな雰囲気や闘争心の気配を感じる。一気に面倒になりそうだ。

《では全員精進するように。以上だ、各自移動しろ》

 そう言って、杜縁はマイクを切る。同時に、モニターには”100メートル捕縛走 9時30分開始”と文字が出た。それを合図に、大半の生徒が立ち上がって移動を始める。

「俺たちも行くぞ、刹那」
「ん」

 捕縛走は俺とクリスティアの出場演目でもある。赤色のハチマキをヘアバンドのようにつけたクリスティアを促して、席を立ち校庭へと向かった。そのあとを、クリスティアと同じ赤色のハチマキを左手首につけたレグナ、俺と同じ青色のハチマキをいつも着けているシュシュの代わりにしたカリナも後をついてくる。

「お前たちも来るのか?」
「あなた方の勇姿をこの目で見ようかと」

 いらん。

「まぁ教室にいても移動面倒なだけだし。適当な場所にいるよ」
「ゴールで待ってれば…?」
「それもありですわね」
「迷惑だ」

 演習場を出て、校庭のおそらくスタート地点を示している看板を発見し、そちらへ向かう。

「では適当な場所にいますわ」
「頑張ってこいよー」

 今回出番ではない2人とは分かれて、クリスティアと足を進めた。

「ね、順番ってもう聞いた…?」
「いや」
「やっぱり…」

 クリスティアの方でも決まっていないか。実は出場演目は(勝手に)決まったものの、肝心の走る番だとか共に走る走者のことは一切知らされていない。わかっているのは、100メートル走った時点で現れるらしいバーチャルの敵を捕縛。そいつを連れてゴールするということだけ。

「これも”いついかなるときでも”ってやつ…?」
「だろうな」

 話している間にスタート地点にたどり着く。そこには、運営委員らしい男教師と一つの箱。

「参加者? 名前は?」
「1年2組の炎上と、1組の氷河だ」

 名を伝えれば、名簿を見てその男は俺たちの名を発見したらしく。頷いて今度は俺たちに箱を差し出す。

「この中から1枚引いてくれる? 出た番号が順番だから」
「走る順番…?」
「そう。当日にくじ引きで決めてるんだよ」

 もはや”いついかなる時でも対処できるように”というのではなく面倒なだけなんじゃないのか。ため息をついて、箱に手を突っ込み紙を1枚引く。クリスティアも同じように1枚引いて、同時に広げた。

「3だな」
「わたしも3…」

 まじかクリスティアと一緒か。

「3番目ね! じゃああっちの地面に書いてる番号のとこに適当に並んどいて。9時半になったら1番目からスタートです。頑張ってね」

 男教師に見送られて、クリスティアと共に地面に”3”と書かれた所へ移動する。俺たちの他に走者が8人。レーンを見るあたり数は10。ずいぶん多く走るな。

「人、多いね…」
「10人1組はなかなかないな」
「そりゃ人も多いしなー」

 そうだな、と相槌を打って。…俺は今誰に返事をした? バッと後ろに目を向ければ、見覚えのありまくるムカつく男。

「よっ」
「紫電…」

 にっこりと人の良い笑みを浮かべる紫電を見た瞬間、反射的にクリスティアをかばうように後から抱きしめた。その行動に、紫電はおかしそうに笑う。

「そんな警戒すんなって、なんもしねぇよ」
「どうだかな」
「陽真久しぶりだね…」
「やっほー刹那ちゃん、2週間ぶり?」

 にこやかに笑った紫電の手は、何故かクリスティアに伸びてくる。頭をなでようとしているとわかりそれを阻もうと手を出しかけたとき。

「さわんないで…」
「おっとごめん」

 俺より先にクリスティアがその手をぱしんと良い音を立てて払いのけた。

「貴様何故人の恋人に手を出そうとする」
「違う違う、なんか反射的に刹那ちゃんは頭撫でたくなるんだよ」
「やめろ」
「でも刹那ちゃんって人にさわられるの嫌いだよな」

 こいつ本当に話を聞かないな。

「だれかれ構わずさわられるのは嫌い…。龍と双子だけ」
「オマエ愛されてんな」
「当然だ」

 今ここに双子がいたらなんかツッコまれそうだがまぁいいだろう。

「陽真も3番目なの…?」

 話を戻してクリスティアが聞く。が、こいつのいるレーンは…

「違う違う、オレは4番目。オマエたちの次」

 紫電の並んでいる先の数字を見れば、こいつが言ったとおり”4”と書かれている。同じレーンじゃなくてよかった。同じだったら面倒をふっかけられそうだ。ただでさえチームが違う時点で面倒そうなのに、と奴の額に巻かれた黄色のハチマキを見て思う。

「オマエらは一緒なんだ」
「そう…」
「こういうくじ運まで仲良いの?」
「運命なんじゃないか」
「オマエ顔に似合わずロマンチストだな」

 もう会話をするのが面倒だから適当に返しているんだ気づけ。

《これより、100メートル捕縛走を開始します》

 話していれば、アナウンスが鳴った。先ほどまでくじを配っていた教師が、少し高めの台に立つ。違う教師からメガホンを受け取って、俺たちに向けた。

《捕縛走のルールは各クラス説明されたとおり、100メートル走ってから現れる敵を捕縛してゴールに持って行くことが目的です。敵はヒューマンやビースト、ハーフをバーチャル化させたものです。誰の元にどの種族が行くかはランダム。自分の所に出た者を制圧するなり説得するなりして捕縛し、ゴールに連れて行ってください》

「捕縛で時間かかりそうだね…」
「あーヒューマンとかはそうかもなぁ」
「そもそも捕縛できるの…?」
「だからこそ説得という選択肢もあるんだろう」

《では1列目より始めます。位置についてー、よーい》

 男教師は競技用の銃を上に向け、引き金を引く。パンっと音を立てて、体育祭の第1演目が始まった。音を合図に、1列目の生徒たちが走っていく。

「…あ。あれ…?」
「だろうな」

 1人目のなかなか足が速い奴が100メートルの所へ来た瞬間。怨念をまとったような男が姿を現した。ビーストらしい性質を持っていないことからおそらくヒューマンなのだろうが非常にわかりにくい。何かどろどろしているし。

「おいもはや霊的なものにしか見えないんだが?」
「ほら、いくらバーチャルって言っても同種族攻撃とか捕縛されるのは嫌なヤツもいるじゃん? だからエフェクトとして怨霊化とかゾンビ化させてるらしい」

 そんな体育祭やめてしまえ。

《2列目用意しといてくださーい》

 やはり捕縛で苦戦する生徒が多く、今までの学校のようにすんなり進んだりはしない。あと1人か2人残っている中で、教師が次の準備を促す。

「これ本当に1日で終わるのか?」
「終わる終わる、だから6演目なんじゃん。普通の学校はこの倍くらいあるだろ?」
「応援団、ダンス、学年の種目…いっぱいあるよね」
「そ。人数多い分演目少なめにしてんだよ。まぁ1人複数出させるようにするから参加人数増えてっけど」
「意味なくないか…?」

 話していれば再び銃声がなり、前の奴らが走り出す。

「もう次じゃん」
「3番目だからな」
「優しい彼氏の龍クンは彼女に手加減すんの?」
「手加減するも何も足なら刹那の方が速いからな」
「はっ? 嘘だろ?」
「事実だ」
「男より速いってどんだけだよ…。いや龍が遅いだけ? オマエ足は遅いの?」
「50メートルなら5秒後半だな」
「めっちゃ速ぇじゃねぇか」
「そうなの…?」
「7秒くらいが平均じゃね?」
「初耳…。闘う人はみんな足速いと思ってた…」
「ていうか龍が5秒後半ってことは刹那ちゃんもっと速いの」
「5秒前半だな」
「オマエらカップルって蓮が言ってたとおりほんとチートだな」
「そのチートには蓮も華凜も入ってるからな」
「化け物4人組か」

 あながち間違いでもない気がする。

《3列目、準備ー》

 言われて、コースに立つ。2番目に走ったやつらは残り1人。そいつも捕縛は終えてゴールに向かっているところだった。

《では位置についてー》

 前列を見ていた限り体制はどうでもいいらしいのでそのまま立った状態で待つ。

《よーい》

 一歩足を引いて。

《スタート!》

 銃声の音と同時に、走り出した。

「お先…」

 先に前に出たのは当然クリスティア。次いで俺、だいぶ離れて他走者。まぁ当然か。別にクリスティアに勝つ気はない。足は速いし。よほどのミスがなければぶっちぎりだろう。

「…!」

 10秒ほどという短い時間でクリスティアは一番にバーチャル空間にたどり着く。瞬間、現れたのはおどろおどろしいビースト。ぼんやりと見ながら、自分でも準備を進めていく。

「…邪魔」

 俺がたどり着く1秒という短い間に、クリスティアは氷の刃を展開させる。

 氷の刃を展開させる?

 おいめちゃくちゃそれ鋭利じゃないか? なんて思っている間にクリスティアはそれをビーストに発射。

 ………待て待て待て。

「………?」

 氷刃のせいで舞った土煙が晴れた頃、俺もバーチャル空間にたどり着く。俺の前に現れたのはゾンビ化したハーフ。とりあえずそれは置いておこうか。隣の土煙に目を向ければ、先ほどいたビーストは。

「いない…」

 当たり前だろう。

「お前がやったのは”捕縛”ではなく”撃破”だ」

 捕縛と言われて氷刃を一斉発射させる奴があるか。

「動けなくして連れてった方が早いかなって…」
「明らかに動けなくする程度の量ではなかったが?」

 正直やるとは思ったが。

「捕縛というのはこうやるんだ。【贖罪の鎖アトーメントチェイン】」

 若干呆れつつ指を鳴らして唱えれば、俺の所に現れたゾンビハーフを取り巻くように出てくる鎖。抵抗する間もなく、それはハーフへと巻き付いた。

「これで終了。先に行くぞ」
「ずるい」
「ずるくない」

 不服そうなクリスティアを置いて、ハーフを引きずるように持って走り出す。バーチャルだしいいだろう、雑に扱っても。原型すらわからないし。

「これでいいか」

 割とすぐ目の前にあったゴールテープを切って、係員の女に渡す。

「はい、合格です」

 女はにこやかに微笑んで、バーチャル化を解除した。そのまま1位の旗のところに連れて行かれる際。

「連れの奴がバーチャルの敵を撃破したんだが」
「あらまぁ。捕縛ではなく?」
「撃破したな」
「前代未聞ですよ」

 だろうな。

「もう一度その子のところにバーチャルの敵を出しておきますね」
「頼む」

 前代未聞と言いつつも嫌な顔せずそう言って、女は去っていく。旗の下で待機していれば、まもなくクリスティアのところに再度バーチャル化したビーストが現れた。他の生徒たちもたどり着いて捕縛に移る中で、クリスティアもなんとか氷の檻に入れてビーストを捕縛する。
 そうしたらもう早いもので。持ち前のスピードで走るやいなや、なんだかんだ2位でゴールしてきた。先ほど俺を案内した女に連れられて、少し満足気にやってくる。

「捕縛してきた…」
「どうだと言わんばかりの顔をしているが撃破したのは前代未聞らしいぞ」
「誰だってやるでしょ…」

 やらねぇよ。今後こいつに捕縛命令出すのはやめさせておこう。なんとなくそう心に誓った。

「あ、陽真だよ…」

 俺たちの列の奴らがあらかた走り終わり、紫電たちが準備をしている。正直興味はない。

「陽真も足速そうだよね…」
「まぁ遅くはないんじゃないか」

 前に割と本気の贖罪の鎖アトーメントチェイン避けていたし。なんて話していれば、銃声が鳴って走り出す。言ったとおり、紫電もなかなか速い方で。一番にバーチャル空間にたどり着いた。

「陽真のとこはヒューマン…?」
「もうエイリアンか何かじゃないか」

 着いた瞬間に出てきたのはすでにヒューマンなのかビーストなのか見分けもつかない謎の物体。いいのかこれで。逆に種族に対する侮辱としてバッシング受けないのか? そう思いながら興味はないと言ったものの特にすることもなく紫電の行く末を見守る。
 未知の物体が強いと思ったのか、楽しそうな顔をして、お得意の大剣を出す。何故大剣を出す。紫電はそのまま楽しげに振りかぶって。

 一閃。

 瞬間、当然のようにバーチャル化したその物体は消えた。

 お前もか。

「ほら、やっぱり倒しちゃうじゃん…」
「何故捕縛と言われて武器を出すんだお前らは…」
「敵は倒さなきゃ…。教えてくれたのは龍…」
「せめて状況に応じる柔軟さを身につけろ」

「やばい倒しちゃった」

 呆れていれば、同じくちょっと呆れたような先ほどの係員に連れられた紫電がやってきた。クリスティアの斜め右後に座る。撃破した分遅れて3位だったらしい。

「何故大剣を出したんだお前は」
「なんか強そうだなって思って」

 本当に単純な思考回路だなこいつは。

「わたしも倒しちゃった…」
「やっぱ倒すよなぁ」
「ちなみにお前も刹那も前代未聞の行動だそうだ」
「まじ? エシュトの新しい歴史みたいなのできたじゃん」

 どれだけポジティブなんだ。呆れてため息しか出ない。

「でも敵が来たら倒すだろ?」
「刹那にも言ったが状況に応じてくれ。あれが実戦だったらどうするんだ」
「殺しはしねぇよ、オレ強い奴を這いつくばらせたいだけだもん」

 ”もん”じゃねぇよすげぇ殴りたい。

「刹那ちゃんは龍が何とかしてくれそうだしな?」
「うん、たぶん止められる…」
「そりゃあな」

 恋人に人殺しの汚名を着させてたまるか。

「ああやって咄嗟に来られると反射的に闘っちゃうわー」
「わかる…」

 いや、まぁわからなくもない。が、それはどうか心で留めて欲しい。

 以前レグナは俺と紫電が似た思考をしていると言っていたがそれはクリスティアと紫電なんじゃないかと思う。正直認めたくもないが。

「刹那ちゃん、あとは何出んの?」
「ミッションとリレー…」
「お、いいね楽しそうじゃん」
「いいでしょ…」

 なんだか兄妹のように楽しげに話す2人にため息をついて、とりあえず紫電がクリスティアに何もしないよう見張りつつ捕縛走が終わるのを待った。

『すでに先行き不安な体育祭』/リアス